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佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
第十一章「西南の海」
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第百七十五話 ~刹那~

<天文十二年(1545年)七月 佐渡国 羽茂郡 羽茂城 評定の間>



 大殿である主君羽茂本間照詮の『替え玉』としての役目を任ぜられた元小姓の斉藤朝信(さいとうとものぶ)は、下野国(しもつけのくに)下総国(しもうさのくに)武蔵国(むさしのくに)の大部分を統べる宇都宮家からの使者である壬生周長(みぶかねたけ)を迎えていた。


 主君の着ていた直垂(ひたたれ)を羽織り、髪型や左額の星型の傷跡も忍びの技を使って真似ている。

 交わりのない者には、遠目からでは偽物とは分からぬほどに似ていた。


「…… 我が兄であり宇都宮家筆頭家老である壬生(みぶ)綱房(つなふさ)からの書状、如何に御座りますか?」

「う、うむ」


 朝信は焦りに焦っていた。


(うへええええ。「武田家が羽茂本間家を狙っているから挟撃しよう」とか言われたぞ!! どうする…… どうする…… !?)


 刹那の思考中、朝信は主君羽茂本間照詮からの言葉を思い出した。


(そうだ! 『悩んだ際は俺の一挙一動を思い出し行動せよ』と仰られていたぞ! 殿なら……)


 朝信は背筋を伸ばし、低い声で語り始めた。


「うむ。御忠告痛み入る。…… だが、矢庭には信じ難い話である。共闘に関しても武田方の動きを見据えてから返答させていただきたい」

「…… 我らが()()()()()()()()()、と?」

「いや、そうではない。『確かめさせてもらう』、と申しただけのこと。それに宇都宮殿との間には奥州の抑えである山本勘助さ…… いや、勘助から『度々狂人が攻め込んでくるため迷惑している』との報告もある。まずはそちらを片付けてからではないと、我らは手を組めぬのではないか?」


 老年に近い壬生周長(みぶかねたけ)はギリッと歯軋(はぎし)りをして顔を歪めた。


「…… それは宇都宮の手の者ではござらぬ。我らに従わぬ那須(なす)家(下野国北東部を支配する大名)の者共でござる」

「ほう! 宇都宮家の者ではなかったのか! これは面白い!」

「…… 何が、で御座いましょう?」


 朝信は一生懸命に羽茂本間四天王の一人で陸奥国国主の山本勘助様からの書状の中身を思い出していた。


「確か、逃げ帰った者が『広大な曲輪(くるわ)を有する城へ入った』との報告を聞いたが。確か、多気山(たきやま)城だったように思う。そこは宇都宮家の所領ではなかったか、な?」

「…… (それがし)、気分を害しました! これにて失礼いたしまする!!」

「おおう、それは悪い事をした。どうか羽茂や小木の町をごゆるりと散策()されてくだされ。当然、見張りをつけさせていただきますが、な?」

「結構で御座る!!」


 老年らしからぬ勢いですっくと立ち上がった壬生周長(みぶかねたけ)はドスドスと足音を立てながら大股で評定の間を出ていった。


________



「…… ふぃ~~~ 疲れた……」

「ご苦労だったっちゃ、朝信! いや、ここでは殿と呼ぶべきかな?」

「ヒィ!! 環塵様!! い、如何でしたでしょうか?!」


 評定の間の影から様子を覗いていた照詮の唯一無二の叔父である環塵は、変わらぬ無精髭を撫で回しながらゆっくりと頷いた。


「ん。まあ上出来じゃろうて。あの白髪頭、主君に『憎たらしい羽茂本間照詮が佐渡にいる』と報告するじゃろう。そう易々と我らの地を侵そうとはしないはずだっちゃ。替え玉としての役割は十分じゃ」

「あ、有難うござりまする!!」


 朝信は恐縮しまくりだった。

 羽茂本間照詮が日ノ本を離れている間は、実質この環塵和尚が全てを差配しているからだ。


「…… 朝廷の中でレンを方仁(みちひと)典侍(ないしのすけ)に叙しようとする動きがある。鼻タレ小僧だった方仁(みちひと)め。阿呆(あほう)横恋慕(よこれんぼ)をしおって…… 」


 環塵は頭を掻きながら西南の空を見上げた。


「幕府も動いちょる。武田の殿様は苦戦。そして宇都宮家……  照詮。早く帰ってこい!」


 そう言うと環塵は、近習から受け取った対馬行きの伝書鳩を勢いよく空へと放った。



______________



<天文十二年(1545年)七月 呂宋国 セブ島 沖合> 



「照詮様、見えてきましたぞ!」

「あれか」


 望遠鏡を構える俺の遥か先に、数隻のキャラック船が帆走する姿が映った。

 船は鈍重とした様子で、ゆったりと東へ進んでいる。ザックの言っていた、セブ王国の王族達を奴隷として運ぶ船に違いない。


「よし、囚われの者達を助けにいくぞ!」

「ははっ!!」

「『(しゃち)』に船足を上げさせろ!」


 俺は「鯱」を予定通りを王族救出に向かわせた。

 今回の艦隊は急行艦隊に付き俺の「鷹」五隻と尚久(なおひさ)率いる第九艦隊「鯱」五隻の計十隻のみ。イスパニアの船は強襲されると夢にも思ってはいないだろう。武装した艦隊が現れたと見れば一目散に逃げだす筈だ。




 

「進め~!」

 

 元坊津(ぼうづ)水軍の頭領で島津家の家長たる島津日新斎(しまづじっしんさい)の三男である島津尚久(しまづなおひさ)

 陸上では「陸の上の河童」ならぬ「陸の上の尚久」と呼ばれるほど女好きで食べ歩き好きのポンコツ太郎だが、海の上では気炎万丈(きえんばんじょう)。白の鉢金にトレードマークの大弓を携え、船団諸共一気に襲い掛かった!



