表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
「目覚め」
4/248

第四話 ~新たな歩みへ~

 ブタの葬式の前日、俺は環塵(かんじん)叔父の家に呼ばれていた。


「どうも本家の連中、照詮(しょうせん)、お前を殺すつもりだっちゃよ」

 無精ひげをなぞりながら、のんびりと恐ろしいことを言うおじさんだ。周囲にいた千手村~この村の名前~の大人たちも頷く。


「オメェがやった訳じゃねえと思うが、あいつら、お前のせいに何もかもしたいらしいっちゃ。自分たちがしてきた横暴は知らんぷりじゃ。分家の奴らだけねちっこく何度も何度も潰してきおってからに」

「オメぇにできることは、もう逃げることしかねえ。小木(おぎ)の港に越後屋(えちごや)の船が来てるみでぇだから、何とかそこに逃げ込めぇ」

 レンの父親、仲馬(ちゅうま)が言った。俺のことを心配してくれる数少ない味方だ。


「嫌じゃ!」

 俺は叫んだ。


「俺には力がある! 本家の連中を潰す力が!」

 そうだ! あんなブタと、俺を殺そうとするクソ野郎共に負けてたまるか!!


「だけんども、オメエ。力も金もねえべよ。おっ父、おっ母も本家の連中に騙されて、イジメられて死んじまって。どうにもこうにもならねえべよ?」


 聞けば、俺、本間照詮(ほんましょうせん)の両親は、本家の連中に殺されたらしい。ブタが大事にしていた壺を割ったと因縁をつけられたとか、耳の聞こえない娘から「オラに酷いことした!」と濡れ衣を着せられたとかで、朝も夜もなく働かされて、疲れて悲哀のうちに亡くなったらしい。

 多かれ少なかれ、分家の者達は本家の一族に(ないがし)ろにされてきたようだ。母の弟、環塵叔父は村唯一の僧なのだが、(こす)い手で上前をはねられ、貧乏で炭すら買えない。


「金ならあるぞ!」

 叫んだ。心の奥底から叫んだ!!


「金なら、山ほどあるぞ!」

 俺は、袖から黄金色に輝く塊を出した。金塊だ。大人の握り拳くらいはある。「不入(ふにゅう)の谷」から拾ってきた金の一部だ。環塵叔父、仲馬おじ、他の大人たちも目を皿のように見開いた。


「お、オメェ、これをどこから・・・?」

「不入の谷だ。ブタを殺した後、見つけたんだ。まだまだ山ほどあるぞ!」

「!? 不入の谷って・・・、そして殺したって!? どういうこっちゃ・・・!?」

「詳しくは後からだ。金はあるぞ、おじじ共。本家の連中を見返したくないか!? やられた分、倍返ししたくないか!?」


 狐につままれたような顔をする大人たちを後目に、俺は計画を立てた。金塊は足の速い仲馬おじに小木まで運んでもらい、越後屋から鉄製の短刀や鎌と交換してもらってくる。分家連中にそれを隠し持たせて、葬式の時に本家連中を潰す作戦だ。握り拳ほどの金なら、補って余りあるほどだ。


「照詮、オメエさん、悟りでも開いたか? 空海様でも宿ったんか?」

 環塵伯父は、不思議そうに俺を眺める。そして、


「やっちゃろうかいな。本家連中は、やりすぎた。オラたちも我慢の限界だっちゃ」


 そういうと、他の大人達も同調した。娘を無理矢理、手籠めにされて捨てられた者、病気で働けない爺を山へ捨てられた者、やっと建てた家に因縁をつけられ、焼かれた者…… 多くの者が本家の横暴に憤っていた。だが、「本家だから」の一言で何もできなかった。深く考えてこなかった。虐げられて当然だと思っていた……


 作戦は、すぐに実行された。村一番の健脚の仲馬おじが小木まで走った。

 越後屋に金塊を見せると、商家の者は腰を抜かさんばかりに驚いた。魚か貝か、せいぜい(たけのこ)などと生活雑貨を交換するために来ていたのだが、まさかの金塊だ。手持ちの鎌や短刀全てと交換しても余りある。これ一つで馬十頭以上にはなる。喜んで交換した。


 その先は、分家の一人ひとりに鉄製の短刀を渡しながら本家を倒す計画を伝えた。皆は驚いたが、誰一人として反対する者はいなかった。それだけ、本家への憎しみは深かったのだ。


_____


 本家を倒して一夜明けたあくる日、俺は本家連中が住んでいた大きな屋敷に移り住むことにした。

 見れば、米俵や色のついた着物、屏風や掛け軸、酒甕まである。分家を働かせておいて、自分たちは楽々と贅沢をしていたのだ。あいつらの手は、まるで赤子のような手をしていた。野良仕事など一切したことがなかったのだ。


「照詮、これからどうするっちゃ?」


 環塵叔父が相変わらずのんびりと尋ねてくる。本家を駆逐したのだ。大きな動きがあって然るべきだ。


「力を蓄える」

 俺は言った。金はある。しかし、金は食えない。黄金の塊だけあっても、それを力に代えなくては意味がないのだ。


「ほほう、どうやって?」

 無精ひげを撫でながら面白そうに尋ねる叔父。俺はこの叔父が気に入った。


「金に物を言わせる。それだけじゃない。軍備を整え、特産品産出とインフラ整備をする」


 叔父は目をパチクリさせる。

「ほっほ。物言わぬ金が、物を言うか。それにいんふら? なんじゃろう? 誠に楽しみじゃわい」



 新たな歩みが始まる。金を使うのは楽だが、使う時期と量を間違えれば逆効果になる。

 この世界のことを知りながら、力を蓄えていかなくては。




 …… しかし、醜い「暗雲」が俺の傍に近づいてきていることに、その時の俺はまだ、気づいてはいなかったのだった……

戦国初期(1530年頃)を想定して物語を進行しています。


佐渡ヶ島は今では金山で有名ですが、歴史書などからは「3人の山師によって1601年に発見された」と記されています。ですから、まだ誰も佐渡ヶ島に金があることに気が付いていません。


佐渡ヶ島から産出された金は、江戸から平成まで388年で何と78トン。銀は2,330トン。世界有数の鉱山を有していたのです。

その力を用いて、戦国を駆け抜けていけば・・・という物語を描いております。


ブックマーク、評価、感想ありがとうございます(*´ω`) 今後ともよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] これだけ恨み買ってたのに即殺された本家の連中が幸せすぎて納得いかない。拉致監禁で死ぬまで拷問でしょjk
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