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推しが義兄

 この世界を自由に生きてやる!と意気込んだ次の日。私は朝食を食べながら、本来は義兄が座っているはずの席を見た。私の隣は空席で、ご飯すら置かれていない。


 義兄のアリステラ・ロディアーナは、私が六歳の頃から一緒に暮らしている。今私は十七歳なので、十一年も同じ家で生活していることになる。

 しかし、私が義兄と話したことがあるのはたったの数回。義務的な会話以外は何一つないのだ。だから義兄の好きなものも嫌いなものも分からない。分かるのはとんでもなく頭が良くて魔力の扱いが上手で、次期宰相と期待されている人物だということだけだ。


 でも、前世の記憶を持つ私は知っている。アリステラが孤独で、多大なプレッシャーに苦しんでいることも、それに押し潰されそうになっていることも、世界を冷めた目で見ていることも。


 アリステラは小さい頃に、両親を殺されていた。アリステラの家は結構裕福な方で、成功していた伯爵の息子だった。周りの人からも好まれ、友好な関係を築いていた。

 アリステラは両親にそれはそれは可愛がられ、たくさん愛情を注がれていた。そして両親と仲の良かった人たちにも同様にたくさんの愛情を注がれていた。まさに、絵に描いたような素晴らしい人生だった。

 しかし、ある日アリステラの家は夜襲に遭い両親を殺されてしまった。大好きな両親を失った悲しみは大きかった。でも、それだけでは終わらなかったのだ。

 夜襲した犯人は、両親と仲の良かった伯爵だった。可愛がられていた分そのショックは大きく、そしてその事件からアリステラは笑わなくなり、人を信じられなくなった。


 よって、彼はこの十一年間ずっと人と関わることを避け続けている。お父さんとお母さんがどれだけ接触を試みても結果は惨敗。挨拶をしても会釈されるだけなので、前のルナディールも関わるのを辞めてしまった。


 でも、アリステラとの関係は私の今後を大きく左右するのだ。悪役令嬢ルートだと、下級貴族に嫌がらせ行為をするルナディールを心の底から軽蔑し、その姿を見たくないほど嫌っていた。そして周りの人からの期待とプレッシャー、その他諸々の鬱憤が溜まりに溜まると、つい憂さ晴らしにルナディールを殺してしまうのだ。

 一方主人公ルートだと、あるお茶会でアリステラの有能ぶりを腹立たしく思っている伯爵の息子が、アリステラに絡み散々嫌味を言う。そんな場面を見たルナディールが物怖じせずにアリステラを庇い、今までの彼の努力を称え、相手を一掃するのだ。そしてこの出来事をきっかけにアリステラはルナディールを気にし始め、ゆっくりと友好を深めていって好きになってしまうのだ。


 さて、私はどっちルートに行くのか。アリステラを口説き落とした言葉だって知っているし、上手くいけば主人公ルートに行けるかもしれない。ただ、主人公ルートになったら私の平凡な日常は姿を消して、事件に巻き込まれやすくなってしまう。私が生きていける自信はない。主人公ルートのルナディールみたいに運も良くないし突飛な行動もできないし、何より目立つのが苦手なのだ。

 前世でも学校の役員は一切引き受けなかったし、行事でみんなの前で発表しないといけない日にはその行事自体を呪っていた身だ。そんな私が波瀾万丈な生活なんてできっこない。


 ……でも、死ぬのは嫌だな〜。せっかくこの世界に来たのに、まだ私の推しに会っていない。いや、もちろんアリステラも推しである。あの冷酷な人を蔑むような目が、信頼した人にはそれはそれは素敵な笑みを見せるのだ。その破壊力は半端なかった。一瞬で恋に落ちると思う。

 というかこの世界には私の推しが多すぎる。みんなカッコよくて性格も良くて、キャラのレパートリーも豊富なのだ。俺様からドS、チャラ男に優男……とりあえずいっぱいいるのだ。そんなイケメンだらけの世界で私の心臓は持つのかどうか……。


「ルナディール、今度のお茶会なんだがアリステラと行ってくれないかい?」

 無言で考え事をしながらご飯を食べていると、急にお父さんが話しかけてきた。私は急いで現実に戻ってきて、こてんと首を傾げる。とりあえず形だけでもレティーナみたいな素敵令嬢になろうと思い、頑張ってみた。心の中は平民だけど立ち居振る舞いは立派なご令嬢を目指すのだ!

