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依頼の報告

 私は、目をキラキラ輝かせながら一人で話し続ける暗黒の覇者を、どうしたものかと見つめた。暗黒竜が実在するなんて、と興奮する姿にズキリと心が痛む。

 あれは暗黒竜とかそんなたいそうなものじゃなくて、ただの靄だ。形作っただけの偽物だ。それに本物の暗黒竜ならもっとずっと大きくて威圧感もあるだろう。実在するかは分からないけど。早く誤解を解かなければ。

 そう思い口を開くもやはり言葉は出ず、訂正することが出来ない。あのキラキラとした目を見よ。とてもそれをぶち壊すことなんて出来ない。ああ、どうして私はあんなに調子に乗ってしまったのか。本当にバカなことしかしていない気がする。


 はぁ、とため息をつくと、暗黒の覇者は私の方を期待に満ちた目で見つめ、

「それで、先ほどの暗黒竜はいつ手懐けたものなんだ?とても小さかったが、きっと成長すれば立派な竜になるに違いない。暗黒の覇者にふさわしい右腕ではないか!」

 と興奮気味に言う。そのキラキラとした瞳がグサグサと私の心を刺す。

「あの、あれは暗黒竜とかじゃなくて……」

 私が勇気を出して誤解を解こうとするも、相手は聞く気なし。

「ふっふっふ、だから相棒よ、俺相手にわざわざ嘘をつく必要もない。なんたって『相棒』なのだからな!互いに助け合い、困難を乗り越え、固い絆で結ばれる相棒!ああ、ついに俺にもそんな相手が……」

 とまた一人自分の世界に入ってしまった暗黒の覇者。

 ああ、これはもうダメかもしれない。何を言っても聞かない気がする。

 ……それにしても、そんなに相棒が欲しかったのか。まぁ、悪い人ではなさそうだし、仲良くしても別に大丈夫だとは思うんだけど……。多分、年齢も同じぐらいだよね。魔研に先にいたっていう点では先輩ってことになるのかな?というか、この人の名前なんだっけ。異様に長くて覚えられる気がしない。


「ところで暗黒の覇者さま、あなたのお名前を伺っても?」

 私がそう聞くと、一人で興奮し何やらぶつぶつ言っていた暗黒の覇者はこてりと首を傾げ、

「名なら先ほど名乗ったではないか」

 と返した。私はどう言ったものかと少し考えたが、まぁ本音を言っても多分怒らないだろうと推測し、少し困った顔をして、

「お恥ずかしいのですが、わたくし記憶力があまり良い方ではなく……暗黒の覇者さまのお名前があまりにも長かったので、一回では覚えられなかったのです」

 と言った。すると暗黒の覇者は少し沈黙した後、ふっと笑い、

「そうか、それならばもう一度名乗ろう。俺はサタルンヘディック・トヴァレアンヌ、マジヴィン所属。またの名を暗黒の覇者という」

 そう言いバサリとマントを翻した。顔が良いので、その一つ一つの仕草もちゃんと絵になるのは凄いなと思った。

 名前は、ええと……サタルン……なんだっけ。ああダメだ、覚えられない。無駄に長くて厨二病感満載だな。いや、そう思うのは失礼か。


 二度聞いても覚えられなかったので、私はまた聞き返す。三度目の正直ってやつで今度は覚えられるに違いない。

「えぇっと、サタルン……なんでしたっけ」

「サタルンヘディック・トヴァレアンヌだ」

 私の問いにもすぐさま答える暗黒の覇者。しかし、どうしてだろう。なんか右から左に流れてしまって名前が覚えられない。さすがにまた聞き返すのは失礼かな。でもここで暗黒の覇者って呼んだら、名乗らせた意味なくなっちゃうし。サタルン……サタ、ルン……サタ、ン?

