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貧民街の少年

 義兄の服をパパッと選んだ後、義兄がその服に着替えるまで私はメルアと一緒に装飾品を見る事にした。

 メルアがぐいぐいと手を引っ張って、これはね~と説明してくれる姿がとんでもなく可愛い。頬が緩むのを抑えられない。相変わらず可愛らしい解説付きのショッピングはとても癒される。


「ルナおねーちゃんはねぇ、これが似合うと思うの!」

 そう言って水色の雫型のイヤリングを持ってにこりと笑うメルアに、

「そっかぁ、ありがとう。それじゃあ買っちゃおうかなぁ」

 とつられて笑顔になりながらイヤリングを手に取る。

「ほんとう!?わーい、ごこーにゅーありがとーございます!」

 ぺこり、とお辞儀をして接客をするメルアはもう本当に可愛い。その可愛さは反則だ。拙さがよりメルアの可愛さを引き出している。こんな接客をされたらオススメされた物は何でも買ってしまいたくなる。


「ルナ、待たせたな」

 メルアの接客により、装飾品や雑貨など大量の物を持って買い物をしていると、義兄の声が後ろからして振り返る。するとそこには、黒を基調とした平民服を着た義兄がいて、一瞬言葉を失った。だって、あまりにもカッコよすぎたのだ。

 平民服といえど富裕層向けの物だからかキチッとしたデザインで、義兄の高貴さは隠せていない。しかもだて眼鏡までしていていつもと雰囲気が違い、イケメン度が増していた。こんな格好で外を歩いたら、全女性の視線を集めてしまうに決まっている。


「ルナ……?やはり、似合っていないだろうか」

 しかも、発せられる声はイケヴォときた。こんなのもう、みんな義兄の虜になっちゃうよ。

「わあっ、おにーちゃんカッコいい!」

 メルアがくいくいと私の袖を引っ張り、ね?と見上げたので、私もハッと我に返ってこくこくと頷く。

「ステラ、とってもカッコいい!その眼鏡も似合っているし、つい見惚れちゃったわ」

 きちんとお友達設定を守りつつそう義兄に感想を言えば、義兄は少し頬を赤らめてそっぽを向いた。

「そ、そうか」

 こんな照れ方をされたらきゅんとこない訳がない。やはり義兄はモテキャラなんだなと改めて実感しつつ、私は義兄の少し後ろに立っているトールにお礼を言った。


「トール、素敵な服をありがとう。お会計はもう少しだけ待ってて。まだお店を見て回りたいから」

「かしこまりました。お気が済むまでごゆっくりどうぞ」

 トールはペコリと頭を下げ、サッと壁際に捌けた。それから視線はメルアを向いていて、きっと見張っているんだろうなぁと思う。目は鋭く、そんなに見つめたらメルアが怖がっちゃうでしょってツッコみたくなった。


 それから私はまた、メルアに手を引っ張られながらメルアの接客を受けた。私が持っていた大量の商品は義兄が持ってくれ、その優しさにまたきゅんとした。やっぱり義兄は完璧すぎる。流石私の推し。


 メルアと私と義兄、和やかに買い物をしていると、ふと視界の隅でキラリと何かが光り私は足を止めた。メルアは急に止まった私を不思議そうに見上げ、ルナおねーちゃん?と首を傾げた。

「ごめんね、急に立ち止まって。ちょっとこれに惹かれたの」

 私が指を指すと、メルアはぐーっと背伸びをしてからうなだれ、

「背が小さくて見えないの……」

 と言葉を漏らした。だから私はそれを持って屈み、メルアの前まで持ってくる。


「これだよ」

 手のひらに置いた髪飾りを見ると、メルアはパァッと顔を輝かせた。

「きれ~!」

「ね~」

 私も頷きつつ、じっと手のひらにある髪飾りを見つめる。


 淡い赤色の綺麗な髪飾り。小さな赤い花と揺れる水色の雫が可愛く、これを付けて外を歩けば光が反射してキラキラと輝くのだろうと考えると、とても美しいなと思った。ゆれる雫がキラキラと輝く光景は、きっと綺麗なはずだ。

 綺麗で、美しくて、可愛くて。こんな髪飾りが似合う人は、きっとレティーナ以外いないだろう。そう感じた私はスッと立ち上がり、壁際で気配を消してメルアを見守っていたトールに声をかけた。