________




 猛然と進む黒い船体で統一された「(しゃち)」の黒船。

 佐渡砲による威嚇射撃ののち五隻が一気に詰め寄った! 急なことに相手艦隊の足並みは乱れ、一隻のみを残して東の方へ逃げ去った。



「はは! 敵の船は一目散に逃げ去りましたぞ! 大勝利ですな!!」

 近習の忠平が歓喜の声をあげる。

 

「……」


 俺は逃げ去るイスパニア船の様子を見て、()()()()()()()()()()()()釈然としていなかった。


 奴隷を載せた船足の遅い船を引き連れた船団。強襲は想定外のはず。だから船足の遅い船を残し二隻の船は逃げた。だが我らの姿を見ると統制が取れたように一隻を残し……


「殿? 如何為されました?」

「…… いや、気のせいであればよいのだが……」


 ____________




雑魚(ざこ)は放っておけ! セブの王族を助けることを第一とせよ!!」

「「へいっ!!」」


 俺達の強襲に慌てふためき、いすぱにあ人共は逃げていった。小舟に乗り換えて逃げる者もいるが、討ち取るまでもない。まずは残された船にいるであろう王族を救う。それが殿から命ぜられた一番の任務だ。


「尚久様! 接舷(せつげん)(船の側面を船に寄せ付けて乗り込む)しやす!」

「うむ! 派手にいくぞ!!」


 愛用の強弓を背負い腰の名刀の鞘に手をかけた。変わりない。いつでもいける。俺は冷静だ。

 敵のきゃらっく船二隻は既に離れた。こちらを振り向く様子はない。問題ない。


「接舷準備! 十! 九つ! 八つ! 七つ! ……」

「乗り込み用意!!」


 手慣れた様子で手下達が手際よく事を進める。倭寇相手にこの動きは何度もやってきた。皆の動きに曇りはない。



「ん……?」


 少しだけ違和感を覚えた。


 小舟に乗って逃げたいすぱにあ人の男。こちらを見て笑ったような……? 

 逃げるのであればもう少し必死な形相をするものだが……


 ヒュルル

 ヒュン!

 ガッ!!


 熊出の付いた縄が敵船の垣立(かきだつ)欄干(らんかん))や綱に絡まった。敵船を逃がさないようにする常套(じょうとう)戦法だ。


「一つ!!」

「抜刀! 乗り込めええぇぇッ!!!」

「「応ッ!!」」


 一気に敵艦の甲板へ雪崩込(なだれこ)む!



 ダンッ!!


「出会え出会え!! 我は島津尚久!! 我ら佐渡水軍の『鯱』がこの艦を貰い受ける!!」

「ヒ、ヒエー」


 甲板に残っていた敵船員は我らに恐れを為し一目散に海へと逃げた! 反抗らしい反抗もない。海上に逃げるための小舟でもあるのだろうか?

 難なく船を拿捕できた。殿も無傷で船を手に入れたことをさぞお喜びになられることであろう。


「残っている敵が潜んでいるやも知れん! 用心して船室を探せ!」

「「ヘイ!!」」

「常なら奴婢(奴隷)は船室の最下層に閉じ込められる! 俺に続けェッ!」


 ぼやぼやしていると殺されてしまう可能性がある!



 ___________



「頭ぁ! どこにもいねぇです!」

「残すはこの船室だけでさぁ!」

「そうか。ならここだな!」


 やはり船の最下層だったか! 

 堅木作りの重い扉が往く手を(さえぎ)る。鍵がかかっているようだ!


「一刻を争う! 蹴破れ!!」

「ヘイ!!」

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 バン!


 暗い船室の中に飛び入った!


 中には……

 

 猿轡(さるぐつわ)()められ手足を縛られている呂宋人がニ十数名。うーうーと何か(うな)っている。


「もう大丈夫だ! 助けに来たぞ!」

「ウー! ウウーッ!!!」


 喜びの顔を見せない。むしろ恐怖に(おのの)いた表情で船室の上部を見上げている。


 …… 何かあるのか?


 二間(約3.6m)ほどの高さの天井を見上げると……



 ジジジジ…… ジジジ……



「か、頭ッ!! ()()()()()!!!!」

「ヒエエェェ!!!」


 天井に(くく)りつけられた火薬大樽に向かって縄火が向かっている!!

 導火線だ! 罠だ!!


「頭ッ! 駄目だ! 爆発しちまう!!!」

「五寸(15cm)もねえです!」

「クッ!! 南無三!!」


 

 !!!



__________



ドォオオオオオオオオオオン!!!


 

 爆発音と共に船が大きな炎に包まれた!! 


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! 影武者さんもなかなか頑張ってるんですね....お疲れ様です..... 方仁親王さん...朝廷の皆さん......何やってんすか......羽茂本間がそろそろキレますよ…
[一言] 更新お疲れ様です。 リアル影武者奮闘中!!(^^;; 乙!! 好事魔多し・・・・(><) まんまと罠に!? 果たして尚久や現地の人質?の安否は? 次回も楽しみにしています。
[一言] 佐渡では宇都宮家が接近していて・・・。 呂宋では奴隷船を襲撃する照詮だが、何と罠(;゜Д゜)!!! 照詮達の命運は・・・( ゜д゜)
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