「それはお義兄さまがエスコート役ということですか?」

「ああそうだよ。ルナディールもアリステラもまだ婚約者がいないからね。婚約者探しという意味でも、二人には是非とも行って貰いたいんだ」

「……分かりました。お義兄さまとの友好を深める良い機会だと思って、お茶会に行って来ますわ」

 婚約者はまだ大丈夫ですという言葉を言外に含めにっこりと笑う。婚約者なんて要らない。

 推しキャラとはなるべく仲良くしたいのだ。婚約者がいたら他の男性と仲良くするのは外聞が悪いので、制限がかかってしまうかもしれない。

 それにこの世界でただ一人愛する人を決めるなんて私には無理だと思うな。もし仮に有り得ないけれど、推しキャラ全員に一斉に告白されたとしよう。私は絶対に選べない。答えを出さないで数々の男性をはべらす悪役令嬢になってしまう。それこそ誰かに殺されても文句を言えない。バッドエンド一直線だ。


 朝食を終え、義兄の部屋へ向かう。エスコート役を頼むのなら私からも一言あったほうが良いかなと思ったのだ。それに、もしかしたら反応で私が嫌われているかどうかが分かるかもしれない。


 コンコンコンとノックをして、

「お義兄さま、いらっしゃいますか?ルナディールです。今度ある社交界についてお話しに参りました」

 と声をかけてみる。すると音もなくスイッと扉が開き、イケメンが現れた。

 うわぁ本物だ、本物のアリステラだよ!夢にまでみたアリステラが今目の前にいる!私の目の前に!やばい感動する神様ありがとう!

 前世の記憶を思い出してから初のご対面。イケメン補正でもかかっているのだろうか。記憶の中のアリステラより何千倍もカッコよく見える。

 さらさらの黒髪、青い瞳。私より頭一つ分大きい身長。現実だとこんな感じに見上げることになるのね。今の私は可愛いルナディールの姿だから上目遣いだってできちゃうんじゃない?


 推しキャラ一人目に出会えた興奮に思考を飛ばしていると、アリステラが冷たく、

「用件を早く言え」

 と言い放った。うおお声もイケヴォです流石ですありがとうございます!

 私は興奮して顔を紅潮させながら、にんまりと笑うことを抑えられずに声を弾ませながら、

「はい、三日後に行われる王族主催のお茶会に一緒に参加することになりました。お互い婚約者がいないので、エスコート役はお義兄さまが行うとのことです。どうぞよろしくお願いします」

 と言ってペコリとお辞儀をする。

「今日はそれを伝えに来ましたの。お忙しいところお邪魔してしまい申し訳ありません」

 すると義兄は怪訝な顔をしながらも、

「ああ」

 と答えてくれた。

 私は推しキャラと会話ができた幸せに浸りながら、それでは失礼しますと挨拶をしてその場を後にした。

 三日後のお茶会、早く来てほしいな。他の貴族たちと接触するのは面倒だけれど、推しキャラにエスコートして貰えるのだ。身体に触れられる。無理だと思っていたことが、夢に見ていたことが実現する。

 そんなうきうき気分でお茶会までの日にちを過ごし、あまりのハイテンションぶりにラーニャからは「そんなに婚約者に飢えていらっしゃるのですか?」となんともまあ許し難い言葉を貰ってしまった。その時は流石に反省し、内面を顔に出さない練習もしなければいけないかも、と思った。


「それじゃあいってらっしゃい、ルナディール、アリステラ」

 お父さんとお母さんの見送りを受けて私たちは馬車に乗った。向かいには推しキャラが座っている。肩肘をついて窓の外を眺める様子はそれは絵になっていた。美しいとはきっとこのことを言うのね。


