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舞踏会 後半

「ロディアーナ嬢、私と踊っていただけますか?」

 フォスライナが私に手を差し出し問いかけてくる。

「もちろんですわ」

 笑顔でそれに応じ、手を取って二人でホールのど真ん中へ行く。踊っている貴族は、私たちに場所を開けようと器用に移動していく。

 踊りながら場所を譲るなんて高度な技ができるのねと感心していると、フォスライナが私の身体に腕を回し、優しく微笑みかけてきた。

 そして、曲に合わせてダンスを踊り始める。


「ロディアーナ嬢、今日の貴女はとても素敵ですよ」

 顔を近付けて、甘い声でフォスライナが囁く。

 私はあまりの恥ずかしさに、一気に顔が火照り心臓がバクバクと鳴りだした。

 ななな、なんでそんなことを言うのフォスライナ!せっかく覚えたダンスが頭から吹っ飛びそう!そういう言葉は想いを寄せる相手に言ってよ!


 私は平静を保つため、フォスライナから視線を外し横を向く。すると、たくさんの人が注目しているのに気が付いて、一気に身体が冷える。

 え、なんでこんなに注目されてるの?私変なことした?

 そして少し考えて、その原因がフォスライナだと気が付いた。彼はこの世界の中でも群を抜いてイケメンだ。しかも婚約者のいない王子様である。注目を浴びて当然だ。

 みんなに注目されている理由が分かってホッとしていると、フォスライナがグッと私を強く引き寄せ、

「今は踊っている途中ですよ。お願いですから、私の方を見てください」

 と囁かれた。

 身体が熱くなるのを感じながら、私はすみませんと謝る。


 確かに、踊っている相手の方を見ていないと、靴を踏んだりテンポがずれたりしてしまう。ダンスはいっぱい練習したのだ。それにせっかくの推しとの貴重なダンスだ。これは楽しまないと損だ。

 私は開き直って、フォスライナの顔を見て堂々と踊った。フォスライナの顔はとても美しく整っていた。さすが私の推し。リードも上手で、優しく引っ張って導いてくれるから踊りやすい。

「フォスライナさまは踊るのがお上手ですね」

「ロディアーナ嬢も上手ですよ」

 お互い笑い合いながらダンスを踊る。とても優雅で楽しい推しとの時間である。


「ありがとうございました」

 私は踊ってくれたフォスライナに礼を言う。

「ロディアーナ嬢、良ければもう一曲……」

 フォスライナが何か言いかけた瞬間、シューベルトが、

「ルナディール、今度は俺と踊れ」

 と割り込んできた。フォスライナは口を噤み、仕方なさそうにおずおずと引き下がる。

「もちろんですわ」

 私はシューベルトの手を取り、音楽に合わせて踊りだす。

 さっき、フォスライナは何を言いかけたのだろう。私がうーんと考えていると、

「ルナディール、その……今日は綺麗だな」

 とシューベルトが少し顔を赤くしながら小さく言った。ちょっと何その照れ顔!むっちゃ可愛い!よしよしってなでなでしたい!

「可愛い」

 つい本音がポロッと出てしまい、しまったと思う。口を塞ぎたいけれど今はダンス中で手は使えない。怪訝な顔で見つめてくるシューベルトを笑って誤魔化す。

「シューベルトさまはダンスがお上手ですわね。わたくし驚きました」

 話を逸らそうとダンスについて褒めると、何故かシューベルトは顔を顰めた。

「兄上の方が上手だがな」


 兄上の方が。……もしかして、フォスライナと比べられたと思って気分を害した?そんなつもりはなかったんだけどな。

「シューベルトさまにはシューベルトさまの、フォスライナさまにはフォスライナさまの良さがそれぞれにありますので、気にする必要はありませんわ。シューベルトさまは堂々としていれば良いのです」

