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決断

 今日は待ちに待った舞踏会だ。今まで生きてきた中で、こんなにも待ち遠しかった舞踏会はないだろう。

 ルナディールと会える。ルナディールと踊れる。そう思えるだけで嬉しかった。

 用意したプレゼントは気に入ってもらえるだろうか。自分でデザインしたものを誰かに贈るのは、こんなにも緊張するものだなんて知らなかった。

 俺ははやる胸のうちを抑えながら、招待客をもてなしていく。


 今回舞踏会に来ている人の大半は、兄の招待客だ。いつもよりたくさんの人に招待状を出していたので、とても驚いた。兄はこの舞踏会で何かするつもりなのだろうか。


 ある程度の人と言葉を交わせば、俺はほとんど自由になる。社交が苦手な俺としては大助かりだ。

 忙しそうな兄を横目に見つつ、俺はルナディールが早く会場入りしないかそわそわと待つ。


 しばらく壁際の方で待っていると、ルナディールが義兄にエスコートされながら会場入りした。

 ルナディールたちはすぐさまたくさんの人に囲まれる。宰相の娘だけあって、群がる貴族も多いみたいだ。

 それを見事に捌いていくのに少し見惚れていると、ハッとしてふるふると首を振る。

 見惚れている場合じゃない。俺は今日、ルナディールと過ごすのだ。


 俺がルナディールに向かって人を避けながら歩いていると、途中で兄に追い越された。

 さっきまでたくさんの人に囲まれていたのに、一体これはどういうことだろう。

 俺が首を捻っていると、先に着いた兄がルナディールに声をかける。

「ロディアーナ嬢、アリステラ、今日は舞踏会に来てくれてありがとうございます」

「ごきげんよう、フォスライナさま、シューベルトさま。今回は舞踏会にお招きいただきありがとうございます。思っていたよりもたくさんの方がいらっしゃるので、少々驚きましたわ」

 無事ルナディールの元に辿り着いた俺にも挨拶をするルナディール。俺も返事をしようと口を開けるが、兄が話出したので口を閉じた。

「そうですね、今回は少し張り切ってしまいましたから」

 それから流れるような動作で、ルナディールの前に綺麗な箱を差し出した。プレゼントだ。

「ロディアーナ嬢、これは私からの贈り物です。どうか受け取ってくれませんか?」

 兄の行動が速くて驚きを隠せない。俺は、ルナディールに挨拶をする機会を逃してしまった。


 ルナディールはにっこりと嬉しそうに微笑み、兄からプレゼントを受け取る。

「ありがとうございます、フォスライナさま。開けてみてもよろしいでしょうか?」

「もちろんです。ロディアーナ嬢が気に入ってくれると嬉しいのですが……」

 それから丁寧に箱を開けると、そこには綺麗な水色の花のブローチが収められていた。あまりの美しさに息を呑む。


 兄はこんなものを用意していたのか。さすが完璧主義者、贈り物も女性が喜びそうなものだ。

 ルナディールはブローチに見惚れながら、嬉しそうに笑う。その姿に、チクッと胸が痛む。

「喜んでもらえたみたいで嬉しいです。よければ、ドレスに着けてあげましょうか?」

 そんなことを言った兄は、ルナディールの返事を聞き、幸せそうに笑ってブローチを服に着けた。

 優しくブローチを着ける兄と、嬉しそうにそれを見ているルナディールはまるで恋人のようだ。またズキズキと胸が痛む。

「こんなに素敵な贈り物をありがとうございます。わたくし、水色は好きな色ですのでとても嬉しいです」

 そう言って兄に笑いかける姿を見ていられなくて、俺は慌ててルナディールにプレゼントを渡した。

「ルナディール、これは俺からの贈り物だ。受け取れ」

 ルナディールは少し驚いた顔をしたけれど、にこりと笑ってプレゼントを受け取ってくれた。

「ありがとうございます、シューベルトさま。開けてみてもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ。喜んでくれると、その、嬉しい」

 ルナディールが包みを開けるのを、ドキドキと見守る。

 ルナディールは気に入ってくれるだろうか?兄の方が素敵な贈り物だったとガッカリしないだろうか?


