第六十二話 ~静平の戦い「二」 悲戦~
<佐渡国 羽茂郡 西三川 漁港>
「間に合ったか?!」
五百の兵を率いて、俺は西三川の小さな港に到着した。
西三川城は、仲馬おじに防衛を任せた。大砲や鉄砲も持たせたし、相手河原田の全軍が攻めてきても大丈夫なはずだ。無理をしていなければ。
「照詮様!」
そこに隠れるようにして待っていたのは、忍びの紫鹿だった。
「紫鹿! 戦況はどうだ?!」
「西三川城は無事です。食い止めています! でも、でも・・・農民達が!!」
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<佐渡国 羽茂郡 西三川 静平>
とんでもないことが起きていた。
河原田軍は、付近の農民を捕らえると西三川城の前に連れていき、一人ずつ殺していたのだ!
大砲や鉄砲という未知の兵器に攻め手を阻まれ、業を煮やした河原田本間当主の本間貞兼は、卑劣な行動に出ていたのだ。
・・・いや、俺が甘かったのだ。
戦国の世の常套戦法だ。
相手の城付近まで寄せ、相手が閉じこもれば、付近の村を襲い、畑を焼き、田を荒し、男を殺し、女を犯す。そして、住民を乱取りして引き上げる。その繰り返しで国力を削ぎ落す。
城からの攻撃が届かぬ位置からの挑発。もし城内の兵が出てきたら、それを攻撃する・・・
・・・甘かった。甘すぎた。
何が義の戦いだ。何が佐渡統一だ。
非人道的な日常こそが、戦国の世。これが当たり前。これが当然なんだ。
「クックックッ・・・ ハッハッハッ・・・ アーーーーーーハッハ!!!」
俺は笑い出してしまった。
周囲の供達は立ち尽くした。気が触れたかと思ったかもしれない。
「照詮! いかがした!?」
「環塵叔父・・・ どうやら俺は、綺麗に戦いすぎていたらしい。戦を、芸術か、神聖なものか何かかと、勘違いしていたらしい・・・」
「対馬守様・・・!」
環塵叔父、山本勘助が心配そうに俺に声をかける。大丈夫。俺は冷静だ。
・・・俺はそのような手は使わんぞ。使わなくて済む世に変えるのだ。
佐渡を! 日本を! 世界を!!
俺は、腰に差した刀を引き抜き、天に翳した。陽光が刃に反射し眩く光る。
「皆に告ぐ・・・ 全軍突撃だッ!!!」
怒りの形相で、数町先の河原田軍に刃を突きつける。
「河原田軍を『殲滅』せしめる! 髪の毛一本残すな! 捕虜も獲らぬ! ただただ突き進め!!!」
「応ッッ!!」
平原の戦だ。戦略も何もない。ただ武力を叩きつけるのみだ。
「すうぅぅぅすめえええええええええええええええええッ!!!!」
黒色の長槍隊が進む。
弓隊は二斉射した後、槍隊と共に河原田軍との白兵戦に移った。
大砲は近すぎて使えない。大砲隊も白兵戦に移る。
「弥太郎! 本陣は大丈夫だ! お前も行ってきてくれ!」
「・・・わがっだ。いってぐる」
最強の兵を攻め手に回す。
環塵叔父と勘助とレン、長谷川海太郎の4人の供だけを残して、あとは攻めに回した。
「行けぇええ!! 進めぇぇぇ!! 河原田本間を斃せえええええ!」
俺は叫んだ。
夢中で。無我夢中で。声が枯れるまで。
涙が枯れるまで・・・




