表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/108

家族とお話

「ご心配をおかけして、申し訳ございませんでした」

 夕食を食べる前に、姿勢を正して謝罪する。

 一週間ほど心配をかけたのに、のうのうと席に着いてご飯を食べるなんて大それたこと私にはできない。私はチキンなのだ。


 ゆっくりと顔を上げると、お父さんが嬉しそうににこりと笑った。

「ルナディールが一緒に食事を取ってくれて嬉しいよ。さあ、席に座って」

 勧められるまま、私は椅子を引いて義兄の隣に座る。義兄が私の方を心配そうに見つめて、

「ルナディール、もう大丈夫なのか?」

 と聞いてくる。

 私はそれにこくりと頷いて、にっこりと微笑む。

「はい、完全復活とまではいきませんが……。毎日お見舞いに来てくださったのに、顔を見せることもしないですみませんでした」

 最後にきちんと謝罪も入れる。

 すると、義兄はふるふると首を振って優しく微笑んだ。

「いや、大丈夫だ。それより、ルナディールの顔が見られて良かった。力が湧いてくる」

 その言葉にくすっと笑みが溢れる。

「お義兄さまは、わたくしの顔を見ると力が湧くのですか?」

「え……あ、ああ。ルナディールを見ていると、俺も頑張らなければと思うんだ」

 そう言ってごくりと紅茶を飲む義兄。その少し慌てた様子が珍しくて、また笑みが溢れる。

 そして、お義兄さま、一人称が『俺』になっていますよ。と心の中で注意する。義兄は基本、周りにたくさん人がいる時は一人称が『私』だ。

 どういう基準で使い分けているのかよく分からないけれど、きっと、誰かと二人きりになった時に『俺』に変えるのだと思う。

 因みに私は、貴族モードとお忍び(平民)モードで一人称と言葉遣いを変えている。


「それで、ルナディール。貴女はいつから魔法研究所へ行けるのかしら?まだ時間が必要ならば、そのように伝えますが……」

 お母さんの言葉にハッとする。

 そうだ、それを聞こうと思っていたんだった。


 私はお母さんの目を見て、少し首を傾げる。

「お聞きしたかったのですが、わたくしは今どういう状況なのですか?魔法研究所にもう勤められるのですか?それとも、まだ手続きが終わっていない状態なのですか?」

 お母さんは、運ばれてきた食事を一口食べてから私の質問に答える。

「手続きは終わっています。魔法研究所の方は、優秀な貴女が来てくれる日を今か今かと待っていますよ」

 その言葉に、ギクリと身体の動きが止まった。

 それって行く行く詐欺してるよね?なんか感じ悪い人になってない?それに、優秀って言葉が引っかかるんですけど……。なんか嫌な予感がする。


「お、お母さま?一つよろしいでしょうか。……あの、わたくしはどれぐらい優秀だと思われているのでしょう?あまりにもハードルが高いと、逆に失望されそうなのですが……」

 恐る恐る尋ねる私に、お母さんは優雅に笑みを浮かべた。その笑顔に冷や汗が流れる。

 ……お母さま?変なことは言ってませんよね?わたくし、平凡に魔法の研究がしたいだけなのですよ?大丈夫ですよね、お母さま……!!

 しかし、私の望みはスパーンと断ち切られた。にこやかに言ったお母さんの言葉で。

「全属性で、多数の属性の魔法を一度に発動させることができ、類い稀なる発想で魔法の可能性を広げることのできる優秀な人材だとお伝えしましたよ」


 おおお、お母さま!!な、何故そんなことを!?そんな人存じませんが!!

 類い稀なる発想って何。私が魔法の可能性広げちゃうの?いや、冗談でしょ。それって多分、前世のファンタジー物語の知識だから。私が生み出したわけじゃないから。

 それだけ聞いたらむちゃくちゃ優秀な人だね。すっごく期待されてない?今か今かと待ってるんでしょ?実物見てガッカリされたらどうしよう。すごいプレッシャーかけられた気分……。


 私が頭の中でわーわーと騒いでいると、お母さんが首を傾げてとんでもないことを言い出した。

「これでは不満かしら?やはりもっとルナディールの美点を追加するべきかしらね。努力家で、自分の身体が傷付くのも厭わないほどの研究家とかどうかしら」

「いえもう十分でございます、お母さま!それに、わたくし自分の身体が傷付くのも厭わないだなんて初めて聞きましたわ!わたくし痛いのは嫌いです!」

 私はバンっと立ち上がって反対した。

 そんなこと追加されたら私の魔法研究所人生どうなるか分かったもんじゃない。


「ルナディール、お行儀が悪いですよ。どんな時でも優雅になさい。心の動揺を悟られてはいけません。魔法研究所には、あまり良い噂を聞かない人もいるのですから、弱味を見せないよう常に振る舞うのです。分かりましたか?」

