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この世界で生きる意味

「……」

 私はぼへ〜っとだらしなく机に突っ伏していた。

 最近毎日ベッドでごろごろしていたせいで、なかなか眠くならない。何度寝ても、夢で二次元に触れることはなかった。

 ああ、私は夢でも二次元に触れ合えないのか。それならもう私はこのまま、ずっと無気力星人だよ。


 そんなふざけたことを考えながら、長い長い時間を過ごす。

 ふと、そよそよとベランダから入ってきた風が、私の前髪を揺らす。

 机の上からベランダへ視線を移す。

 空気の入れ替えも必要ですとラーニャが開けたのだ。カーテンも、窓も開きっぱなし。そよそよと風が部屋の中に入ってくる。

 ……この自堕落生活、一体いつまで続くんだろう。私はこのまま、ずっと無気力星人なのだろうか。なんにもする気が起きず、ただひたすらぼーっと毎日を過ごす……。


 私がぼーっとしていると、コンコンコンと控えめに扉が鳴った。

「ロディアーナ嬢、私、フォスライナです。しばらく部屋を出ていないと聞きました。少しでも良いからお話しませんか?アリステラもシューベルトも心配していますよ」

「ルナディール、大丈夫か。食事の席にも着かないので心配している。少しでも良いから顔を見せてくれないか」

「おい、ルナディール。お前が好きだという菓子を持ってきてやったぞ。早く部屋を出てこい。舞踏会からもう一週間ほど経っているんだぞ。良い加減引き籠もるのはやめろ」

 どうやら、フォスライナと義兄、シューベルトが様子を見にきたみたいだ。

「お嬢様、どうなさりますか?」

 ラーニャは私を気遣って、恐る恐る聞いてくる。

 ……まだ、話したい気分じゃないんだよね。この机から離れられないし、動けない。動きたくない。ぼーっとしていたい。外からうっすらと聞こえてくる、鳥の囀りを聞きながら……。


 私はゆっくりと目を閉じた。それが返事だと分かったラーニャは、扉の近くまで行き三人に声をかける。

「申し訳ありません。まだお嬢様はお加減が優れませんので、お会いになることはできません」

「……そうですか、分かりました。日を改めてまた来ます。……ロディアーナ嬢、お大事に」

「……ルナディール、何かあれば私を呼んでくれ。すぐに駆けつける」

「……菓子は使用人に預けておくからな」

 バタバタと扉から離れていく音が聞こえる。どうやら三人は帰ったみたいだ。

 私はふぅとため息をつく。

「お嬢様、一体いつまでこうしておられるつもりですか?みなさま、とても心配されているのですよ」

 ラーニャが側にやってきて、少し咎めるように言葉を発す。


 ……それは、分かってる。毎日毎日、家族みんなが声をかけに部屋を訪れるのだから。

 でも、私はそれに無言を貫いている。心配してくれているのに、ありがとうも言わないで無視を続ける。最低なやつだって分かってる。

 この世界に無いものを求め続けるのは無駄。いくら願ったって、無いものは無いし目の前には現れない。

 だから、私は二次元以外で心の糧となるものを見つけなければならないのだ。自分で、動いて。それは与えられるものじゃない。

 ……それは、分かっているのに。身体が動かないし、何もしたくないのだ。私は何をすれば良い?私は何をするためにこの世界にいるの?なんでこの世界に転生してきたの?推しに心配をかけさせるため?悲しい顔をさせるため?……嫌われるため?

