第十九話 ~阿弥陀如来像~
お待たせしました。第三章スタートです。
「飛ばしすぎて、エタるんじゃねえぞ」
との励ましをいただきました(*´ω`)
頑張ります!
<越後国 直江津 越後屋>
「おお、小鬼はん! お待ちしてましたよって!」
越後屋の当主、蔵田五郎佐は、傷だらけの俺を、精いっぱいの笑顔で出迎えてくれた。
「船の調子はどうですよって? 不調があればいつでも言うてくだされよって。他の三艘も港に繋いでおります。いつでも使えますよって! さらに船は必要でっか?」
商人モード全開でグイグイくる。まだ四千貫文の借りがあるからな。どんどん使わせようとしているのだろう。
「ああ、船は最高だ。いい物だ。船もそのうち増やしたいな」
「そうでっしゃろ! お任せてくだされよって! それと、注文しておいた越後布の着物、できてまっせ! 最高の布、最高の職人、最高の仕上げですがな! しめて百貫文になりますが、小鬼はんには安い買い物でっしゃろ!?」
お、おう。そんな服、守護代様だって着てないぞ、絶対。
だが、越後屋に見せてもらったその着物、銀白色の地に金刺繍。まるで光り輝く天界の着物のようだった。
ゴクリ
『寒さを凌げればそれでいい』と思ってるくらい着物に頓着しない俺でも、その良さは一目で分かる。触れることはおろか、見ることすら憚られるような直垂だ。
恐る恐る触ってみる…… 薄い。「蝉の羽」のように極めて繊細。皺もまったくなく雪のように滑らかな手触り……
ビックリしたわ。着ていいのか?
まあ、正装は戦闘服って言うしな。あって問題はないだろう。
普段着の方は、早速着させてもらった。パリっとしてて通気性もよく、動きやすくて着心地最高だ。高いけどいい買い物ってこういうことなのかな? 信用第一の越後屋のことだ。物は確かだろう。
「ありがとう。頂くよ」
いい商売ができたと、喜色満面の越後屋。だが、これだけで終わりではない。
真の取引は、これからだぞ?
「して、今日は何用ですよって?」
「うん、あれだ」
「え?」
越後商人の顔は、満面の笑みから、引きつった笑みに変わっていった。
タラリ
商人の額から汗が一滴、垂れ落ちた。
「あれ、とおっしゃいますと?」
「うん、前に言ってた、あれだ」
蔵田五郎佐のオデコから、汗が急速に吹き出してきた。
「ま、まさか本当に?」
「うん。本当だ。弥太郎、頼む」
「わかっだ。」
俺は汗ばむ蔵田のおっさんに構わず、弥太郎を促した。
「え、え、え!?」
弥太郎は躊躇なく、麻布でできた丈夫なリュックサックから、あれを出した。
ゴロン! ゴロン! ゴロロン!!
「ひょええええええええええええええええええ!?」
「また買い取り頼むぞ。」
今回は、前回の60kgより多い、100kgほどを持ってきた。もちろん金塊だ!
だいぶ目減りはしたが、まだ量はある。佐渡平定には銭が必要だ。力に変えなくてはならない。
「ま、ま、まさか本当に金塊…… しかもさらに大量っ……!」
口をパクパクさせる蔵田五郎佐。
滝汗の蔵田五郎佐。今は冬だしそれほど暑くはないだろうに。
俺は毎回のことだから、この滝汗に慣れてきたぞ。
「わ、分かり申した! か、買い取らせていただきますよって!! ただ……」
蔵田のおっさんが申し訳なさそうに言い淀んだ。
「…… 前回よりも若干、買値が落ちますが、よろしゅうございますか?」
需要と供給のバランスだな。市中に金が出回りすぎれば、価値は下がる。遠方であればそれほどでもないだろうが、そこまで運んだり伝手を使って売りさばいたりするのは手間がかかる。ある程度想定していたことだ。
「問題ない。それに、買い取りの金額の全てを貰うつもりもない。だが、二千貫文、そのうち一千貫文分は上納用の箱に入れて、すぐに用意を願いたい」
「二、二千貫文でっか? しかも上納用に一千貫文? ま、まあ、小鬼はんから頂いた金塊が思うより早う捌けましたよって、何とかなりよりますが…… 上納用とあれば砂金粒でしょうな…… 急な入用でっか?」
「長尾家に一千貫文、矢銭として寄進したいと思う。また、他にも使う予定がある。それと・・・前回同様に人も雇う必要がある。多ければ多いほどいい。とりあえずは三日間で、集められるだけ集めておいてくれ」
老練な商人は、俺の迷いのない言葉と真剣な表情から、俺が何を目指しているか察知したようだ。
「なるほど…… いよいよ動きまするか…… 任せておくれやす! 大口さんや! 将来の孫婿や! 応援しておりますよって!」
「い、いや。それはまだ決定してないけどな」
