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お礼〜フォスライナ〜

 義兄の部屋を後にして、私は自室に戻る。

 部屋へ入ると、たくさんの袋から物を一つ一つ取り出して机の上に並べているラーニャと目が合った。

「お帰りなさいませ、お嬢様。たくさんお買い物なされたのですね。物で溢れかえっております」

「ええ、ちょっとテンションが上がってしまって。片付けは私がしておくから、袋の後始末をお願いしてもいいかしら」

「かしこまりました」

 私はせっせと買ってきた物をどんどんしまっていく。

 本、雑貨、お菓子、装飾品……。本当にたくさん買った。中には、これいつ使うのっていうものも紛れ込んでいて、私は一人苦笑した。


 それから夕ご飯の席で、みんなに今日の出来事を話した。もちろんプレゼントを用意したことを。ロイゼンにたくさん注意されたことは内緒だ。

 義兄がブローチを着けてくれていたので、証拠もバッチリだ。お父さんは素敵なブローチだねと絶賛してくれた。義兄も嬉しそうだ。


 そんな和やかな夕食を終え、私はフォスライナとシューベルトにも贈り物を渡したいからお城へ行きたいとみんなに話した。

 すると、三日後なら大丈夫だろうとお許しをもらい、私はるんるん気分で自室へ戻った。

 今日は昨日と違ってお母さんから注意を受けなかった。一日ですごい成長した、すごいすごい。


 そうやって自画自賛しながら、やることリストにびぃーっと線を引いていく。

 義兄と門番、トール家族へのお礼は済んだ。あとは王子さま二人と、魔法研究所へ向けての勉強、最推しの件だけだ。

 私は最推しのことを考えてちょっと憂鬱になったけれど、すぐにぶんぶんと思考を切り替える。今はできることからやっていこう。最推しはそれからだ。


 そのあとの二日間は、花壇で魔法のコントロールの練習をしたり、買ってきた魔術書を読んだり、剣術のお稽古を義兄につけてもらったりしていた。


 そして、王子さま二人にプレゼントを渡す日。

 お仕事でお城へ向かうというお父さんと一緒に馬車に乗り込む。今日は義兄は一緒じゃないみたいだ。別のお仕事が残っているらしい。

 家族想いな義兄は何度も私に、くれぐれも二人の王子には気を付けるように、何かあったらすぐに帰ってこい、絶対に二人きりになるなと言っていた。

 私はそれにしっかりと頷いて、そのつもりだと示した。


 二人が私に好意を持っているのかはまだ分からないけれど、その可能性があるのだ。その可能性はこれ以上増やしてはいけない。増やしたら私の平穏な生活にヒビが入る。

 とりあえず、もし貴女に好意がありますよみたいな雰囲気になっても私は絶対に気付かないふりをする。あくまでお友達として、を貫く。そう決めた。

 それはもちろん、義兄に対してもだ。義兄は義兄。大切な家族の一員として接する。

 私がこの世界で平穏に暮らすためには、誰ともくっつかず、一生魔法の勉強でもしていれば良いのだ。そして、推しと仲良くお話して、ずっとお友達の関係をキープする。

 それが一番だ。


 私はキッと外を睨んで、すうっと一つ深呼吸をする。大丈夫、私ならできる。それに二人はきっと私に好意を持っていない。

「ルナディール、緊張しているのかい?」

 ふいにそう声をかけられ、私はビクッと身体を跳ねらせる。

「え、ええ、まぁ」

 私が曖昧に笑うと、お父さんはにこりと優しく微笑んで、

「ルナディールからの贈り物ならきっと喜んでくれるよ。アリステラにあげた物も素敵な物だったからね。ルナディールはセンスが良いよ」

 と褒めてくれた。

 しかし、その言葉に上手く笑えない。

 あれは魔石が勝手にあの形になっただけで、別に私がデザインしたわけじゃないのだ。でも、そんなことは言えないので、私はこくりと頷くだけにする。


 それにしても、お父さんと二人で馬車に乗るだなんて初めてじゃないだろうか。

 私はあまり外出しない方だったし、お父さんもお仕事が忙しくてなかなかお話する機会がない。家族でお話できるのは、ご飯の時だけなのだ。