 もう、分からないよ。


 私は机に突っ伏したまま、手探りで机の引き出しを開ける。そして、ボロボロの魔法書を取り出した。

 片手を枕に、片手で魔法書をパラパラとめくる。

 ラーニャはため息をついて、どこかへ去った。きっと残ったお仕事でもしに行ったのだろう。メイドは忙しい。

 私は一人になった部屋で、ゆっくり一枚一枚ページをめくっていく。


 ボロボロで、強く掴んだら敗れそうで、まるで今の私みたいだ。中に書いてある文字もうっすらとしか読めず、ところどころ見えなくなっている。

 私は途切れ途切れの単語を軽く目で追いながら、テンポ良くページをめくっていく。

 ……神。全属性。剣。召喚。闇堕ち。破滅。光。愛。神聖魔法。復活。幻。孤独。死。


 ……これは、何について書かれているのだろう。全く分からない。

 前半部分は、何か長い長い文章が綴られていた。後半部分に入ると、ひたすら魔法陣が描かれていた。

 といっても完全なものはなく、どれも欠けたり敗れたりしていて、残りは自分で考えてくださいというような感じだった。

 なんの魔法陣かも書いていない。これじゃあ誰も欲しがらないのは分かる気がする。この本を見ても得るものはなさそうだもの。

 でも、私にはこの欠けている魔法陣がとても魅力的に見えた。最初から答えが書いてない、途中までの魔法陣。まるで今の私みたいだ。

 何をするのか分からず、自分に何ができるか分からない。心はボロボロで、今にも崩れてしまいそう。頭もぼんやりしていて、何も考える気がしない。途切れ途切れの単語が素通りしていくだけ。


 この本は、見た目も中身もまるで私のようだった。これが私だとしたら、この本を読解して、全ての単語を繋げて文章を作り、魔法陣を完成させれば、私も何か分かるのだろうか。この世界で生きる意味を、見つけられるのだろうか。


 そこで、私は何か一つの光を見出した気がした。けれど、それは一瞬でどこかへ消えてしまう。

 私はのそりと起き上がって、ボロボロの本をじっと見つめる。

 ……これが、私の心の糧?命の手綱?これを綺麗に埋められれば、内容を完璧に再現できたら、私は何かを得られる?

 そう思ったら、心の奥の方から少しだけ、ぐんと力が湧いてきた。ほんの少しだけれど、私が再び立ち上がれそうなほどの、力。


 私はボロボロの本を大切に胸に抱き締める。もしこれが、この世界での私の生きる糧となるのなら、生きる意味を見出す鍵となるのなら。

 私はスッと息を吸って、前を向く。

 自分一人の力で、この本の内容を完璧に再現してみよう。何が書いてあるのか、何の魔法陣が描いてあるのか調べて、修復しよう。時間がかかっても良い。この一冊に、賭けよう。


 それから私は部屋中を探し回り、この本にピッタリなブックカバーを見つけようとした。しかし、そんな都合良くあるわけもなく、私はよろよろとソファに腰を下ろす。

 一週間近く、ろくに動いていなかったので体力がない。これではせっかくの剣術のお稽古も無に帰してしまったのではないだろうか。義兄にあんなに付き合ってもらったのに申し訳ない。


 私はふぅと一息つき、ボロボロの本を手に取った。これは私の生きる希望。私を模したようなもの。いわば分身である。


 これ以上ボロボロにならないように、革のカバーが欲しいな。それか、ジュラルミンケース。これにピッタリなサイズでお願いして、どこへでも持ち運びできるようにするのだ。

 ……いや、でも外見があまりにも豪華だと、下手したら誰かに奪われてしまう恐れがある。そして中を開いて、なんだこのボロ本は!とかいって投げられるのだ。それは悲しい。私の分身が投げられるなんて耐えられない。


 ……分身ならいっそ、私の体内に入れられない?いや、無機物を体内に入れるのは嫌だな。影?影とかどうよ?ん?でもそれってもう召喚になるのでは。

 あ、そういえばダークンヴェルダーは言ってたっけ。どこか別次元の世界にいて、今は召喚されてここにいるだけだと。それならこの本もその空間に送れないかな?そして、いつでも取り出し可能にするの。


 別次元……だったら空間魔法?いや、でも空間魔法って何属性に入るんだ?光?闇?うーん、困った。

 光……だったら、魔剣、まだ創ってなかったよね。じゃあ、空間を切り裂いたらそこは異空間になっていて、自分の好きなものを閉じ込めておけるとかどう?