 そこで私はピーンときてしまった。ああ、覚えられないならあだ名で呼べば良いじゃないかと。幸いサタルンなんちゃらって名前はサタンって縮めることできるし。うんうん、サタン、良いんじゃない?そっちの方が暗黒の覇者より言いやすいし。


 私って天才かも、と思いながらにこりと微笑み、

「それではサタンとお呼びしてもよろしいでしょうか。長い名前よりそちらの方が呼びやすいので」

 と言うと、なぜかサタンはぽかーんと固まってしまった。

「……?」

 どうしたんだろう、やっぱり省略したらダメだったかな。ここは暗黒の覇者って呼んだ方が良かった?

 沈黙し続けるサタンに焦りを覚えていると、しばらくして我に返ったのか、

「あ、ああ。別にどう呼んでも構わないぞ」

 とサタン呼びを許してくれた。

「それじゃあお言葉に甘えて。これからよろしくお願いします、サタン。私のことはルナディールとでもお呼び下さい」

 にっこりと笑えば、サタンはやや気後れした感じで頷いた。そして、

「ところで、なぜ敬語なんだ?いくら俺の力が強くて暗黒の覇者と呼ばれていようが、貴様は俺の相棒だ。別にかしこまる必要も気を遣う必要もない」

 と言ったので、私はこてりと首を傾げる。


 なぜ敬語って、それはサタンが一応この魔研内では先輩ってことになるからなんだけどな。あ、でもそれなら、サタン先輩とかサタンさまって呼ぶ方が正しかったのか。というか、勝手に相手の名前省略して敬称なしで呼ぶとか、よくよく考えたら先輩相手にして良いことじゃなかったかも。

 ……あー、だからあの時サタン固まってたのかな。こいつ後輩のくせに生意気だなみたいな。うわ、それ最悪。人間、初対面のイメージが大切だってよく聞くけど、サタンに関しちゃ好感度マイナスぐらいから始まってそう。魔研にきてからやらかしまくってる気がするな、私。本当にこれから生きていけるのだろうか。

 うぅ、義兄がいなくても大丈夫だってことを証明するつもりだったのに、今日はまだ証明できることを一つも出来てない。……いや、へこたれるな私!まだお迎えが来るまでたくさん時間がある。その間で何か誇れることの一つや二つやってやるんだ!


 ふんすっ!と一人気合いを入れ直していると、

「べ、別に、俺の相棒が嫌だったら辞退しても良いんだからな。強制とかしてる訳じゃない、勘違いしないでくれよ……?」

 とやや不安そうな目で見つめられ、そういえば会話の途中だったなと気が付いた。ほんと、会話の途中で自分の考えに没頭していつの間にか自己完結しちゃうの直さないとな。これだと無視しているように取られてしまう。

 私は誤魔化すようににこりと笑い、サタンの言う通りため口で返した。

「別に相棒が嫌な訳じゃないよ。それじゃあお言葉に甘えて、これから敬語なしでいくね」

「あ、ああ」

 どこかほっとしたような顔をしたサタンに、そういえば、と私は当初の目的を思い出す。

「ところで、依頼の世界に眠る秘宝の探索ってどんなやつなの?私、それ受けたからサタンを捜してたんだけど……」

 宝探しとかかな、とわくわくして問えば、サタンはこてりと首を傾げ、

「世界に眠る秘宝の探索?なんだそれは」

 全く身に覚えがない、といった感じでこちらを見つめ返した。その仕草に、私は、えっと声を上げる。

「一ヶ月ぐらい前に依頼出してたよね?面白そうな内容だったから受けたのに、もしかして忘れたの!?」

 そんなバカな、と詰め寄ると、サタンはズズズ、と後ろに下がりながら目を泳がせる。

「ま、待て。一ヶ月前だと……?確かにそんな依頼出した気もするが、あれはもう片がついたはずだ」

「片がついた!?じゃあなんであそこに依頼出したまんまなの?てっきり宝探しかと思ってわくわくしてたのに……」

 残念、と肩を落とすと、サタンはあわあわと慌て、

「わ、悪かった。ただ、あの依頼については誰も協力者が現れなかったし、どうせ誰も興味がないならそのままにしておけば良いかと思ったんだ。俺と関わろうとする人間はそもそもいないからな」

