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佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
「佐渡守」

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第七十八話 ~北日本海制覇~

戦略パートです。

<天文六年(1537年)12月 佐渡国 羽茂郡 羽茂城 評定の間>



議題は、「これからの羽茂本間の目標」と「南蛮交易で得た武器や胡椒(こしょう)、砂糖の使い方」だ。


俺は、環塵(かんじん)叔父、椎名則秋(しいなのりあき)、弥太郎、宇佐美定満、新発田収蔵、赤塚直宗、白山弥彦(はくさんやひこ)水越宗勝(みずこしむねかつ)本庄秀綱(ほんじょうひでつな)、イゴール、ヴォルフハルトら主だった武将を集めて大評定を行っていた。山本勘助と捧正義は新潟城改修の為に現地活動中だ。代わりに直江津から白狼が来てくれている。黒蜘蛛、青蜘蛛、紫鹿らも集っている。忍びの頭が揃うのは珍しい。


「まず、俺から今後の方針を示したい。我が羽茂本間家は『北日本海制覇』を大目標とする! 北は蝦夷(えぞ)十三湊(とさみなと)から、南は輪島湊(わじまみなと)まで。日本海の利を独占することにより、大きな力を得る!」

「おおおっ!?」


宇佐美定満と話した「黒小灰蝶(クロシジミ)」を目指すにあたり、これがもっとも現実的かつ効果的な方針だと思う。皆の顔は驚き半分、「本当にできるのか?」と疑念半分といった所だった。何せ佐渡統一だけでも大事業だったのだ。しばらくは領地安泰を目指すことも一つの方針だ。


「お尋ねしても宜しゅうございますか?」

赤塚直宗が手を挙げた。


「何だ?」

「日本海の利の大きさに関しては、異存はありません。加えまして、陸に関しましては、どのようにお考えでしょうか? 長尾家に関しては?」

なるほど、直宗らしい質問だ。


「まず、長尾家に関しては現在の友好な関係を維持していく。長尾家の目標である越中国(えっちゅうのくに)に関しては介入せん。手伝い戦の声がかかれば行く。だが、こちらから単独では仕掛けぬ」

「となりますと、越後国(えちごのくに)中西部と越中国は長尾家に任せ、我らは出羽国、陸奥国北部、能登国(のとのくに)を目指す、ということでよろしゅうございますか?」

「そうだ」

分かってもらえたかな。


「某からも、よろしゅうございますかっ!」

猛烈な勢いで叫んだ者がいた。新たに加入した、本庄秀綱だ。


「よい。我が羽茂本間の評定は誰にでも発言権がある。最終決定は当主がするがな」

「ははっ! ありがたき幸せっ」

深々と若武者は礼をする。あの件だろうな。


蒲原(かんばら)郡と対峙する揚北(あがきた)衆は、根切(ねぎり)いたしますでしょうか! また! その際は、某に先陣をお任せ頂けませぬか!?」

やはり、一族の仇討ちか。秀綱の父、本庄実乃は上条定憲の命により夜襲をかけた揚北衆に殺されていた。父だけでなく、一族郎党皆殺しにあったのだ。報仇雪恨(ほうきゅうせっこん)したいと考えるのも無理はない。


「某から、よろしいですかな?」

「ふむ、定満。申してみよ」

「時は戦乱の世。朝廷や足利家の力は地に堕ち、各地は未だに戦火が絶え申さぬ。この動乱を、力ある者が統一することこそ、何よりの民への救いとなりましょう」

「うむ、そうじゃな」

則秋が相槌を打つ。


「その際、肝要なことは『戦わずして勝つのが上策』『戦うは下策』『城攻めは(もっと)も下策』という孫子の兵法でござる。揚北衆はそのままにしてはおけませぬ。ですが、戦となればこちらとて無傷では済みませぬ。そして、必ず被害の大きな城攻めをせねばなりませぬ。調略でこちらに味方させることができれば、それに優るものはないと考えます」

「なっ! そのまま生かすと申しますか!?」

「左様」

定満は冷ややかに秀綱の言葉を切った。


「幸いなことに、我が羽茂本間には力があり申す。揚北衆と合力して攻めれば、出羽、陸奥は我らの敵では御座らぬ。天文七年中には出羽、八年には陸奥を落とし、九年には名門畠山家が治める能登国を落としましょうぞ」

定満の策の方が具体的で論理的。利点が多い。秀綱の言葉は、感情的な要素が強い。情けは無用だ。


だが、秀綱は納得できていなそうだ。ここで「お前の気持ちは感情論だ! 受け入れられぬ!」と俺が断ずれば、今後の行動に支障がでるかもしれん。One-We-Iで伝える必要があるな。


