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自分の研究室

 私は馬車から降り、すうっと一つ深呼吸した。今日は魔研二日目だ。まだ仕事とか何も決まっていないのに何を緊張することが、と呆れられそうだけれど、毎日緊張感を持って新鮮な気持ちで向かうのは大切なことのはず。そう意気込んで私はキッと前を見据えた。

 前回と同じように、玄関の前で待ってくれていたヴォルフに微笑みながら近づき、

「おはようございます、ヴォルフさん」

 と挨拶をする。

「おはようございます、ルナディールさん。今日はお義兄さんはいらっしゃらないのですか?」

 優しく微笑みながらそう尋ねるヴォルフに、私は緊張を解されながらもこくりと頷いた。

「はい。毎回お義兄さまの手を煩わせる訳にはいきませんから」

「そうですか、それは素晴らしい心がけですね」

 にっこりと笑いそう言うヴォルフに、そうですよね、と私も心の中で強く同意した。


 本当は今日、義兄も一緒に来る予定だった。しかし、最近おかしな態度をみせる義兄に危機感を感じ、私は必死にお母さんとお父さんを説得して、今回は一人で行くという権利を見事勝ち取ったのだ。手強いお母さんは許してくれるかと気が気ではなかったけれど、お父さんの助力もありちゃんと説得することが出来た。

 なんでも、私の「このままずっとお義兄さまのお世話になったままではいけないと思ったのです。お義兄さまにはお義兄さまご自身のお仕事がある。それならば、わたくしはわたくしで自分の仕事を全うし、いつかお義兄さまやお父さま、お母さまの役に立てるよう頑張りたいのです!」と、熱く熱く語った言葉に胸を打たれたのだそうだ。人生、やってみなきゃ分からないものだ。

 ついでにお小遣いも少しだけゲットし、今の私は無双状態だ。一人でここに来る権利、そしてお小遣いまで貰えるだなんて、成長以外の何物でもない。これからももっともっと信頼を得て、お小遣いアップを目指そう。


「それではルナディールさん、行きましょうか。ルナディールさん専用の研究室がようやく整ったのです」

 ヴォルフの誘導に従いながら魔研内に入り、私はうきうき気分のまま、

「はいっ!」

 と勢いで返事をする。そしてそれからすぐ、ん?と疑問が浮かんだ。

 私専用の研究室が整った?……私専用の?あれ、聞き間違いかな……確か私は、今はもう使われなくなって、物置と化した部屋などを見学してみたいって言ったんじゃなかったっけ。だから、今日も見学、だよね?それなのに、もう私の研究室が出来ちゃってるの?あれ?


 おかしいなー、と冷や汗をかきつつ、

「あの、私の研究室が、整ったのですか?」

 と、若干『私の研究室』というところを強調して聞いてみれば、ヴォルフはそれはそれは嬉しそうに、はい、と頷いた。

「ルナディールさまがお使いになられると聞いて、フォスライナさまが、それならば一番大きい部屋を、とおっしゃったので、ここ数日は皆で研究室の大掃除をしておりました。たくさんのガラクタや魔道具で部屋が満たされていたため一筋縄ではいかなかったのですが、皆が集まり結託する光景は見ていて嬉しくなりましたよ」

 目を細め、普段もあのように結託してくれれば、と小さく溢すヴォルフ。しかし、そんな言葉は私の耳には全く入ってこなかった。


 待って待って待って嘘でしょうフォスライナさま!?なんてことを言ってしまったの!?ってことは何だ、ここ数日は私の研究室にするために大掃除をしていたと?大事な研究をほっぽって?いやいやいやそれはダメでしょう!これ、見方によっては魔研に入ってすぐ、自分の研究室が欲しいから掃除しなさいってみんなをこき使ってるように映らない?これ、だいぶ印象悪いんじゃない?というか好感度最底辺レベル?私、すっごく嫌な令嬢になってるんですけど!?これじゃ本当に悪役令嬢じゃん!!