「トール、これをプレゼント用に包んでくれない?」

 急に声をかけられたトールはビクリと身体を揺らしたが、すぐさまかしこまりましたと言って私から髪飾りを受け取り、梱包するため階下へ行った。私もそれについていくため、メルアと手を繋いでゆっくりと階段を下りる。


「贈り物はあれにするのか?」

 階段を下りながら義兄にそう問われ、私は振り返りながらこくりと頷いた。

「あれを見た時、パッとレティーナの顔が浮かんだの」

 それから会計まで行き、メルアに勧められて買うことにした大量の商品をドサッと置く。たくさんの物を買ったせいで、トールと店員さんは対応が大変そうだった。


「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」

 お会計を済ませ、梱包された髪飾りと大量の商品を持った私たちにトールと店員たちは揃って頭を下げた。

「こちらこそ素敵な商品をありがとう。また来るわ」

「ルナおねーちゃん、ばいばーい!」

「ばいばーい」

 笑顔で手を振る天使なメルアに見送られながらブライダン商店を出て、私は大きく伸びをした。

 荷物持ちをしている義兄は、止めておいた馬車に荷物を入れながら私に問う。


「これで今日の目的は達成か?」

「そうだけど……せっかく来たからもっと色んなお店を回りたいな~って。……ダメ、ですか?」

「……今日はルナが満足するまで付き合おう」

「やったぁ!ありがとう、ステラ!」


 荷物を入れ終わった義兄に手を差し出され、私も馬車に乗り込む。それから前にロイゼンと一緒に行ったレストランに寄ってご飯を食べた後、馬車を適当な場所に止めてゆっくり下町を歩き回ることにした。


 本屋にパン屋、お菓子屋などなど、前回行って良かったと思った場所をいくつも回った。今回はベルリナのお店に行くことを諦めたが、それでも下町は面白いお店が多い。ガヤガヤと賑わう人を見るのも楽しかった。

 義兄はどう思っているのか分からなかったけれど、行き交う人々をじっと観察したり、並べられている商品をじっと見たりしていたので、少しは興味があるのかなと勝手に思うことにした。この時間が少しでも義兄にとって有意義なものであると良い。

 義兄はいつも真面目に忙しく働いているのだ、たまにはリフレッシュも必要だろう。


「ルナ、この先は店がなさそうだ。恐らくこの先は住宅街と貧民街だろう」

 商店街を歩き続け、いつからかぱったりとお店がなくなり住宅街が続く道。そこを歩いていると、義兄が軽く私の腕を掴んでそう言った。

 顔を見上げると義兄は軽く首を振り、これ以上は行くなと言って今来た道を振り返った。どうやらここらでUターンするべきらしい。

「馬車を止めているところまで戻るぞ」

「はい」


 住宅街や貧民街なんかに用事はなかったので、私は素直に頷いて従った。どうやら商店街はコンプリートしてしまったみたいだ。

 義兄と話しながら来た道を戻り、しばらくするとまた周囲は賑やかになった。

 やっぱりこの賑やかさは良いなぁ、舞踏会や大規模なお茶会の賑やかさよりも断然良い。


 そう思いながら行き交う人々を観察していると。

「二度とこの店に来るな、貧民街の泥棒がっ!」

 不意にそう怒鳴り声が聞こえ、私の身体はビクリと跳ねた。驚いて声のした方を見ると、医者と思われる白衣を着たおじさんが、ボロボロの服を纏った男の子を箒で殴っている姿が目に映った。

 数発ぶって男の子が動かなくなったのを見たおじさんは、フンッと鼻息荒く踵を返しバタリと思いっきり扉を閉めた。

 周囲の人たちは、汚い物を見るような冷たい目で男の子を見下ろし、側に寄りたくないのかもの凄く距離を取って歩いていた。男の子の周囲だけ綺麗に避けられ、まるでそこだけ異空間のようだった。


「犯罪に手を染めるなんて、貧民街の人間はやはりろくでもないな」

 私が倒れている男の子をじっと見つめていると、隣で義兄がそう呟いた。私はそれに何と答えれば良いのか分からず、黙ったまま男の子を見る。

 男の子はふるふると震えながらゆっくりと立ち上がり、悔しそうに唇を噛んで病院を睨んでいた。


 恐らく、十歳くらいの小さな男の子。あんなに悔しそうに病院を見つめているなんて、もしかしたら誰か大切な人が病気になってしまったのだろうか。でも、お金が無いから薬を盗もうとした?