「秀綱。お主の気持ち、しかと受け取った。一族を攻めた敵が残っている中やり切れぬことも多かろう」

まずは、相手の気持ちを受け止める。否定はしない。


「揚北衆は確かに憎い。だが、落としたあとで何とする? 『我々』の敵は、この乱れた戦国の世だ。それを正す大きな目標に向かっていこうではないか。そのためには、お主の力が必要だ。『我ら』の力で、戦乱の世を終わらせようではないか」

共通の目標を持つこと。仲間だと伝えることは大切だ。


「そなたの父、本庄実乃は大局観に優れた傑物であったと聞いておる。そなたには『広い視野を持て。仇討(あだう)ちに(こだわ)るな。』と言っていると俺は思うぞ。揚北衆を越え、父を越え、本庄家を再興(さいこう)する者となってほしい。これは俺の思いだが、受け入れてもらえぬか?」

「・・・」

最後に自分の意見を伝える。丁寧に説明し、次への展望を伝えることで信頼関係を結びつける言い方だ。

無論、俺とて個人的な感情で佐渡を統一したようなものだ。仇討ちが悪とは言わぬ。だが、大事なのは「過去」ではなく、「現在」であり「未来」だ。未来志向で考えれば、俺が佐渡を統一することは必然だった。秀綱の仇討ちでは、過去の整理はつくが現在や未来へのよい影響は少ない。未来志向で何事も取り組むべきだ。


秀綱はフルフルと震えている。気持ちの整理をつけているのだろう。

肩を強張(こわば)らせ、目をこすり、必死に気持ちを静めている。若い。だが、気持ちの強さはいい。本庄家の再興を目指してほしいことは、俺の本心だ。


「・・・某のような者への過分なお言葉。感謝のしようがありませぬ」

「・・・分かってくれたか?」

「ははっ! 一所懸命に働きまする! 本庄家の再興を目指し、精進致します!」

「期待しておる」

「はっっ!」


決まった。もし、揚北衆が愚かな者であれば、秀綱の悲願は果たせよう。だが、そこまで愚かではあるまい。


「では、『北日本海制覇』を目標に掲げる。三年間の大目標じゃ! 皆の者、力を貸してくれぃ!」

「「ははっ!!」」


3年間の長期目標が示された。場合によっては早くなる可能性もあるし、手間取れば長引く可能性はある。四か月に一回開く大評定で、少しずつ目標を修正していこう。



「では、次に南蛮交易で得た物の使い方じゃ。宗勝! 『フランキ砲』『マスケット銃』について述べよ!」

「ははっ!」

俺が命じると、鉄砲隊隊長の水越宗勝は、部下に命じて実物を評定の間に運ばせた。


二人掛かりで吊り下げられて運ばれてきたフランキ砲は、大砲というよりは小型の筒だった。重量は50kgくらいだろうか? 二人で運べるなら陸上運用も可能そうだ。あれだな。もの〇け姫に出てきた石火矢みたいなやつだ。


「『ふらんき砲』は、この横から火薬を入れた子砲を入れて五両(約187.5g)ほどの弾を撃つものでござる。威力・射程は『でみかるばりん砲』には及びませぬが、運搬しやすいのが特徴と考えました。飛距離は600mほど飛びましょうか。火力の低さは数で補うのがよろしいかと存じます」

「なるほど。いい報告だ。マスケット銃についても頼む」

「『ますけっと銃』は、某が今使っております『あるけぶす銃』より長く重たい銃にござる。五匁(約18.5g)ほどの弾を凄まじい速さで撃ち申す。仰角をつければ500mほど。水平でも200mほどで、威力は十分ですが・・・」

「・・・当たらぬか?」

「ははっ。修練が足りぬこともありますが、弾がぐんと曲がります故・・・」


マスケット銃もライフリング加工していないため、空気抵抗に負けて曲がりやすいか。実質の火縄銃と言っていいアルケブス銃より高火力なのは間違いがないが、当たらねば意味はない。50mほどまで引き付ければもっと精度は高くなるだろうが、それだったら弓矢の方が安全性・速射性において勝る。


「報告ご苦労だった。フランキ砲は、デミカルバリン砲が持ち運びし辛い場所での運用を考えよう。マスケット銃に関しても、使い道を考慮しよう。今後とも頼むぞ」

「ははっ!」


『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』の(ことわざ)もある。その名の通り、狙いもつけずに空間目掛けて斉射するのが一番効果的かもしれんな。数名なら撃ち抜きそうだし。


白山弥彦は嬉しそうに声を出した。

「凄いな! このようなふらんき砲が五十に、ますけっと銃が三百! どしどし使い、次に我ら槍隊が突き進めば、破竹の勢いじゃ!」


だが、新発田収蔵は慎重論を唱えだした。

「いや。南蛮の武器に頼り切りになるのは危険かと存じます」

「なんぞ?!」

弥彦はよく分からない様子だ。だが、収蔵の意見に則秋、定満も頷いている。


「この度、もたらされたこれらの武器は、いわば天からの贈り物でござる。故に、使ってしまえば次にもたらされるとは限り申さぬ」

「いや、だってまた南蛮船は来るじゃろ?」

「いつ? どれくらいの規模で?」

「え・・・それは・・・」

弥彦は口ごもってしまった。そう、それは俺すらも知らない。オレダーノ氏は「またくる」とは言ったが、いつとは言ってはいない。レイリッタ達はリスボンに向かっているが、知り合いの商人がいつくるかは不明だ。来月か、半月後か、それとも5年、10年先か。まったく分からないのだ。