「お父さまと二人きりになるだなんて貴重な機会、あまりありませんでしたよね。食事の席以外ではあまりお話できないので嬉しいです」

 私が素直にそう言うと、お父さんは目を細めて嬉しそうに笑った。

「そうだね、私も嬉しいよ。最近はルナディールも忙しいみたいだからね。色々大変だろうけど、頑張るんだよ」

「はい、ありがとうございます。お父さまもお仕事頑張ってください」


 それから少しお話するだけで、もうお城へ着いてしまった。下町と違ってものすごく近い。

「それじゃあルナディール、王子さまたちにプレゼントを渡せたら図書室で待っているんだよ。遅くなるかもしれないけれど、必ず迎えにいくから」

「もちろんですわ。わたくしが図書室で過ごせるよう頼んでくださってありがとうございます。とても楽しみです。本があるならばいくらでも待てますわ」

 笑顔で別れて、私は使用人にフォスライナの部屋へ案内してもらう。


 フォスライナとシューベルトにプレゼントを渡し終わったら図書室へ行ける!私のテンションはそれだけでぐぐんと上がる。

 お城の図書室はきっと広いに違いない。どんな本があるんだろう。珍しい本はあるのかな。面白い本が見つかるかな。

 あぁ、図書室、なんて幸せな響き!

 私は図書室が大好きだ。前世では学生時代、図書室に通い詰めていた。片っ端から本を読んでいくのが楽しかったなぁ。今日はどれぐらい読めるだろう。


 そんなるんるん気分が抜けず、私はフォスライナの部屋へ通されてしまった。図書室が楽しみすぎて、顔が緩むのが止められない。

 やばい、顔を引き締めないと。変人だと思われてしまう。

「ロディアーナ嬢、ようこそお越しくださいました。美味しいお菓子を用意したので、良ければ食べていってください」

 そうにこやかに言って私をエスコートするフォスライナ。私がお礼をしにやってきたのに、何故かおもてなしを受けている。なんだろうこの謎な状態。

「久しぶりにロディアーナ嬢の顔が見られてとても嬉しいです。今日も素敵ですね、ロディアーナ嬢。私がプレゼントしたブローチ、ちゃんと着けてくれているみたいで安心しました」

 出会って早々そんな言葉を連発するフォスライナ。

 久しぶりのその輝くような笑顔と甘い言葉に、心臓がドキドキとうるさくなる。


 あぁ、しっかりしろルナディール!

 まずはお詫び、それからプレゼント!やることやってシューベルトにもお詫びとプレゼントを贈って私は図書室へ行くのだ!

 夢のような大量の本が私を待っている!数少ない私の娯楽があるかもしれないのだ、気をしっかり持て!


 自分で自分に喝を入れて、私はぐっとフォスライナを見つめる。

「フォスライナさま。先日は我が家まで足を運んでくださったにも関わらず、顔をお見せすることができなくて大変申し訳ございませんでした。それに、下町へ一緒に行くお約束も果たせませんでした」

 深々と頭を下げて謝罪する。

 するとフォスライナは、にこりと素敵な笑みを浮かべてふるふると首を振った。

「いえ、大丈夫ですよロディアーナ嬢。ロディアーナ嬢が元気になってくれただけで私は嬉しいのです。ですから謝らないでください」

 私はその言葉にひとまず安堵しながら、スッとプレゼントを渡した。

「それでフォスライナさま、これはお詫びと先日いただいたブローチのお礼です。わたくしが作ったのでお気に召していただけるか分からないのですが、どうか受け取ってくださると嬉しいです」

 緊張しながらそう言うと、フォスライナは驚いた顔をしてから、とても素敵な笑顔を見せた。

「ありがとうございます、ロディアーナ嬢。開けてみても良いでしょうか」

 私はもちろんですとこくりと頷く。


 フォスライナが丁寧に包みを解くと、金色の月のネックレスが現れた。月の周りには銀色の丸い小さい石がぶら下がっていて、振るとゆらゆら揺れていた。

 私も欲しいと思うようなとても可愛いネックレスだ。しかも、これまた偶然なのか月の形をしている。

 私はじっとネックレスを見つめてから、ハッとした。これ、私は欲しいと思うけれどフォスライナはどうなんだろう。

 もしかして、気に入らなかった……?