 気分を害そうだなんて思ってないよ〜と伝えるため、にっこりと微笑んで伝える。

 ……最近思うけれど、良く笑うようになったなぁ。この短期間で前世の倍は笑ったり作り笑顔してる気がする。貴族ってすごい。

 それから、ちょっと強引だけど優しさもあるリードを受けながらダンスを終え、私はペコリとお辞儀をする。

「ありがとうございました」

「ああ」


 それから義兄がやってきて、私に手を差し出す。

「私とも踊ってくれないか?」

 もちろん私は笑顔で了承する。

 義兄の優しいリードに身を委ねながら踊っていると、義兄が嬉しそうに私を見つめる。


 ああ、やっぱり義兄はカッコいい。優しいし優秀だし家族想い。あの冷酷キャラとはもう別人だ。

「ルナディール、上手く踊れているな」

 義兄の言葉に顔が緩む。私の今までの努力が認められたみたいで嬉しい。なんかくすぐったい。

「ありがとうございます。……お義兄さまとは緊張せずに踊れますわ。安心して身を委ねられるようなリードのお陰でしょうか」

 褒められた嬉しさに、にまにまするのを抑えられずにそう言うと、義兄は少し目を見開いて、ふわっと花が咲いたように笑った。

「それなら良かった」

 はわぁ〜〜、尊い!!カメラでパシャッて撮って永久保存したい!

 私がじっと食い入るように義兄の顔を見ていると、義兄はサッと顔を逸らす。

 さすがに見つめすぎたかな。でも義兄の素晴らしい笑みを脳内に焼き付けたかったからしょうがないよね、うん、そう思っておこう。

 少し反省しながらも、義兄と至福の時間を過ごす。


 曲が終わり、私は義兄にペコリとお辞儀をしてお礼を言う。

「ありがとうございました」

「こちらこそ」

 それから私は、たくさんのご令嬢から熱い視線を集め続けている義兄から離れ、食事コーナーへと向かう。

 きっと、素敵な義兄に一目惚れして一緒に踊りたいと申し出るご令嬢が多いはずだ。この幸福はみんなで分かち合わないとね。

 それに、三曲立て続けに踊り続けて少しお腹が減っていたのだ。完璧なダンスをするよう神経を尖らせていたので、半端なく疲れた。


 食事コーナーへ着き、私はとりあえず飲み物を飲む。ジュースはいっぱいあったけれど、何かを食べるならお茶や水に限る。

 紅茶を片手に持ち、何を食べようかぐるっと食事を見て回る。お肉やお野菜、お魚など色々あったけれど、一番目を惹いたのはお菓子だ。たくさんの高級そうなお菓子から目が離せない。

 一つ一つのお皿に綺麗に並べられたケーキ。見た目も美しくかつ美味しそうだ。


 紅茶を一旦テーブルに置き、チョコレートケーキを手に取って食べてみる。一口口に入れると、チョコの甘さが口いっぱいに広がった。スポンジもふわふわしていて美味しい。

 さすが王族が用意したお菓子!ものすごく美味しい。

 夢中になってパクパク食べていると、ふと視線を感じて顔を上げる。すると、壁に寄りかかってじっとこちらを見ているリュークと目が合った。


 あ、あれは、最推しだ!こんなところにいた!

 私は嬉しくなって、じっとリュークをガン見してしまう。そこで、もしかしてリュークはケーキが食べたいけれど私がいるから食べられないのではと思った。

 確かリュークは私と同じで人混みが苦手だし、注目されることを嫌っていた。だから、なるべく壁際から離れたくないのかもしれない。

 そう思ったらここは推しの役に立たなくてはと使命感に駆られ、私はとりあえず近くにあったケーキを手に取り最推しの元へ小走りする。


 リュークの前にたどり着くと、私は緊張しながらスッと持っていたケーキを差し出す。このケーキで良かっただろうか。好みが分からないから緊張する。

 リュークは私とケーキを交互に見て、不思議そうな顔をした。

「あの、こちらをどうぞ」

「……なんで?」

 ……なんで?聞き返されて、ん?と首を傾げる。

「ケーキが食べたいからこちらを見ていたのでは?」

「……いや、別に」

「え、そうなんですか!?」


 どうやら私の推理は間違っていたみたいだ。私は驚いて立ちすくむ。じゃあ私が見られてたって勘違いしただけ?うわあ恥ずかしい!

