表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
「佐渡守」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/250

第八十三話 ~決着~

<天文七年(1538年)1月 越後国 蒲原郡 新潟城 広場>



 ガキン! ガキン!


 互いの刃と刃が火花を散らす。決定打はおろか有効打すら互いに出ていない。

 だが弥太郎の着物は所々切れている。穂先が(かす)ったのであろう。だらりと下がっている。


 互いに険しい顔のまま無言だ。軽口を叩く二人ではない。一瞬一瞬に己の全てを懸けている。


 春綱の額から汗がかなり浮かんでいる。鍛錬は山のように積んでいるのだろう。だが激しい動きをこれほどまでにしているのだ。疲れない方がおかしい。


 弥太郎は…… 汗を掻いていない。無駄な動きを省き体力を温存しているのか?

 しかし僅かながらに肩が上下している。弥太郎が疲れた素振を見せたのは初めてだ。


 ザッ! ガキッ! ザザッ!


 激しい攻防が続く。いつ終わる? 勝負の行方は!?



______________



 (たの)しい!

 これほどまでに骨のある者と闘えるとは!!


 加地春綱は興奮の真っただ中にいた。

 互いに剣であれば既に俺の命はあるまい。だが得意の槍であれば刀を持つ者には負けぬ! 届かぬ距離から攻めるのみ!


「ハッ!」


 ガン!

 必殺の気合を込めようとも、(きょ)()く動きを見せても、微動だにしない。

まるで大岩を相手にしているようじゃ。


 ……槍を持つ腕が下がってきた。

 この小島弥太郎という男は鬼の如き膂力の持ち主じゃ。我が槍を受けとめるだけではなく瞬時に押し返してくる! このままでは儂の体力の方が底を尽きる。出し惜しみしておる場合ではない!

 ()くぞ!


「シッッ! シシシッ!!」


 二連、三連、四連!! 乱れ突き!! 数多(あまた)の長尾の兵を(ほふ)ってきた必殺の技ッ!


 ガンガンガンガン!!


 なっ!?

 全て()なされただと!?


 ……フッ

 笑がこみあがる。凄い男はいるものじゃ。唾液が口の中に溜まりまくる。


 …… だが退けぬ! 民よ! (しずか)よ! ()まぬ! 俺は一人の男となる!

 一か八か! 命を取るか! 取られるかじゃ!


「うおぉおぉ!!!」


 槍を持ち上げ小男目掛けて叩き落とす!

 勢いと重さで叩き潰す!


 ガシンッ!


 味わったことのない感触が過ぎった。小男! ()()()()()()()()()!?

 穂先が彼方へと吹き飛んだ。槍は唯の棒と化した!


「まだまだっ!」


 棒となった槍で滅多(めった)突く! 突きながら間合を詰める!

 防がれ斬られる槍。構わず突き進む!


 ペッ!!


 (つばき)を小男の目に吹きかける! 視覚を奪う!

 (かわ)された!? 隙ありッ! そこだ!!

 この一撃に賭ける!!


「イヤアアアアアアアアアアアアッ!」



_____________________




(今だッ!)


 春綱の特攻! 

 皆の意識がそちらに向いた今()()()()()()


 右手を左袖の袂に伸ばす!

 本間照詮! その命、もらい受ける!!


「おっと」


 パシッ


 万力のような力で右手を押さえつけられた!?


「そいつはおよしなすって」


 軽い口調だが凄みと重みのある声。音もなく儂に近寄っていた!?


「何者だ!」

「へっ。名乗るほどのモンじゃございやせん。今は二人の戦いを目に焼き付けましょうや。無粋なモンはお仕舞いくだせえ」


 ……()れていた。

 まさか監視を付けられていたとは。


 …… わが命、我が領土も、ここまでか……



______________________



「ま、参った!」


 弥太郎の脇差が加地春綱の喉元に突きつけられていた!


「勝負あり!!」

 俺は夢中で叫んだ!


 何が起きていたか見えなかった。分かることは、春綱の槍が木刀ほどに短くなり、鉢巻きは切れ、額から血が(にじ)んでいることだ。弥太郎が驚くほどの早業(はやわざ)で薄皮一枚で斬ったのか? いや、届いていなくても剣圧のみで斬ったのか!?


