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佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
第十一章「西南の海」
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第百七十八話 ~敗北~

<天文十二年(1545年)七月 呂宋国 セブ島東 カモデス海 沖合い>



 『焼き討ち』だッ!

 

 船に燃える材料を詰め込み相手の船に体当たりさせる戦法。もしくは火薬などを詰め込んで相手艦隊の真ん中で爆発させる戦法!

 密集し敵に船の横腹を見せている相手には特に有効な戦法だ! クソッ! 完全に裏を掻かれた! まさかイスパニア軍がこれほど野蛮で苛烈な手を使ってくるとはッ!!


「回避!」

「殿! 三番艦が遅れましたッ!」

「ぐッ……!」


 「鷹」の三番艦。真新しい重キャラック船に敵の燃える船が突っ込んだ!!

 

 ドォゴオッ!!!


 こちらまでに伝わってくるほどの衝撃音! 船のドテッ腹に相手艦の船首がメリ込んだ!

 全焼中の炎が三番艦にも燃え広がる! 


「クッ。三番艦はダメか! 落ちた者の救助に向かうぞ!」

「殿ッ!! 本艦にも敵船が寄せております!」

「何!? 撃ち落とせ! 砲手の腕を信じる!」


 俺の船にも二隻寄せてくる! 実戦での回避行動しながらの砲撃は経験がない! 訓練の腕がどれほど出るか?!


 グンッ!


 

 敵艦の特攻を防ぐため猛烈な勢いで船が回頭する!

 船がギシギシと軋む! 


「ぐううッ!」


 メインマストにしがみつきながら何とか佐渡鷹丸は相手艦の衝突を逃れた!

 すれ違いざまに見た。人が乗っている! 我武者羅(がむしゃら)な特攻か!


 すれ違った敵艦は回頭しだした! 俺の船にぶつかる為に!


「回頭中の動きの止まった所を狙えッ! 二斉射!!」

「ハッ!!」

「テエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!」


 ドンッ!

 ダダッ! ゴオオォォン! 


 佐渡砲とカルバリオン砲の斉射が燃え上がる船を狙い撃ちする!

 

 ドムッ

 ゴゴゴッ

 バシャッ


 ……

 

 ドオオオオオオオオォン!!

 

 大命中だっ!

 炎上し帆が焼け落ちそうになっていた船は回頭が鈍い! 轟音と共に(もろ)くも崩れ去っていく!

 斉射により一隻を鎮めることができたッ!

 

 だがッ、


「殿ッ! もう一隻が来ます!」

「グッ……」


 砲撃により船が止まった俺の船にもう一隻の焼き討ち船がスピードに乗って突っ込んでくるる! 

 駄目だッ! 逃げられん!


「耐衝撃態勢ッッ!! 衝撃に備えろ!」


 迂闊(うかつ)だった! まさかこんなことに!!



 ドゴオッ!!


 ……


 !?

 鈍い激突音はしたが来ると思った衝撃が来ない!?


 見れば……


「殿! 五番艦がッ!」

「何てことをッ!!」


 ぶつかる直前に五番艦「鮎」が佐渡鷹丸と焼き討ち船の間に割り込んだ!

 「鮎」は特攻をモロに喰らった! 脇腹に舳先(へさき)が突き刺さっている!!


 

「ここは我らがッ!!」

「殿ッ! 御武運を!!!!!!」


 「鮎」の船員達が俺に叫びかける!


「…… 俺の盾になって……  ……馬鹿者共(ばかものども)!! 死ぬなっ!!」


 俺も無我夢中で叫んだッ!

 焼き討ち船の炎が五番艦の船体に燃え移り広がった! メラメラと燃える火が帆や綱を炎龍のように巻き付きだした! 駄目だ! 沈むッ!!


「小舟に乗り換えろ! 船はもう()たん!」

「殿から頂いたこの船! 命よりも大事に御座います!!」


 顎髭の艦長が叫ぶ! 


「馬鹿ーッ!! 『お前らの命』よりも大事な船はないわッ!! いいから乗り換えろッ!!!」

「…… 分かり申した! ですが某は殿(しんがり)を務めまする!!」


 揚北衆の鮎川清正。兄の清長は俺が三分一原の戦いで討ち取った。帰順し俺の元で働いてくれた……


「…… 全力を尽くせッ!」

「…… ハッ!!」


 清正と目が合う。今生の別れだと悟りながら……



 ……俺がもっと強ければ!

 戦力をもっと用意しておけば! 相手の出方をもっと考えておけば!!!

 

 ……悔しい! 悔やんでも悔やみ切れん!


「殿!!! 敵艦()()が我らに向かって来ます!!!」

「何ッ!? まだ来るのか!」

「旗艦である本艦を狙っています!」


 『焼き討ち』により数的有利な状況を作り出し最後は旗艦狙い。

 飛んでもない切れ者だ。ザックめ。


「ぬうッ…… 返り討ちにするぞ!」

「ハハッ!!」


 俺は船員を鼓舞するように声を張り上げ目の前に立ちはだかる敵船団を睨みつけた。

 形勢はかなり悪い。本物の海軍がこんなにも強いとは!

 

 だが俺は諦めんぞ!!



