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思わぬ急展開

 魔研から帰り、レティーナからの連絡が何も無かった私は強く決意した。明日、何が何でもニュイランド家に突入し無理矢理にでもこの状況を変えてみせると。

 それなのに……


「ほんっとうに、申し訳ございませんでしたっ!!」

 翌日、私は玄関で九十度に頭を下げるニュイランド姉妹を前にとても困惑していた。

 私は今朝、ご飯を食べた後にニュイランド家へ行く準備をしていたら、急に使用人に呼ばれて慌てて玄関へ来た。レティーナとニュイランド姉妹が訪問してきている、と言われたのだ。


 予告無しに突然現れた三人を前に私が固まっていると、ニュイランド姉妹はいきなりガバッと頭を下げて謝罪した。その様子に唖然としてレティーナを見つめると、レティーナは困ったように笑うだけだった。

「え、ええと、その……と、とりあえず、頭を上げてくださいませ。そして、なぜ我が家へ来たのか教えていただいてもよろしいでしょうか」

 私が、何事だと遠目から見守っている使用人の目を気にしながらそう慌てて言えば、二人はゆっくりと頭を上げた。それから二人で目を合わせ、ソレイユが一歩前に出てここに来た経緯を教えてくれた。


「なんの連絡も無しに急に訪問してしまい、申し訳ありませんでした。ですが、ソルユアと話したところ、早急にルナディール様にお会いして謝罪しなければならないと思ったのです。先日はわたくしの妹が大変な失礼をしたようで、本当に申し訳ございませんでした。そして、そんな失礼をしたにも関わらず、ソルユアの願いを聞いてわたくしに助言して下さったこと、ソルユアとライオ様への誤解を解いて下さったこと、本当にありがとうございました。ルナディール様には何度感謝してもしたりません。危うく、わたくしはとんでもない過ちを犯してしまうところでした。本当にありがとうございます」

 再び深々とお辞儀をして謝罪と感謝を述べるソレイユに、私はもう何がなんだか分からなくて頭がはてなでいっぱいだった。

 大変な失礼って何のこと?助言って、私何かソレイユに助言したっけ?ソルユアとライオ様って、どうしてライオ様の名前が?


 混乱して何も言えなくなった私が、ただ呆然とソレイユを見つめていると。

「いきなり家にやって来たと思ったらそれか」

 騒ぎを聞きつけてやって来たのだろう義兄がそう声をかけ、私は振り返った。義兄は無表情で三人を一瞥してから、レティーナへ顔を向けて冷ややかに言葉を放つ。

「お前、ルナディールの願いを叶えられなかっただろう。ルナディールは二週間以内にそいつと話す場を設けろと言ったはずだ。忘れたとは言わせないぞ。今日までルナディールがどれほど気を揉んでいたと思う?次はない、と忠告したはずだが」

 ギロリと睨む義兄に、レティーナは肩をビクリと震わせてから申し訳ございませんでしたと謝った。それから私の方を見て、眉を下げた。


「ルナディール様の期待に応えられず、申し訳ありませんでした。今日訪問することも事前にお伝え出来れば良かったのですが、ソルユアから手紙が届いたのが昨夜でしたので間に合わず……」

 今にも儚く消えてしまいそうに目を伏せるレティーナに、ぎゅっと心を掴まれた私は慌ててレティーナの手を取ってふるふると首を振った。

 レティーナの手を掴んでいないと今にもどこかへ消えてしまいそうで、不安になったのだ。レティーナは私の大切な友人なのだ、消えてしまったら困る。


「そんな、私の方こそレティーナに無理なお願いをしちゃってごめんなさい。本当は自分で場を設ける努力をするべきだったのに、すっかり頼ってしまって。確かに心配にはなったけれど、それでもレティーナはちゃんとこうして私と二人を会わせてくれたのだから、そんな顔しないで」

