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佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
「佐渡ヶ島」
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第十五話 ~不協和音~

<佐渡国 羽茂郡 千手村>


 次の日の朝。仲馬おじから聞かされた、直江津まで行っていた十日間ほどの事柄は、()()と言っていいほどのものだった。


 まず、いいがかりの年貢の誤魔化しについて。仕方ないのでさらに二割増しで納めたものに対して、「質の悪いものをよこした」と更なるいいがかり。罰として、来年は「五公五民」どころか「八公二民」とするとお達しがでたらしい。死ねと言っているのと同義だ。


 さらに斎藤は部下に命じて、村の数少ない産物である柿の木を次々と斧でへし折っていた。


「このような病で(くさ)れた木から取れた柿など、食えたものではないわ!」


 吾作おじ、キョウおば達が丹精込めて育ててきた健康な木がなぎ倒され、燃やされ、消し炭になっていた。「桃栗三年柿八年」と言われるほど、柿の木を育てるには時間がかかる。竹林の奥に隠していた柿の木も何故か見つけられ、言いがかりをつけられて滅茶苦茶にされた。おじおば達の落胆ぶりは想像を絶するものだった。


 そして、千手村への狼藉三昧。

 度々寄ってきては、ただ飯ただ酒を要求。隠していた食べ物も見つけて強奪。無い袖を振りながら馳走を出しても「こんな物が食えるか!?」とぶちまける。しかも、村の男への暴行狼藉、村の女をレイプ。こいつら、人じゃない。皆、僅かな雑穀を大量の湯で茹でた、ほとんどお湯のような重湯でなんとか耐え忍んでいた。

 直江津の港から玄米・雑穀等の食糧を多めに運んできてよかった。村の皆は、とても喜んでくれた。


 挙句の果ては、「この村には、正しい主が必要だ」と、俺達が誅略した本家筋の女をどこからか見つけ出し、千手村に置いていっている。名をミナ。クソ野郎の血筋を色濃く引き、目は細くて傲慢で短慮。「何かあったら全部、斎藤様に伝えるから」と、村人の方を向くどころか、斎藤の手下だ。「羽茂本間の領主が正しい」と村人達に言いふらしまくっている。そして、俺が極悪者らしい。不協和音の原因はお前だろう?


 隠していた食べ物、柿の木の在処を斎藤に伝えたのもミナのようだ。「ワタシを疑うの?」と村人からの問いに猛反論したようだが、千手村の村人が斎藤共に伝えるはずがない。斎藤に耳打ちしていた場面を村人たちは見ている。明らかにお前だよ。


 生きるために足りない分は、「他の村から奪ってこい!」と焚きつけているらしい。村人を野盗にするのは、こういう奴だったのか。



 村の惨状を目の当たりにして呆然とする俺の前に、ミナが不遜な態度で現れた。

 俺を見るなりペッと地面に唾を吐いた。汚い。


「アンタが照詮(しょうせん)ね。アタシはアンタの事なんか認めてないから。アタシが信じるのは斎藤様だけ。斎藤様とアタシはしっかりと結びついているの。アタシに手を出すなら、斎藤様がただじゃ置かないからね」


 ……この自信は、どこから来ているのだろう?


 細い目をキツネのようにして、口を尖らせる。そして、権力を傘に強がる。お前はスネ〇か?

 他の村人達も迷惑そうだ。だが野放しにしていると、こいつに同調しだす奴も現れてくるかもしれん。うん、腐ったリンゴだな。


「斎藤様は、羽茂本間の領主様と深く結びついて信頼も厚い。そして、羽茂本間の領主様は越後の長尾様とも縁が深い。アタシに逆らうのは、()()()()()殿()()()()()()()()()()()()()!」


「いや、違うぞ」

 俺は普通に反論する。お前はお前だ。村人の生活を破壊し、血筋だけで物を言うクソ野郎の末裔だ。

「何言ってんの!」

 キツネ女は汚い口で俺を罵り始めた。俺は無視して環塵叔父に尋ねる。


「羽茂本間氏と長尾家に、結び付きはあるのか?」

「ん、確かにあるな。昔、関東管領の上杉氏に攻め入られたときに佐渡に逃げてきちょる。そして羽茂本間や他の勢力の手を借りて越後に戻って上杉勢を追い出しちょるな」


 なるほど、それは意外だった。羽茂本間を倒すと、越後最大勢力の長尾家の報復があるかもしれん……

 しかし、こんな奴がいたら、こちらの計画や秘密にしている金の事を調べられ、洗いざらい知られてしまう危険性が高い……


「さぁ、アンタはどうすんのさ?」

 キツネ女は、高慢な態度で俺に問いかける。自分は絶対安全な場所にいると思ったろ?