 不安が渦巻く中、水色の万年筆が現れた。

 俺は、ルナディールに何かプレゼントをすると決めたのは良いものの、何にしようかなかなか決まらなかった。

 兄はブローチを贈る。兄のことだから、きっと完璧なものを造らせたに違いない。

 そう考えると、装飾品を贈ろうとは思えなかった。絶対に兄と比べられる。

 だから、日常的に使えるものにしようと思った時に、机の上にあった万年筆がふと目に入った。万年筆なら毎日使うだろうし、デザインだってできる。

 それで万年筆に決めたのだ。柄は桜にしようと決めていた。桜は儚く美しい花で、水色にもよく合う色。

 何度も何度も描き直して、ようやく満足のできたデザイン。ルナディールは気に入ってくれるだろうか。


 俺がドキドキとルナディールの反応を窺っていると、ルナディールはふんわりと優しく笑って、

「素敵な贈り物をありがとうございます、シューベルトさま。これ、どこで買ったのですか?フォスライナさまのもそうですけれど、とてもセンスが良くて、わたくし一目惚れいたしました。是非お店を紹介してくださいませ」

 と言った。

 ルナディールが気に入ってくれた。それだけで、もう俺は幸せだった。

「そのブローチは、私がデザインしたものなんです。ですから、世界でたった一つしかありません」

 幸せに浸っていると、兄がこれは自分でデザインしたものだと告げた。その言葉に俺も慌てて、

「お、俺のも特注だぞ!せっかく俺がデザインを考えたんだ、大切に使えよ!」

 と言うと、ルナディールは目を見開いて驚いた。

「え、これ、お二人がそれぞれデザインされたのですか……?」

 その表情に俺は満足した。

 自ら頑張ってデザインした甲斐がある。


「ええ、デザインを考えて、ブライダン商店というところに依頼して造ってもらいました」

「ブライダン商店って、トールのところですか!」

「ロディアーナ嬢はブライダン商店を知っているのですか?」

「ええ。あそこのオーナーにはお世話になりましたの。とても優しい方ですわよね」

 それからポンポンと兄とルナディールが会話をし、その間に全く入れずもどかしくなる。


 兄は会話をするのも上手だ。俺にもその技を分けて欲しい。これではせっかくルナディールと一緒にいるのに、全然話せないではないか。

 俺が少し焦っていると、ルナディールが何かポツリと呟いた。

「三日後にまたブライダン商店へ行くから、ブローチと万年筆のお礼も言わないと……」

 その内容に驚いて声が出ない。

「ロディアーナ嬢はブライダン商店へ行くのですか?呼び寄せるのではなく?」

 兄も驚いて聞き返している。

「え、ええ。あちらにも予定があるでしょうから、こちらから尋ねるのは当たり前です。それに、下町って結構面白い物もたくさんあるんですよ」

 その様子にたじろぎながらも、下町は面白いと言うルナディールがおかしくて、つい、

「……お前って変なやつだな」

 と溢してしまった。


 しかし、下町は面白いところなのだろうか。俺は行ったことがないから分からないし、行こうと思ったこともない。

 でも、ルナディールが面白いというのなら、面白いのかもしれない。今度、俺もお忍びで行ってみるか?


 そんなことを考えていると、兄が、

「それでしたら三日後、私も一緒に行っても良いでしょうか?」

 と信じられない発言をした。

 まさか、兄が一緒にと言うとは思わなかった。てっきり、楽しんできてくださいと突き放すと思っていたのに。完璧主義者の兄が下町へ?

 絶対ルナディール目的だ。ルナディールが行くのなら私もと思ったに違いない。しかし、兄を下町へ行かせてしまうほど、ルナディールが兄を魅了しているとは思わなかった。

 このままでは、兄にルナディールを独り占めされて話せなくなってしまいそうだ。


 そう思った俺は、慌ててルナディールに告げた。

「ルナディール、俺も行くぞ!面白そうだからな」

「はい!?」

 素っ頓狂な声を上げて驚くルナディール。その姿がなんとも面白くて、つい笑みが溢れてしまった。

 すると、今まで傍観していた義兄がスッと前に出て、

「すみませんが、私たちはお忍びで下町へ行くのです。身分がバレるのは避けたいので、王族であるお二人は遠慮していただけませんか」

 と言った。


 下町へはお忍びで行くつもりだったのか。しかもルナディールと二人で。

 確かにお忍びならば、俺たちがいない方が良いかもしれない。王族である俺たちは、下町でもそこそこ顔が割れている。

 しかし、兄は引き下がらないみたいだ。

「でしたら、私たちもお忍びとして行きますよ。変装をすれば良いのでしょう?」

 その様子を見て、兄が引き下がらないなら別に良いかと思い、俺もそれに賛成する。

「変装か、面白そうだな」

 それからしばらく攻防が続いたけれど、二人は兄に敵わなかった。結局俺たち四人で三日後、下町に行くことになったのだ。

 三日後が楽しみだ。一体どんな変装をして行こうか。商人?旅人?街人?