 私は恥ずかしさを紛らすために、手に持っていたケーキをパクッと口に入れる。ほんのりとした甘さが口いっぱいに広がり幸せな気分になる。

「……まだ食べるのかよ」

 ボソリと呟いた彼を見上げる。

 まだってことは、やっぱり今までのを見られていたってことだろうか。だったら食いしん坊なやつって思われたかもしれない。

 もぐもぐと口を動かしながらも、私はじっとリュークを観察する。こうやって近くまでくると、やっぱりリュークは背が高いんだなぁと思う。きっと義兄より背が高い。そしてイケヴォ。

 ごっくんと最後の一口を飲み込み、私は手に持ったお皿をじっと見つめる。これを戻しに戻りたいけれど、ここで別れたら今度はいつ最推しと出会えるか分からない。せっかくだからもっとお話したい。

 ……でも、片手にお皿持ったまんま話すとかどうなんだろう。素敵なご令嬢とは言えない気がする。

 うんうんと考えたけれど、私は最推しとお話する方を優先させた。どう見られるかとかもう関係ない。推しと話せる時間の方が大切だ。


 私は顔を上げてリュークを見る。そして、にっこりと微笑んで自己紹介をする。

「申し遅れました、わたくし、ルナディール・ロディアーナと申します」

 私の自己紹介に驚いた様子のリュークは、しばらくして、

「リューク・フォルテラーナだ」

 と挨拶を返す。


 知ってます。大好きです。目の前にリュークさまがいらっしゃるこの状況に天国へ逝きそうです。神様、最推しと出会わせてくれてありがとう。今日一番の幸せです。

 推しに自分の存在を知ってもらえた嬉しさに一人悶えていると、リュークは不思議そうな顔をして、

「お菓子、食べ足りないんだろう?食べに行ったらどうだ?」

 と聞いてきた。私は即座にふるふると首を振る。推しを置いてお菓子食べに行くとかそんなことできるわけない!

「お菓子はいつでも食べられます。でも、リュークさまとお話するのは今しかありませんから」

「……なぜ俺と話したいんだ?」

「好きですから」

 即答してから、ハッと我に返る。

 やばい、これは夢じゃなく現実だ。リュークが本当に存在する世界だ。だからこそ、今の発言はやばい。これじゃ告白したことになる。会って早々告白とか気持ち悪い以外の何者でもない。


 恐る恐るリュークの顔色を窺うと、彼はとても冷たい目で私を見ていた。こいつなんだ?みたいなその目に冷や水を浴びせられたようになる。

「ち、違うのですリュークさま!ちょっと言葉を間違えましたわ」

 私は慌てて誤魔化す方法を考える。でも、全く思い付かない。

 ここであなたのことは好きではありませんって言えば私は自分に嘘をつくことになるし、でも好きですって肯定したらややこしいことになる。

 うんうん考えて、私は肯定も否定もせず、

「わたくし、リュークさまがソルティアさまのことを今でもお慕いしていることを知っていますので、安心してくださいませ」

 となんとも言えない回答をした。

 これはこれで怖いかもしれない。でも、今思い付く最善の回答がこれだったのだから仕方がない。


 しばらく重苦しい沈黙が続く。

 ああなんで私はこうテンションが上がると変なことを口走っちゃうんだろう。今まで何回これでやらかしたことか。学習能力がないというか、もう自分で自分にガッカリだ。

 私は近くに来たウェイトレスさんに空のお皿を渡し、重苦しい沈黙に耐える。

 ここは私から何か話した方が良いんだろうか。でも、経験上こういう時に私が何か話すと、もっと変な空気になることが分かっていた。ついさっきもやったところだ。本当にコミュ力のないあがり症はダメだ。