 私は現実でアリステラにあってから、どうも義兄と心の中で呼べなくなった。だって推しキャラが義兄とか未だに信じられないし。まだ私の心は二次元大好きっ子だから馴染めない。

 社交界までの短い期間でアリステラに恥をかかせないよう、私はもう一度マナーを一から学び直したのだ。マナー本を片っ端から読み漁る様子は、前世での定期考査直前の詰め込み勉強を彷彿させた。

 せめてもの救いは、今回のお茶会は舞踏会と違ってダンスがなく、食べ物を食べて他の貴族との交流を深めるのが目的だということだ。

 前世では社交ダンスをちょっとかじっていたけれどそれまでだ。前のルナディールは生粋のお嬢様なだけあってダンスは上手だった。今の私にはあれほど上手く踊れない。こっそり練習しなければ。課題がいっぱいあって憂鬱だ。

 でも、そこは二次元大好きっ子な私である。そんな困難くらい推しキャラと実際に会えるのなら頑張れる。前世は二次元のためにそれなりに偏差値の高い大学に入れたのだから、できないはずはない。二次元が関わると私は途端に強くなるのだ!


 ガタンと馬車が止まり、目的の場所についた。

 これから社交界である。失敗は許されない。よし、頑張るのよ私、今までの知識をフル動員させてアリステラに恥をかかせない!


 先に馬車を降りたアリステラが私に手を差し出してくれる。私はにこりと微笑み、なるべく優雅さを思い出しながら馬車を降りる。因みに私の中の優雅さはレティーナ基準だ。


 周りの人からたくさんの挨拶を受ける。

 おおう、これが社交界。人が多すぎて名前を全然覚えられないよ。 

 ちらっと隣にいるアリステラを見てみると、彼は無表情で淡々と挨拶を交わしていた。クールなところも素敵です!


 大体の人と挨拶が終わると、私は一時ご令嬢の輪から撤退した。周りの人があまりにもアリステラがなぜ婚約しないのかひっきりなしに尋ねてきてうざかったからだ。もちろんそんな感情はおくびにも出さなかったけれど。

 私はアリステラをちょっと強引に引っ張りながら食べ物の置いてあるコーナーに向かった。なんとなくアリステラも休憩したそうな雰囲気を出していたのだ。何となくだから本当かどうか分からないけれど。


「わたくし、少し疲れましたのでここにある美味しそうなお菓子を食べて休みますね。お義兄さまはどうなさいます?もしお話したい殿方やご令嬢がいらっしゃるのなら行ってきてくださいまし。わたくしは大人しくここにいますから」

 そう言ってにっこりと微笑むと、アリステラは少し間をおいて、「分かった」と言って去っていった。

 これは誰かお話したい人がいたということかな?誰か分からないけれど頑張ってくださいませ!


 私はひたすらもぐもぐとお菓子を食べていた。

 ケーキにクッキーにゼリーにと、とても美味しいものがたくさんあるのだ。ついつい食べすぎてしまう。次はどうしようかな〜と考えていると、一人のご令嬢が慌てた様子でこっちに向かってきた。どうしたんだろう?と思っていたら、

「ロディアーナさま、大変でございます!その、ロディアーナさまのお義兄さまと数人の伯爵のご子息が言い争っているのです。どうすれば良いのか分からなくて、とりあえずロディアーナさまにお知らせしようと……」

 なんですと!?アリステラが揉めている!それは放っておけないわ!

 私は食事から一時離脱し、揉めているという現場まで急いで向かった。


「すみません、通してくださいませ」

 そう声をかけながら群衆を分けていくと、アリステラが数人の男性に取り囲まれているのが見えた。聞こえてくる会話の内容はそれは酷いもので、全部アリステラを侮辱するものだった。

 それにしても勇気がある人たちね。こんな大人数の、しかも王族主催のお茶会で宰相の息子を馬鹿にするなんて。社交界に居られなくなってしまう可能性だってあるだろうに。


 そこまで考えてハッと思い出した。そうだ、これは例のお茶会ではないのか?ここで庇ってくれた人に恋愛フラグが立つのよ!と、いうことは、どうすればいいんだ?