 そして何故かお説教をくらってしまった私は、静かにこくりと頷いてゆっくりと席に着く。

 でも、今のはお母さんが悪いと思うんだけどな。誰だって私みたいな反応するよ、多分。


 怒られたことが腑に落ちないまま、静かにご飯を食べる。

 しばらくして義兄が、ルナディール、と私の名前を呼んだ。なんだろうと義兄の方を向くと、何故かポンと頭を優しく撫でられた。

 いきなり推しに頭を撫でられたものだから、一気に頭が真っ白になってパクパクと口を開け閉めする。

 そんな私に構わず、義兄は、

「そんなに緊張しなくてもいい。最初のうちは、魔法研究所に私も一緒に行くからな」

 と驚くようなことを言った。

「えっ、お義兄さまも一緒に行くのですか!?」

 あからさまに驚いた顔をしていたのだろう。またお母さんに、表情を少しは取り繕いなさいと注意された。

「ああ。ルナディールだけでは心配だからな」

「で、でもお義兄さまにはお仕事が……」

「大丈夫だ。仕事に支障をきたさないようスケジュールを組めば良いだけだし、それにルナディールが危険な目に遭わないか確かめる方が大切だ」

 その家族想いな発動にうるっとくる。


 ああ、お義兄さま素敵です!イケメンで優しくて家族想いな推し、尊い……。

「ありがとうございますお義兄さま!お義兄さまのようなとてもお優しい義兄がいて、わたくしは幸せですわ」

 にっこりと笑顔を浮かべてそう言うと、義兄はパッと私の頭から手を離して、少し視線を逸らせた。心なしか頬が少し赤く見える。

「い、いや、ルナディールの方が優しくて、その……俺も幸せだ」

 その言葉に少し首を捻る。私の方が優しくて幸せ?どういう意味だろう。

 全く分からなかったけれど、とにかく推しが幸せならまあいっかと思ってスルーした。

 すると、会話を聞いていたお母さんが何故か一つため息をつき、

「ここでスルーするのですか」

 そう何か呟いたけれど、声が小さくてよく聞き取れなかった。

 お父さんの方を見てみると、お父さんはただにこにこ楽しそうに笑っているだけだ。


 私が内心首を傾げながら柔らかいローストビーフを食べていると、それで?とお母さんが尋ねてきた。

「結局、いつ頃ならルナディールは魔法研究所へ行けるのですか?」

 そこで私はポンと頭の中で手を叩いた。ちゃんと感情を外に出さず、心の中でできたので上出来だろう。今度こそ怒られまい。

「そういえばそのお話の途中でしたわね、すっかり忘れていました」

 しかし、またもお母さんはふるふると首を振ってため息をつく。

「ルナディール、そういうことは心の中に留めて置きなさい。わざわざ口に出して言うものじゃありません」

 その言葉にまた、あっと声が出そうになる。仕草を心の中でしていたら、今度は言葉が飛び出てしまった。

 私は二つのことが一度にできないお馬鹿さんなのだろうか。というか、私の貴族レベルが低下している気がする。

 もしかして、引き籠もっていたせいで貴族レベルが全て下がってしまったのだろうか。まさか自室にはレベル下げの魔術が!?


 だんだん頭の中で考えていたことが脱線していった私を、お母さんのごほんという咳払いが元に戻した。

 今は貴族レベルじゃなくて魔法研究所の話だった。

「ええと、あと一週間ほど時間が欲しいです。まだ下町でお世話になったブライダン商店へのお礼も終わっておりませんし、フォスライナさまやシューベルトさまにも贈り物のお礼を渡さなければなりません」

 私の言葉に一つ頷き、分かりましたとお母さんが言う。

「それでは、余裕を持たせて二週間後に魔法研究所へ行くと伝えておきます」

 その言葉に、お願いしますと頷く。

「ところで、ルナディールはいつ下町へ行くんだい?王子様たちと約束していたんだろう?」

 スープをスプーンでゆっくりと飲みながら、そう尋ねてきたお父さんの言葉にハッとする。


 そうだ、そのことも話そうと思ってたんだ。私、いくらなんでも忘れすぎじゃない?記憶力も低下したのかな。

「そのことなのですが、わたくし一人で下町へ行くのはダメでしょうか。できることなら明日行きたいのです」

「明日?それはまた急だね。しかも一人で。使用人は一緒じゃダメなのかい?何か理由があるのかな」

 いきなり却下はせずに、私の目を見て優しく尋ねてくれるお父さん。

 私はお父さんのこういうところが好きだ。頭ごなしにダメだと言うのではなくて、きちんと理由を尋ねてくれる。私も見習いたい。


「ダメというわけではないのですが……。ただ、人数が多いと目立ちますし動きにくいのです。それに、使用人を連れていたら嫌でも目立ってしまいます」

 そこで私は、ふわふわパンの最後の一口を食べる。ようやくご飯が食べ終わった。

 話しながら優雅に食べるなんて器用なこと、私にはあまりできないのだ。話すか食べるか、どっちかしかできない。

 チラッと義兄のお皿を見てみると、もうすでに全部食べ終わっていた。お母さんもお父さんもだ。さっきまでご飯を食べていたはずなのに……。


「私ではダメなのか?使用人ではないし、大丈夫だと思うのだが……」

 そう申し出てくれた義兄に、少し困った顔で返す。

「いえ、お義兄さまの着ている服は、一目で貴族だと分かってしまいます。わたくしには下町で買った服がありますが、お義兄さまはお持ちでないでしょう?」

 目を伏せて、そうだなと答える姿はどことなく悲しそうで心が痛くなった。でも、服装うんぬんより義兄はイケメンだから絶対に目立つと思うんだよね。

 ……そりゃあもちろん、ルナディールも可愛いよ?でも、そんなこと言ってたら下町に行けないじゃん?だからルナディールは別枠ってことで良いんだよ、うん。


「でも、下町で買い物をするのなら荷物持ちが必要じゃないかい?それに、下町にルナディール一人で行かせるのはさすがに心配だよ。剣はある程度使えるようになったと聞いたけれど、そう易々と剣を振るえないだろう」

