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怒りに我を忘れて

「失礼します」

 カラン、と音を立てて病院らしきところに足を踏み入れれば、白衣を着たおじさんが私たちを見て笑みを浮かべた。

「いらっしゃいませ」

 友好的な雰囲気に、先ほどコリーを追い出した時とは真逆だなと思いながら私は笑顔を浮かべる。

 どうやらコリーを連れてこなかったのは正解のようだ。また追い出されるかもしれないと思い、コリーは外に待機させている。


「お薬を買いたいのですけれど、よろしいでしょうか」

「ええ、もちろん。どのようなお薬をご所望でしょうか」

「熱が高くて咳が止まらず、身体も思うように動かず、水も飲めないほど症状が重い患者に効く薬はありますか?」

 私が注文をすると、おじさんは少し顔を顰めて難しそうな顔をした。それから症状をぶつぶつと呟きながら棚に置いてある薬を見て、困ったような顔をして何個かの瓶を取り出した。


「実際に見ていないので完全に効くかは分かりませんが……その症状ならこの辺りだと思います。お客様から見て右から順に、高熱に効く薬、咳に効く薬、喉に効く薬です」

 それぞれ緑、黄色、青、とカラフルな液体が入った瓶を出され、私は困ったように笑っておじさんを見た。


「ええと……その、三つの薬は併用可能なのでしょうか」

「それはあまりオススメ出来ません。それぞれ効果が強い薬ですし、同時に服用すると副作用が生じてしまうかもしれませんから」

「……万能薬、みたいな三つの効果が揃っている薬はないのでしょうか」

「残念ながらありません」

「そう、ですか……」


 こう言ったら悪いのだが、なんだか思っていたよりも役に立たなそうなものを出されたので私は愕然としてしまった。

 一個の効果しか得られず、併用不可という使い勝手の悪い薬で、どう病を治すというのか。私が熱を出して寝込んだとき、確かもっと効能の良い薬を処方されたはずだ。

 もしかして、平民の間では普及していないのだろうか。あれは貴族の中だけで出回っている薬?


 この薬ははたしてサリーに効くのだろうかと思案していると、義兄は小声で私に囁いた。

「どうやらこれが平民の中では最上級の物らしい。ざっと店内の薬を見たが、重病の患者にはあまり効かないような薬ばかりだ。普段俺たちが服用している物は、医学に精通した貴族が作っている。資金や技術面から考えても、やはり下町では良い薬は手に入らないだろう」


 貴族街は貴族街で、下町は下町で。身分や住む場所がくっきりと分かれてしまっているこの国では、やはり出回っている物の性能も違うらしい。

 こんなんだから貴族と平民の壁もどんどん厚くなるのではと思わずにはいられない。薬ぐらい何個かシェアしても良いだろうに。いけ好かない。


「どうする?はっきり言って、あのような性能の薬に銀貨八枚は高すぎる」

「は、八……!?」

 思わず大きく声が出てしまい、私は慌てて口を噤んだ。


 銀貨八枚は確かに高い、どんな価格設定だ。ぼったくりにも程がある。こんな高額の薬、絶対平民には売れないだろう。

 よくもまぁ潰れずに今までやってこれているものだ。それとも、これしかないのなら平民は買うしかないのだろうか?


 これなら、絶対魔法で癒す方が良い。それか素材を集めて薬を調合する。そっちの方が安く済むし病にも効く。

 残念ながら私は神聖魔法を使えないので、重病を完璧に治すことは出来ないだろうが、症状を和らげることは出来るはずだ。

 そして後日、より性能の高い薬を買ってサリーに飲ませるか、調合のエキスパートであるジャミラドに相談して万能薬を作ってもらえば良い。

 それに、私には最終手段のソルユアがいる。ソルユアはきっと神聖魔法の使い手だ。


 そこまで考えて、私は一応義兄の意見も聞くべく小声で義兄に尋ねた。義兄は私よりも頭が良いので、意見を聞いて損はない。

「ここで買うよりも、私が軽く魔法で症状を和らげてから貴族の医者から薬を貰うか、ジャミラドさんに薬を調合してもらった方が良いと思うのですが……お義兄さまはどう思いますか?」