 そこは時間が止まっていて、食べ物でも物でも人間でもなんでも閉じ込めることが可能なの!それだったらいつでもどこでも一緒に分身を連れて行けるし、汚れる心配も破れる心配もない!

 その異空間を開けるのは光の魔剣の主人だけで、無限収納が手に入るの!

 ああ、なんて素晴らしい魔剣!これだったらたくさんお買い物をしても、異空間に入れとけばおっけー!

 本棚を見て、ここからここまで全部って大量購入しても、帰りは楽ちんで帰れちゃう!夢も叶って、労力も心配しないで済むってもう最高じゃない?

 わあ、素敵!欲しいよその光の魔剣!

 優しく包み込むような優しい声で、今度は何を収納しましょうか?って聞いてくるの。

 えーっと、名前はシャイニンフェル!シャイニンフェルとかどう?


 そう思った瞬間、ずわっと魔力が吸われて手に白色の剣が現れる。

【お呼びでしょうか。わたくしはシャイニンフェルと申します】

 優しくおっとりとした声が頭の中に響く。

 ……うわあ、やっちゃった。テンション上がって光の魔剣ができちゃった。あんなに考えても全く浮かばなかったのに……。

 私は苦笑しながら、シャイニンフェルへ尋ねる。


 ねぇ、シャイニンフェルは異空間への扉を開けられる?私、いつでも安全に持ち運びができて、好きなだけものを収納できるような無限収納が欲しいと思っているの。

【ええ、できますわ。わたくしにお任せください。空間を切ってくだされば、わたくしが異空間への扉を開きましょう。そこに、お嬢様がお好きなだけものを詰め込んでくださいませ。わたくしはお嬢様の無限収納となり、責任を持って異空間との橋渡しをいたしましょう】

 おお、すごい!そこってあれだよね、もちろん時間は経たないよね?

【もちろんです。人でも物でも食べ物でも、なんでもドーンときてくださいませ。わたくしが全て収納いたします】


 そこで私は早速、何もない空間をズバッと切ってみた。すると、何もないはずの空間がぐわっと割けた。

【収納する大きさに合わせて切ってくださいませ】

 そう言われて、私は本が入るくらいの大きさで四角く空を切る。

 すると、四角くくり抜かれた空間は眩い光をほのかに放ち、向こうが見えないほど真っ白い空間がひたすら続いていた。

 ……これが異空間。なんか、不思議。

【さあ、ここに収納したいものを入れてくださいませ。そして、お嬢様が閉じろと念じれば、異空間へと続く扉も閉まりますわ】

 私はシャイニンフェルに言われるまま、私の分身をそっと異空間へ送り込む。すると、分身がスッと真っ白い空間に吸い込まれていってしまった。

 私は分身が消えたことに驚き、少し慌てる。


 えっ、あの、私の分身……ええと、本が消えちゃったんだけど、ちゃんとこの空間に収納されたの?

【もちろんです。心配なら異空間に手を入れてみてくださいませ。お嬢様が取り出したいと頭に浮かべたものが取り出せるようになっていますから】


 そう言われて、恐る恐る何もない空間に手を入れてみる。そして、私の分身を思い浮かべた。黒いボロボロの表紙で、ページが少し黄ばんだ古い本。

 すると、手に何かが触れた。私はそれを掴んで、恐る恐る手を抜くと、何もない空間から分身が現れた。


 え、すごい!本当に思い浮かべただけで取り出せた!

【当たり前です、お嬢様の無限収納なのですから。もしたくさんのものを収納しすぎて何が入っているのか忘れてしまったら、この無限収納にあるものは?と問いかけながら手を入れてくださいませ。頭の中に直接、収納リストが浮かぶようになっていますので】

 おお、それはありがたい!すごいよシャイニンフェル!