 主人公ルートだと私が助けに行くことになる。悪役令嬢ルートだと他の人が助けに行くのかな?うーん、誰が動くんだ?

 私はこっそりと辺りを見回してみても、誰かが動く気配が全然ない。

 え、ちょっと誰も助けないの?アリステラがずっと無表情で言葉を聞いてるのが少し怖くなってきたんだけど。このままスパーンと剣で切っちゃいそう。だって悪役令嬢ルートのルナディールをつい殺しちゃったりするんだよ?


 そう思いながらはらはらしていると、遠くにいた王子がこっちに歩いてくるのが見えた。おっ、これはあの王子が助けてくれるパターンですか?

 ……ん?王子が助けたら、アリステラは王子に恋をしてしまうの?え?それって……どうなんだ?

 私は頭をフル回転させる。この国には王子がニ人いて、激しい派閥争いが繰り広げられている。私の家は中立派で、どの王子の派閥にも属していない。王様を補佐するのが宰相の仕事だからだ。でも、時期宰相といわれているアリステラが王子と恋仲になってしまったら、その王子の派閥が一気に力を増し勢力が偏ってしまうのでは……?

 それは、いけないんじゃない?だって社交界を混乱させちゃうよ?せめて次の国王が決まってから恋仲にならないと大変なことになる……気がする。


 そこまで考えた私は勢いよくアリステラの前に飛び出し、

「やめなさい!」

 と声をかける。

 アリステラを侮辱していた男性は少し驚いた顔をしたが、フッと鼻で笑って、

「これはこれはルナディール様ではないですか。宰相のご令嬢だというのに才能も魔力もないダメダメだという噂じゃないですか?義理の兄に権威を全て奪われてお可哀想に。あなたみたいな落ちこぼれには婚約者を決めるのも苦労しそうですね」

 と、嫌味ったらしく言ってきた。

 内心割と傷付いたけれど、今まで努力してこなかったのも本当なので何も言い返せない。今の私は嬉々として魔法のお勉強をしたいと思うのだけれどね。

「あら、わたくしに同情なさってくれているのかしら?ですがどうぞお気になさらずに。わたくし、お義兄さまのことを慕っておりますし、婚約者だってわたくしには必要ありませんわ。わたくしは婚約者に捉われず自由に生きたいと思っておりますので。家の中でご令嬢しているのは性にあわなくてよ」

 そう言って優雅に微笑んだ。すると嫌味を言ってきた男性は、言い返されたのが癪に触ったらしくさっきよりも大きな声で、

「はっ、義理の兄を庇うのも辛い立場だなぁ!どうせ心の中では腹立たしく思っているくせに。居なくなってくれればいいのにとか思ってるんだろう?」

 と言ってきた。

 その言葉に私はカチンときてしまった。面と向かって推しキャラを侮辱されたのだ。許せない。この怒りをどうすれば良いだろうか。思いっきりこの憎らしい顔にビンタをしてやりたい。

 でも、そんなことはできないし暴力を振るっても良いことは何もないと分かっているので耐えた。代わりに言葉で怒りをぶつけることにする。

「今何と言いました?居なくなってくれれば良い?腹立たしく思っている?とんだ言いがかりね。良い?アリステラは努力家なのよ!私なんかと違って毎日夜遅くまで勉強して、苦手な社交界にも出て、できないことがあればできるようになるまで必死に練習する人なの!何も知らないくせにうたうだ言わないでくれる?アリステラは私の大事な人なの!居なくなって欲しいなんて微塵も思っていないし、むしろこれからもずっと側にいて欲しいと思ってるの!居なくなって欲しいのも、腹立たしいと思っているのもあなたの方よ!私たちの前から消えてくださいませっ!」

 全ての怒りをぶつけて、ぜーはーぜーはーと肩で息をする。優雅な令嬢らしさなんて微塵もない。

 罵っていた男性たちは顔を真っ赤にしてその場から逃げるように立ち去り、静かになると今度はたくさんの人の視線が私に集まった。

 元々注目されるのが嫌いだった私は、その数々の視線を受けてサァーッと血の気が引いていった。


 ちょっと待って私今とんでもないこと言わなかった?怒りで我を忘れていたとはいえ、義兄であるアリステラを呼び捨てにしちゃったし大事な人とか言っちゃったよ?どうしよう、これ受け取り方によっては告白にならない?

