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義妹の為の情報収集

 ルナディールが熱を出して二日。なかなか調子が戻らないのか、ずっと部屋から出てきていない。

 こんな状態で王子とのお茶会ができるのだろうか?

俺は心配でならなかった。

 この二日間、お見舞いに行ってもメイドに追い払われたので、俺はできるだけ情報収集を行っていた。

 ルナディールの友人だというレティーナや、今回お茶会に誘ってきたシューベルトのことなどだ。

 レティーナについてはあまり悪い噂を聞かないし、特に害をなすような存在には思えず、ひとまず様子を見ることにした。だが、もしルナディールが彼女に嫌がらせをされて、万が一俺に助けを求めた際の切り札となるよう、弱みとなる部分は調べておく。

 だが、問題はレティーナよりもシューベルトだ。彼にはあまり良い話を聞かない。不真面目だの我儘だの横暴だの、ルナディールに害をなす存在だとしか思えなかった。

 今回のお茶会で、何か嫌な思いをする可能性がとても高い。俺はシューベルトに関する情報をもっと細かく集め、いざという時戦えるように準備しておく必要があると考えた。


 そしてルナディールのお茶会の日。体調が優れないのにも関わらず、一人で行ってくると颯爽と城へ向かった。その勇ましさに俺は感心する。

 何も起きなければ良いなと願い、彼女の帰りを今か今かと待ち侘びた。


 そして、夕食時。義父がお茶会について尋ねると、ルナディールは勢いよく頭を下げて謝った。

「あ、ああ、あの……。も、申し訳ありませんでしたっ!!」

 その普通ではない様子に、何か非常事態が起こったのかと身構える。そして彼女の説明を聞くと、それはとても信じられないようなものだった。


 なんと、今回のお茶会に参加する予定になかった第一王子のフォスライナまで参加することになったというのだ。

 だが、それはまだ良かった。彼はシューベルトと違ってとても優秀で立派な王子だと噂されていたし、俺も彼が何か問題を起こすとは思っていなかった。

 今回のお茶会の名目は、やはりこの間の王族主催のお茶会で揉め事を起こしたことに関係することだったらしい。これは俺も予想できていたのでまだ良い。

 しかし、ルナディールはいきなりのことでパニックを起こし、二人の王子の怒りを買ったというのだ。そしてあろうことか、逃げ出してしまったのである。

 予想していたより遥かに悪い結果になってしまった。王子の怒りを買い呼ばれたお茶会で、また怒りを買ってしまったルナディール。このままだと彼女が罰せられる可能性が高い。