 様々な変装を考えていると、ふとルナディールがそわそわと辺りを見回しだした。

 一体どうしたんだ?と不思議に思ってルナディールを見つめる。

 ルナディールは忙しなくきょろきょろと辺りを見回し、ある一点をじっと見つめた後、

「と、尊い……」

 と何か呟きながらよろよろとどこかに歩いていった。

 突然の出来事に呆気に取られ、少しの間ポカンとルナディールを見つめる。だが、兄たちが動き出したのを見て俺もハッとした。


 兄たちの後ろを急いでついていくと、

「わっ」

 とルナディールの声が先の方で聞こえ、

「ルナディール!」

 と義兄が叫んだ。

「大丈夫か?」

 そう手を差し出した義兄の先には、座り込んだルナディールがいた。どうやら転んでしまったようだ。

「はい、大丈夫です」

 それから近くに突っ立っていた、ヴェールを被った人にペコリと謝罪した。その様子から、ただ転んだのではなく、人とぶつかって転んでしまったのだと分かった。

 しかし、謝られた人は何も言わず、ただ俯いているだけ。

 この舞踏会の場で、ただ一人だけヴェールを被っているのも相まって、まるで別世界に生きている人のように見えた。

 こちらが見えていないと言わんばかりの、清々しいほどの無視である。

 しばらくお互い無言でいると、ひそひそと周りで何か囁かれていることに気付いた。

 じっと耳を傾けてみると、それはどうやら、このヴェールを被った人の悪口のようだった。


「あれって、リヴィーラ・シルヴェストよね?」

「あれが……初めてみたわ」

「舞踏会でヴェールなんて非常識じゃない?」

「しょうがないわよ、人に見せられないほど醜い顔だってシルヴェスト婦人がおっしゃっていたもの」

「そういえば、婦人がどうしてあんな子を産んでしまったのかって嘆いていたわよ」

「魔法もろくに使えず、勉学もできず、社交術もままならないって言っていたわ。それなのに見た目も悪いなんて可哀想。生涯孤独なのではなくて?」

「それに、よく嘘もつくらしいわ。あまり関わらない方が身のためよ」


 その言葉のトーンが、人を馬鹿にするようなもので嫌な気分になった。まるで、自分が言われているみたいだ。

 そして俺は、今まで言われた数々の悪口を思い出して、この場から逃げ出したい衝動に駆られる。

 今、俺の周りにいる人も心の中で俺を嘲笑っているのではないか?兄と違って、出来損ないの王子だと笑っているのではないか?