「も、申し訳ありませんヴォルフさん!みなさんの大切な研究時間を奪ってしまい……」

 顔面蒼白になりながら必死に謝ると、ヴォルフは朗らかに笑って、

「何、先行投資だと思えば安い物です。自分の研究室で思う存分研究し、素晴らしい成果を届けるよう王様も期待なさっていましたよ」

 と、もっと寿命が縮まりそうなことを言った。

「お、おおお、王様がですか!?」

「はい。それにしてもルナディールさんは本当に素晴らしく優秀な方なのですね。王族のみなさまがこぞって期待なさるなんて、と、魔法研究所の面々も驚いておりました」

「お、王族が……」

 それ以上私の口からは言葉が飛び出ず、代わりに頭の中がたくさんの言葉で埋め尽くされた。


 王族がこぞって期待ってどういうこと?フォスライナさまとシューベルトさまとレイングリーナさまとは接点があるし、理解出来なくもないけど、王様って。私会ったことないよね?それなのになぜ。

 しかも、これってもし私が素晴らしい成果を上げられなかったらどうなるんだろう。王族の期待を裏切った罪で死刑とか。いやいやいやそんなことで死ぬのは嫌だよ。というかどうしてこうなった!?私はただ平凡に楽しく、自由気ままに魔法の研究をしたくて……それなのに、こんなに過度な期待されて、しかも悪役令嬢並の嫌なやつ認定されて。……これ、前より詰んでない?もしかして、ここに来たの間違ったのかな。

 ……いや、違う。そもそも私があの時、部屋があったらな~とか言わなければ良かったんだ。なんであんなこと口走っちゃったんだろ私。本当に自分が嫌になる。この考えていることがつい口に出ちゃう癖、早めに直しておかないと今後もっと大変なことになりそう。


 自分のダメさと今後の人生に嫌になりながら歩いていると、

「まぁまぁ、そんなに肩肘張らなくても大丈夫ですよ。ルナディールさんは優れている方だと伺っておりますので、きっと何も問題はありません。私としても、あなたのような優秀な方がここに来てくれるだけでありがたく思っているのですよ。ですので、まずはルナディールさんの好きなように研究してみるのが良いかと」

 と、更に私の心を突き刺す言葉を放った。私は泣きそうになりながらもなんとか平静を装い、にこりと笑う。

「ありがとうございます」

 そう答えるだけで精一杯だった。


 それから無駄に刺さってくる周囲の視線に耐えながら、私たちは四階まで上がった。あまり使われていないというのが嘘のようにピカピカで、廊下や階段の手すりに埃一つないことを確認し、更に罪悪感が増した。

 きっと、心の中で私に対しての罵詈雑言、不平不満を吐きながら掃除したんだろうな、と思うと、怖くて他の人の顔が見られなくなりそうだった。

「ここがルナディールさん専用の研究室です」

 そう言って立ち止まったヴォルフ。ご丁寧に、『ルナディール専用研究室』と無駄に凝った優雅で煌びやかなデザインで描かれたプレートに顔が引き攣る。

「あ、あの、このプレートは……?」

「ああ、これはフォスライナさまが発注されたらしく、ロディアーナ嬢にはせめてもの素晴らしい環境を、とのご配慮だそうです。部屋の内装もフォスライナさまが整えてくださったのですよ。本当にルナディールさまは大切に想われているのですね」

 そう微笑ましそうに笑うヴォルフに愛想笑いをしながら、私は心の中でフォスライナに叫んだ。本当に何てことをしてくれたんですか!と。


 中に入るのがとても怖かったけれど、入らない訳にもいかず。私は覚悟を決めて、『ルナディール専用研究室』に入ってみた。するとどうだろう。そこには、お城かな?と勘違いしそうなそれはそれは煌びやかな空間が広がっていた。

 お洒落な絨毯。ふわふわのソファ。寝転がったら一瞬で夢の世界に飛んでいけそうなベッド。お上品なひらひらのカーテン。壁際にはびっしりと棚が置かれており、様々な薬品や素材、参考書などが所狭しと並んでいた。なぜかティーセットやお菓子まである。しかも、天井にはシャンデリアがぶら下がっていた。物置だったという面影は綺麗さっぱりなく、最初からここは貴族が住んでいたお部屋ですと言われても何ら違和感はない状態だった。せっかくの魔研の雰囲気が台無しである。

 魔研の一室に急にこんなこじゃれた煌びやかな空間が現れたら、みんなはなんて思うだろうか。王族に気に入られて調子に乗ってる嫌な令嬢っていうレッテルが貼られていそうで怖い。私は別にお高くとまろうだとかは思ってないからね。なんならみんなとわいわいいろんな意見を出し合いながら研究したいんだよ。こんな専用部屋なんて作られてしまったら、周囲との壁が出来てしまうじゃないか。


「これならルナディールさんも安心して研究に没頭出来るのではないですか?」

 本心なのか試しているのか分からない調子でそう尋ねるヴォルフ。

「……あの、本当に良いのですか?ここだけ異空間すぎて、明らかに魔法研究所内で浮いています。それに、もし研究中にここのもの全て壊してしまったら、大変な金額になってしまいます。やはりここは元の様子に戻すのが良いのでは……」

