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驚きと謝罪と幸福

「お義兄さま、昨日はいろいろとありがとうございました」

 私は馬車の中で義兄にお礼を言い、ぺこりと頭を下げた。

 今日はシューベルトに呼ばれて、朝から義兄と二人お城へと向かっている。因みにお父さんとお母さんは、お仕事があるそうでもっと早い時間にお城へと向かった。

 つまり、私がお城で何かやらかしたら即刻両親が駆けつけてくるということだ。そんなことはないだろうとは思うけれど、用心するに越したことはない。今日は気を引き締めていこう。


「いや、名誉挽回のためには当たり前だ。ちゃんと手紙が届くといいな」

「そうですね……。あまりの怒りで手紙を読まずに破り捨てられないことを祈ります」

 私も遠くを見つめながら、若干の祈りの気持ちを込めてそう言う。

 これで謝罪の時間すら取らせてもらえなかったら、私の心はズタボロに引き裂かれて再起不能になってしまう。……もちろん、全て自己責任だからどうしようもないのだけれど。


 お城に着いて、私は義兄と一緒にシューベルトの部屋へと向かう。使用人について行くだけなので、この広い城内で迷うことはない。今世ではどうか分からないけれど、前世は方向音痴気味だったので非常にありがたい。

「お義兄さまはシューベルトさまのお部屋へ行ったことはありますか?」

 道順を考える必要もないので、私は隣にいた義兄とお話しながら優雅に歩く。しかし、さすがお義兄さま。

「いや、ないな」

 いつものごとく短く言葉を発すだけで、なかなか会話が続かない。

「……お仕事とかで会ったりとかは?」

「あまりないな」

「……なるほど」

 さて、どうやって会話を続けようかと四苦八苦しているうちに、シューベルトの部屋の前に着いてしまい、お話は終了となった。


 私は気を取り直して、コンコンコンと扉を三回ノックした。

「シューベルトさま、ルナディールでございます」

「おう、入っていいぞ」

 中からそう声が聞こえ、私は義兄と一緒に中へと入る。シューベルトは机に向かい何か作業をしていたようで、くるっと振り返り私たちを見ると、

「なんだ、今日は義兄も来てるのか。本当に過保護だな」

 そう言って笑った。

「心配だからな」

 義兄はサラッとシューベルトの話を流し、ふいっと視線を彼から外す。その様子に私は、あからさまに嫌いすぎではと少し心配になった。なんせ相手は王族である。いくら優秀な義兄であっても、王族の機嫌を損ねれば危ないのではないだろうか。

 ……これは少し両親からの信頼(特にお母さん)を勝ち取らなければならないな。きっとお母さん辺りから指令が出てるに違いない。「ルナディールを一人にしない令」とか。自分の仕事もたくさんあるんだから、あまり義兄には迷惑をかけないようにしなければ。


「ところでシューベルトさま、今日はどんなご用があるのでしょうか」

 義兄について考えながら、私がずっと気になっていた今日の用事を尋ねると、シューベルトはニカァッと素晴らしい笑みを浮かべてこう言った。

「おう、今日はルナディールのためにお茶会の席を用意してやった。もう相手も来ているようだし、早速向かうぞ」

 その笑顔と言葉に、なんとなく嫌な予感がしながらも、嬉々として歩き出し、部屋を出て行ったシューベルトに遅れまいと、急いで後を追いかける。

「あ、あの、お相手ってどなたですか?それにわたくし、お話するのは苦手なので全くの初対面の方だと絶対に何かやらかしてしまう気がするのですけれど……」

 そう慌てて尋ねるも、シューベルトはただ、

「ああ、それなら大丈夫だ。お前は相手と面識があるからな」

 としか言わず、相手の名前を教えてはくれなかった。


 私が知っている人?それなら、レティーナやフォスライナ、あとは騎士団長さんと王妃さまぐらいだ。一体誰だ。レティーナとなら久しぶりのお茶会で楽しめそうだけれど、他の人だとちょっと困る。なんせ今日は両親二人ともお城にいるのだ。変なこと口走って告げ口されたら一巻の終わり。


