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手強いライバル

 今日は待ちに待った舞踏会。私は今日のために、色々な準備をした。

 ルナディールが喜びそうなプレゼントを考えたり、ルナディールが好きそうなお菓子を用意したり、ルナディールと私の関係性を示すためにたくさんの貴族を招待したり……。

 本当に忙しかった。けれど、これも全てルナディールを手に入れるため。今回の舞踏会で、私はルナディールに好意を寄せているのだと大々的にアピールするつもりなのだ。


 まず、会場内で堂々とプレゼントを渡す。これで、周りの人は私とルナディールの関係を疑うはずだ。

 大衆の面前で王子が令嬢に贈り物を渡すなど、周りに威嚇しているようなものだからだ。この人は私のものですから、手出ししないでください、と。

 そして、私がプレゼントを渡した後に、すぐシューベルトもルナディールにプレゼントを渡すだろう。シューベルトも色々準備をしていたからな。何を渡すのかは分からないけれど、中身はまぁどうでも良い。

 とにかく、これで王子二人がルナディールに好意を寄せていると周りの人は思うだろう。

 この王子たちの、彼女をめぐる争いに好き好んで首を突っ込む輩はいないはずだ。ルナディールに関わろうとする男は減るに違いない。


 プレゼントで好意を示した後はダンスだ。

 私は今まで、誘われたことはあっても自分から誰かを誘ったことはない。だから私からダンスに誘えば、もう完璧に私が彼女を好いていることは明らかだろう。踊っている最中に甘い言葉でも囁けば、彼女だって恋に落ちるに決まっている。

 自慢ではないが、私の顔は良い方だ。だから甘い言葉でも囁けば、大抵の令嬢は私の思い通りに動いてくれた。


 しかし、一番厄介なのはアリステラというルナディールの義理の兄だ。

 最近、社交界ではアリステラとルナディールがお互いに愛し合っているのではないかという噂が囁かれていた。真偽のほどを今回の舞踏会で確かめなければならない。

 もし本当にルナディールが彼に恋をしているのならば、彼女の心を射止めるのも大変になる。私は何がなんでも彼女を手に入れたいのだ。心地良い場所を手に入れるために。


 会場入りしたルナディールたちが遠くから見えた。私は挨拶をしにいこうと歩き出すが、どんどん人が現れてなかなか解放してくれない。

 焦ったく思っていると、視界の隅にシューベルトが見えた。彼はもうだいたいの挨拶を終えたみたいで、すたすたとルナディールの元へ向かっている。

 今回舞踏会に呼んだ人の大半は私の知り合いだ。つまり、シューベルトの知り合いは少ない。

 元々彼はこういう社交が好きではないため、あまりたくさんの人を呼ばないのだ。前回のお茶会の時もそうだった。

 私は残りの人の挨拶もそこそこに、急いで囲いを抜け出しルナディールの元へと歩く。ルナディールへの挨拶を優先したとなれば、周りの人も気付くだろう。私が彼女に好意を寄せていることに。好都合だ。


 薄緑色のドレスを着て、にこやかに挨拶をしているルナディールに声をかける。

「ロディアーナ嬢、アリステラ、今日は舞踏会に来てくれてありがとうございます」

 私が二人に声をかけると、二人を囲っていた人たちがそれぞれ静かに散っていった。

「ごきげんよう、フォスライナさま、シューベルトさま。今回は舞踏会にお招きいただきありがとうございます。思っていたよりもたくさんの方がいらっしゃるので、少々驚きましたわ」