「まさか、癒やしの魔法も使えるのか?」

 私の言葉に驚いたように発せられた声に、私はこてりと首を傾げてこくりと頷いた。

「はい、光属性の魔法も使えますから」

「そ、そうか……」


 なんだか複雑そうな顔をした義兄だったが、義兄はふるふると首を振って口を開いた。

「だが、それだとお前が貧民街に入ることになる。あそこは治安が悪く不衛生だと聞く。あまり行くべきではない」

「大丈夫ですよ、少し貧民街に行くくらい。それに、私が魔法を使おうが使うまいが貧民街には行くつもりです。実際にサリーの状態をこの目で見ておきたいですし」

「本気か?薬を買ってあいつに渡すだけでも良いだろう」

「何を言っているんですか、この目で実際に見ないとどのぐらい大変な事態なのか分からないではありませんか!恩人の危機なのです、治安が悪かろうと不衛生だろうと私は行きます!」


 私の意志は強いのです!とじっと目を見つめて訴えると、義兄は仕方なさそうにため息をついてこくりと頷いた。

「本当にお前は……良いか、危なくなったらすぐに撤退するからな」

「はいっ!」

「それなら、薬を買うより先ほどルナが言った方法の方が助かる率は上がるだろう」


 無事に義兄の承諾を得た私は、おじさんに向き直ってぺこりと頭を下げた。

「申し訳ありませんが、お薬を買うのはまた後日とさせてください。もう少し考えてから来ます」

「そうですか、それではまたのお越しをお待ちしております」


 残念そうな顔をしていたが、おじさんはぺこりと頭を下げて私たちを見送ってくれた。外に出ると遠くで待っていたコリーと目が合い、私は目で合図をしてから貧民街へと続く方へ足を向けた。

 コリーと一緒にいるとどうしても目立ってしまうため、人通りが少なくなるまでは離れて歩いた方が良いと義兄に言われたのだ。私も、変に目立って上級貴族である私たちが下町で平民の服を着て歩いている、なんて噂が広まるのは嫌だったので素直に頷いた。

 念には念を、だ。


 住宅街に入り人が少なくなってきた頃、私はくるりと振り返ってコリーと目を合わせた。こくりと頷くとコリーも頷き返し、トタタッとこちらに駆けてくる。

「薬は買えたか?」

 側に来て開口一番にそう尋ねるコリーに、私はふるふると首を振って正直に打ち明けた。

「それが、あそこで売っている物でサリーに効きそうな物がなくて……だから、私がサリーに魔法をかけて症状を和らげた後、もっと良い性能の薬を買うか、知り合いに薬を調合してもらうかしようと思っているの」

「魔法?調合?」

 私の言葉にポカンと口を開けたコリーは、何を言っているのか理解出来ない、と顔に書いていた。私はその様子に苦笑しつつ、大丈夫よ、と安心させるように微笑んだ。


「私の恩人であるサリーは、絶対に助けるから。だから、今は私を信じて欲しい」

「……分かった」

 コリーは信じてくれたのか、力強く頷いてから私たちの少し前を歩いた。そして、

「もう少ししたら貧民街だ。お前たちみたいな身なりの良い人は目立つから気を付けろよ。一応俺は子どもたちのリーダーみたいなもんだから、俺と一緒にいれば襲われる事はない。ただ、大人たちは俺とサリーを煩わしく思っている人が多い。万が一襲われた時は精一杯お前たちを守るが、危なかったら逃げろよ」

 と、注意をした。

「お前のような者に守られるほど弱くはないから安心しろ。ルナに危害を加えようとする奴がいたら倒すまでだ」

「戦闘にならないのが一番だけど、私も自分の身は守れるから大丈夫よ。これでも一応、特訓してるから」

「……なら良いけど」


 私がサリーに助けられたことを知っているからか、コリーは私の言葉を信じてはいないようだった。疑わしげにこちらを見るコリーに、私は肩を竦める。

 私だって、気を抜かなければ簡単には負けないはずだ。なんてったって、私は魔法が使えるのだから。剣術の練習をしているお陰で身体もそこそこ動くし、反射神経もそこまで悪くはない。気を緩めなければ大丈夫だ。