 薬は買えない、周囲の人には冷たい目で蔑まれる。貧民街に生まれただけなのに、なんて不運な人生なのだろう。もし私が宰相の娘としてではなく貧民街の子どもとして生まれていたら、きっと自分の運命を呪い、世を憎んでいた。


「ルナ、行くぞ」

 義兄にふいと手を引かれ、私はもどかしく思いながらもこくりと頷いた。悔しいけれど、私が彼にしてあげられることは何もない。今ここで彼に手を差し出しても、それは根本的な解決にはならない。

 貧民街がある限り、彼のような可哀想な子どもは減らない。


 どうかこの先、少しでも彼に良いことがありますようにと密かに願いながら彼から目を逸らし、義兄を見上げた。

 義兄は男の子から遠ざかるように歩き、まるで視界に入れたくないとでも思っているかのようだった。


「ルナ、今日は帰ったらゆっくりしよう。明日からまた忙しい日々に戻るのだろう?」

 男の子の存在を忘れさせるかのように発せられた義兄の言葉。その意図を考えながら、

「そうね。明日からは必死に働かないと」

 と返す。

「お前は働き過ぎだと思うけどな」

「それはステラの方でしょう?」


 軽いやり取りに義兄も気を緩めたのか、義兄は歩く速度を落として私を振り返った。そして私の後ろをチラッと見ると、急に凍てつくようなオーラを出して私をグイッと引っ張った。

「うわっ!?」

 体勢を崩した私はそのまま義兄に突っ込み、背中に腕を回されてしっかりと抱き留められた。いきなりの展開と、義兄の甘い匂いに頭が真っ白になりかけたとき、

「それ以上近付くな」

 義兄の底冷えするような声が聞こえて私の身体はビクリと反応した。


 恐る恐る振り返ると、そこには義兄に腕を掴まれて怯えた表情をしている先ほどの男の子がいた。義兄は力強く腕を掴んでいるみたいで、上に持ち上げられた彼は足をばたつかせながらどうにか逃げだそうともがいていた。