 長い間じっとネックレスを観察しているフォスライナに、恐る恐る声をかける。

「あの、もしかして気に入りませんでした……?」

 私がそう問うと、フォスライナは今まで見たことがないくらい素敵な笑みを浮かべて、

「いいえ、とても気に入りました。これはロディアーナ嬢が私のために作ってくれたのでしょう?とても嬉しいです。大切にします」

 そう言った。

 それから私に向けてネックレスを差し出し、

「ロディアーナ嬢、良ければこのネックレス、私に着けてくれませんか?」

 と笑顔で問いかけてきた。

 思いがけない言葉に頭が上手く働かない。

 えっ、私が着けるの?フォスライナに?何故。

 しかし私が戸惑っている間に、フォスライナは私の隣に来てネックレスを握らせた。そしてくるっと後ろを向いて跪いてしまう。

 あまりの行動の速さについていけずぼーっとしていると、壁の側に控えている使用人が私の方をじっと見ていることに気が付いた。


 え、あ、待って、この状況はまずいかも!私は今フォスライナより視線が上にある。これは不敬にあたるのではないだろうか。まさか、使用人が王様に告げ口してジ・エンドってパターン!?それはまずい!


 私は急いで椅子から立ち上がり、フォスライナの側にかがんで、

「失礼します」

 と言ってからネックレスを着けた。誰かにネックレスを着けるだなんてしたことがないから手が震えた。しかも相手は王子さまであり私の推しなのだ。緊張しないわけがない。


 私が着け終わると、フォスライナは優雅に立ち上がって嬉しそうに優しくネックレスに触れた。私もゆっくりと立ち上がり、密かにふぅとため息をつく。

「ロディアーナ嬢、本当にありがとうございます」

 そんな時にすぐ側でキラースマイルを放たれ、私はうっと頭がフリーズする。

 気が緩んだ時のキラースマイルほど危ないものはない。どんどん顔や身体が熱くなってくる。やばい、冷静にならなくちゃ!


 私が必死に深呼吸を繰り返していると、フォスライナがくすくすと小さく笑う声が聞こえた。

 驚いて顔を上げると、目を細めて幸せそうに笑っているフォスライナとバッチリと目が合った。

「ロディアーナ嬢は本当に可愛いですね。見ているだけで幸せな気分になります」

 そう甘い声で言われた私は、また一気に身体が熱くなる。


 やばいやばいやばい、頭がオーバーヒートしそう!フォスライナ恐ろしい!なんなのこの人!可愛いとかそんなこと普通言う?前世でも男子に言われたことないのですが!

 頭が追いついていかない。というかもうこれって本当に主人公ルートなのでは。だとしたら私はもう平凡な人生を送れない?それは嫌だ!推しがいる世界をゆったり満喫したいんだよ私は〜〜!!


 私が頭の中でわーわーと騒いでいると、フォスライナがふと、

「そういえば、リューク・フォルテラーナのことをロディアーナ嬢はどう思っているのですか?」

 と聞いてきた。

 話の展開についていけず、私はこくりと首を傾げる。

「私はロディアーナ嬢がリュークに泣かされたことはもう知っています。それで、私が問い詰めに行こうとしたらシューベルトに止められたのです。勝手に動くのは良くない、ロディアーナ嬢を悲しませる結果になるかもしれないのだから憶測だけで動かない方が良い、問い詰めるならちゃんとロディアーナ嬢の意見を聞いてからにしろと。なので、ロディアーナ嬢に確認しようと思いまして」

 そのあまりの内容に私は血の気が引いていく。


 私がリュークに泣かされた?問い詰めに行こうとしている?それを、シューベルトが止めた?