 王族の不敬を買うとは、下手したら首が飛んでしまう。これは笑えない。


 沈黙が続く中、ルナディールがおずおずと、

「それで私、謝罪に向かいたいのですけれど……」

 と小さく尋ねた。それに義父は同意して、

「そうだね、そうした方が良い。私からも一緒に謝るから、そんな顔をしなくても良いよ」

 と笑顔で言う。義父が同行するなら私も行かなければならないだろうと思い、私もそれに続く。

「私も一緒に行かせてください。お茶会での騒動なら私にも非があります」

 お茶会の騒動の原因は俺だ。ルナディールだけが責められるのはおかしい。それに、こんなに危ない状況に陥っているのにただ傍観してはいられない。

 俺の気持ちを汲み取ってくれたのか、義父は俺の同行を許可してくれた。

 その様子を見ていたルナディールは、とても落ち込んで、小さく謝った。

「本当にすみません、このようなことに巻き込んでしまって……。もう二度とこのような過ちを犯さないように気を付けます」


 翌日。俺と義父は二人の王子に謝罪する日を設けてもらえるよう頼みに、城へ向かう。さて、王子はどれぐらい怒っているのだろうか。いきなり怒鳴られる可能性もある。

 俺たちは少し緊張しながら、王子を訪ねた。


 しかし、驚くべきことに、二人の王子は城にいなかった。あろうことか、二人とも朝食を食べた後すぐに我が家へ向かったという。

 俺と義父は互いに顔を見合わせる。

 俺たちは今日、城で仕事もあるから今すぐ帰ることはできない。しかし悠長に仕事をしていたら、ルナディールと王子が鉢合わせしてしまう。さて、どうするべきか。

 だいたいどうして王子自ら我が家へ来るのか。普通呼び出して処罰を下すだろう。もしかして、そんなに待てないほど怒っているのだろうか。

 俺は内心、心配しながら仕事を早く終わらせようと奮闘する。

 どうかルナディール、無事でいてくれ。帰ったら首が飛んでいるとか物騒なことにはなっていませんように。


 仕事を最速で終わらせて、俺たちは家へと帰る。俺は今まで感じたことのないくらいの不安を募らせ、家に着くのは今か今かとはやる気持ちをなんとか抑える。

 馬車が止まると、俺は急ぎ足でルナディールの元へ向かった。

 使用人に尋ねると、ルナディールは応接室で二人の王子の対応をしていて、それから嬉々としてどこか外へ行ったそうだ。

 嬉々として、というところがよく分からないが、どうやらルナディールは無事だったみたいだ。

 俺はホッと胸を撫で下ろす。

 しかし、まだ油断はできない。ルナディールに直接話を聞いてみなければ。

 怒っている王子の対応を一人で行い疲れているだろうから、話を聞くのは夕食の時にしよう。


 そして夕食の時間にルナディールから聞いた内容は、よく分からないものだった。

 なんでも、お互い色々勘違いをしていたみたいで、王子たちは全然怒っていなかったという。しかも、これからもロディアーナ家へ遊びに来るとまで言っていたそうだ。

 一体どうしたらそんなことになるのだろう。わけが分からない。

 しかし、俺は一つだけやらなければならないことを見つけた。それは王子たちの情報収集である。

 もしこれからもルナディールと接する機会が増えるのならば、二人が何を考えてルナディールに近付くのかを調べなければなるまい。

 そしていざという時に使える、二人の弱み。それを知っているのと知らないのとでは有利さが違う。

 俺は夕食の席で密かに、情報収集に力を入れようと意気込んだ。


 そう決意してから一週間ぐらい経った日のこと。

 ルナディールが花壇に水やりをしていると聞いて、仕事が一段落した俺は、何か手伝おうと彼女に話しかけた。すると彼女は満面の笑みで、水やりを手伝って欲しいと言ってきた。

 もちろん断るはずもなく、俺はジョウロ片手に広大な花壇に水やりをしていた。

 それにしても、こんなに広い範囲を今まで一人で手入れしていたのか。ルナディールはすごいな。全く興味がなかったけれど、こうしてみると見事な花壇だ。萎れている花が可哀想に思えた。


 花壇に見惚れながら水やりをしていると、突然ルナディールが悲鳴を上げ、手にしていたジョウロを落とし、すごい勢いで走っていってしまった。

 何が起きたのか分からず、しばらく呆然としていたが、ルナディールに何かあったのではないかと思い慌てて追いかけた。

 するとそこには、信じられない光景があった。

 なんと、ルナディールがフォスライナの背中に隠れていたのだ。しかもしっかりとしがみついて。

「ルナディール、どうしたんだ?急に走り出して……」

 内心の動揺を隠しながら俺がそう声をかけると、彼女はフォスライナの後ろからひょこっと顔を出して私の方を見上げた。

 そんなルナディールとフォスライナの姿を見て、なぜか胸がモヤモヤした。俺が不審に思いながら二人の顔を見比べていると、彼女はバッと彼から離れ、俺の近くまでやってきて、ぎこちなく笑った。