「……参り、申した」

「……」


 ドッと両膝を白砂に付き、負けを認めた春綱。だが、その顔には死線を越えた満足げな表情が(うかが)えた。


「白狼、ありがとうな」

「へっ。おいらは何もしちゃいませんぜ?」

 そう言うと伝説の忍びはヘヘッと笑った。


「…… 竹俣殿」

「…… 覚悟は出来ております」

 竹俣昌綱(たけのまたまさつな)だった。不審な挙動と目の動きをしていたため白狼に合図を送っておいた。きっと(たもと)に針か小刀を隠しもっていたに違いない。助かってよかった。


「首も領地も諦め申した。(それがし)独断(どくだん)でござる。揚北衆の皆の命はお救い頂ければ幸いでござる」

「いや、それには及ばんぞ」

 俺は極めてニコリと笑った。


「領地、領民のことを想ってのことだろう。千載一遇の機会を逃そうとしなかった、それはある意味正しい」

「……」

 顔面蒼白(がんめんそうはく)だ。人の顔は、こんなにも白くなるんだな。


「白狼は『何もしなかった』と言った。俺はそれを受け入れよう。竹俣殿の機を逃さぬ胆力を、是非別の機会に使って頂きたい」

「……」

 竹俣昌綱は(うつむ)いている。命を狙ったのを「無かったことにしよう」と言われているのだ。頭の中が混乱しているようだ。


「それでは(ぬる)いか。では・・・竹俣殿と領民の御命、俺が預からせていただこう。・・・()()()()()()()()()()?」

「は、は、ははっ!!」

 昌綱は蛙のように頭を床に(こす)り付けた。本来なら未遂でも一族郎党晒首(さらしくび)だが、今回だけ特別だ。今後、死に物狂いで役に立ってもらおう。



___________________



 二人の勇者が評定の間に戻ってきた。


「弥太郎! 春綱殿! 見事な戦いで御座った!」

「ははっ!」

「…… う゛ん。」

 神妙な顔つきの加地春綱、そして変わらぬ弥太郎。


「お見事でした!」

「かような一騎打ち、見たことがありませぬ!」

度肝(どぎも)を抜かれ申した!」

 揚北衆の皆も魂を揺さぶられたようだ。

 戦乱の世だ。いくら鉄砲や大砲が凄かろうとも、個人の武の輝きにはある意味(かな)わない。


義兄上(あにうえ)。某が戦えなくて残念であるが、認めて頂けますかな?」

「…… これまでの大変なご無礼、お許しくだされ。義兄上など勿体(もったい)ない! 某のことは春綱、もしくは春とだけお呼びくだされ」

「そうか。では・・・春綱、俺に従ってくれるな?」

「命に代えましても!」


 良かった。これほどの剛の者が味方になってくれたのだ。弥太郎様様だな。

「弥太郎、流石だったぞ!」

「・・・あ゛あ゛」

 朴訥(ぼくとつ)とした弥太郎の反応。しかし、俺は知っている。弥太郎が超喜んでくれていることを。


「一つだけ、お聞かせいただきたく存じます」

「何じゃ?」

 春綱から質問だ。


「小島弥太郎殿の鬼神の如き強さ、真にもって見事に御座った。ただ、何故(なにゆえ)に『脇差』を一騎打ちの得物にしたか、聞きとうござる」

「ああ、それか」

 手を抜かれた、と勘違いされては困る。ここは言っておくか。


「弥太郎はな…… 脇差しか使ったことがないのだ」

「…… は!?」

 驚くほどに間抜け面をした加地春綱。イケメンが台無しだ。


「槍とか刀など、勢いがあり過ぎてすぐ折れてしまうのだ。今持ってる美濃伝の名脇差ですらギリギリだ。決して手を抜いた訳ではない。この世に折れぬ太刀や槍があれば、修練させるのだがな!」

「ふふっ、そうでありましたか。ははは!! これはやられ申した」

「…… 槍もいいがな。おれ、しゅうれんづむ」

「ふはは! こりゃ、金棒でも用意せねばならんな!!」


 ハハハと評定の間に笑いが起きる。ヒリヒリするような新年会だったが、何とか笑いが取れてよかった。会議に笑いがあるかないかで、結束力が大幅に違うからな。


「では、これにて新年会を〆させていただく! 雪解けの三月! 出羽国(でわのくに)に出陣致す! 各々方(おのおのがた)、御準備願う!」

「「ははっ!!」

揚北衆の取り込みに成功。

出羽国へ侵攻開始します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] 照詮君、なかなか甘いですね。話し合いの場で暗殺を企んだ人間は処罰しても良さそうですが… 加地春綱は信服したのは間違いないとして、竹俣昌綱は怪しいですね。彼の性格次第ですが、照詮に嫌われたと…
[一言] 加地は完全に心服したし竹俣はこれで主人公のいのままに動く奴隷も同然だな
[良い点] 工エエェェ(´д`)ェェエエ工弥太郎どんだけ~www 総金属製の金砕棒やドラゴン殺しなどじゃないと無理でしょw [気になる点] 竹俣と加地の取り込みのきっかけ(貸し)が出来ましたね~ あと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