 何が何だか分からない。分からないけれど、私がぐずぐずしている間に色々あったみたいだ。私はまだ最推しに迷惑をかけようとしている。

 シューベルトがもし止めてくれていなかったら、きっとフォスライナはもうリュークを問い詰めに行っていただろう。

 そうなっていたら、私はもう最推しにどうやって謝れば許してもらえたんだろう。いや、許してもらえるはずがない。

 散々嫌な思いにさせておいて、王子にまで告げ口して本当に嫌なやつだと思われてしまう。これじゃあ悪役令嬢ではないか。

 これ以上最推しに嫌われる要素は増やしたくない。シューベルトには心の底から感謝を伝えなければ。


 私はキッと真面目な顔でフォスライナの目を見る。私の真剣な雰囲気に気付いたのか、フォスライナも静かに私の目を見つめ返す。

「フォスライナさま、わたくしはリュークさまに泣かされてなどいませんわ。あれは勝手にわたくしが泣いただけなのです。完全な誤解ですわ。むしろ、わたくしがリュークさまに嫌な思いをさせてしまったのです。非難されたり謝りにいかなければならないのはわたくしの方。……リュークさまには心の底から申し訳なく思っております」

 私の言葉を聞き、フォスライナは一つ頷いた。

「……なるほど、そうでしたか。なら、私は問い詰めに行かなくて良かったということですね」

 それから少し下を向き、

「……まさかシューベルトに救われるだなんて思いませんでした」

 と何か呟いた。上手く聞き取れなくて、

「何かおっしゃいました?」

 と聞き返してみるも、フォスライナはふるふると首を振って、なんでもありませんとにこやかに言った。

 それから微妙な空気になったのを振り払うように、フォスライナが少し声を弾ませて、

「ロディアーナ嬢、このお話はもう終わりにしてお菓子を食べませんか?下町で有名だというクッキーを用意してみたのです」

 と言った。

 その言葉にぴょこんと身体が跳ねる。


 クッキー!しかも下町の有名なお店の!それってもしかして、私が門番にあげてしまったクッキーなのでは!ここで食べられるなんて……!

 感動に打ち震えながら、

「もちろんいただきます!ありがとうございます」

 と笑顔で答えた。

 フォスライナも嬉しそうに笑って席に着く。

 それから私は、素晴らしく美味しいクッキーとマフィン、ケーキを食べながら推しと話すという至福の時間を過ごした。

 推しを見ながら食べるお菓子ほど美味しいものはない。幸せだ。


 気が付いたら目の前にあったお菓子は全て無くなっていて、結構長い時間フォスライナの部屋にお邪魔していたんだなと思った。

 少し美味しいお菓子にはしゃぎすぎた。食いしん坊だと思われたに違いない。

 それに長居しすぎた。まだシューベルトへプレゼントを渡していないのに。それに、図書室へだって行ってない。これじゃ本が全然読めない。

 フォスライナ恐るべし。驚くほどのおもてなし力で私の図書室へ行く目的を阻むなんて。これが平凡な人生が送れなくなる始まりなのか。これはなんとしてでも主人公ルートを誰かにお譲りしなければ。


「長居してしまい申し訳ありませんでした、フォスライナさま。お菓子も美味しくて止まらなくて……」

「いえ、気にしないでください。ロディアーナ嬢と一緒に過ごせるのはとても嬉しいことですから。これからもどんどん私の部屋に来てくれても良いのですよ。その度に美味しいお菓子を用意しておきますから」

 その甘い誘惑に唆られるけれど、私はぐっと我慢する。ここで負けたら、ずるずると私の平穏が脅かされる気がする。フォスライナの誘惑には負けない。

 私はにっこりと笑って、

「ありがとうございます。ですが、フォスライナさまにもお仕事があるでしょうし、甘えるわけにはいきませんわ」

 としっかりとお断りした。


 それから退室の挨拶をして部屋を出ると、今度は使用人にシューベルトの部屋に案内してもらう。

 次はシューベルト。プレゼントを渡してリュークの件でお礼を言ったら、図書室へ行こう。今度は長居しない。

 というか、シューベルトはフォスライナほどのおもてなしができないだろうしきっと大丈夫だ。誘惑されるものも少ないに違いない。

 そんな少し失礼なことを考えながら、私はシューベルトの部屋へと向かった。

フォスライナに贈り物編でした。次回はシューベルトです。推しのもとを訪れたらたくさんのお菓子を振舞われる。もう幸せですね。私も体験してみたいです。

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