 私は推しキャラを侮辱されて怒ったけれど、そもそもアリステラの行動とか前のルナディールだったら知らなかったし。夜遅くまで勉強してるとかできるようになるまで練習するとか、全部前世の記憶から知っていたことだし。普通に考えて、自分の行動を知られていたって怖くない?家では全然会ったことなかったのに。

 とんだ恥晒しになってしまった……。私は周りの視線に耐えられず、そして後ろにいるアリステラの顔を見ることもできずにその場から急いで退散した。お茶会はまだ続いていたが、私は途中退場して馬車に乗り込み、アリステラが来るのをこの世の終わりのような心地で待ったのだった……。


 カラカラと馬車は軽快に走っているが、空気は重い。呼び捨てにしてしまったこと、あのようなみっともない姿を晒してしまったことを謝らなければいけないのに、言葉が出てこない。

 怒りに任せあのような醜態を晒してしまい大変申し訳ありませんでした?大事な人というのは家族としてという意味であって深い意味は全然ないんです?お義兄さまのことを呼び捨てにしてしまい大変申し訳ございませんでした?

 ……ああ、本当に私はなんて取り返しのつかないことをしてしまったんだろう。これじゃあ主人公でも悪役令嬢でもなくただのダメ人間じゃん。推しキャラには迷惑をかけないと決めていたのに……。

 ちらっと隣を見てみては申し訳なさで落ち込み、謝ろうと思って口を開きかけても言葉の出なさに落ち込み、それはもう馬車内の空気が重かった。

 ああ、お父さんとお母さんになんて報告しよう。婚約者を探すために送り出してくれたお茶会で、婚約者なんて要らない宣言をしちゃった私、令嬢らしからぬ姿でアリステラを侮辱してきた人を糾弾してしまった私。もう怒られる要素しかない。ああ、憂鬱だ……。

 はあ、とため息をつきそうになった時。

「……ありがとう」

 と声がした。

「ふぇ?」

 あまりの驚きに変な声が出てしまう。今の声は聞き間違えるはずもない、アリステラの声だ。でも、ありがとう?え、なんで?

 はてなマークで頭がいっぱいになった私をチラッと見て、それから何事もなかったかのように窓の外を眺めたアリステラ。

 彼の「ありがとう」を聞いて、落ち込んでいた気分もスカッとどこかに飛んでいった。推しのありがとうの威力は凄い。しかも、あの冷酷キャラのアリステラからの貴重な感謝の言葉。これはもう誇っても良いのではないだろうか。

 気分が上昇してきた私は、

「あの、先程はお義兄さまのことを呼び捨てにしてしまい申し訳ありませんでした。お義兄さまに迷惑をかけないようにと思っておりましたのに、たくさんのご迷惑をおかけしてしまい……本当に申し訳ありません」

 と素直に謝罪の言葉がスルッと口から出た。謝っただけだが随分と楽になった。私は謝るだけ謝って、アリステラとは反対の窓から外を眺める。

 するとしばらく経ってから、

「……別に気にしていない。……カッコよかったぞ、ルナディール」

 ボソッと返ってきた言葉に驚き、私はアリステラの方を見た。頬が赤くなっている姿を見て、自然と私の頬も緩む。

 カッコよかった、だって。ルナディール、だって。今まで生きてきて初めてアリステラに名前呼ばれたや。

 嬉しさに気分がググンと上昇していると、そこで私ははたと気付いた。ルナディールを自分の名前としてちゃんと認識できていることに。私が推しキャラにルナディールと呼ばれたこの時から、私はルナディール・ロディアーナとなり、アリステラが義兄となった気がした。

推し一人目の登場です!兄っていいですよね、憧れます。でも家族に推しがいたら心臓が持たなそうです……。次回はアリステラ目線です。

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