「希望的観測で物事を進めるのは危険でござる。これらの武器を使い尽くせば確かに領土は広がり申そう。しかし、どのようにして守りますか? 使い尽くした後、守ることは至難の業でござる」

「常に余力を残しつつ、効果的に使う。命を守るときは惜しげもなく使ってよいが、無駄遣いは禁物じゃと考え申す」

金銭に厳しい収蔵、堅実派の則秋が釘を刺した。


「イゴール殿、ヴォルフハルト殿、ヤルノ殿と力を合わせ、佐渡内で大砲や鉄砲の生産、硝石を使っての火薬の自作を目指すべきでござろう。自分達で作れるようになってからこそ、前線に大量に出すべきでござる」

「ですな」

手堅い。金銭面でも、軍事面でも浮ついたことがないのは、二人がいるおかげだ。


「それと、船の生産も進めましょう。南蛮の造船に詳しいイゴール殿がいるうちに、南蛮船やジャンク船の造船、技術の継承を進めるべきでござろう」

「それはよい考え」

「しかし、木材はどうする?」

「木材が足りなければ集めましょう。幸いなことに清酒やビール、塩、蒲鉾などを買い求めに、各地から商人が集まりつつあります。人も増えつつありますので、建材としても大量に必要になっております。買い取り価格を上げ、各地からよい木材を集めましょう」

「なるほど」

「だが、小木の港が忙しすぎるぞ。赤泊や二見などの港を使うべきではないか?」


(せき)を切ったように、皆が討議しだした。

非常にいいことだ。評定の間が、各々の考えを伝える場となっている。勢いがあると言っていい。俺がトップダウンで判断する事も必要だが、様々な意見を出し合うことでより考えが充実することもある。互いの経験を生かし、よりよい方策を取り入れていこう。イエスマンばかりの首脳がいる国家は、崩れるだけだ。


火器に関しては、一定数を佐渡国内に貯めておく。そして、十分に守ることができる量を越えた分を攻めに使う。自作できるようになれば、飛躍的に数は増えていく。鉄鉱石や硝石、石炭、硫黄なども集めよう。火器をあまりに使い過ぎると、他国からのマークがきつくなる。大砲や鉄砲だって消耗品だ。20発も撃てば壊れるものもあろう。虎の子の兵器を使い切った所を攻められ、ゲームオーバーなんてシャレにならない。

火器の備蓄に関しては、現代の日本で石油を一~二か月分備蓄しておくような感じでいけばリスク管理ができよう。使うと決めたら躊躇はしないが。


大体話は収まったな。よしまとめよう。

「揚北衆には服従を求める。当面の攻略目標は越後国の北、出羽国南の大宝寺、砂越、最上、小野寺だ。来秋には安東氏を攻め落とし、土崎湊を我らの物とする!」

「ははっ!!」


「次に砂糖と胡椒について吟味する! ヴォルフ、持ってきてくれ」

「ハイ」


砂糖で能登国を落とさねばな。

「図解 火砲」(水野大樹 著)、「戦国大名勢力変遷地図」(外川淳 著)などが届きました。

火器や1537年前後の戦国時代の資料として使っていきたいと思います。


火器本については、アームストロング砲の垂直鎖栓式の閉鎖機とか、日本海軍の砲身寿命の目安が口径12cm級で600発、口径30cm級で200発となっていたとか役に立ちそうなものがたくさん載っていました。ですが、いきなり素人が「よし! ねじ式密閉によってガス漏れを防いで、後装砲の問題点を解決したぞ!」と思いつく訳はないので、できる内容、できない内容を考えていきます。


出羽国南は、武藤(大宝寺)氏、最上氏となっていますが、細かく郡に分かれていてそれぞれに領主がいたそうです。細かすぎるのも辛いので、いけるところはざっくりといきたいと思っています。

これで、関東、近畿、中国、九州などの情勢にも触れることができます。歴史をなぞるだけの物語ではないのですが、ある程度は史実を元に進めていきます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 北海帝国という感じですね。個人的には嬉しい展開です。 [気になる点] 譜代の家臣がいないので、人材不足の解消が鍵になるでしょうか。佐渡と下越までなら、今の陣容で治められるでしょうが、能登や…
[気になる点] 流石に気球を作るのは無理ですかねぇ(笑) [一言] 北日本海制覇、大きく出たな照詮。 困難な道のりだけど、何とかなるでしょう。
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