 私がドキドキしながら歩いていると、不意にシューベルトが止まって危うくぶつかるところだった。義兄が腕を掴んで止めてくれて助かった。私は口パクでありがとうございますとお礼を述べると、シューベルトが私の方を振り返って堂々と宣言した。

「それじゃあ行くぞ、ルナディール!上手くやれよ」

 そう言って開かれた扉。部屋の中には二つの丸テーブルと椅子、そしてたくさんのお菓子が置いてあり、その奥に突っ立っていたのは……。

「りゅ、りゅりゅりゅ、リュークさまあっ!?」

 あまりの驚きに大きな声が出てしまい、私の声が部屋中に響いた。リュークはその声にビクリとして目を見開いてこちらを見た。


 ……え、待ってこれは夢?夢なのか?なんでリュークがここにいるの?もしかして幻覚?いや、でもあの亜麻色のふわふわした髪と美しい黒い瞳、そして何よりあの溢れんばかりのイケメンオーラ。見間違うはずもない、リューク本人だ。

 でも、リュークがどうしてここに?ここはシューベルトがお茶会のために用意したって連れてきてくれた部屋で……。ってことはもしかして、この人がお茶会の相手!?いやいやいやそれはダメだってシューベルト!だって私はお茶会の前に謝罪をしないといけないわけで……。それに私は彼に嫌われて……。


 今の状況が理解できなくて、処理できなくて頭がパンクしそうになる。呆然としていると、シューベルトがあっけらかんとした様子で、

「驚いただろう?ルナディールが未だにリュークと会う機会が得られず忙しそうにしていたみたいだからな。俺が呼び出してわざわざお茶会の席を設けておいたのだ。それじゃあ俺はこの義兄を連れて退室するから、存分に話すが良い。もちろん兄上の邪魔が入らないように手は打ってあるから、安心して良いぞ。何かあったらテーブルの上にある呼び鈴を鳴らしてくれ。それじゃーな」

 と、最後は私の肩を二回ぽんぽんと叩いて、同じく状況が掴めていない義兄を引っ張って退室してしまった。その場に取り残された私は、呆然と立ち尽くす。


 うそ、言うだけ言って行っちゃったよシューベルト。ということはなんだ?これはシューベルトが私のために一肌脱いで謝罪の席を設けてやったからちゃんと謝れと、そういうこと?ご丁寧に使用人もつけず二人っきりなのは、私が謝罪する様子を見せないようにするため?なんてことだシューベルト、それならそうと事前に言って欲しかった。まだ心の準備が……。


 一人であわあわとしていると、リュークとばっちり目が合ってしまった。リュークも何が何だか分かっていないようで、ただこちらの様子を伺っていた。

 ……これはもう、覚悟決めていくしかないよね。せっかくのチャンスだ、無駄にするわけにはいかない。


 私は気合を入れるために一回大きく深呼吸をした。

「すうっ……はあっ……よしっ!」

 そして、キッとリュークの方を見据え、ペコリと淑女の礼をした。

「お久しぶりでございます、リュークさま。あまりの出来事に理解が追い付かず、呆然としてしまい申し訳ございませんでした」

 そこでリュークの目の前まで歩いていき、今度は謝罪のため、勢いよく頭を下げた。

「リュークさま、舞踏会では大変ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませんでした!変なことを口走った挙句、わたくしがリュークさまに泣かされたという誤った噂まで広まってしまい、そのせいで義兄が脅しに行ったこと、そしてリュークさまご自身の評判を下げてしまったこと、心の底からお詫び申し上げます!わたくしがリュークさまに嫌われ、これ以上自分が傷付くのが怖くて謝罪するのを先延ばしにしてしまいました。長い間謝罪もせず、その間にリュークさまが大変傷付いてしまったことにも気付かず、本当に申し訳ございませんでしたっ!!」