「その汚い手でルナに触れようとしただろう」

 ギロリと義兄が睨むと、男の子はビクッと肩を震わせた後に私を見た。

「正直に言え。何をしようとしていた?言わないとこのままお前の腕を折るぞ」

 淡々と告げるその口調からは殺気しか感じず、私は緊張してゴクリと唾を呑み込む。周囲の人も、何事かと遠巻きに私たちを見ていた。


「……」

「おい、早く言え。俺はお前みたいな薄汚れた者を好まないんだ」

 黙りこくる男の子にさらにたたみかける義兄。しかし男の子は怯えてしまったのか一言も発さない。目も合わせようとせず、じっと下を向いている。

 片腕を掴まれ宙ぶらりんにされるなんて、絶対に痛いはずだ。十分な食事が出来ていないからか、身体も細くて今にも腕がポキッと折れそう。


 義兄に完全に萎縮している男の子が憐れに思って、私は義兄を見上げて言葉を発した。

「ステラ、そんなに脅したらこの子も話せなくなってしまうわ。一旦この子を下ろしてあげて」

 私の声が聞こえたのか、義兄はチラッと私を見てから思いっきり顔を顰め、

「だが、下ろしたらこいつが何をするか分からない。お前を襲うかもしれないんだぞ」

 と言った。

 義兄は本当に家族想いの良い人だ。私を案じて行動してくれたのは素直に嬉しい。でも、流石にこれは男の子が可哀想でならない。私に危害を加えるかなんて分からないのに。


「ステラの言うことも一理あるけれど、流石にこんな子どもにやられるほど弱くはないつもりよ。それに、何も襲うって決まっている訳じゃないし」

 それから私は男の子に視線を移し、敵意はないから安心してと伝える為に優しく微笑んだ。

「急にごめんなさいね、少し驚いてしまっただけなの。あなたも、別に私たちに危害を加えようだとかは思っていないのでしょう?」

「……」

 男の子はゆっくりと顔を上げ、じっと私の顔を見てからこくりと小さく頷いた。意思疎通が出来ることにホッとしながら、私はさらに言葉を続ける。


「それじゃあ、どうして近付いてきたのか教えてくれる?ステラも、あなたが危険じゃないって分かれば手を離してくれると思うから」

「……」

 男の子は少し悩むような表情をした後、私の目を真っ直ぐ見てからゆっくりと口を開いた。

「……サリーが、言ってたから。ルナは優しくて良い人だって。だから……助けてくれるんじゃって、思って……」

 話しているうちに自信がなくなってきたのか、だんだん声が小さくなり最後は聞こえなくなってしまった。顔も完全に下がり、地面を見つめてしまった男の子。

 しかし、私はすぐ彼に声をかけることが出来なかった。なぜなら、彼が口にしたどこか聞き覚えのある言葉が頭をぐるぐると駆け回っていたからだ。


 サリー……サリー?えっと、誰だっけ……

 下町で会った子だよね、きっと。なら初めて下町に来た日に会ったのかな?だって二回目はロイゼンが一緒だったし……

 んーと、どんな子だっけ?やばい、あれから色んなことがあったせいで記憶が……思い出せない!!


 うわー、もやもやする!!と一人頭を抱えていたら。

「そのサリーって者も貧民街の人間か?ルナを知っているような素振りだが、どこで知った」

 その間も義兄は質問を止めず、鋭い目つきで男の子を睨んでいた。


「さ、サリーは俺の姉で……き、金髪で青い目の女の子を助けたら、お礼にカゴ一杯の食べ物を貰ったって……」

 男の子が怯えながらそう溢す言葉に、私はついに頭のもやもやが晴れて、あっと声が出た。私の言葉に義兄も男の子も反応し、二人は私の方を見た。


「やっと思い出したわ!サリーってボクっ娘のサリーね!私の恩人の」

 はぁ~、思い出せてすっきり!と笑顔になると。

「……ルナ、どういう事だ?恩人って、下町では何もなかったんじゃないのか?」

 義兄の目が一気に疑うような目つきに変わり、私は、ひいっと身を竦めて一歩後退るもしっかりと義兄に抱きしめられているせいで逃れられない。

 至近距離で圧をかけてくる義兄に冷や汗をかきながらも、私は観念して全てを打ち明けた。


「えっと、それはその……実は初めて下町に来たとき、ガラの悪い男に絡まれたというか……羽交い締めにされて、ヤバいかも!って思った時にサリーが助けてくれて……」

「なっ……」

 私の白状したことが衝撃的だったのか、義兄はその場で目を見開いて固まってしまった。

 腕を掴んでいた手の力が緩んだのか、男の子はそのまま地面に落とされ痛そうに声を上げた。


「なぜ嘘をついたんだ!?羽交い締めにされただなんて……くっ、許せない。それは一体どこのどいつだ。ルナに手を出したんだ、きっちり懲らしめなくては」

 義兄は先ほどよりもさらに鋭く瞳をギラつかせたので、私は慌てて言葉を発した。ここで上手く話を逸らさないと、私まで怒られる羽目になる気がしたのだ。見るからに殺気を放っている義兄に怒られるなんて、そんな恐ろしい体験をしたくはない。


「そ、そんなことよりも、今はこの子の話を聞かないと!サリーの弟が尋ねてきたってことは、サリーに何かあったのかもしれないし……借りた恩は返さないといけませんから!!」