 そのお父さんの言葉にうっと口籠もる。


 確かに魔剣は易々と出せるものじゃない。

 でも、普通の剣として使えないだろうか。ほら、ダークンヴェルダーは私の望むような魔剣になってくれるって言ってたし、頼んだら何とかなるかもしれない。

 それに、荷物持ちの件ならもう解決済みだ。だって私には無限収納があるのだから。シャイニンフェルでズバッと空間を切り裂けばもう……。

 そこまで考えて、あれ?っと私は大変なことに気付いた。

 そう、無限収納を使うためにはシャイニンフェルを出さなければいけないのだ。でも、他の人の前で魔剣を出すことはできない。

 ……これ、使えなくない?下町で大量買いしても、無限収納に入れられなくない?こっそりしまうなら、馬車の中で収納するしかないよね?ということは、馬車まで荷物を運ぶ人が必要だよね?

 ……一人じゃダメだ、これ。


 そこまで考えて、一人絶望する。

 ええー、嘘でしょ。じゃあいつ無限収納使うの?分身入れるだけになっちゃう。

 というか、分身あの中に入れちゃったけど、取り出す時は誰もいないか確認しないといけないよね?え、不便。あの時は最高って思ったけど、こう考えると使える場所限られてるよね……。

 うわー、どうしよう。魔剣ってポンポン人前で出しちゃダメなのかな。ダークンヴェルダーはそれっぽいこと言ってたよね。聖剣がどうのこうのって。

 じゃあもし聖剣について詳しい人が私の魔剣を見たら、こっ、これは……っ!!って驚いて質問責めにあうのかな。それは面倒。

 んー、でもその辺りは魔法研究所の人が一番知ってそうだよね。

 ……よし、魔法研究所に行ったら、それとなーく聞いてみたり、資料見て知識を得たりしよう。そして、魔剣をほいほい使って良いのかダメなのかが分かってから考えよう、うん、そうしよう。


 一通りの考えがまとまって、私は満足気に顔を上げる。すると、微妙な顔をしたお母さんとバチッと目が合った。

「ルナディール、話の途中で自分の考え事に没頭するのは良くありませんよ」

 その言葉に、そういえば随分長い間考え事をしていたかもと気付いた。

 夕食の席で何回お母さんに注意されれば良いんだろう。今日は過去一注意された自信がある。全然自慢できない自信だけど。


「すみませんでした。ええと、それで使用人のことですけれど……。えーと、セバスチャンを同行させてもよろしいでしょうか」

 私が咄嗟に浮かんだ人を挙げると、お父さんが、セバスチャン?と首を傾げた。

 そこで、私は心の中の呼び名をうっかり口に出してしまったことに気付く。

「あ、いえ。ほら、あの、有能なおじさまですわ。執事服をピシッと着こなしていて、動作が素早くて、いつでも時間厳守の執事の鑑のような方です」

 私の補足説明に、ああとお父さんが頷く。

「ロイゼンのことかい?もちろん良いよ。ルナディールを預けるには一番信頼できる人だからね」

 その言葉にホッと安堵する。あのセバスチャンがいるのなら、多少買いすぎてもなんとかなるだろう。あの人は見かけによらず力持ちなのだ。

 それにしても、セバスチャンはロイゼンって名前だったのか。知らなかった。ちゃんと覚えておこう。


「それでは、明日朝食を終えたらロイゼンと下町へ出かけようと思うのですが、よろしいでしょうか」

「ああ、良いよ。今度は暗くなる前に帰ってきてね」

 お父さんの柔らかい笑みに、私もにっこりと笑顔で頷いた。

「もちろんです。今度は馬車がありますもの」


 それから、しばらくお手入れしていないのに雑草が全く生えていない不思議な花壇の話とか、魔法研究所へ行くまでの詰め込み勉強のこととか、色々なことを話した。

 一週間ぶりに私が顔を出したから嬉しくて、たくさん話すことがあったのだろう。そのどれもが私にとって胃が痛くなるようなものだったことは、偶然だと思いたい。

 世間話をしようと思ったら、たまたま運が悪く、その話題になっただけだ。決して私が色々やらかしたわけではないし、ダメな子ではない。

 そう自分に言い聞かせながら、家族との久しぶりの食事を終えたのだった。

久しぶりの家族とのお話。ルナディールはこれから忙しくなりそうですね。次は下町でお買い物です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