 ぐるぐるとそんな思考がめぐり、心の中が暗くなりかけた時、

「……それでルナディール、急にふらふらとどこへ行くつもりだったんだ?」

 近くで声が聞こえて、ハッと我に返る。

 目の前にはルナディールがいて、ひそひそと囁く人たちはもういなくなっていた。

「……とても会いたかった人を見つけたのです。それで、叶うならばお話をと思ったのですが、先程の騒ぎで見失ってしまいました……」

 ルナディールの悲しそうな声に、頭を軽くふるふると振る。

 今は悪口なんてどうでも良い。今の俺にはルナディールという、俺自身をちゃんと見てくれる人がいる。それだけで十分だ。


「まだまだ時間がありますから、きっとまた会えますよ」

 ふと聞こえたそんな兄の声に、

「こんな大人数の中から探し出すのは大変だけどな」

 とつい反応してしまった。

 この大勢の中から誰か一人を探すのは、とても難しいだろう。人が多すぎるのだ。

「必要なら、私も人探しを手伝おう」

「ありがとうございます」

「ロディアーナ嬢、私も人探しを手伝いますよ。この場にいる人の大半は知っている人ですから」

 いつの間にか、周りがルナディールの人探しを手伝うという方向で固まりつつあり、俺も慌てて、

「俺も手伝うぞ」

 と言葉を発す。

 しばらくぼーっと考え事をしていたせいで、上手く話についていけない。

 ここはルナディールのために、ビシッと探し人を見つけて、あの優しい笑顔を独占するのだ。

「ありがとうございます」

 そうお礼を言って、ルナディールは探し人の特徴を列挙する。

「それでは、リューク・フォルテラーナさまをお見かけしたら教えてくださると嬉しいです。亜麻色の髪で、黒い瞳の高身長イケメンですわ」

 その言葉に、ガンッと頭を殴られたような衝撃が走る。


 高身長イケメン……。イケメンってあれか、素晴らしくカッコいい人のことを示す言葉だったよな?そんな人がこの会場にいるのか?

 いるんだったら探すのは簡単ではないか。イケメンが注目を浴びないはずがないのだから。

 ……待てよ、ルナディールがイケメンって言うのなら、もしかしてルナディールはそいつのことが好きなのか?


「どうかなさいました……?」

 ルナディールの声にハッとする。いけない、自分の思考にどっぷり浸かっていた。今は人探しだ。

「いや、ルナディールの探し人が男の人だとは思わなかったから驚いただけだ。リューク・フォルテラーナだな、見かけたら教えよう」

「リューク・フォルテラーナですね。私も見かけたら教えます」

「誰か知らんが、亜麻色の髪に黒い眼の高身長だな」

 俺が特徴を確認すると、ルナディールはふわっと笑ってこくりと頷く。

「はい、その通りです。みなさん、ありがとうございます」

 そして、探し出そうとした瞬間、兄がとても言いにくそうにルナディールに尋ねた。

「……あの、どうしてルナディール嬢が彼を探しているのか、聞いてもいいでしょうか?」

 俺も気になったので、静かに耳を澄ます。

「ええと……言うのが難しいのですが、そうですね……。ずっと会いたかったから?一目でも良いから会いたくて、可能ならばお話したり触れたいと思ったから?」


 その言葉に今度こそ確信した。

 ああ、ルナディールは探し人のことが好きなのだと。

 しかし、まさかルナディールに想い人がいるとは知らなかった。ルナディールが想いを寄せるなんて、その高身長イケメンとやらは一体どんな人なんだろうか、とても気になる。


「違うのです、勘違いしないでくださいませ!わたくしはただ彼とお話してみたいだけなのです!ええと、その……お、お友達。そう、お友達になりたいだけなのですよ!」

 急にブンブンと勢いよく手を振って弁解しだしたルナディールにふっと笑う。

 もう無理だ、ルナディール。勘の良い兄はもう誤魔化せないぞ。俺だって気付いたのだ、兄が分からないはずがない。諦めた方が良いぞ。


 すると、突然優雅な音楽が流れ始めた。そこで、ああ、もうダンスの時間かと思った。

 そこで俺は、ルナディールと踊るために練習したことを思い出した。ここで誘わなければ、練習が無駄になる。


 俺がルナディールを誘おうと一歩踏み出した瞬間、兄が一足先にダンスの相手を申し込む。さすが兄、行動が速い。

 俺は二人が踊り終わるのを待ってから、即座にダンスを申し込む。

「ルナディール、今度は俺と踊れ」

 何か言っていた兄は、不機嫌そうに口を噤んだ。

 危ない、セーフだ。あと少し遅かったらニ曲目もルナディールと踊られるところだった。連続で踊るのはさすがにズルいだろう。

「もちろんですわ」

 そう言って俺の手を取るルナディール。俺たちは曲に合わせて踊り始めた。


「ルナディール、その……今日は綺麗だな」

 今日会ってから一度も言えてなかった言葉を、ここぞとばかりに伝える。一目見た時から思っていた。

 薄緑色のドレスと金色の髪、水色の瞳。とても綺麗で美しいと思った。

 しかし、なかなか伝えるタイミングがなく、こんな時になってしまった。何を今更と思われそうで、少し言葉が突っかかる。それに、心臓もドクドクと速く鳴っていた。

「可愛い」

 すると、何故かそんな言葉を言ったルナディール。

 ……可愛い?誰が?俺が?

