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夏1

 ごうごうと黒い嵐が起こり、抑えきれないほど激しい雨と風が僕を飲み込んでしまい、僕にはどうにもできない。

 圧倒的な衝撃が遅い、黒く、熱く、冷たいものが僕の体の中を揺り動かす間、ただじっと嵐が過ぎ去るのを待つしかできないんだ。


 

 朝起きて、学校へ行き、誰とも話さず一日をやり過ごし、スマホで動画を見て、ネトゲをして、寝る。

 それをくり返す毎日はもう終わりにすることに僕は決めたんだ。

 

 

 自分の体に悪いってだけの酒やタバコは未成年では買えないのに、他のひとを殺せる道具はかんたんに買うことができる。世の中の仕組みはなんかおかしい。でも、だから、今、僕のカバンの中には人を殺せる道具が入っている。あとはいつ実行するかだけ。

 こんなくだらなくて価値のない人生なのに、それをいとおしく感じてしまう僕の馬鹿な感情が先延ばしにさせてしまう。実行する日が今日でなくて済んだことに毎日胸を撫でおろしている。

 でもその日はそう遠くない。もう決めたんだ。一度決めたことは守らないと。



 放課後、いつもの公園、家には帰りたくないから、ここでいつものようにスマホで動画を見る。いつもの人の死ぬ動画。交通事故だったり、遠い国の戦争だったり、自殺する人だったり、探せばいくらでも見れる。

 飛び出てしまった人間の頭やからだの中身を見ると胸が鼓動する。隠されていたものが白昼に晒され、目を背けるべきものを直視することに背徳感を覚え、目の前のことに夢中になる。今だけは同級生や先生や家族のことが忘れられる。嫌なことを考えないでいられる。

 死んだ人間の目って虚ろだ。まるで僕の目みたい。


 ちりん


 鈴の音がして我に帰る。


「ねえ君、それ子供が見てもいいの?」


「ぅわ!」


 急にすぐ後ろから話しかけられて驚いた。

 誰?知らない女子だ。同級生じゃなくて少しほっとする。同級生が僕に話しかけてくるわけない気もするが、稀に話しかけられると絶対ろくなことにならないからな。

 その子はなぜか浴衣姿。今日どこかでお祭りとかあったっけ?無表情な顔で僕を見てる。虚ろな目。僕よりずっと。


 僕は急に知らない女子から話しかけられてウザかったので無言で立ち去る。誰かと話すなんてストレスでしかない。そうだ、人間なんて嫌いだ。なるべく早足で歩く。振り返ってこっちを見てたら嫌なのであの子を振り返ったりなんてしない。

 

 公園を出て角を曲がる。あの子から見えない場所まで来たので振り向いてみる。追ってきてはいない。僕はまた歩き出す。

 

 遠くでまた鈴の音が聞こえた気がした。



 足のずっと下のほうで打上げ花火が開く。赤や黄色の明かりに照らされて僕の影がビルの壁に映る。花火の炸裂した音が風の音を打ち消してズシンと体に響く。心臓がドクドクと痛い。体中に血が巡る。僕は目をつむって叫んだけれど、それも花火の音で打ち消されてしまった。どうしようもない後悔と絶望。

 君の手がまた掴めなかった。


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