 優しく微笑んでそう声をかけると、レティーナは目を潤ませてルナディール様……と呟いた。その声と表情が、信じられないぐらいに可愛くて思わず抱きしめたくなってしまう。

「ルナディール、こいつに甘いのではないか?」

「むっ、お義兄様はレティーナに厳しすぎます。レティーナは私の大切な友人ですから、あまり怖がらせないでくださいませ」

 手を取り合って見つめ合う私たちに、少し顔を顰めてぴしゃりとそう言い放った義兄。私がついムッとして返すと、義兄は小さくため息をついて小さく首を振った。

「優しいのは美点だが度が過ぎると考え物だな……」

 義兄は何やら呟きながら私を見ていたが、声が小さすぎて聞き取れなかったのでスルーした。


「とにかく。ここではゆっくりお話も出来ませんから応接室へ行きましょう。そこでもう少し詳しく聞かせてくださいませ、ソレイユ様」

「かしこまりました」


 私がみんなを連れて応接室へと行き、使用人にお茶の準備をお願いする。応接室のふかふかソファに私が座ると、それに続いて隣に義兄が座り、正面にはレティーナ、ソレイユ、ソルユアが座った。相変わらずレティーナからは気品が溢れ出ており、凄いなぁさすが私がお手本とする素敵令嬢!と心の中で褒めちぎった。


「えーと、それではまず……先ほど、ソルユアと話したとおっしゃっていましたが、もしかしてお二人はお話されたのですか?」

 紅茶とお菓子が用意されたのを見てから私がそう身を乗り出して聞くと、ソルユアとソレイユは二人目を合わせた。ソレイユは目を細めてソルユアに笑いかけ、私に向き直って幸せそうに微笑む。

「はい。先日のお茶会でルナディール様に課題を出されてから、わたくしはライオ様とソルユアに話しかけたのです。ルナディール様が背中を押して下さったおかげで、わたくしはライオ様とソルユアの本当の想いに気付くことが出来たのです。話してみなければ分からない、とおっしゃったルナディール様の通りでした」

 目をキラキラと輝かせ、さすが聡明なルナディール様ですと頬を赤らめるソレイユに、私はこてりと首を傾げる。

「えっと、課題……?」

 そんなもの出した覚えないけど……と考えながら聞き返すと、ソレイユはとても素敵な笑みを浮かべて、はいっ!と声を弾ませた。


「ルナディール様は、わたくしがソルユアのことを勝手に決めつけ怖がっていることに気が付き、それは良くないと諫めて下さったのですよね?そして、実際に話して人となりを知るようにとお教え下さいました。最後には、こんなわたくしを友人とまで言って、わたくしが逃げないよう手を打って下さった。本当にルナディール様には頭が上がりません。何から何まで、本当にありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げるソレイユに、あれ~?と冷や汗をかいて何も言えなくなる私。

 私は別に、ソレイユを諫めたつもりなんてなかったし、逃げないように手を打った訳でもない。ただペラペラと話して、最後はちょっと勇気を出してこれからもお友達でいてください!と言っただけだ。

 それなのに、どうしたらそんな解釈になるのだろう。もしかしてソレイユって、頭の中で勝手にいろいろ付け足して解釈しちゃう人なのだろうか。

 ソルユアを極度に怖がって、あることないこといろいろ考えていたのだから十分あり得る。かなり発想が飛躍する人なのかも。


 私が一人そう考えていると、ソレイユはトンと優しくソルユアの肩に手を置いて、

「ほら、ソルユアも。言わなければいけないことがあるでしょう?」

 と言った。その言葉に、ソルユアはこくりと頷いてじっと私を見つめ、私はその鋭い瞳に背筋がピンと伸びた。

「あ、あの……」

 言いにくいのか、何度か口を開いては閉じを繰り返したソルユア。

「ほら」

 ソレイユに優しく促され、ソルユアは心を決めて真っ直ぐと私の瞳を見て口を開いた。


「先日は失礼しました。酷いこと、言ってしまって……あと、会いたいというロディアーナ様の要求を無視しました。本当に申し訳ありません……でも、お姉ちゃんと話して、私が勘違いしていたんだって気付きました。お姉ちゃんが、聡明なルナディール様は何もかもを見透かしていらっしゃったと言っていて……私、まさか勘付かれていたとは思わなかったんです。……私の事情に気が付き手を差し伸べて下さったこと、本当に感謝しています。ありがとうございました」