 はぁとため息をつきそうになると、ふとフォスライナとシューベルトの声が聞こえた。

 どうやらもう舞踏会は終わりのようだ。

 早い、あまりにも早すぎる。せっかくの最推しとの時間なのに、こんな微妙な空気で終わるのか。もう会えないのか。

 そう思うとだんだん悲しくなってきた。こんな終わり方じゃ、リュークの私の評価は最低だろうし、こっちからお茶会とかに誘っても絶対に応じてくれない気がする。

 そうしたら彼とはもう仲良くなれないし、お話もできないし、何よりアニメで見た、あの美味しそうなリューク手作りのお菓子が食べられない。

 ふわふわしたバウムクーヘン、サクサクとしたクッキー……。あれが食べられないなんて。

 悲しすぎて涙が出そうになる。必死に泣くのを堪えていると、どこからか私を探す義兄の声が聞こえてきた。もう、ゲームオーバーだ。


 私は絶望感に駆られながら、リュークに別れの挨拶をする。

「リュークさま……もうお時間のようです。……その、今日はすみませんでした」

 深々と頭を下げて謝罪する。そして、くるりと背を向けて義兄の元へ向かおうと歩き出し、立ち止まる。

 ……どうせ最後だし、嫌われたのだから、ここで何を言おうとももう関係ないよね。

 私の思い描く中で最悪の出会いをしちゃったけれど、でももう会えないのならいっか。前世では直接伝えられなかったことを伝えよう。

 こんな機会、もうどうせないのだから。


 私はそう思って、振り返る。そこにはまだリュークが私の方をじっと見ていた。

 私はスッと息を吸って、にっこりと微笑む。泣きそうだったし、絶望感でいっぱいだったから、ちゃんと笑えていたか分からない。けれど、私は構わず思いの丈を全てぶつけることにした。

「リュークさま。わたくし、ソルティアさまが亡くなられても、ずっと一途に彼女のことを想っているリュークさまのことを素敵だと思います。誰に何を言われても、ずっと一途に彼女だけを想うその姿に、とても感動したのです。本当にソルティアさまのことが好きだったんだなって……。そんな素敵なリュークさまに愛されて、ソルティアさまは幸せだと思います。……どうか、これからもお幸せにお過ごしくださいませ。リュークさまが幸せでしたら、わたくしはそれだけで幸せですから……。後悔があるとしたら、リュークさまの手作りのお菓子が食べられないことでしょうか」

 そこでスッとまた大きく息を吸う。

「……それでは、わたくしはこれで失礼いたしますね」

 言いたかったことを全て言った私は、くるっと踵を返して義兄の元に向かって走った。


 きっと、とっても声が震えていた。身体も震えていた。涙もこぼれ落ちそうだった。こんな悲しい出会いと別れになるだなんて思わなかった。

 私は大声で泣きたいのを堪え、視界に入った義兄に抱き付く。義兄はとても驚いていたけれど、私が震えているのが分かると、優しく背中をポンポンと叩いてくれた。その義兄の優しさに、泣きたくなる。


 義兄が私をそっと離し、無言で手を差し出してくれた。私は義兄の腕に寄りかかるようにしがみつき、そのまま馬車へと向かう。

 周りの貴族たちからたくさんの視線を受けていたけれど、もう何も感じなかった。心がズキズキと痛んで、今にも砕け散りそうだ。

 馬車に乗った私は、ずっと俯いて涙を堪えていた。自室に入るまで、泣いてはいけない。人前で泣くのははしたないことだ。

 でも、隣に座った義兄が優しく頭を撫でてくれたので、どうしても涙が堪えきれず。しまいには、みっともなく涙をボロボロ流して泣いてしまったのだった。

舞踏会後半編でした。最推しと出会えたけれど、色々口を滑らせてしまったルナディール。初対面なのに告白されたら少し怖いですよね。誰?って心の底から思います。次はアリステラ目線です。

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