「その、いきなり蝶々が飛び出してきたもので……つい驚いて逃げてしまったのですわ。驚かせてしまって申し訳ありません」

 その言葉が予想外で、「蝶々?」と呟いてしまう。

「蝶々から逃げてたのか?あんな必死に?」

「それでは私は蝶々から自分の身を守る盾にされたのですね」

 シューベルトは笑いながら、フォスライナは苦笑しながらそれぞれ反応する。

 その反応が気に食わなかったのか、ルナディールはむうっとシューベルトを睨みながら、

「笑いすぎです、シューベルトさま!それより、お二人はどうして我が家へ?わたくし、お約束はしていないと思いますが……」

 と尋ねる。その様子に、また胸がモヤモヤとする。

 彼女の言葉に、

「また遊びに来ると言っただろう」

「私も、また必ず会いにきますと言ったので」

 王子二人は即答する。その二人のとても嬉しそうな姿に、今度はイライラしてくる。


 この気持ちはなんだろう。さっきからモヤモヤしたりイライラしたり、おかしなことばかりだ。

 しばらくフォスライナと見つめ合っていたルナディールは急に、

「ちょっと良いことを思い付いたので、花壇へ行って参ります」

 と言うと、颯爽と走っていった。

 置いていかれた俺たちはしばらく呆然としていたが、ルナディールを一人にするわけにはいかないと思って急いで追いかける。俺の後を二人の王子もついてくる。


 ルナディールを追いかけて歩いていると、何やら集中した様子で花壇の前に立つ彼女の姿が見えた。何をするのだろうと注意深く見ていると、彼女の手からシャワーのように水がドバッと放たれた。

 一体何をやっているんだ?まさか水やり?

 そう疑問に思っている間も、ルナディールはどんどんと水を放出していく。飛距離や水量が変化している様子から、何やら色々実験していることが窺えた。

 そして全ての花壇に水を放出し終え、手を開いたり閉じたりしながらこちらへやってくる。

 そして、満面の笑みで、

「素晴らしい水やりの方法を見つけましたわ!」

 とそれは嬉しそうに言った。

 やっぱりあれは水やりだったのか。しかし、それは魔力の無駄遣いではないだろうか。たかが水やりのために自分の魔力を使うなんて初めて聞いた。

 きっとフォスライナも同じことを思ったのだろう。とても神妙な顔をしていた。シューベルトはその発想が面白かったのか、とても大笑いしていた。


 それから、そのまま四人でお茶をする流れになり、庭にある丸テーブルを囲うように座る。俺の右側にシューベルト、左側にルナディール、正面にフォスライナである。

 王族とお茶会をすることになるなんて思わなかった。今まで全く関わったことがなかったのに、なぜ急にここまで関わることになったのか不思議でならない。

 でも、俺は時期宰相であり、ここにいる王子のどちらかは王位を継ぐ者である。つまり、俺はこのどちらかを支えることが仕事になる。

 ……ルナディールを悲しませるような奴だったら仲良くできないけどな。


 ルナディールは、目の前に王子が二人もいるというのに全く気にする素振りを見せず、視線はただ一点、お菓子に集中していた。

 すると、それを見たフォスライナが嬉しそうに、

「ロディアーナ嬢はお菓子が本当にお好きなのですね」

 と言った。

 その言葉に困ったような顔をしたルナディールに、今度はシューベルトが笑顔で、

「お前が幸せそうに菓子を食べる姿は好きだぞ」

 なんて言う。そのせいでルナディールは固まってしまった。


 好きだぞ、なんてそんな笑顔で言う言葉か?ルナディールはもう十七歳だぞ。結婚願望は無いと言い切っていたが、それでも周りの人が見たらなんと思うか。

 俺は何も考えてないようなシューベルトに苛立ちを覚える。フォスライナも笑顔で固まっている。

 その場に何とも言えない空気が漂ったとき、フォスライナがゴホンと咳払いをして、にこやかにルナディールに笑いかける。

「ロディアーナ嬢、今度私とシューベルトで舞踏会を開くのですが、都合が合えば参加していただけませんか?美味しいお菓子ももちろんご用意します」

 その言葉を聞いて、またルナディールが固まった。それはそうである。都合を聞いてはいるが、王子のお願いは命令と等しいことであり、断ることなど相当な理由がない限りできない。