______________



「止めろ!! 敵を追い落とせッ!」

「殿!! おさがり下さい! どうか船室へ!!」


 遂に敵船の一隻が佐渡鷹丸に斬り込みを掛けてきた! 


「俺が下がってどうする! 甲板が占拠されれば船室にいても同じことだ! 尚久の『鯱』が救援に来るまで耐えるんだ!!」


 五隻の内一隻は打ち落とした。だがまだ四隻。その内一隻が俺の船に接舷し斬り込んできている!


「ウオオオオッ!!」


 俺に斬りかかってくるイスパニアの兵士! これで三人目だ!

 だが俺には届かない。屈強な護衛が立ち塞がる!


「……シッッ!!」

「フンッ!」


 ドゴッ!!  ズバッッ!!


 剛力で鉄棒を振り回す小島弥太郎。そしてもう一人は船室で一人黙々と修練を重ねていた黒衣の男だ。


「景家ッ! 腕は鈍っておらぬな!」

「この程度。大した修練にもならぬわ」


 男は「長尾家の阿修羅」と呼ばれ為景に先陣を常に任された武将。

 出し惜しみをしている場合ではない。全力でここを耐えるんだ!


「…… かげ、い゛え……」

蟾蜍(ひきがえる)。愚痴は後から聞く。今は戦え」

「…… わがっだ ……」


 景家は長尾晴景の乱に加わり俺達に刃を向けた。家中には景家を()く思わぬ者も多い。西南の国の何処かで降ろす予定だったが今はそんな余裕はない!


「まだ来るぞ! 次は右舷だ!」

「ハッ!!」


 斃しても斃しても敵が乗り込んでくる!

 剣聖の教えを受けた俺達が接近戦に箆棒(べらぼう)に強い。だが敵もさるもの。無暗矢鱈(むやみやたら)と突っ込んでこなくなった。被害を出さぬように俺達を遠巻きに囲み始めている。まずい。このままでは……


 …… というか相手はなぜ火器を使ってこない。大砲を撃ち込めば……?

 

 そこへ


「¡Detener(やめっ)!」


 

 軍隊調の命令が飛んだ!

 

 すると……

 

 相手の兵士が下がり始めた! 

 武器の(ファルシオン)薙槍(グレイヴ)を引いた?


 そこへやってきた男は……


「ザック、か」

「やぁ。ホンマ・ショウセン。ご機嫌はいかがかな?」


 マニラの町で会った男ザックだった。

 豪奢な提督服を身に纏い、気障(きざ)な羽根付き帽子を深々とかぶっている。どうやら本当にザックだったらしい。そしてこの戦の指揮を執ったのも恐らく。

 

 とことんやり合うつもりではないらしい。話し合うつもりか。


「まあまあ、だな。()()()()()()()()()()()()()()()()もう少し楽だったんだが?」


 俺は強がりながらザックに毒付いた。

 爆弾を仕掛けたかと思えば焼き討ち旗艦狙い。随分じゃないか?


「爆弾については謝ろう。君が捕らえている『()()()()()()()』という男がやったことだ」


 ザックは胸に手を当ててゆっくりと礼をした。謝罪のつもりらしい。

 エスターライヒという名にやけに思う所がありそうだ。苦手なのだろう。

 

 ……ここで心を乱してはならん。船員や鮎川の髭達の命を考えれば殺しても殺しきれん。だが辛抱だ。


「この海戦。俺の負けだ。この戦の指揮を執った奴は大した奴だ。俺の海軍士官に雇いたいな」

「……ハハッ。考えておくよ」


 ザックは愉快そうに笑った。

 俺はやり返したつもりなんだが。


「さて。こちらが有利なのは分かるね? こちらからの要求は4つだ。①エスターライヒをくれ ②金の船をかえせ ③イスラス・フィリピナスからにげろ ④つかまれ」


 …… 


 俺の拙い言語能力に間違いがいくつかあるかもしれない。

 「エスターライヒをくれ」は「返還しろ」で、「にげろ」は「明け渡せ」かな。それと「つかまれ」は「捕虜となれ」、か。


「こちらとしては、かなりやさしいことを言っている。大砲で消さないことを感謝してほしいな」


 ザックの言葉は俺に理解しやすいように遅緩(ちかん)で平易。そして口調は穏やか。


 だが決して優しくはない。殺し殺されることに慣れている男だ。迂闊なことを言えば部下を死に物狂いで突撃させ、俺を殺すだろう。()()()()()()()()()()()()


 

 ……さて、どう返答するべきだ……?

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― 新着の感想 ―
[一言] しばらくぶりに来たけど、より面白い。 海戦に苦言?かも。 当時なら船を寄せるぶつけるが基本で砲撃は補助。 命中しても容易に沈まない。 襲う方が優速でないと避けられる・・・
[一言] 更新お疲れ様です。 部下&僚艦の献身によって再三の危機を乗り越えるも・・・・(><) 果たして照詮の選択は? 今後があるならば欧州列強の度肝を抜く技術革新や戦術など万全の態勢が整うまで外…
[一言] ザックの攻撃に照詮まさかの敗北・・・( ゜д゜) 攻撃をやめたザックからの条件に照詮はどう返答するのだろう・・・。 下手な返答は死を意味する・・・(;゜Д゜)
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