 ソルユアに深々と頭を下げられ、私は今目の前で起こっていることが信じられずに目を見開いた。

 ゆっくりと頭を上げたソルユアと目が合うと、ソルユアは少しはにかんだように笑って、

「大好きなお姉ちゃんと話す機会を下さり、ありがとうございます。婚約者と幸せそうにするお姉ちゃんを見られて、本当に幸せです。このご恩は、私の一生を懸けてお返し致します」

 と言った。その破壊力が凄くて、私のハートは鷲掴みにされ顔もカアッと熱を帯びていった。


 う、うわああああ!ソルユアの……ソルユアの笑み!?はにかみ笑い!?なにそれ尊い、尊すぎるよ!

 え、待ってもの凄く可愛い。何これ、何この幸福感。あの毒舌で冷たい対応のソルユアが笑って、こんな事を言うなんて……さすがヒロイン、破壊力がもの凄いわ。こんなギャップ見せられたら全ての人間が虜になってしまうに決まっている!


 推しにやられた私は、すっかり言葉を忘れてしまった。それでもなんとか笑みを浮かべ、何か話そうと口を開く。

「え、ええと……そ、ソル……あ、いや、ニュイランド様……」

 うっかりソルユアと名を呼びそうになり、慌ててニュイランド様と言い直したがその続きが全く出てこなかった。もう頭の中はソルユア尊い!で占められていて何も考えられなかったのだ。

 しかし、そんな私にソルユアは再び攻撃をしかけてきた。なんと、少し躊躇いがちに、上目遣いで、

「あ、あの……良ければ、ソルユアとお呼び下さい。お、お姉ちゃんが名前呼びなのに、私だけニュイランド様と呼ばれるのは嫌なので……」

 と可愛く言ってきたのだ。ツンツンしているソルユアからそんなことを言うのは珍しい。恥ずかしいのか、少し顔を赤らめているせいでより魅力がアップしていてもうヤバかった。

 ソルユアとソレイユが仲良くなれたら、こんなエンドが待っていたなんて。これはもう昇天ものだ。


「えっと、じゃ、じゃあ……ソルユア様?」

「さ、様は要らないです。お姉ちゃんが尊敬しているロディアーナ様に様付けされるのは違いますから。敬語も不要です」

「えっ……と、そ、ソルユア?」

 私がソルユアの名前を呼ぶと、ソルユアは小さく笑って頷いた。それがもう可愛くて、私はどうにかなってしまいそうだった。

「じゃ、じゃあ、わ、私のこともルナディールって名前で呼んで。ソルユアに……呼ばれてみたい」

 今のソルユアに名を呼ばれたら、きっと私は喜びと尊さと嬉しさで昇天すること間違いなしだったが、そう頼まずにはいられなかった。今を逃したら、こんなデレを見せるソルユアとはもうしばらく会えないかもしれない。

 だったら、恥ずかしさなど捨ててお願いを口にするべきだ。


 私の頼みを聞いたソルユアは驚いたような顔をしたが、恥ずかしそうに顔を赤らめて、

「る、ルナディール、様……」

 と呟いた。その、人の名前を呼ぶことに慣れていないようなぎこちなさにドキュンと心は射抜かれ、私は一気に身体が熱くなった。今すぐにでも水を頭から被りたいくらいだ。

「か、可愛い……」

 つい私の口から漏れてしまった言葉が聞こえると、ソルユアは顔を真っ赤にした。それから、

「か、可愛いってなんですか!馬鹿にしてるんですか!?ひ、人の名前なんか呼ぶ事無いから恥ずかしかったんですよ!」

 とテーブルに手をついて立ち上がった。その拍子にカタリとお皿やティーカップが音を立て、

「ちょっとソルユア、落ち着いて」

 とソレイユが宥める。大好きな姉に諫められたソルユアは、すぅっと息を吸ってすみませんと謝ってゆっくり腰を下ろした。その様子にさらに頬が緩み、私の顔はだらしなくなっていってしまう。