「そうですね、今回は少し張り切ってしまいましたから」

 私が笑ってそう言うと、ルナディールは首を傾げて曖昧に微笑んでいる。きっと意味が分からなかったのだろう。その仕草が可愛らしくて、笑みが溢れる。


 遠巻きにこちらを窺っている人たちがいるのを確認してから、私はスッと彼女の前にプレゼントを差し出す。

「ロディアーナ嬢、これは私からの贈り物です。どうか受け取ってくれませんか?」

 少し驚いた顔をしたけれど、ルナディールはにっこりと笑ってそれを受け取ってくれた。

「ありがとうございます、フォスライナさま。開けてみてもよろしいでしょうか?」

「もちろんです。ロディアーナ嬢が気に入ってくれると嬉しいのですが……」

 私の言葉を聞き、丁寧に包みを開けるルナディール。しばらくして、花のブローチが現れた。

 彼女の好みが分からなくて悩んだけれど、この前ルナディールが花壇の世話をしていたことを思い出して、花の形にしたのだ。

 因みに、花はホテイアオイで花言葉は『好意』や『恋の楽しみ』。花好きな彼女なら、この花言葉に気付くかもしれないという思いもあった。色は、彼女と同じ瞳の色の水色。


 ルナディールはブローチを光に翳してみたり、嬉しそうに眺めていたりしていた。その様子にこちらまで嬉しくなる。

 誰かに贈り物を送って、こんなに嬉しい気持ちになったのは初めてだ。

「喜んでもらえたみたいで嬉しいです。よければ、ドレスに着けてあげましょうか?」

 私がそう聞けば、

「良いんですか?」

 と首を傾げて聞き返すルナディール。私はクスリと笑って、そっと彼女のドレスにブローチを着けた。

「こんなに素敵な贈り物をありがとうございます。わたくし、水色は好きな色ですのでとても嬉しいです」

 幸せそうに笑う彼女に、私まで幸せな気分になっていると、隣にいたシューベルトが慌てたように箱を取り出し、無造作にルナディールの前に突き出した。

「ルナディール、これは俺からの贈り物だ。受け取れ」

 私とルナディールの時間を邪魔されてムッとしたが、彼が何を用意したのかも気になるので口を挟まない。

「ありがとうございます、シューベルトさま。開けてみてもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ。喜んでくれると、その、嬉しい」

 ルナディールが丁寧に包みを開けると、そこには水色の万年筆が入っていた。ところどころ桜が散りばめられていて、センスが良いと思うようなデザインだ。

 桜の花言葉は、『優美な女性』や『精神美』だった気がする。彼女にピッタリなものだ。もしかして調べたのだろうか。


「素敵な贈り物をありがとうございます、シューベルトさま。これ、どこで買ったのですか?フォスライナさまのもそうですけれど、とてもセンスが良くて、わたくし一目惚れいたしました。是非お店を紹介してくださいませ」