 ためらい気味にそう言えば、ヴォルフは優しく笑いながらも、有無を言わせない様子でふるふるとゆっくり首を振った。

「残念ですがそれは出来ません。また模様替えとなると時間がかかってしまいますからね。それに、もうここのものはフォスライナさまが全て買ってしまわれたのです。今更変えるとなると、ここのものが全て無駄になってしまいます」

 ですから、模様替えはしませんよ?と軽く圧を受け、私はこくこくと頷いた。これはもう、直接フォスライナに文句を言いに行くしかないかもしれない。行ったところでもうこの部屋は変わらないのだろうけど。


「それでは、ルナディールさんは自分の部屋を見回りたいでしょうし、今日はここで失礼させていただきますね」

 そう言って立ち去ろうとするヴォルフを慌てて引き留め、

「あ、あの、まだ私、どこに所属するのか決まっていないのですが……」

 と尋ねると、ヴォルフはにこりと笑って、

「それならゆっくり考えてくださって構いませんよ。それに、ルナディールさんにはこうして研究室もあるのですから、無理に所属せず自分の気の向くまま研究をしても良いと王様がおっしゃっています。もちろん、研究費も出してくださるそうです」

 とまた衝撃的な発言をした。本当に頭がついていかなくて発狂しそうだ。

「私、無所属で良いんですか!?それはそれで悪目立ちしませんかね?しかも、研究費が出るって……その、さすがに少ないですよね?だって、ヘルマンさんのところはカツカツだと言っていましたし……」

 お願いだ、少なくあってくれ、と神にお願いしてもダメだった。

「確か、マジヴィンと同じくらい出すとおっしゃっていました。マジヴィンは四つの中でも一番多く研究費を貰っているところですので、ルナディールさんが研究をしていて資金不足になることはないかと」

 少し考える風にそう話すヴォルフに、私はその場で倒れそうになった。

「でも、そんなに私にお金を割ける余裕があるのなら、ビーヴィンにも支給すれば良いのでは……」

「確かにそうですが、あそこはお金を渡せば渡すほどお世話をする魔獣が増えるので、王様もいろいろ考えておられるのですよ」

 私の呟きにそう答えるヴォルフ。それから、

「ルナディールさんももう魔法研究所の一員なんですから、内外を問わずお好きに歩き回ってくださって構いません。身分証は受付に行けば発注できますので、お手数ですが後で行ってみてください。ついでに依頼なんかも確認してくると面白いかもしれませんよ」

 そう言って部屋を出て行ってしまった。


 私は部屋に一人残されると、ふらふらとソファまで歩いて行きぼふっと腰掛けた。さすがはフォスライナが選んだだけあって、最高の座り心地だった。

 ……それにしても。どうしてこうなった!?

 私専用の研究室、私専用の研究費、しかも無所属で良いという異例。これはもう、悪目立ちすること確定である。そもそも、ただの令嬢にマジヴィンが与えられる研究費と同等の額を支給するってどうなの?問題しかないのでは。しかも、こんなに煌びやかで豪華な部屋……。


 私はソファにごろんと横になった。ソファの上でも寝られそうなほど快適である。本当にどれだけ高い物なのだろう……。

 私はぼーっと天井を見つめながら、今後のことを考えた。しかし、いくら考えても周囲の人に馴染めずひそひそと悪い噂が囁かれ、最終的には私の好待遇に怒り狂った誰かに殺されるという悲惨な未来しか思い浮かばず、私はガバッと勢いよく起きた。

「……気分転換をしよう」

 私は部屋をぐるっと囲むように設置された棚に近寄り、中身を調べ始めた。古くていかにも歴史がありそうな文献や魔術書、よく分からないけど不気味な色を放つ液体や変な形の素材、美味しそうな高級店のお菓子やティーセット、本当に選り取り見取りだった。しかも、お菓子はご丁寧に私の大好きなカステラやクッキーなどもある。消費期限に気を付けて食べないとな。


 部屋の隅っこ、角に置かれたベッドには天蓋カーテンなんてものまでついていた。私の部屋のベッドには付いていないので、初の天蓋カーテンである。まるで自分がお姫様にでもなったみたいでテンションが上がる。ベッドの横にはクローゼットまであり、中を開くとそこそこ服は収納出来そうだった。一応パジャマとか入れた方が良いんだろうか。もしこのベッドを使うならパジャマも必須だ。