 初めて言われたその言葉にたじろぐ。

 ルナディールの目はおかしくなったのではないだろうか。俺は可愛いとは縁遠いはずだ。


 心配になってルナディールを見つめていると、ルナディールはにっこりと笑って、

「シューベルトさまはダンスがお上手ですわね。わたくし驚きました」

 と褒めてきた。

 嬉しかったけれど、なんとなく話を逸らされているようで素直に受け取れない。

「兄上の方が上手だがな」

 そんな風に答えてから、しまったと思った。せっかくルナディールと踊っているのに、自分から雰囲気を壊すようなことを言ってどうする。

 しかし、そんな俺の言葉を気にせず、ルナディールはふんわりと笑って言ったのだ。

「シューベルトさまにはシューベルトさまの、フォスライナさまにはフォスライナさまの良さがそれぞれにありますので、気にする必要はありませんわ。シューベルトさまは堂々としていれば良いのです」

 と。その言葉にじ〜んと胸が温かくなる。


 俺がどれだけ気分を害すような言葉を言っても、ルナディールは優しくそれを受け止めてくれる。あろうことか、俺の心が温かくなるような言葉をかけてくれる。

 なんて優しいのだろう。俺を俺だと肯定してくれるのはルナディールだけだ。ルナディールと一緒にいると、俺は俺なんだと思える。

 ルナディールは俺と兄を比べない。ありのままの俺を受け止めてくれる。

 それがとても嬉しい。


 曲が終わり、ルナディールは義兄と踊りだす。ルナディールはいつもにこにこと幸せそうだ。

 俺は二人から視線を外し、亜麻色の高身長イケメンを探そうとした。

 彼女の想い人がこの場にいるのなら、そして、会うことを望んでいるのなら、俺はそれを叶えるだけだ。誰よりも早く見つけて、ルナディールの笑顔を独占しよう。


 そう思ったのに、何故か身体が動かない。心がズキズキと痛くて、ルナディールがそのイケメンと会えなければ良いのになんて思ってしまう。

 ルナディールがイケメンと会って、見たこともないような素晴らしい笑顔を見せるのが嫌だ。ルナディールの笑顔は俺だけが見たい。ルナディールが誰かのものになるのは嫌だ、怖い。


 そこまで考えて、ああ、そうかと俺は思った。

 俺は、ルナディールのことが好きなのだ。だから、ルナディールを見ると心が温かくなって幸せな気持ちになるし、ルナディールが誰かと楽しそうに笑っていたらズキズキと心が痛む。

 兄と仲良くしているところを見るのが怖いのも、ルナディールが兄に奪われてしまうのではないかと不安だからだ。

 兄は明らかに、ルナディールに好意を寄せている。プレゼントや下町、ダンスのことを考えればすぐに分かる。


 そこで俺は、兄が今日たくさんの人を招待していた理由を知った。

 兄は、見せつける予定だったのだ。自分とルナディールがどれほど親密なのかを。そして、あわよくば周りからの応援も得て、ルナディールを手にしようとしているに違いない。

 兄は完璧主義者だ。欲しいものがあれば、必ず手に入れる。それが物でも、人でも。そういう人だ。


 そこで俺は、はぁとため息をついた。俺は、どうするのが良いのだろう。ルナディールにこの気持ちを伝えるべきか、否か。

 ……いや、伝えない方が良いだろう。ルナディールには想い人がいる。ルナディールの幸せは奪いたくない。

 それならば、もうやることは決まっていた。ルナディールを兄から守ること。そして、ルナディールがその想い人と結ばれるよう手伝うこと。

 そうすれば、俺はルナディールと友達でいられるだろう。恋人にはなれなくても、友達にはなれる。この関係は終わらない。

 友達としてでも、俺はルナディールの側にいられるのならば、それはそれで良いだろう。気持ちを伝えて、この関係が終わる方が嫌だ。

 俺は、ルナディールの友達でいる。友達の中の一番を目指す。信用されて、なんでも話してもらえるような、そんな関係を目指す。


 そう考えて、俺はグッと前を向いた。

 心がズキズキと痛むけれど、そんなものはどうでも良い。ルナディールは、俺を俺として見てくれる唯一の人だ。そんなルナディールを幸せにしたい。

 だから俺は、自分の心に嘘をついてでも、ルナディールの恋を応援するのだ。

シューベルト目線でした。シューベルト、ものすごい良い人です……。次はリューク目線。リュークは初対面のルナディールから告白されて、どう思ったのでしょうか。

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