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佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
「目覚め」
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第五話 ~暗雲~

 島外に出たことのある唯一の知人、環塵(かんじん)叔父に色々尋ねると、どうやら今は室町~戦国時代のようだ。


 足利氏が将軍家として存在しているが、京の都は荒れ果てていると聞く。織田信長や徳川家康について尋ねたが、知らないらしい。上杉を訪ねると関東管領という言葉はあったが、越後は長尾氏が中心と聞いた。謙信が活躍する時代か、もう少し前か?


 そして、ここが佐渡ヶ島であることをようやく知ることができた。佐渡ヶ島と言えば、朱鷺(とき)の島として有名だ。そして金山。俺の母は、佐渡ヶ島出身だ。幼い頃に、能面作りの名人だった祖父や、穏やかな祖母に会うために佐渡を訪ね、金山跡や尖閣湾、ゴールドパーク等に行ったことを思い出した。

 流刑の島としても有名だな。日蓮上人とか何とか上皇とかだっけ…… 



 本家を潰したことは、「流行り病で本家が全員亡くなった」と役人に伝えた。身内の誅殺など言えるはずもない。環塵(かんじん)叔父が下役人に報告すると「うむ、そうか」と受理された。意外なほどに特に何も言われなかった。大丈夫かな?


 本家が亡くなった後、俺が千手村の名主を継いだ。本間照詮(しょうせん)というのが俺の名だ。数えで7つだから、実際は6歳か。環塵(かんじん)叔父が後見人として補助してくれる。まずは、村の現状を調べよう。


 千手村は、人口が100人程度。羽茂郡の山中にある集落だ。

 上下水道はない。学校もない。電気もガスもない。警察も消防もない。無い無い尽くしじゃないか。


 主な産業は、米作と柿作り、竹細工くらい。どこにでもある、貧乏な村だ。寺は環塵(かんじん)叔父が住職を務める真言宗の寺が1つだけ。海からはちょっと離れているが、小木の港までは大人の足なら数時間で行ける。


 俺は村を回りながら、「千手村を豊かにしていかなくては」と思いを巡らせていた。金の力を使えば、より人を集められる。空地を有効活用できるし、新たな産業なども起こせるかもしれない。


 俺自身に特別な知識や技能はない。

 日本史も詳しくないし、農業や工業に関しても素人だ。ただ、ゲームは好きだった。

 「耕作」や「治水」を行って、「町に投資」して、「民に施し」をして民の忠誠度を上げるのが一般的な内政だった。だが、実際はそんなに簡単なものじゃない。

 もっと、DAS〇村を見て農業のことを知ったり、工業や化学の知識や技能を身に着けたりしておけばよかったが…… 今では致し方ない。ハーバボッシュ法とかダイナマイト作りとか、聞いたことはあるけど、どうやってやるか分からない。どうしたもんか……



 そんなことを歩きながら考えていると、矢庭に暗雲が立ち込めてきた。


「大変だべ!! 領主の手勢が寄せてきてるべ!」

 村の吾平が飛んで知らせにきてくれた。何だって!!?


 佐渡の南を預かる羽茂本間の領主からの手勢が来たのか!?

 まずい。まず過ぎる。何も備えがない!


 こちらは百姓で、鎌や小刀くらいの装備しかない。

 領主の手勢はれっきとした侍達だ。百姓素人の生半可な武装や軍事力では歯が立たない可能性が高い……

 一か八か、やるか……? しかし余りにもリスクが高すぎる。相手の戦力の把握も済んでいない。クソ……


 甘く見ていた。

 戦国時代なんだ。何が起きても変じゃない。

 ゆっくり村の見回りをしている間に、罠や刀で殺される可能性だってあるんだ。


 …… まだ、本家の奴等を誅殺したことが知られた訳じゃない。襲撃に来たと決まった訳じゃない。

 領主への年貢は払い終わっていると聞いている。ただの見回りの可能性だってある。


「村の衆、今日は様子見じゃろう! 安心しろ! 大丈夫だ!」

 そう、大丈夫だ。俺は、自分を落ち着かせるためにも、皆に何度もそう言った。嘘も百回言えば信じることにつながる。心理学でもそんな論があったはずだ。



_____________



「千手村の者ども、羽茂郡領主、本間(ほんま)高季(たかすえ)様が家臣、斎藤堯保(さいとうたかやす)が参った。さっさと出迎えい!」

「はは~、ただいま!」

 俺は、環塵叔父、仲馬おじと一緒に土下座をして領主の家来たちを迎え入れた。


「うむ、汚らしい村かと思いきや、少しは人が住めるようじゃな」

「はは、お恥ずかしいことでございます」

 俺が土下座したまま答える。


「山道を歩いて疲れたわい。おい、庄屋の家まで案内せよ」

「は、ただいま。」

 3人で顔を上げる。斎藤堯保。目の周りは窪み、皺だらけの老年といっていい小役人面だ。目だけがギョロと大きくて気持ちが悪い。おっと、思ったことを表情に出さないようにせねば。スマイルスマイルだ。