 テーブルは六人用の物でこれも美しい装飾がされていた。ご丁寧にテーブルクロスまでかけられていて、本当に研究しづらい。部屋全体が白やピンク、水色など柔らかな雰囲気でまとめられているので、なんか本当に、ここで研究して良いものか、とためらってしまう。もうちょっとダークな感じだったり、ちょっと汚れていて、いかにも研究室です!みたいな雰囲気だったらためらうこともなかっただろうな。まぁ、そんなこと言ってももうどうしようもないけれど。

 それでも一応研究するということで配慮をしてくれているのか、区分けみたいなのはされていた。

 部屋に入ってすぐは休憩スペースなのだろう、ベッドやソファ、テーブルなどが置かれていて、いかにも貴族の部屋って感じだ。扉を開けた途端広がるのがこの高級スペースなので、一瞬ここが魔研の中であることを忘れてしまいそうになる。

 そして、部屋に入って右側、休憩スペースの隣には何も置かれていない空間があり、申し訳程度に壁際に植物が一つ置かれている。きっと、ここらのスペースは私が研究しやすいように好きに家具とか物とか設置して良いよってことなのかもしれない。もちろん絨毯は敷いてあるしシャンデリアも煌々と光っているのだけど。


 私はソファに座り、せっかく今は私しかいないのだから、と魔剣を召喚して一緒に話すことにした。元はと言えば、私が魔剣とゆっくり話す場所が欲しいなと思って、研究室があったらな~なんて考えていたら、それがぽろっと口から溢れてしまったのだ。こんなことになってしまったのだ、もう当初の目的を達成するしかあるまい。

 私は火剣と水剣、風剣、闇剣、光剣を召喚しテーブルの上に並べていった。五つの魔剣が並ぶのは圧巻で、なんだか威圧感があった。


 みんな、久しぶりだね。

 私が心の中でそう言うと、魔剣もそれぞれ言葉を発す。

【おう!久しぶりだな主人!全然呼んでくれないから寂しかったんだぜっ】

【お久しぶりです、お嬢。それで?なぜ私たちは呼ばれたのでしょうか】

【あら、お久しぶりです主様。このように皆を呼び出したということは、何か大切なお話でも?】

【ふんっ、このように我を呼び出すとは。しかも他の魔剣と一緒。其方は何を考えているのだ?】

【まぁまぁ、他の魔剣の皆様とご一緒出来るなんて嬉しいですわ】

 五人の声が一気に頭の中に流れてきて、私はうっと頭を押さえる。さすがに五人分ともなると頭への負担が半端なかった。特に一斉に話されると、もう何が何だか分からなくなってしまう。


 ごめん、みんな。話すときは一人ずつにして貰える?じゃないと私の頭がパンクしそう。

 そうお願いしたけれど、

【そりゃあ大変だな!よしっ、気を付けるぜ!】

【お嬢に負担がかかるのならば仕方がないですね。それならば一度口を慎みましょう】

【了解しました】

【ふん、それならば一斉に呼ばなければ良いだけの話だ】

【あらあら、それは大変ですわ】

 と、また一斉に話してしまったので意味がなかった。私はどうしたものかと考えながら、とりあえず会話を続けた。


 えーっと……じゃあ、私が名前を呼んだ剣だけ質問に答えて欲しいな。もし加えて話したいこととかあれば、先に返事をしてからお願いね。……ウォルタルイェード、一つ良いかな?

【ええ、なんなりと】

 今日、みんなとゆっくり話してみたくて呼び出したんだけど、みんなもお互いに会うのは初めて?それとも、互いにもう知っていたりする?

【そうですね、こうして話し合うのは初めてかと。私たちは普段別の場所におりますから。ただ……】

 ただ?

【……会うのは、初めてではないのだと思います。確信はありませんし、分かりませんが……あの光剣と会うのは初めてな気がするのですが、なぜだか懐かしい気もするのです】


 どこか考えるようにそう発言したウォルタルイェードに、私はこてりと首を傾げる。私が創った魔剣ならば、普段別の場所にいるなら会ったこともないはずだ。それに、前にダークンヴェルダーに言われてみんなを召喚した時、まだシャイニンフェルはいなかった。それなのに、懐かしいというならば、それは……。

 私が考えていると、ダークンヴェルダーがふんと笑って呟いた。

【そんなことも忘れているのか】

 その言葉に、全魔剣の目がダークンヴェルダーに向いた……ような気がした。実際目なんてついていないので分からないけれど。


 どういうこと?ダークンヴェルダーは知っているってこと?