 ルナディールがふんわりと笑ってそう尋ねてきたので、私も微笑みながら言葉を返す。

「そのブローチは、私がデザインしたものなんです。ですから、世界でたった一つしかありません」

 買ったのではなく、自らデザインしたもの。貴女のために考えたもの。きちんとそう伝えておく。

「お、俺のも特注だぞ!せっかく俺がデザインを考えたんだ、大切に使えよ!」

 シューベルトも対抗するように言い張ると、彼女は目を丸くして驚いた。

「え、これ、お二人がそれぞれデザインされたのですか……?」

 その驚きように満足しながら、私はこくりと頷く。

「ええ、デザインを考えて、ブライダン商店というところに依頼して造ってもらいました」

 すると何故か、ルナディールはぴょこんと身体を少し跳ねらせ、

「ブライダン商店って、トールのところですか!」

 と少し前のめりになって尋ねた。

「ロディアーナ嬢はブライダン商店を知っているのですか?」

 今度は私が驚かされた。

 まさか下町にある商店を知っているとは思わなかった。あそこはロディアーナ家が使用していないのではなかったか。

「ええ。あそこのオーナーにはお世話になりましたの。とても優しい方ですわよね」

 オーナーというと、城まで納品に来たあの男か。

 まさかオーナーと顔見知りだったとは思わずに驚いていると、今度はボソリともっと信じられないようなことを呟いた。

「三日後にまたブライダン商店へ行くから、ブローチと万年筆のお礼も言わないと……」

「ロディアーナ嬢はブライダン商店へ行くのですか?呼び寄せるのではなく?」

 私が反応すると、ルナディールは身体を少しビクリとさせ、戸惑いながらも答えた。

「え、ええ。あちらにも予定があるでしょうから、こちらから尋ねるのは当たり前です。それに、下町って結構面白い物もたくさんあるんですよ」

「……お前って変なやつだな」

 珍しく、私はシューベルトの意見と一致した。


 下町なんて貴族がそうそう行くところではない。まして商店なら家に呼び寄せるのが普通だ。わざわざ下町なんて遠いところまで行かない。

 それなのに、彼女は自らの足で買い物に行くのか。

 下町にはそれほど面白いものがあるのだろうか。行きたいと思えるほどのものがあるのだろうか。

 いまいち想像がつかない。


 しばらく考えた後、ルナディールが面白いという下町に私も一緒に行きたくなって、

「それでしたら三日後、私も一緒に行っても良いでしょうか?」

 と尋ねてみる。

 それほど期待はしていないが、ルナディールと一緒ならどこへ行っても面白いだろう。それに、三日後にまた会えるのならそれほど嬉しいことはない。

「ルナディール、俺も行くぞ!面白そうだからな」

 私に追随するかのようにシューベルトも言葉を発す。

 はっきり言ってシューベルトは要らないのだが……。

 そう思っていると、思いがけない横槍が入った。

「すみませんが、私たちはお忍びで下町へ行くのです。身分がバレるのは避けたいので、王族であるお二人は遠慮していただけませんか」

 今まで傍観していたのに、いきなり会話に入ってきたアリステラ。

 どうやら、三日後の下町にはルナディールと二人で行く予定だったみたいだ。それが壊されそうになって慌てて口を挟んだのだろう。


 もちろん私がそれを許すはずもなく、

「でしたら、私たちもお忍びとして行きますよ。変装をすれば良いのでしょう?」

 と言葉を返せば、

「変装か、面白そうだな」

 とシューベルトも同意する。

 ここはシューベルトと共闘しますか。本当はルナディールと二人きりが良かったけれども、仕方がない。

 アリステラとルナディールを二人にしてはいけないのだから。


 それからしばらく言い合いが続いたけれど、結局上手く丸め込めて、下町へは私たち四人で行くことになった。大勝利とまではいかないけれど、無事危険を回避できたので良しとしよう。

