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前世の記憶

「……さま、ルナディールさま!」

「ふぇ……?」

「ルナディールさま、大丈夫ですか?お加減でも優れないのですか?」


 はっとして辺りを見回すと、そこはいつも私と友人のレティーナがお茶会をしていた我が家の庭だった。向かいに座っているレティーナは心配そうに私の方を見ている。片手にティーカップを持ち、優雅にこくりと首を傾げる動作に合わせ、くりぃむ色のサラサラした髪もするりと流れる。

 レティーナの優雅さには負けるな……っていやいやそうじゃない!

 私は感心しそうになるのをやめ、ついさっき急に頭の中に流れてきた情報について考えを巡らせる。


 私は今、レティーナとお茶会をしている。楽しく何気ない話をしながら、美味しいお菓子を堪能していた。すると突然、頭の中をぐわっと大量の情報が駆け巡ってきたのだ。

 それは、私は前世、生粋の二次元大好き人間で、アニメにゲーム、漫画、小説に囲まれて暮らしていたこと。二次元中心に生きていて、編集部で働いて大好きな数々の作品を紹介していたこと、給料の殆どを二次元に費やしていたことなどだった。つまり、私は生まれ変わりだったのだ。

 そこまではまあいい。だって私、前世では「貴族さまやファンタジーのある世界に転生したいなぁ」とか思っていたのだから。実際に転生できて万々歳だ。神様ありがとう!貴族に転生させてくれて、ファンタジーの世界に転生させてくれてありがとう!

 ……でも、だ。ここで重要なのは、私が誰に転生してしまったかってこと。そう、私は前世で大大大好きだった作品の主人公……いや、悪役令嬢?に転生してしまったのだ。

 なぜ主人公か悪役令嬢か分からないかというと、それはその作品の内容のせいだ。大雑把に説明すると、『悪役令嬢として転生してしまった前世の記憶を持つ少女が、その知識をフル動員して最悪の結末を逃れるべく奮闘し、最終的には仲間がたくさんできてハッピーエンドを迎える』というものなのだ。

 そう、だから私はとても悩んでいる。私が今転生しているこの令嬢、ルナディール・ロディアーナは悪役令嬢なのか、はたまたハッピーエンド一直線の主人公なのか。これが全く分からない。これは由々しき事態ではなかろうか。もし悪役令嬢なら、このままうかうかしていたらバッドエンドになってしまう。主人公なら文句はないけれど、どうなんだ?


 目の前にあるお菓子をキッと睨みながら考えを巡らせる私に、痺れを切らしたらしいレティーナが声をかけてきた。

「ルナディールさま、本当に大丈夫ですか?お身体の具合が悪いようでしたら、今日のお茶会はここまでにして、ご自分のお部屋でゆっくりお休みになられてはいかがでしょうか」

 自分の考えに没頭していた私は、ハッとしてレティーナににっこりと微笑む。

「ごめんなさい、レティーナの言う通り少し体調が悪いみたいなので、今日はここでお開きにしてもいいかしら?」

 と聞くと、レティーナもにっこりと微笑んで、こくりと頷く。

「もちろんですわ、ルナディールさまの体調が一番ですもの。どうかゆっくりお休みになってくださいませ。お元気になられましたらまたお茶会を開きましょう。それでは失礼いたします」

 優雅に立ち上がり、颯爽と退場していったレティーナを見ながら、行動の一つ一つに無駄がなく、優雅で素晴らしい様子を私も真似したいとしみじみ思った。


 私は、使用人にお茶会の後片付けをお願いして自分の部屋へと向かう。

 体調が悪いと言って寝巻きに着替えさせてもらい、私はそのままベッドにダイブして今後のことを考えることにした。


 まず、何から考えるべき?私がどっちルートに走っているかを考えるのが先?だとしたら、主人公ルートと悪役令嬢ルートの大まかな違いを出さないといけない。ええっと、違い、決定的な違い……。