「……もちろんですわ、お誘いありがとうございます」

 そう笑顔で答えることしかできない。舞踏会なんて面倒なものに誘う気がしれない。また何か企んでいるのだろうか。それともただ単に親睦を深めたいだけだろうか。

 どちらにしても、彼女一人で参加させるなんて危険なこと、させられるわけがない。

「それではルナディールのエスコート役で私も参加いたしますね。ルナディール一人では不安でしょうから」

 俺はフォスライナの方を見ながらそう言う。するとルナディールは声を弾ませて嬉しそうに、

「ありがとうございますお義兄さま!お義兄さまがいらっしゃるのなら安心ですわ」

 と言う。その言葉に思わず顔が緩んでしまう。

 こくりと頷くと、一瞬顔を顰めたフォスライナはすぐに表情を取り繕い、そしてシューベルトは心から嬉しそうに笑いながら、

「……分かりました、それでは後で招待状を送りますね。ふふふ、舞踏会が楽しみです」

「ルナディールも来るのか、それは楽しみだ」

 とルナディールの方を向いて言う。

 その笑顔を、少し頬を染めながらじっと見ているルナディールに若干の焦りを感じていると、ふと、

「そういえば、フォスライナさまとシューベルトさまは仲良くなられたのですか?この前よりもお二人を包む雰囲気が柔らかくなっていますわ」

 そう尋ねた。こくりと首を傾げる仕草に、なぜかまた胸がドクンと高鳴る。


 しばらくお互いに見つめ合った後、二人は肩を竦めて、

「ロディアーナ家から戻ってきた後、シューベルトが私を避けなくなったのですよ。今まで食事の時間帯をわざわざずらしていたのに、合わせるようになったのです」

「そ、それはっ……、ルナディールが、兄上を避けるのは間違っていると……。そ、それに、ちゃんと話してみたら、思っていた人とは違ったと気付いたんだ」

「全く、被害妄想が過ぎるんですよ、シューベルトは。もう少し客観的に物事を見られるようになってください。あからさまに距離を取られていたら、こちらだって距離を取りたくなりますよ」

 そう言い合い始めた。その様子を見て、ルナディールはふっととても嬉しそうに笑い、

「やっぱり兄弟は、仲が良いのが一番ですよ」

 とそれは優しそうな声で言ったのだ。

 その美しい姿と優しい声が頭から離れず、カァッと身体が熱くなる。


 なんだ、これは?ルナディールがいつもよりキラキラして見える。直視できない。

 慌てて目を逸らすと、正面にいるフォスライナとバッチリ目が合った。彼は顔を顰めて、

「アリステラも彼女のことが好きなのですか。同じ屋根の下で過ごしているのは厄介ですね。いつ手を出されても私には防げません……。何か対策が必要そうですね。早く彼女を射止めなければ」

 と何か小さく呟き、にっこりと挑戦的な笑みを浮かべた。

「私は負けませんからね」

 その言葉に背筋がゾワッとなる。危機感が募り、ルナディールを彼に近付けてはならないと悟る。チラッと彼女の方を見てみると、彼女は何か考え込んでいるようで、こちらのことは一切聞こえていないようだ。

 先程フォスライナが呟いた内容はよく聞こえなかったけれど、きっと良くないことに違いない。何か恐ろしいものを感じる。

 少なくとも、フォスライナは俺のことを敵として認識しているみたいだ。どうしてかは全く分からないが。

 けれど、彼をルナディールに近付けるのは危険である。仲良くなるのは阻止しなければならない。きっと、これから通うであろう魔法研究所の邪魔になる。

 あそこは王族の庇護下にあるのだ。魔法研究所で一番気を付けないといけない相手はフォスライナかもしれない。

 今まで家族らしいことをしてあげられなかったせめてもの償いに、俺は義妹の願いはできるだけ叶えてやりたい。その為なら、俺は王子と敵対するのも厭わない。

 ……フォスライナの弱みも探っておく必要があるな。

 俺は、このお茶会で更に情報収集に努めようと決意するのだった。

アリステラ目線でした。これからアリステラは、ルナディールには見えないところで色々動くことが多くなるかもしれないですね。次回はルナディールが暴走します。暴走するのもほどほどにね、ルナディール。

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