 と弁明しだした。私ははぁとため息をつき、ふるふると首を振る。

「いいよ別に。サタンと出会えただけ良かったって思うことにする」


 それから話し合い、二人で受付に依頼の報告……もとい依頼の破棄をしに行くことにした。

 魔研内に入るとすぐ、受付の二人が私たちに視線を向ける。

「あら、ルナディールさんとトヴァレアンヌさん。お二人揃って依頼達成のご報告ですか?」

 優しく微笑まれ、私はやや困った顔をしながらふるふると首を振った。

「それが、その依頼もうすでにサタンが一人で終わらせていたみたいで。依頼の報告ではなく破棄にやってきました」

「だろうな。で?その秘宝とやらはどんなものだったんだトヴァレアンヌ?」

 胡散臭そうな目でサタンを見つめながら問うクナイアに、サタンはふいっとそっぽを向いて、

「お前に話すことはない。とにかく、その依頼は破棄しておいてくれ」

 と答えた。その態度にクナイアは、はぁと大きなため息をつき、

「お前もそんなものに現を抜かしていないで仕事をしたらどうだ。本当にマジヴィンでの居場所がなくなるぞ。ルークスの身にもなれ」

 とメガネをくいっと上げながらそう淡々と告げた。その雰囲気が誰かとどことなく似ていて、私はこてりと首を傾げる。

「うるさい。というかもうあそこに俺の居場所はないだろう。俺はこれから相棒のこいつと色々することがあるんだ。あんなところで文句を言われながら文献を読み漁る暇なんてもうない」

「ほう、そいつはお前の相棒なのか。とんだ令嬢を仲間にした者だな。だがルークスも、これ以上お前が仕事を放り出して顔を見せないようならば首にすると言っていたぞ」

「ふっ、そんなの知ったことか。その時は相棒を頼れば良い。聞けばこいつは王様から研究費の援助を貰っているみたいだからな。しかもマジヴィンと同額の。さすが俺の相棒といったところだ。つまりはもうマジヴィンに所属していなくてもこいつといれば万事解決ってことだ」

「相変わらずだな」

「あら、それならトヴァレアンヌさんの所属先、ルナディール専用研究室に変えますか?それならルナディールさんがトリトンということになりますが」

「ああ、そうしてくれ」


 一人考え込んでいる間にポンポンと話が進み、私ははっとして慌てて口を挟む。

「ちょっと待って下さい何言ってるんですか!?さっきも言いましたがルナディール専用研究室所属なんて変なとこ増やさないで下さい!それにサタンも!私研究費の援助とか受け取るつもりないからね?断りに行く予定なんだから」

 急な私の乱入に一瞬会話は落ち着いたが、すぐさまサタンが言葉を発す。

「何言ってるんだ?せっかくの援助だ、気にせず貰えば良いだろう」

「いやいや高額すぎるから受け取れないんだよ。それに私一人だけそんな贅沢に研究費使ってたら周りの人に何言われるか分からないし」

「あんな豪華な部屋を貰っておいて今更何を言っているんだ。それに安心しろ。周りの奴らが何と言おうと俺は貴様の相棒だ。俺が守ってやる」

「どの口が言う。そもそもお前にその令嬢を守れる力などないだろう。逆に守って貰う立場だ」

「ふっ、お前も俺の真の力を見たとき、そんな口聞けなくなるぞ」

「だったら今、その真の力とやらを見せてみろ」

「なんだと……」

 わいわいがやがやと騒がしく言い争っていると、

「お前らうるさいぞ」

 ぴしゃりと冷たい言葉が背後から放たれ、その場はシンと一気に静まり返る。恐る恐る振り返ると、そこにはどこか外へ出かけていたのか、ルークスが凍てつくような冷たい雰囲気を漂わせながら立っていた。

 ルークスがコツコツと静かに歩いてきて、私はひっと身を竦める。


 どうしよう、よりによってルークスに騒いでいるところを見られるだなんて。というか、そもそもこんなに大きな騒ぎになったのはサタンのせいじゃない?サタンとクナイアの話がどんどんヒートアップするからで、私はただ巻き込まれただけ……そう、被害者なのだ!