 三日後にもまた楽しみが増えたと、今から少しわくわくしていると、急にルナディールの行動がおかしくなった。

 バッと勢いよく顔を上げ、きょろきょろと辺りを見回すルナディール。彼女は一体何を探しているのか。


 しばらく忙しなく辺りを見回した後、ルナディールはただ一点をじっと見つめ、

「と、尊い……」

 と何かボソリと呟きながら、よろよろとどこかへ歩いていった。

 突然の出来事にしばらく呆けていたけれど、ハッとして急いで彼女の後を追う。ルナディールのただならぬ様子に、心がざわざわと騒めきながら。


 少し先に、彼女がどこかに手を伸ばすのが見えた。一体彼女は何を求めているのか。その手の先には何があるのか。知りたいけれど知りたくない、そんな感情に駆られる。

 ドクドクと心臓が高鳴るなか彼女を追いかけていると、急にルナディールが尻餅をついた。

「わっ」

 という声に、誰かとぶつかったのだと分かった。

「ルナディール!」

 アリステラは急いで彼女に駆け寄り、優しく手を差し出す。

「大丈夫か?」

 その手を握り、

「はい、大丈夫です」

 と優雅に立ち上がり、ぶつかってきた人にごめんなさいと謝った。

 普通反対ではないのか?あれはどう考えてもぶつかってきた方が悪い。

 そこでルナディールにぶつかった人を見てみると、その人はヴェールを被っていた。この舞踏会で、場違いなヴェールを被る人はただ一人しかいない。

 リヴィーラ・シルヴェストだった。


 リヴィーラ・シルヴェスト。

 彼にはあまり良い噂を聞かない。私も少し話したことがあるけれど、彼は一言ぐらいしか言葉を発さなかった。ずっと俯いていて、暗い印象しか残っていない。

 そんな彼だったけれど、この舞踏会で何かやらかすとは思えなかったので、一応招待しておいたのだ。

 今回の目的は、ルナディールと私の関係を大々的にアピールすることだったため、人はたくさんいた方が良かったのだ。

 しかし、まさかルナディールとぶつかって騒ぎを起こすだなんて思わなかった。周りの人も、ひそひそと何やら悪口を囁いている。

 明らかに空気が悪くなってリヴィーラは耐えられなくなったのか、そそくさとその場から立ち去った。

 謝罪もしないで立ち去るなんて、とんだ非常識だ。


 周りに誰もいなくなり、アリステラは暗い空気を断ち切るように話し出す。

「……それでルナディール、急にふらふらとどこへ行くつもりだったんだ?」

 その言葉にハッとして辺りを見回し、ガクッと項垂れたルナディール。彼女はとても悲しそうな声でポツリと呟いた。

「……とても会いたかった人を見つけたのです。それで、叶うならばお話をと思ったのですが、先程の騒ぎで見失ってしまいました……」

「……そうか」

 慰めるように肩をポンポンと叩くアリステラに、ふっと黒い感情が湧く。気安くルナディールに触らないで欲しい。

「まだまだ時間がありますから、きっとまた会えますよ」

 私は笑顔でアリステラを威圧しながら、ルナディールに声をかける。

 そしてシューベルトも私に続いて言葉を発す。

「こんな大人数の中から探し出すのは大変だけどな」

 全く慰めにもなっていない言葉だったけれど、ルナディールは私たちにこくりと頷いて同意した。


「必要なら、私も人探しを手伝おう」

 ふとそう言ったアリステラに、ルナディールは満面の笑みで、

「ありがとうございます」

 とお礼を言った。お互いに見つめ合う姿は、もう恋人にしか見えなくて、私はずいっと二人の間に入る。

 こんな場所でいちゃいちゃされたら、ルナディールとアリステラが恋仲だという噂の真実味が増してしまう。

「ロディアーナ嬢、私も人探しを手伝いますよ。この場にいる人の大半は知っている人ですから」

 にっこりとルナディールにそう言えば、シューベルトも、

「俺も手伝うぞ」

 と慌てて言う。

 全くなんなのだシューベルトは。さっきから私の真似ばかりしている気がする。

「ありがとうございます」

 そうお礼を言って、ルナディールは私たちに探し人の名前と特徴を教え始める。

「それでは、リューク・フォルテラーナさまをお見かけしたら教えてくださると嬉しいです。亜麻色の髪で、黒い瞳の高身長イケメンですわ」

 その言葉に、私たち三人ピキッと固まる。


 リューク・フォルテラーナ?

 その人は確か、二十五歳で婚約者無し、結婚もしていない男ではなかったか。

 見た目は良く優秀なのに、昔の婚約者が忘れられずに未だずるずる引き摺っている。お見合いもせず、昔の婚約者と一緒に住む予定だった家に一人暮らし。

 社交界で話しかければ面倒そうにあしらわれ、決して人と群れようとはしない。家族も友人もおらず、昔の婚約者ただ一人に想いを馳せ続けている可哀想な男。

 そんな男を探している?一体なぜ、どういう理由で?


「どうかなさいました……?」

 不思議そうに首を傾げて問うルナディールに、ハッとする。

「いや、ルナディールの探し人が男の人だとは思わなかったから驚いただけだ。リューク・フォルテラーナだな、見かけたら教えよう」

「リューク・フォルテラーナですね。私も見かけたら教えます」

「誰か知らんが、亜麻色の髪に黒い眼の高身長だな」

「はい、その通りです。みなさん、ありがとうございます」

 それぞれ微妙な顔をしながらそう答えると、ルナディールはとても嬉しそうな顔をして、ぴょこんと小さく飛び跳ねた。

 私はなんとなく嫌な予感がして、恐る恐る聞いてみた。

「……あの、どうしてルナディール嬢が彼を探しているのか、聞いてもいいでしょうか?」

 聞いてから、恐怖で身体が強張る。

 もしこれで、わたくし、リュークさまのことをお慕いしているのですとか言われたらショックで立ち直れない気がする。

 そう思うなら聞かなければ良いものを、と思うがそうもいかない。知らずにはいられなかったのだ。

「ええと……言うのが難しいのですが、そうですね……。ずっと会いたかったから?一目でも良いから会いたくて、可能ならばお話したり触れたいと思ったから?」

 顎に手を当てながらそう答えるルナディールに、目の前が真っ暗になった。


 それはつまり、彼女がリュークに想いを寄せているということ。

 いつどこで知ったのか分からないが、彼女をそこまで魅了するリュークが恐ろしかった。

 今すぐにでも、彼は可哀想な男なんだと声を大にして伝えたかった。一体どうしてリュークなのだろう。リュークよりも私の方が遥かに良い相手ではないか。


 不穏な空気を察したのだろうルナディールが、手を振って慌てて弁解した。

「違うのです、勘違いしないでくださいませ!わたくしはただ彼とお話してみたいだけなのです!ええと、その……お、お友達。そう、お友達になりたいだけなのですよ!」

 その必死さに、さらに気が遠退きそうになる。


 そうですか、ロディアーナ嬢はリュークのことがそれほどまでに好きなのですね。知りませんでした。これはもう、事前にリュークに釘を刺しておかないといけませんね。前の婚約者に執着しているので大丈夫かとは思いますが、念のためです。間違いが起こらないように、ちゃんと言い聞かせておきましょう。