 それから素早く義兄の手から逃れ、私は痛そうに地面に座っている男の子に手を差し出した。

「大丈夫?怪我はない?サリーの弟らしいけれど、助けてくれるかもってどういう事?サリーに何かあったの?」

 男の子は差し出された手を驚いたように見つめた後、怖ず怖ずと私の手を取ってゆっくりと立ち上がった。それからパンパンと服についた汚れを取って私を見つめる。


「実はサリーが熱を出して……最近じゃ見たことないくらい苦しそうにしてるから、薬を……」

 盗もうとした、とは言えなかったのか、男の子はそこで決まりが悪そうに下を向いた。

 もしかしたらこの子も、サリーと同じように良い子なのかもしれない。だから罪悪感を覚えているに違いない。


「そう、事情は分かったわ。サリーが苦しんでいるのなら、今度は私が助けてあげないとね。それで、ええと……あなたの名前は何て言うの?」

「こ、コリー」

 ちゃんと名乗ってくれたことにホッとし、私も軽く自己紹介をした。

「私はルナよ、こっちはステラ。よろしくね」

 私の言葉に、コリーは曖昧に笑って頷いた。


「それで、コリー。サリーはどんな状態か詳しく教えてくれる?薬にも色んな種類があるし、適した物を買っていかないといけないから」

 私がにこりと笑って言うと、コリーは驚いたように目を見開いた。信じられない、といった様子だ。

「おい、本当にこいつの話を信じるのか?嘘をついているかもしれないんだぞ」

 私とコリーのやり取りを聞いていた義兄は、鋭い目でコリーを見つめながら私にそう言った。慎重な義兄は、きっとまだコリーのことを信じられないのだろう。


 私だって実際にサリーを見ていないから本当のことか分からないし、この子がコリーかも分からない。でも、彼が薬を盗もうとしていたことは確かだ。

 それに、ここで彼を信じずに家に帰って、サリーに万が一のことがあったらきっと私は一生後悔するに決まっている。

 後悔するくらいなら今行動した方が絶対に良い。


「信じます。この子を信じないでサリーを助けられなかったら、私は一生後悔すると思いますから。だから、どうか私が手を貸すことを許してくださいませんか」

 真剣に、真っ直ぐに義兄の目を見つめてそう訴える。しばらく無言で見つめ合っていると、義兄がはぁと一つため息をついてふるふると軽く首を振った。

「分かった、そこまで言うなら良いだろう」

「本当ですかっ!?」

「あぁ。駄目だと言ったところで聞かなそうだしな」

 呆れたように笑う義兄に、私はえへへと笑って誤魔化す。

「ありがとうございます」

 お礼の言葉に軽く頷いた義兄は、それからコリーの方を向いて、

「そういうことだ、お前も呆けていないで症状を話せ」

 と言った。その言葉に、コリーはハッとしてからこくりと頷いて口を開いた。


「えっと、まず、信じられないくらい体温が高くて……咳も凄い。あと、身体が思うように動かないみたいでぐったりしているんだ。喉が痛いのか、水も飲まないから悪くなる一方で……」

 熱が高く、咳が止まらず身体が動かない。水も飲めない。そんなコリーの話を聞いていると、サリーが重病にかかっているように思えて一気に心配になってきた。


 そんな状態なら、今すぐにでも薬を飲ませてあげないと手遅れになってしまうのでは?

 そんな考えが頭を過り、私は青ざめながらコリーに聞いた。


「それはいつからなの?」

「二日前ぐらいから。最初は軽い風邪だって言って笑うからあんまり気にしてなかったんだけど……あまりにも酷くなるから心配になって……」

「二日も!?」

 これは今すぐ助けにいかないと、と拳を握れば、義兄の手がポンと優しく肩に乗っかり、私はハッとして義兄を見上げた。

 すると義兄は軽く首を横に振り、落ち着け、と静かに言った。それからコリーの方を向き、冷静に質問を重ねていく。


「お前たちの周囲に同じような症状を持つ者はいるか?」

「……いや、いないと思う。寝込んでいる人をたまに見かけるけど、サリーほど酷くはない」

「では、ここ数日で何か変わったことをしたか?変な物を食べたとか」

「……いつも通り残飯を食ったり森で採ったキノコとかを食ったりしてたから、特に変な物は食べてない」

「……そうか」


 残飯やキノコと言った言葉に、一瞬義兄は不快そうな顔をしたがすぐに顔を引き締めて私に向き直った。

「なんの病かは知らないが、とりあえず医者に症状を説明をして薬を買おう」

「はい!」

 私は力強く頷き、先ほどコリーが追い出された病院らしきところを見た。


 待ってて、サリー。今すぐお薬を持って行くからね!

 絶対に救ってみせると誓い、私たちは病院へと足を向けた。

前にルナディールを助けてくれたボクっ娘は重病のよう……?ルナディールは恩を返すためにコリーとともに動きます!次回は懐かしのサリーが登場します。

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