 しばらく歩くと貧民街に入り、私は改めて気を引き締めて背筋を伸ばして歩いた。コリーから離れないように気を付けつつ、私はそっと周囲を見回す。

 一言で言うと、貧民街はとても人が住めるような場所には見えなかった。家はボロボロで崩壊している物が多かったし、地面にはゴミや木屑などが散らばっている。こんな場所を素足で歩こうものなら絶対に怪我をしてしまうだろう。

 それに、お風呂が無いからか異臭もする。家の前に置かれているバケツに入っている水は茶色く濁っていて、これは何用の水だろうと想像するのも恐ろしかった。


 生まれて初めて見た貧民街は私が想像していたよりも遙かに酷く、こんなところで生活をしているというサリーとコリーが信じられなかった。改めて、自分が恵まれているのだと感じる。


「……想像以上に酷いな」

 ぽつりと義兄の口から溢れた言葉が聞こえたのか、コリーはちらっと私たちの方を見て肩を竦めた。

「まぁ、お金持ちからしたらそうだろうな。でも、俺らからしたらこれが日常だ。お前たちは一秒でも早くここから出たいだろうけど、もう少し我慢してくれ。俺らの家まであと少しだ」


 ガリガリに痩せ細った子どもが興味津々にこちらを見ていたり、この世の全てを恨んで希望などとうに捨て去ったような目をした子どもが睨み付けていたりと、貧民街にいる人たちの反応は様々だった。

 しかし、コリーが側にいたからか彼らは一切私たちに絡んではこなかった。


「ここを曲がったらすぐ俺たちの家だ」

 そう言って、コリーがトタタッと駆け足に角を曲がったので私たちもそれに続いた。

 どうかサリーがまだ無事でありますように、と願いながら角を曲がると、すぐ前に呆然と立ち尽くすコリーがいて私は慌てて立ち止まった。危うくぶつかってしまうところだった。

「コリー、どうしたの?」

 そう声をかけながらコリーの視線の先を辿ると、そこにはガラの悪い男が五人立っていて、その足下には見覚えのある人が倒れていたので私は言葉を失った。

 男たちの中心にいたリーダーのような男は私たちの方を見ると、ニヤッと不適に笑って足下に転がるサリーの脇腹を蹴った。蹴られたサリーはうめき声を上げながら仰向けに転がり、腕は力なくだらんと伸びていた。


「一足遅かったみたいだな、コリー。お前のねーちゃん、こんなにも弱っちまってよぉ」

 ケヒヒ、と下品に笑う男たち。私は目の前で繰り広げられる光景が信じられず、上手く頭が動かなかった。

「サリーをいじめるなっ!」

「おおっと、動くんじゃねぇよ。お前が動いたらどうなるか、分かってるよな?」

 今にもつかみかかりそうなコリーに不適に笑い、男は懐からナイフを取り出してちらつかせながらサリーとコリーを交互に見た。言わなくても分かる、コリーが動いたらサリーを殺すと脅しているのだ。