 これから落とされるだろう雷にビクビクしながらルークスを見つめていると、ルークスはちらりと私を一瞥しただけで、視線はすぐにサタンとクナイアの方に向いた。

「サタルンヘディック・トヴァレアンヌ、お前こんなところにいたのか。毎日毎日どこほっつき歩いているんだか知らないが、いい加減ちゃんと仕事をしろ。首にするぞ。それと兄さん。兄さんもこんなやつとつるまないで自分の仕事をして下さい。結構うるさかったですよ。外まで声が聞こえていましたから」

 ルークスの言葉に、サタンはふいとそっぽを向き、クナイアはすまなそうな顔をした。

「すまないな、確かに少し熱くなりすぎた。どうもトヴァレアンヌとは馬が合わないみたいでな」

「それは分かりますが、今は勤務中です。こんなやつのせいで兄さんの評判が下がったら大変ですから、こいつは責任持ってマジヴィンに連れて帰りますよ」

 そう言うなりルークスはサタンの首根っこを掴み自分の方にたぐり寄せた。サタンはぐらっとよろめきながら、ルークスに捕まってしまう。

 しかし私はそんなことよりも、ルークスがクナイアのことを『兄さん』と呼んだことの方に驚いていた。そして我慢できず、つい口を挟んでしまった。

「あ、あの!兄さんって……も、もしかして、ルークスさんとクナイアさんって兄弟なんですか?」

 急に話に割り込んだ私に一瞬迷惑そうな顔をしたものの、

「だったらなんだ」

 とルークスが答えた。その言葉に、私は先ほどから抱いていた違和感の正体に気が付いた。

「そっか、だからクナイアさんを見たとき、誰かと似てるって思ったんだ。確かにそう言われてみれば、メガネをかけているところも生真面目そうなところもとっつきにくそうなところも似てるかも。それに姿勢も正しいし服も皺一つないし。そっかそっか、兄弟なのか」

 これでスッキリした~と一人うんうんと頷いていると、ふとみんながなんとも言えない顔でこちらを見ているのに気が付き、私はこてりと首を傾げる。そして、まさか!と口を押さえる。

「あ、あの……もしかして全部口に出てました?」

 するとサタンは、ふははははと面白そうに笑い、ノアナもくすくすと笑い、クナイアとルークスはなんとも言えない表情をしていた。この反応からするに、絶対に口に出ていたに違いない。私は思いっきり頭を下げて謝罪する。

「も、申し訳ありませんでしたっ!その、ただ心の中で思っていただけで、口に出ているとは思わなくて……」

「……いや、いい。むしろこちらこそ、先に名乗っておけば良かったな。改めて、私はクナイア・ゾルデリア。ルークスの兄だ」

 以後よろしく頼む、と挨拶をされ、私はこくりと頷く。しかし、その場に漂い始めた微妙な空気はどうすることも出来ず。私はただただ後悔するしかできなかった。ただでさえルークスからの好感度は低かったのに、今回の件でまた下がってしまう。ほんとにもう私は何をやっているんだ。


 頭を押さえ、うずくまりたくなるのを必死に堪えながら、私は引きつった笑みを浮かべていた。その様子を見て、更にサタンは笑い、もっとその場の温度が下がるのだった。

サタンという新たなお友達(?)が出来たルナディール。魔研生活が賑やかになりそうですね。お次はサタン目線のお話です。

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