 役人共の数を数える。2・4・6・8・・・・10人。それなりな着物を着ている者が4人。太刀を持っている。これは武士だろう。その中の一人は、本間家の家紋「丸に十六目結」の旗を持っている。そして、山賊崩れのような恰好をしているやつが6人。槍担ぎが4人。大きな籠を背負った者が二人。下働きか。


 汚い恰好の6人は家の外で待つようだ。他の斎藤堯保と武士4人は俺の家に迎え入れた。堯保を上座に武士4人が2人ずつ脇に座る。俺と環塵叔父、仲馬おじが下座だ。


「今日来たのは大きく2点じゃ。1つ目はそなたらの働きを褒めてつかわすことじゃ」 

 そう来たか。


「本家の者が亡くなったと聞いたが、村に大きな混乱もない。落ち着いたものじゃ。そちらがまとめておるのか。土着民にしてはまずまずよくやった。」

「はは~、もったいないお言葉にございます」

 上げて落とすやつだろ。分かるわ。


「もう一点が残念なことじゃ。そちらの千手村から、年貢の納め忘れが発覚してしまった。これはゆゆしきことじゃ」

 すげー言いがかりつけてきた。村の大人たちは汗水たらして働いて、きっかり五割を納めたと聞いている。五公五民で何ら問題はないはずだ。


「恐れながら、斎藤様。わが村の収穫、全て正しく計量してお納めしたと聞いております。万が一にも納め忘れなど……」

「本当かのう? 怪しいのう? ワシが見たところ、この村にはまだまだ余裕があるように感じるぞ? …… 密告もあった。その方らがここ最近、隠れて財を蓄えておると。間違いなかろう?」


 明らかな言いがかりだ。まだ村主になって2日だぞ!


「恐れながら…… 」

 俺がもう一度口を挟もうとすると、斎藤堯保が急に床を強く殴った。そして声を荒げた。


「おい! そこの小僧! 先ほどから楯突きおって! このワシに逆らうつもりか! 生意気な奴じゃ! このワシを誰だと思う? 努力を重ねて羽茂本間の外回りを一手に引き受ける斎藤堯保じゃぞ! この村ごと潰してもいいのじゃぞ!」


 ヤバい。失敗した! 土下座を続けるべきだった! 読みが浅かった!!


 ガン!!


 急に頭から金槌が降ってきたような痛みを感じた。顔が床にめりこんだ。

 次には、胸倉を掴まれた。相手を見ると、環塵叔父だ。え、何で?


 環塵叔父は、能面のような顔で俺を見つめたあと、さらに俺を本気で殴った。


 ゴスッ! 


 俺の体は吹っ飛んで、柱まで飛んだ。

 さらに、俺を追いかけて、踏みつけたり蹴飛ばし始めた。痛い! 


 暴行は5分ほど続いたであろうか。俺がボロ雑巾のようになったのを確かめると、環塵叔父が頭をこすりつけながら役人共に言った。


「生意気なガキで大変失礼を致しました。拙僧の甥でありますが、口ばかりでまったく何も役に立たない穀潰しであります。大変不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ありません」

 

 叔父はまだ続ける。


「年貢の納め忘れの件。大変失礼を致しました。村の者を問いただし、正確な量を必ずお納めいたします!」


 しばらくの沈黙の後、満足そうに斎藤が答えた。

「うむ。お主らの間違い、ワシがご領主、高季たかすえ様に取りなしておこう。きちんとした量を納めるのだな、ハハハ。・・・それと、この屋敷の調度品などは、ちと百姓共にはもったいなさすぎるのう。ワシが大事に使ってやるが、よいか?」