 ……そうだ!確か主人公ルートだと妙に命の危険に関わるような危ないハプニングが多かった気がする。ストーリー展開上主人公が事件に巻き込まれてイケメンに助けられるとか必須だもん。平凡な日常送ってたらお話が始まらないし。

 それに対して悪役令嬢ルートだと、周りの人からの好感度はむちゃ低いけどこれといった大きな事件に巻き込まれることもなく、ある時まで平凡に暮らして、悪事が公となった時に何かしらの制裁を受けるって感じだった。そもそも悪役令嬢はサブキャラみたいなものだ。主人公並みに事件に巻き込まれるとかはないはず。

 ……と、いうことは?生きてる中で割と事件に巻き込まれる方だと主人公ルート、巻き込まれないで平凡に暮らしていたら悪役令嬢ルートってことで良いのかな?まあ、そういうことだよね?

 ……じゃあ、私はどっちルートなんだろう。今まで生きてきて……んー、事件には巻き込まれてないな。お話に出てきたイケメンキャラともまだ出会ってないし……主要キャラとだって全然交流がない。あるのはレティーナだけだ。ってことは悪役令嬢ルートかな?


 いやー、でもそれにしても私の好きなお話のキャラに転生しちゃうなんて凄いよね、ラッキーじゃない?夢が叶ったといっても過言ではないのでは!

 前世の記憶を持たない頃は何とも思ってなかったけど、こうして考えてみると流石だよこの世界!顔面偏差値が高すぎるもの!ルナディールの顔だって前世と比べたらむちゃくちゃ可愛いよ?ルナディール本人は周りの人と比べたらパッとしない顔立ちだーとかもっと可愛く生まれたかったって言ってたけど、全然可愛いから!

 ゆるくウェーブのかかった、胸辺りまである金髪。悪役令嬢っぽくちょっとキツめの青色の瞳。可愛いじゃない!前世でメロメロになった姿が今や私の今世の姿!こんなことってありますか?神様ありがとう!この世界に転生させてくれてありがとう!


 神様へ心の底から感謝をして、ベッドの上で跪き両手を胸の前で組み天を仰ぎ見ていると、その姿をコンコンコンとノックをして部屋に入ってきたメイドのラーニャにバッチリと見られてしまった。

「お嬢様……?何をなさっているのですか?お身体の具合はもうよろしいのですか?」

 怪訝な顔をしたラーニャにあははと愛想笑いをしながら、

「いや〜、風邪でも引いたのかしらね?まだちょっと体調が悪いから今日はまだ休んでいるわね」

 と言ってバサッと勢いよく布団を被る。ラーニャは「そうですか、ゆっくりお休みになってください」と言って飲み物やら何やらをベッド脇にあるミニテーブルに置いて退室していった。

 いや〜、神様に祈っている姿を見られるなんて恥ずかしいことこの上ないわ。見られたのがラーニャだったのがせめてもの救いね。


 ラーニャは私が小さい頃からお世話になっている専属のメイドだ。私の好きなもの、嫌いなもの、得意なもの、苦手なもの、対人関係、全て知っている気がする。だから、ラーニャには一番気を付けないといけないのかもしれない。

 なんせ私は前世の記憶を思い出してしまったのだ。性格もかつてのルナディールではないだろう。違和感を感じさせてしまうかもしれない。うぅ、ラーニャはメイドの中で一番信頼しているから嫌われたりしたくないな……。


 そこでラーニャに嫌われないよう、そして家族やレティーナに不審がられないように対策を立てることにした。よし、昔のルナディールと今の私の違いを出していこう!