俺は慌ててかぶりを振る。
明日、長尾家に行って一千貫文(銅銭100万枚)分、現代なら一億円を矢銭として寄付する。大金だ。
もちろん、銅銭100万枚となれば、1枚3gとして、3gx1,000,000で、3,000,000(三百万)g。三百万g=3000kg=3tにもなる。
さすがにこれは重過ぎるため、砂金粒にする。
金は一両(37.5g)で四貫文だから、一千貫文は二百五十両。250x37.5gで9375g。約9.4kgの砂金だ。上等の木箱に入れて上納だ。
もちろん、ただの寄付ではない。狙いはある。
羽茂本間氏の攻略が近日中に始まる。その前に、羽茂本間氏と縁のある長尾家に話を通しておかねばならない。
恩のある所が攻められたなら、後詰め(援軍)を出す必要がある。もし、義理や恩があるのにも拘わらずに後詰めを出さない領主であれば、国人衆からはソッポを向かれる危険性が高い。その恩と同等、もしくはそれよりも強い援助を、長尾家に差し伸べる必要がある。そして、俺に出せるものと言えば銭、という訳だ。
用事を済ませ、店から出て行こうするとき、越後屋の孫娘、サチが息を弾ませ何やら手に持ってやってきた。
「照詮はん、もう行ってまうん?」
「お、おう」
俺の前に来たサチはうつむき加減だ。
雪のように色白な肌だが、頬は真っ赤に染まっている。
「あいは寂しいな…… これ、あげるよって!」
と、両手で何やら俺の手に押し付けた。
何だろう? と思ってみたら、仏像だった。
手が丸になってるから、これは阿弥陀如来様だな。
子どもの手のひらより一回り小さいものだが、彫りが細かく、仏様の表情が豊か。右手が「Ok」、左手が左腹の辺りで「下向きOk」。何とか印っていうんだろうな。一本木のものらしき逸品だ。用意してくれてたんだな。
辛い目に遭ったためか、サチのちょっとした気配りがひどく嬉しい。
「ありがとうな。嬉しいよ」
率直に感想を述べる。
「…… 危ないことをしてるんでしょう? そんなに傷だらけになって……」
サチは目を合わせないままだが、両の手は微かに震えている。俺のことは色々聞いているのだろう。箱入り娘だろうし、ボロボロの人など、ほとんど見たことはあるまい……
俯いていたサチは、何かを決心したようだ。
下を向いていた顔を上げ、俺の方をしっかりと向いた。
「あいは、心配してるからね! 無理しちゃだめなんだからね!」
と、突き放すように言ったら、店の奥に逃げ込んでしまった。あらら。
世話焼き女房のようだなぁ……
お、おい。まだ嫁にするとは決めてないぞ!
心配してくれるのは嬉しいが。
そんな俺たちのやり取りを、蔵田のおっさん、環塵叔父がニヤニヤして見ていた。
見世物じゃないぞ!
仏像の印について、不遜な書き方してすいませんでした( ;∀;)
今回の阿弥陀如来様の印は、右手を上げて左手を下げてともに手の平を前に向け、それぞれの手の親指と人差し指(または中指、薬指)で輪を作る。 (wiki)という、 来迎印でした。西方極楽浄土から「お迎えにきたよ」という印なので、ご臨終の際の印でしょうか。
何というものを渡すのでしょうね、サチは(*´Д`*)
仏像はいくつかありますが、見分け方として、印で輪を作っていたら阿弥陀如来様なんだそうです。
一千貫文の矢銭。
計算したら重量が飛んでもないことになってしまって、悩みました。(;´Д`)
銅銭ですから、1枚が2~4gほど。一貫文は銅銭1000枚ですから、3gとして3x1000=3000g=3kg それが一千倍だから、3kgx1000=3000kg=3トン!?
そんなに重かったら、いくら弥太郎でも持てないよ!
金貨銀貨での代用も考えましたが、ほぼ流通していなくて一般的ではなかったようですし・・・
「すごく磨かれたピカピカな銅銭だから、10倍の価値があって、300kgで済むんだよ!」とか無理矢理こじつけようとしてました(*´Д`*)
悩んだ末に、戦国時代の名著「信長の軍師」を出版されている岩室忍先生に、ツイッターで直接ご相談させていただきました。
すると、「砂金で運んだ、というのはどうでしょう?」とお知恵を貸していただき、それを使わせていただきました。この場をお借りして深く御礼申し上げます。ありがとうございました。
新章スタートです。ここから主人公の逆襲~(/・ω・)/
ご愛読、★★★★★評価、ブックマークありがとうございます(*´ω`)今後ともよろしくお付き合い頂ければ、作者は小躍りいたします。