「っ!!卑怯だぞお前ら!病気で苦しんでいる時を狙うなんて……」

「卑怯?あははっ、笑わせてくれるぜ。病気になる方が悪いんだよ。あぁ、俺たちが家に入ったときのこいつの顔ときたら……思い出すだけでも笑えてくる。なぁ?」

 ナイフを持った男が仲間にそう問いかけると、仲間もおかしそうにゲラゲラと笑う。

「でも、家にはなぁんにも無かったよなぁ。金もなけりゃ食べ物もない。日頃のお返しに家を壊すぐらいしか出来なかったぜ」

 そう言って横を見た男の視線を辿ると、そこには木屑の山があった。男の口ぶりからして、あれはきっとサリーとコリーの家だったのだろう。

 そっとコリーの顔を窺うと、コリーは目をぎらつかせて男を睨み付けていた。怒りに震えているのだろう。唇を噛み拳を振るわすその姿に、私も同じく怒りを募らせる。


「っと、おいおいコリー、その隣の嬢ちゃんは誰だ?いかにもお金持ちってなりしてんじゃねぇか」

 ぺろり、と唇を舐めて怪しく笑う男にゾワッと身の毛がよだち、私は咄嗟に一歩後ろに下がる。するとすかさずコリーが片手で私を守るように立ってくれ、

「こいつはサリーを助けるためにやって来てくれた良い人だ。こいつに手を出すのは許さねぇ」

 と言ってくれた。

「ははっ、なんだ正義の味方ぶってんのか?にしてもそいつ、結構可愛い顔してんじゃねぇの。あぁ、そういえばこの前、身なりの良い女と遊ぼうとしたらサリーに邪魔されたんだっけなぁ!」

 ドスッと思いっきりサリーのお腹を踏んづけた男。鬱憤を晴らしたいのか、男は何度も何度もサリーのお腹を踏みつけ、そのたびにサリーは苦しそうに呻いていた。

 私に向けていた視線はもうサリーに向いていて、あの男の頭は一体どうなっているんだと思わずにはいられない。話も気分もコロコロ変わる人は苦手だ。何を考えているか分からないし怖い。


「……待てよ。ってかお前、あの時の女じゃねぇか?金髪碧眼に緑のワンピースって、ボロ本持ってた奴と一緒だよな」

 ふと、足を止めてギロッと私を睨んだ男。また私に視線が向いたことに身体が震えたが、それよりも男が口走ったボロ本という言葉の方が引っかかった。そして、一気に嫌な思い出が蘇る。初めて下町に来て、男に絡まれたときのことを。


 私の大切な本を、分身を、ぞんざいに扱った男。それが、今まさに目の前にいる人たちだった。

 下品に笑って、私の大切な本を痛めつけた人たち。頭の中であの時の腹立たしい場面が浮かび上がり、私は怒りに震えた。


「なんだ、もしかしてこいつに助けてもらったからって律儀にお礼に来たのか?ははっ、笑えるなぁ」

 男はしゃがんでぞんざいにサリーを持ち上げ、見ろよ、とサリーの顔を無理矢理私の方へ向かせた。

「おいサリー、お前が助けた嬢ちゃんがわざわざお礼に来たんだってよ。運が悪いよなぁ、今ここに居合わせたせいで、これからあいつらは俺たちにいたぶられることになっちまった」

 ケヒヒッと笑う男。サリーはうっすらと目を開けて私の方を見た後、小さく口を動かして何かを呟いた。


「あぁ?なんか言ってんな。なになに?ルナ、逃げて?ははっ、んなちっさい声じゃ聞こえねぇよ」

 男はパッとサリーから手を離し、サリーはバタリと地面に倒れた。その様子を見た私は、そこで何かがプツンと切れてしまった。


「……許さない」

「あ?」

「……許さない」

 弱っているサリーを痛めつけ、侮辱した罪。私の分身をぞんざいに扱った罪。サリーとコリーの家を壊した罪。

「ははっ、なんだ怒ってんのか?お前みたいな奴に何が出来るっていうんだよ。お前は、後ろで静かに見てることしか出来ない臆病者の男と一緒に逃げることを一番に考えた方が良いんじゃないか?」

 また一つ、増えた。私の義兄を侮辱した罪。


「見くびらないで。私はあなたたちを一瞬で殺せるのよ」

 口から飛び出た声は、思っていたよりも低く冷たいものだった。ギロッと睨みながらゆっくりと手を男たちにかざし、彼らを冷たく見据える。

「はっ、一瞬で?んなこと出来るわけねぇだろ」

 鼻で笑う男たち。その様子に、また怒りを覚える。

 自分でも驚くくらい魔力が身体から溢れていた。怒りの感情と一緒に膨れ上がる魔力。私はそれを一気に放出した。サリーを風魔法で守り、男たちは身動きができないように拘束するイメージをしながら。