 えーと、まず……昔のルナディールはお菓子や甘いものが大好きだった!それは今の私でも変わってないから大丈夫。

 次に……あぁ、お勉強が嫌いで色々サボっていたかも。確か部屋を抜け出したこともあったはず。抜け出すために使用人がいる場所、時間帯を割り出して見つからないように外へ出るルートを探していたっけ。

 そういうことには良く頭が働くのよね〜。ある意味天才なんじゃないかしら。これは悪役令嬢っぽい。

 でも前世の記憶を思い出してしまったからな〜、魔法の勉強とかファンタジーっぽくて燃えるんですけど、大魔導士とかになるためにお勉強頑張れちゃうんですけど。魔法への興味・関心はずば抜けてあるから勉強熱心な子になっちゃうかもね。これは注意しておかないと……。

 あとは……虫、かな?前のルナディールは虫が好きというわけでも嫌いというわけでもなかった。だから服についた虫なんかはペイッて払えたし蜘蛛の巣も木の棒でひょいっと取っていた。

 でも、今の私には無理だ。前世では大の虫嫌いだった私。特に蝶々やトンボなんかはダメだった。自転車を漕いでいたら蝶々が突進してきて、あまりの怖さにすっ転んだこともあったほど。ダメだ、貴族らしからぬ大声出して逃げる自信がある……。


 そこまで考えて、私ははぁと大きくため息をついた。

 ロディアーナ家は父が宰相を務め、母が大魔導士で聖女と称えられながら国を支えているエリート一家だ。故に周りの人がルナディールに寄せる期待は大きい。

 「お父様みたいにとても頭の良いご令嬢に違いありませんわ」「きっとお母様みたいに心の広く優しい聖女のような方で、魔力もきっと豊富なはずですわ」「頭が良く魔力の豊富なご令嬢ならば、将来が楽しみではありませんか」

 そんな言葉をよく社交界で耳にする。前のルナディールはそんな言葉に、心の中でやいのやいの言い返していたっけ。取り繕うのは上手かったからなぁ〜。これ、ほんと悪役令嬢ルートっぽくない?


 これは悪役令嬢ルートで決まりだな、うんうんと結論を出そうとしてはたと思った。でも悪役令嬢ルートだとレティーナに嫌われているはずだし、社交界でも下級貴族に嫌がらせしたりしてなかったっけ?そんなことしてなかったし……あれ、もしかして主人公ルート?


 んん?と一人もんもんと考えていたら、またドアがコンコンコンと鳴りラーニャが入ってくる。

「お嬢様、もうそろそろ夕ご飯のお時間ですが、皆様と一緒に食べられそうですか?まだ体調がよろしくないようでしたらお部屋にお持ちしますが」

 え、もう夕飯の時間なの!?うそ、お茶会から何時間も経ってるじゃない、そんなに考え事してたの私?そういえばお腹が空いてきたような……。

「ええ、もちろんみんなと食べるわ!もう体調も良くなったから」

 そう言ってベッドから出てとてとてとラーニャの元へ向かう。

 まだ色々考えたい事もあるけれど、とりあえずそれはまた後で考えれば良いよね。悪役令嬢ルートだとか主人公ルートだとか、良く良く考えてみたらどっちでも良いことじゃない。だって、私は私なんだもの。この先だってきっとなるようになるわ。前世のモットー、なるようになる!

 それに、私はこの大好きな世界に転生できた。それで十分。あとは大好きなキャラに会ってお話できればもう最高じゃない?だってこの世界にはいるんだもの。前世であれだけ願っても会えなかった二次元キャラたちが。それだけで幸せだ。何事も求めすぎたら痛い目を見ると言うしね。


 そう結論出した私は、るんるん気分で家族との夕ご飯を終え、眠りについた。

 前世の記憶を思い出して、憧れの世界に転生できた私、ルナディール・ロディアーナ。どんな人生が待っていようと、私はこの世界に転生できたことを幸せに思い、自由に生きていこうと思った。夢の転生生活が、ここからスタートするのだ!

初めまして、狐桜 雪です。自分で書いた小説を思い切って投稿してみることにしました。稚拙な文章ですが、温かい目で読んでくださると嬉しいです。これから推したちに翻弄されていくルナディールをよろしくお願いします。

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