 私がリュークへの対応を考えていると、会場の前方から優雅な音楽が聴こえてきた。もうダンスの時間のようだ。

 私はそこで思考をリセットして、にこやかな笑みを浮かべる。

 今日はルナディールと踊れる日だ。楽しまなければ損。リュークのことは後で考えよう。


「ロディアーナ嬢、私と踊っていただけますか?」

 私はルナディールに手を差し出し問いかけた。

「もちろんですわ」

 私の手を取り、そう笑顔で答えるルナディール。

 私は彼女の手を引き、会場の中央へと歩いていく。周りの人も、私たちに遠慮して場所を開けていく。

 私はルナディールの身体に腕を回し、優しく微笑みかけ、曲に合わせて踊り始めた。


「ロディアーナ嬢、今日の貴女はとても素敵ですよ」

 顔を近付けて、甘い声で囁いてみる。するとルナディールの顔は一瞬で赤くなり、ルナディールはパッと私から視線を逸らせた。

 その反応が可愛くてつい頬が緩んでしまう。

 しかし、しばらく経ってもルナディールの視線は観客を見たまま。一向にこちらを見ない様子に、少しムッとしてしまう。

 我慢できなくなった私は、グイッと思い切りルナディールを引き寄せ、身体をピタッと密着させる。

 驚いて私を見た彼女に、にっこりと笑って囁く。

「今は踊っている途中ですよ。お願いですから、私の方を見てください」

 あたふたとしながら謝る動作に、さっきまでの苛立ちはすぐに消えていった。


 それからルナディールは、私だけを見て踊ってくれた。彼女の瞳に私だけが映っていて、とても嬉しくなる。

「フォスライナさまは踊るのがお上手ですね」

 そんな風に褒めてくれるルナディールに、心が温かくなる。

 本当に不思議だ。他の令嬢に言われた時は全然嬉しくないのに、今はとても幸せに感じる。

「ロディアーナ嬢も上手ですよ」

 お互い笑い合いながら、とても幸せな時間を過ごす。二人だけの、誰にも邪魔されない時間。


 しかし、それも長くは続かなかった。

「ありがとうございました」

 曲が終わり、ルナディールがペコリとお辞儀をしてお礼を言う。

「ロディアーナ嬢、良ければもう一曲……」

 まだ踊り足りなくて、もう一度と申し込もうとした瞬間、どこからかシューベルトが現れて、

「ルナディール、今度は俺と踊れ」

 と割り込んできた。

 タイミングを合わせたかのような登場と、その命令口調に少し苛立つ。しかし、周りの人の目もあるし、何よりルナディールがもう私ではなくシューベルトの方を見ていたので、仕方なくその場を譲る。

 でも、シューベルトが終わったら今度はまた私の番だ。


 そう思っていたのに、私はたくさんの人に囲まれてしまった。先程挨拶できなかった人たちだ。

 私はため息をつきたくなるのを抑えながら、笑顔を貼り付けて対応する。

 話の内容は、ほとんどルナディールとの関係性だった。私とルナディールとシューベルト、そしてアリステラはどういった関係なのか、周りくどく、そして値踏みするような嫌な目で聞いてくる。

 私はそれら全てに、真実を話しながら横目でルナディールの様子を見ていた。

 シューベルトと踊り終わった後はアリステラと。そしてアリステラと踊り終わったら、そそくさとどこかへ退散していった。

 シューベルトもアリステラも、それぞれたくさんの人に囲まれて動けずにいる。

 私も上手くこの囲みを抜けてルナディールと過ごしたかったけれど、今回はみんなしつこかった。なかなか解放してくれない。

 適当にあしらってその場を動こうとすれば、今度はまた違う人がやってくる。そのエンドレスだ。


 こんなに人を呼ぶんじゃなかった、と後悔しながら人の対応をしているうちに、舞踏会終了の時間になってしまった。結局ルナディールと再び踊れなかった。

 最後の挨拶だけでも、と探していると、会場の中央でルナディールとアリステラが抱き合っている姿が目に入った。

 こんな大勢の人の前でいちゃつくなんて許せない。周りの人もひそひそと遠巻きに二人を見ている。

 間に入りたくても、距離があるし人がいてなかなか動けない。私は鋭い視線をアリステラに送り続けると、彼がそれに気付いて少し顔を強張らせた。

 それからそそくさと会場を後にする。ルナディールが倒れかかるようにアリステラに寄りかかっているのを見て、黒い感情がどんどんと湧いてくる。

 これはもう、悠長にしてはいられないかもしれない。三日後のお忍びの時は、今日よりももっと過剰にアピールしなければ。

 ルナディールは、絶対に私が射止めるのだ。

フォスライナ目線でした。花言葉なんてお洒落なこと考えますよね。さすが王子さま。残念ながらルナディールは知らなかったみたいですが……。次はシューベルト目線です。

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