 私はシャイニンフェルを賞賛しながら分身を異空間へと収納する。そして、頭の中で閉じろと念じれば、スゥッと音もなく、割かれた空間が元に戻った。

 真っ白い、無限に続いていくような空間はもうどこにもない。

 私は興奮しながらシャイニンフェルと少し話して、召喚を解除する。もうそろそろラーニャが帰ってくると思ったのだ。

 それまでに、変に興奮した頭を冷やさなければならない。


 それにしても、私はこれから何をすれば良いのだろうか。色々やることが残っている。


 まず、トールたち家族へのお礼。一ヶ月以上時間が経ってしまったけれど、仕方がない。誠心誠意謝って遅れたことを許してもらおう。

 後は、門番の人へのお礼。名前……なんて言ったか忘れたけれど、身代わりになってくれた人には直接会って謝罪しなければ。

 あと、王子二人への謝罪とお礼。お見舞いに来てくれたのに無視したり、下町へ行く約束を守れなかった。あと、舞踏会の時に貰ったプレゼントのお返しもしなければならない。さすがに王子から貰いっぱなしなのはダメだろう。

 そして、義兄への謝罪とお礼。舞踏会が終わった後、あんなに人目がある中抱きついて泣いてしまった。馬車の中でも気を遣わせて、家に帰っては私が倒れて心配をかける。そしてお見舞いを断った。義兄には誠心誠意謝って感謝しよう、うん、そうしよう。

 それから、魔法研究所への勤務。これが一番大事だろう。どうなっているのか全く分からないけれど、今の私は行く行く詐欺をしている嫌なやつになっているかもしれない。私の分身を完成させるためにも、魔法研究所へ行くことは必須だ。


 ……こう考えると、やらなければいけないことがたくさんあった。私、忙しすぎるのではないだろうか。

 あと、考えたくないけれど最推しの問題もある。どうしよう。謝罪をしに行くべき?でも、あんな別れ方をしておいて、会ってくれる気がしない。門前払いされそう。

 それに、もし次冷たくあしらわれたら、今度こそ私の心はパリンと割れる気がする。KOして立ち直れない。

 ……うん、最推しのことは後回しで良いかな。まだ私には荷が重い。他のやることを全て終わらせてから考えよう、うん。


 そう考えて一人うんうんと頷いていたら、コンコンコンとノックをして、ラーニャが入ってきた。

 ソファに座っている私を見て、目を見開いて驚く。そんなラーニャに、私はにこりと笑って告げた。

「ラーニャ。今日の夕食は家族と取るから、そう料理人に伝えてくれるかしら?」

 ラーニャはハッとして、とても嬉しそうに笑い、

「かしこまりました」

 と言って去っていった。心なしか、ラーニャの歩く姿がいつもより嬉しそうに見えた。


 ラーニャを見送ってから、ん〜っと大きく伸びをする。

 よし、ルナディール・ロディアーナ、完全復活とまではいかないけれど、とりあえず復活よ!これから忙しくなるわね!

 私はピョンっとソファから下りて、紙と万年筆を出す。万年筆は、シューベルトからのプレゼントだ。

 紙に、用意すべきものをサラサラと書いていく。

 万年筆が書きやすい。これ、良いやつだ。さすが王子様からのプレゼント。

 私はにまにまと笑うのを抑えられずに、これからやるべきことを書いていった。

 楽しいと思ったのは一週間ぶりだ。


 私が全て書き終えると、ラーニャが食事に呼びにくる声が聞こえた。

 私はん〜っと大きく伸びをしてから立ち上がる。

 今日は久しぶりの家族とのご飯だ。まずは、心配をかけてごめんなさいと謝らなきゃね。

 私は少し跳ねる足を抑えながら、一週間ぶりに部屋を出た。

ルナディールとして転生した自分がこの世界で何をするのか。それを決めたルナディールはついに前を向き始めます。脱無気力モードです。次回は久しぶりの家族とのお話です。

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