「なっ、なんだ!?」

 地面が盛り上がり、ロープのようにうねる土はがっちりと男の手と足を捕まえる。地面に繋がれて身動きが取れなくなった男は、ギロッと私を睨み付けて、

「何をしやがった!」

 と怒鳴り声を上げた。しかし、そんなものに答える義理はないので私は無視をした。


 風魔法でふわりと私の目の前まで運ばれてきたサリー。優しく地面に下ろすと、私はすぐさまサリーの側にしゃがんで意識を集中させた。

 男につけられた痣やかすり傷を癒し、消すイメージ。安心して安らかに眠れるイメージ。心身の疲れを取るイメージ。


 サリー、元気になって。お願い……


 ひたすらに念じると、サリーの身体に温かな光が降り注いだ。私の抑えられない膨大な魔力が少しずつ吸われていき、サリーに降り注ぐ。

 しばらくすると、サリーの身体にあった痣や傷は綺麗に消え、サリーの呼吸も穏やかになった。とりあえず応急処置は終わったと確信した私は、近くにいたコリーを見上げて、

「サリーをお願い」

 と声をかける。コリーは呆然とした様子だったけれど、私はそのままゆっくりと立ち上がって男たちを睨み付けた。

 私に睨み付けられた男たちは、先頭に立つ者以外ここで初めて怯えたような表情を私に向けた。


「ねぇ、私、こんなに怒りを覚えたのは初めてなの」

 身動きが取れない男たちに一歩、一歩とゆっくり近付いていく。

「サリーが重病で苦しんでいるのをいいことに酷いことをして、家を壊して。私の大切な物をぞんざいに扱って。お義兄さまも侮辱して……許せない」

「はっ、それで俺たちを殺すのか?んなことお前に出来るのか?人を殺す勇気がお前にあるのか?」

 ただ一人、余裕そうにそう言い切って笑う男。サリーを痛めつけていたのも、コリーを挑発していたのも全部この人だ。悪党集団のリーダーに良いやつなんていない。

 きっと、この人は私に人は殺せないと思って高をくくっているんだ。腹立つな、その顔。


 私はもう一度彼らに向かって手をかざし、鋭い風の刃を放った。男の頬を掠めた風の刃は、そのまま後ろにあった木まで飛んでいき木をスパッと横に真っ二つに切った。ドシン、と大きな音を立てて倒れた木の音を聞き、頬に薄く血を滲ませた男はここで初めて顔を引き攣らせた。

「私に人が殺せないかどうか、実際にあなたで試してみる?」

「ま、待て。本当に俺を殺すのか?お前は良いとこの嬢ちゃんなんだろ?そんな奴が人殺しなんてしてみろ、今後の人生どうなるか分からないぞ」

 余裕そうな顔から一変、額に汗を浮かべた男は必死に私を説得しようとする。自分が危険な状況に陥った途端にコロッと態度を変える。あぁ、どこまでもむかつく態度の人だ。


「何を言っているのかしら。ここは貧民街、ここで誰かが死のうと多くの人にとっては関係の無いこと。あなたが死んでも、まさか私がわざわざここまで来て殺したとは誰も思わないでしょう?」

 真顔でそう言い返せば、男は真っ青になって、

「ま、待て、待ってくれ!殺さないでくれ!悪かった、もうお前には手を出さねぇ、今後一切関わらないから許してくれ!」

 と懇願してきた。後ろの人たちもぶんぶんと頷いて、許してくれ!殺さないでくれ!と騒ぎ出す。そのあまりのうるささに、私は顔を顰めた。


「うるさいわね。みっともないことを言わないで」

 あまりにもむかつく人たちだったから、私は思わずそのまま魔法を放ってしまいそうになる。怒りで溢れ出したこの魔力はなかなか収まってくれない。このままだと本当に暴発しそうだ。

「ルナ、待て。殺すなら俺がやる。お前が手を汚すことはない」

 この男たちをどうしてやろうかと考えていたら、義兄が私の肩を軽く叩いてそう言った。その言葉に振り返ると、義兄も冷たい目で男たちを見ていた。いつの間にか手には剣を持っており、その鋭い剣先が男の方を向いていた。

悪党にぶち切れいまにも男たちを殺しそうなルナディール。義兄も男たちを殺す気満々のようです。さて、ロディアーナ義兄妹の怒りを買った男たちはどうなるのでしょうか……次回も貧民街のお話です。

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