「ソルユアは本当にソレイユ様のことが大好きなんだね」

 にへらと笑ってそう言えば、当たり前ですとソルユアは真面目な顔で即答した。

「お姉ちゃんは私の女神です。お姉ちゃんほど美しい女性はいませんし、素晴らしい女性はいません。お姉ちゃんを悪く言う人は、例え誰だろうと容赦なく潰します」

「ちょっとソルユア、何を言っているの。昨日も言ったけれど、わたくしより美しい人も素晴らしい人もたくさんいるわ。それに、女神という名がふさわしいお方の前でわたくしのことを女神と言わないでちょうだい。恥ずかしいわ」

「でも、私にとって女神はお姉ちゃんですから。これは絶対に揺るぎません」

 ポンポンと目の前で繰り広げられる会話に、本当に仲良くなったんだなと感じられた私の胸は、とても温かくなった。これで、ソルユアがソレイユに陥れられて心を病むことは無いだろう。死ぬこともないだろう。


 お姉ちゃんは女神です!と言い張るソルユアに、困った顔をするソレイユ。それを優しい笑みを浮かべて見守る女神ことレティーナ。本当に、幸せな空間が漂っている。

 未だに何がどうしてこうなったのか分からないけれど、それでも、みんなが笑顔でいられて良かったと心の底から思った。

 推しが笑顔でいられるのなら、それで良い。


 お姉ちゃんをどんな敵からも守ってみせます、と豪語するソルユアの言葉を聞きながら、きっと私も、推しが危険な目に遭うのならどんな手段を使ってでも守ってみせるのだろうなと考えた。

 今回はたまたま上手くいったけれど、今後も同じとは限らない。今回、私は何も成せていない。何も出来なかった。

 ソレイユが私とのやり取りでいろいろ勘違いをしてくれていなければ、きっと今のこの状況は出来ていなかった。ソレイユがソルユアと話そうと思ってくれていなかったら、こうなってはいなかった。

 私は、あまりにも無力なのだ。


 もし今後、推しが危険な目に遭うとき。私は、何か手助けをすることが出来るのだろうか?

 頭が固くて何も成せない私に、何か出来ることはあるのだろうか?

 この世界は、よく分からないことだらけだ。自分がどっちルートに入っているのか分からないし、そもそも私の知っているお話通りに進んでいっているのかも分からない。

 ソルユアが運命の出会いを果たしていないことだって理由が分かっていないし、トーヤの出現も謎。レティーナがソルユアと接点があったってことも不思議だし、未だ私が知っているイベントが起きていないこともおかしい。


 何もかもが分からなくて、不安要素が多いこの世界。でも、私は推しがいるこの世界が好きだ。だからこそ、私は不安要素をなるべく減らして推しのために生きるべきだろう。

 もちろん、魔研でどっぷり魔法の研究をすることも忘れないけれど。でも、今回ソルユアが分岐ルートに入っていたことに直前になって気付いた、なんてことがないように。今度はこっちからも、積極的に動いていこう。


 まずは、ヒロインであるソルユアから情報を聞くところからかな。

 そして、この世界ではまだ会っていない最後の攻略対象、ラグトル・コルドリアとも会わなければ。

 そうしたら、何かがまた分かる気がする。

なんだかんだで上手くいったニュイランド姉妹の関係。ルナディールはソルユアにデレデレです。次回は、みんなでお話しながらルナディールが情報を引き出そうと頑張ります。

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