「はは、ご随意に!」

「うむ、初めからそうやって素直であればいいのじゃ。おい」


 と、斎藤が合図すると、配下の武士達は家を物色しだした。前の本家の奴らが残していた屏風や掛け軸、壺などが下働きの籠に次々と入れられていった。


 騒ぎに気付いた村の者達が「どうしたことじゃ?」と家に集まってきた。環塵叔父は「いいのじゃ」と皆を押しとどめ、役人共の為すがままにさせた。


「照詮! どうしたの!?」

 集まった中にいたレンが、倒れ込んでいる俺に気付いた。駆け寄って俺の顔を撫でてくれる。


「ん?」

 斎藤がレンを見つけた。


「おい、そこの娘。丁度、屋敷の下女が病で死んだばかりじゃ。ワシの屋敷で飼ってやろう」

 何と、レンまで持っていくつもりか!?


「お、お、恐れながら……」

 と、それに逆らおうとする仲馬おじ。レンの父親ならば当然だ。しかし……

「んん? 何かあるのか?」

 斎藤がニヤつく。共の武士共もへっへと薄笑いを浮かべる。

 絶望的な顔を浮かべる仲馬おじ。一人娘を取っていかれてしまうのか……


「おお、しかし今日は日が悪いですな。」

 おどけた声を出した者がいた。


「今日は、我らが住む佐渡の大盟主、佐渡本間氏の家祖であられる本間能久(よしひさ)様のご命日であられまする。こんな日に奉公に出すのは、大変縁起の悪いことでございますなぁ。一月後には大日如来様のめでたい日がありますので、そちらの良き日にご奉公にお出しいたしましょう」

 環塵叔父だった。飄々(ひょうひょう)としたなりで、さぞ相手の事を思いやるような体で伝えている。


「…… ふむ、そうか。ならば日を改めることにしよう。一月後、待っておるぞ」

 そういうと、斎藤達役人共は、籠に入りきらないくらいの食糧や丁度品を抱えて村から出ていった。



_________________



「照詮、済まなかったのう。この通りじゃ」

 レンに手当をされている俺に向かって、環塵叔父が手を合わせる。


「ああでもせねば、もっとえらいことになってたっちゃ」


 俺は、傷む体を環塵叔父の方に向き直した。そして正座をして手を床に合わせて深く礼をした。

「俺の方が謝るべきだ。俺は自分の一時の感情だけでこの村全体を危険に晒してしまった…… 」


 仲馬おじも言う。

「レンの奉公を一か月遅らせてくれて、本当にありがとう。流石は京まで行って学んできたご住職様じゃ。佐渡本間の先祖様のご命日までも知ってたなんてなぁ……」


「……あんなもん、作り話だっちゃ」

 ええええ~?! 


「四方を丸く収めるための法話みたいなもんだっちゃ。仏様もお許しくださいますじゃろて。少しでも時間を稼いだ方がええじゃろ?」

 そういっておどけながら、環塵叔父は濁酒をあおる。


「ま、この先は対策を練る。そうじゃろ? 照詮?」

「当たり前よ。むちゃくちゃやったる。任せてけれ!」

 ボロボロになり片目は開かないくらいに腫れあがったが、片目だけは金や銀にも負けないぐらいにギラギラに光らせた俺が答えた。


 タイムリミットは一か月。

 村のため、叔父のため、レンのため、そして俺のために!

 暗雲が何だ! 俺が雲なんぞ晴らしてみせる!



 空の隙間から、一条の光が差した。

佐渡ヶ島は「流刑の島」なイメージがあります。


奈良時代には皇室批判を行った万葉歌人が流され、鎌倉時代には1221年の承久の乱で敗れた順徳上皇や権力者に目をつけられた日蓮上人、能楽の大成者である世阿弥が72歳で流されたなど。政争に敗れた貴族や知識人が流されてきたそうです。一流の文化人が流されてきたことで、能楽などの文化が栄えました。

流刑にされた人の数はそんなに多くなかったようです。佐渡へ島流しになった人の総数は、奈良時代から室町時代までの間に76人、江戸時代に139人、合計215人という情報もネットに載っていました。江戸時代とかに罪人が働かされているイメージですが、実際はゴールドラッシュ目当てに働きにきていた人の方が多かったのかな?


歴史を学ぶと奥深いですね。

一応、史実を交えながら、進めていきます~(*'▽')

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― 新着の感想 ―
[良い点]  面白い!  情報も提示した上で、ある種歴史の資料があることで決まったルール(?)のようなものが出来ていますね。その制約があることで、全てを勝手に考えられるファンタジーとは一味違うものが出…
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