【……其方、前に我が話したことは忘れるのだろう?それならば、これ以上は聞かぬ方が良い】

 私の問いに、そう静かに答えるダークンヴェルダー。その言葉に、私の心は少し不安になる。

 前に聞いた聖剣どうこうの話。確かに私は聞かなかったことにした。だって、それを聞いてしまったら、引き返せなくなってしまいそうだったから。ダークンヴェルダーは、忘れているのかと言った。それに、思えばダークンヴェルダーは……。

【おい、それ以上を考えるならば一旦我以外の召喚を解け】

 急にそう言われ、私ははっとして現実に返る。

【其方の思考は今、我ら魔剣に筒抜けなのだからな】

 忠告するかのような言葉に、私はこくりと頷いてダークンヴェルダー以外の召喚を解いた。きっと、ダークンヴェルダー以外の魔剣は知らないということなのだろう。聖剣どうこうの話を。

【その通りだ。きっと完全に覚えているのは我以外にはおらぬ。もしかしたら光剣ならば少し覚えているかもしれないが、確証はない。其方はあまり面倒事に巻き込まれたくないのだろう?それならば用心するにこしたことはない】

 私の考えにそう言い、黙ったダークンヴェルダー。私はその優しさににこりと微笑む。


 ありがとう、ダークンヴェルダー。意外と優しいんだね。

【ふん】

 照れたのか、素っ気なく返すその様子にまたくすりと笑みが溢れる。

 ……それにしても。どうしてダークンヴェルダーは全てを知っているのだろう。他の魔剣は何も知らなそうだったし、自分は聖剣だとは一言も口にしなかった。でも、ウォルタルイェードはどこか懐かしいと言っていたから、記憶の奥底にはきっと昔のことが……自分が聖剣だった頃、つまり、神様たちとの記憶があるはずだ。でも、それを忘れている。……それは、なぜ?

 それに、私は自分の欲しいように魔剣を創った。それが、聖剣と同じで名前も一緒だなんておかしすぎる。聖剣を呼び出せる自分は何者?それに、魔剣の性能だって、私が思った通りで……。

 ……思った、通り?……本当に?私は一部の能力しか引き出していないんじゃない?実際、ダークンヴェルダーは私が思っていた以上の剣だった。花壇事件がそれだ。ということは、やっぱり私が思っている以上の力を私の魔剣は秘めている訳で……。


 ぐるぐると一人思考の海に沈んでいると、ダークンヴェルダーが、はぁとため息をつきながら、

【本当に其方の思考はうるさいな。とどまることを知らん。まだ考えるならば我の召喚も解け、耐えられん】

 そう言った。私は一気に現実に戻され、肩を竦める。


 ごめんね。ただ、ちょっと混乱してただけだよ。今まで聖剣どうこうの話は考えないようにしてたから。でも……やっぱり、ちゃんと向き合った方が良いのかな。聖剣と呼ばれる魔剣を使う以上、ちゃんと調べた方が良いのかな。

【知るか。それは其方自身が決めることだ。……しかし、其方は前に我に言わなかったか?パートナーでいて欲しいと。我は聖剣ではなく、其方が創った魔剣なのだと】

 静かにそう言うダークンヴェルダーに、私ははっとして顔を上げる。

【我は確かに知っている。他の魔剣が知らぬことを。だから、其方に教えて欲しいと言われれば教えることも出来る。だが、別にそれは必ず知らなければいけないことでもない。其方が知りたくないのなら知らなくても良いことだ。故に、其方の自由にするが良い】

 その言葉がじーんと熱く、胸の中に広がっていく。

【それに、其方はまだ土剣を創っていなかろう。お主にとって、そっちの方が重要なことではないのか?】

 優しくそう問われて、私は手をぎゅっと握った。確かにそうだ。私はまだ土剣を創っていない。全属性の魔剣を創り、自分にぴったりの剣を創ること。それが私の目標の一つだ。聖剣について知ることじゃない。それに、もしかしたら今までのは本当に偶然で、他の魔剣だって聖剣じゃないかもしれない。実際、彼らの口からその言葉を聞いた訳じゃないし。そうだ、まずは土剣を創らないと。


 私はダークンヴェルダーに微笑み、ありがとう、とお礼を言った。ダークンヴェルダーはいつものごとく、ふん、としか言わなかったけれど、それでも彼の優しさが嬉しかった。きっと、人間化したら威厳たっぷりで怖い感じがするけど根は優しい人って感じなんだろうな。カッコいいおじさんとか。人間化したら、こうやって人目を気にして話すこともしなくて良くなるのに。

 私はそんなことを思いながら、優しくて素直じゃないダークンヴェルダーの召喚を解いた。

今回はいつもよりちょっと多くなっちゃいました……。次回は新キャラ登場です。ようやく彼を出せるのかと私自身とても楽しみです。

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