 誠心誠意を尽くして謝罪の言葉を伝えた。頭を下げている間、永遠かとも思われるほど長い長い沈黙が続く。しかし、相手は一向に言葉を発さない。

 ……これはもう、やっぱり許してもらえないのかな。

 そう思って涙が込み上げてきた瞬間。

「……何言ってるか、分かんないんだけど」

 と、リュークが小さく言葉を漏らすのが聞こえた。私はその思いがけない言葉に、ゆっくりとリュークの顔を見上げる。


 何言ってるか分かんない、とは、もしかして、こんな謝罪の言葉で許してもらえるとでも思ったの?ってことだろうか。こんなもんじゃ俺の傷付いた心は直らないし、だいたい顔も見たくなかったよとか、そういうこと?

 ……許してもらえるとは思ってなかったけれど、でも。推しに嫌われるって、こんなに辛いんだ……。


 涙が止まらなくて、リュークの顔がどんどんぼやけてきた。泣いちゃだめだと、これ以上リュークに迷惑をかけてはいけないと、分かっているのに。涙が全然止まってくれない。

「す、すみま、せ……ゆる、許して、もらえるとは、思って、いなかった、んです。ただ、謝罪だけは、したく、て……み、見苦しくて、す、すみま、せん……」

 ボロボロと零れる涙のせいで、思ったように話せない。ここで声を上げて泣けば、絶対に誰かが飛び込んでくる。そんなことになれば、またリュークが泣かせたと言って悪い噂が流れてしまう。泣き止まなければ……。


 そう思っていたら、リュークは頭を掻きながら、なんとも言いづらそうに言葉を発した。

「あー……いや、そうじゃなくて。まず俺、傷付いてないから」

「……ふぇ?」

 傷付いて、ない?その意味が分からなくて、変な声が出てしまう。

「いや、だから俺、傷付いてないから。確かに俺が泣かせたとかそんな噂広まってたけど、評判とか元々地に落ちてたから然程影響なかったし。むしろ周囲の誘いが減って清々してた。それに、あれって事実だろ?なんで泣かれたかさっぱり分かんなくて、頭のおかしな変な奴だとは思ったけど……。というか、俺、今日死ぬんだと思ってたし」

「……はい?」

「お前、宰相の娘なんだってな。しかも王子お気に入りの。だから不敬罪で処刑かと思ったんだよ」

 淡々と告げられる内容が全く理解できなくて、頭も涙もフリーズした。


 傷付いてないの?嫌われてなかったの?頭おかしい奴って、たったそれしか思ってなかったの?というか、今日リュークはここで殺されると思っていたの?え、どういうこと?


 私が考えられる許容範囲を遥かに上回ったこの事態に、私は一旦考えることを全て止めた。そして、恐る恐るリュークに尋ねてみる。

「そ、それじゃあ……私は、リュークに嫌われて、ない?殺したいほど憎んでたり、怒ってたり、しない……?」

 その言葉に、リュークはゆっくりと頷いた。

「ああ」

 その言葉を聞いて、一気に私の中の張りつめていた気持ちが緩んだ。

「良かったぁ~~~!」

 そのまま立っていられなくて、私はその場にへたり込む。


 私、リュークに嫌われていなかった!全部自分の思い込みだった。ただ、あの舞踏会の私の奇行とも呼べる行動を、「頭のおかしな奴」の一言で片付けてくれていた!最推しに嫌われていなかった!!


 最推しに嫌われていない。その事実に心の底から喜びが湧いてくる。ああ、リュークが優しい人で良かった。やっぱりリュークは最高だ。なんてカッコいいのだろう。

 私が感動に打ちひしがれながらリュークを見上げていると、彼の美しい瞳と目が合った。最推しの視界に私がいること、嫌われていなかったこと、最推しが信じられないくらいカッコいいこと。その全てが混ざって、私は勝手に口角が上がりにやけてしまう。

「リュークさまっ、ありがとうございますっ!」

「お、おう?」

 呆気に取られた様子でそう返事するリュークすらカッコよくて、更ににやけてしまう。

 私は今までの人生最大の幸福を感じながら、心の中でたくさん感謝を述べた。


 シューベルト、このお茶会を開いてくれてありがとう!私とリュークを無理矢理引き合わせてくれてありがとう!神様、リュークと出会わせてくれてありがとう!


 すると、気が緩んだせいか、それともこの短時間で頭がパンクするほどの情報を詰め込んだからか。キュルルル~と私のお腹が小さく鳴った。ハッとしてお腹を押さえると、リュークは呆れたような顔をして、

「やっぱり食いしん坊なんだな」

 と呟いた。その言葉にカァッと顔が赤くなる。

「違います!これはたくさん頭を使ったからです!それに、近くに美味しそうなお菓子があって、美味しい匂いもしているからです!」

 そう言ってゆっくりと立ち上がり、テーブルの席に着いた。たくさんのお菓子を前にして、私の顔もつい緩む。

「リュークさま、せっかくですしお菓子をいただきましょう」

 そう笑顔で問えば、リュークもやれやれといった感じで席に着く。それから一緒に美味しいお菓子を食べ続け、お互いに感想を言い合っているうちに目の前のお皿は全て空になってしまっていた。最推しとお茶会という素晴らしい時間を満喫した私は、後にお詫びの品を用意していたことに気が付き、リュークとまた会う約束をした。その時に、今朝謝罪の手紙をリュークの家に届けたことも伝えておいた。

 まさかシューベルトに呼ばれて、こんなに幸せな時間が待っているとは考えもしなかった私は、まさに天にも昇るような気持ちだった。そして、常に暇だというリュークに、贈り物を理由にまた明日会えることに胸が弾む。今日は人生最大の素晴らしい日かもしれない。

 そう思いながら、私は呼び鈴を鳴らして使用人を呼び、シューベルトと義兄も合流して、私とリュークの幸せなお茶会は幕を閉じたのだった。


 帰りの馬車の中で。私は異様なほどご機嫌でにこにこと外を見ていたからか。

「ご機嫌だな」

 そう義兄に言われ、私は満面の笑みで、はいと頷いた。

「だって、リュークさまに嫌われていなかったのですよ?これほど嬉しいことはありませんわ!しかも、明日もまた会う約束が出来て……本当に幸せです。こんなに幸せで良いのでしょうか」

「……そうか。明日は残念ながら俺も抜け出せない仕事があるからな……くれぐれも気を付けろよ」

 どことなく寂しそうに笑ってそう言う義兄に首を傾げながら、

「はい、もちろんです!間違ってもリュークさまに嫌われるようなことはしませんので安心してくださいませ」

 そう答えると、なぜか義兄は私の頭に手を置き、優しく撫で始めた。

「お、おおお、お義兄さまっ!?」

 いきなりの出来事に目を白黒とさせていると、憂いを帯びた目が私を見つめているのに気が付き、言葉が何も出なくなった。そしてそのまま、私はずっと義兄にされるがまま撫でられていた。頭を撫でる手にもなんだか力が入っていない、弱々しい感じがして、このままどこか遠くへ消えてしまうのではないかと、心配になった。


 それからしばらくすると、義兄は正気に戻ったのか、

「す、すまないっ」

 そう言って素早く手を引っ込めた。

「いえ、大丈夫ですわ……」

 にこりと笑って返すも、なんだか義兄の手の感触が消えず、落ち着かなかった。漠然とした不安を抱えつつ、気が付けばもう馬車は家のすぐそばまでやってきていた。

ついに念願のリュークとの仲直り(?)を果たしたルナディール。再び会う日を取り付け、幸せオーラ全開のルナディールですが、その反対にアリステラはなんだか憂鬱そうで……?次回はリュークのお家へ訪問です。

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