「弥太郎。頼んだ」

「い゛い゛のか?」

 弥太郎は言葉に出すのは苦手だが、言葉の内容理解は十分に出来る。要は、長尾家の影響を考慮してのことだ。よく考えてくれる護衛で嬉しい。


「とりあえず、半分でいい」

「……わがった」


 そう言うと弥太郎は音もなくミナに近づいた。恐ろしい程の速さだ。

 そして右腕をぐるんと後ろへ回しそのまま拳を頭の後ろへ通すとハンマーのようにフックさせてキツネ女の顔面に叩き込んだ!


 ゴギッ!


 いい音がした。気持ちいい音だ。


 ブジャーと汚い声と体液を垂らしてキツネ女はそのまま後ろに倒れた。ト〇とジェリーのト〇が倒れるのとそっくりだ。


「こいつを入れておく檻を作ってくれ。あぁ、()()()()()()()()()()()()

 俺は冷ややかに、連れてきた大工仕事ができる木兵衛に命じた。最初の仕事がこんな汚れ仕事ですまんな。木兵衛はこくこくと頷いて、矢のように走り出してしまった。



「皆、聞いてくれ!」

 俺は、大きく叫んだ。


「この女は村を助けるどころか危険に晒していた! 村の不協和音だ! 一致団結する際に、最も不要な者だ。こんな奴がのさばる先は、役人共にいいようにされて、ボロ雑巾のように絞られての死しかないぞ!」


 多少分からない言葉があるかもしれないが、雰囲気で察してくれ!


「そうだ!」

「あいつ等の思い通りにさせねぇぞ!」

 村のおじおば達は俺の叫びに声を合わせる。


 さらに続ける。

「俺達は弱い。でも、今だけだ! 必ず強くしてみせる! 羽茂本間氏や長尾家のことも心配いらん! 手は打つ! だから、俺を信じてついてきてくれ!」


「おお!」

「やってやるぞ! 糞役人どもめ!」


 戦国の世だ。強いリーダーシップと団結が大事だ。

 現代的道徳など糞くらえだ。話し合いなど時間の無駄だ。

 こんなに村を危機にさらす奴を改心させて、何になる? 




 ・・・力が欲しい。


 長尾家の後ろ立てと聞いて、(ひる)んだ自分がいる。


 怖い。

 だがそれは、力の無さが作る弱さだ。


 佐渡は今、混迷している。いや、戦国時代、日本そのものが混迷していると言っていい。

 むしろ、混迷していないことが不自然なのだ。誰かがそれを止める必要がある。



 できるか? 俺に・・・


 ・・・いや、「できるか」じゃない。「やる」んだ。やるしかないだろ!?



 俺は目を見開いた。


「仲馬おじ! 斎藤の手の者が次に来るのはいつか?」

「お、おう。確か八日後じゃ。酒と女を用意しておけと言われてどうしようか悩んじょった所じゃ」


「則秋! 村の防備を固めるにはどうすればいい? どれくらいかかる?」

 巨漢の侍に問う。


「はっ。堀を掘り(やぐら)をたて、穴を掘り仕掛けを作り、兵を増やし訓練し、武具を揃えて手筈を決めることかと。六日、いや五日である程度の防備をでき申す。ただ、大軍に備えるにはさらなる時間と兵が必要かと!」

「武具は持ってきた具足と強弓で足りるか?! 兵は連れてくる! それまでに防備や訓練をできるだけ頼む!」

「ははっ!」


「紫鹿! 羽茂本間の方、頼むぞ! 動向を調べ、できるだけこちらへ向かう力を削いでくれ!」

「はぁ~い」

 忍びのおばちゃんに頼む。できれば他の敵を作ってくれるのが最良だ。


「俺は環塵(かんじん)叔父、弥太郎ともう一度直江津に行って更に力を手に入れてくる。七日後だ。七日後に必ず戻る! それまで準備をよろしく頼む!」


 俺は頭を下げる。

「主様!」とたしなめられようが、やはり俺の流儀だ。


 金塊を更にもっていく。越後屋との取引に加え、長尾家、雑太本間氏、河原田本間氏の調略にも使う。

 兵はさらに連れてこなければならない。羽茂本間氏の城には侍が200ほどはいる。より手勢を増やすのは必須条件。戦いは数だよアニキというのも一理ある。



「照詮!」


 俺の胸に、レンが飛び込んできた。

 抱き止められればよかったのだが、仲馬おじの血を色濃く引くレンの飛び込みは異常に早い。霊長類最強女子のタックルのようだ。危うく転びそうになった、というか転んだ。


「照詮・・・、あたし、なんだか怖い。これからどうなっちゃうの・・・?」

 心配そうなレン。領主に正面から歯向かうことになる。不安、心配。正直な気持ちだろう。


「大丈夫だ! 俺には力がある。味方も増えてきちょる。次に戻ってくるときにはレンが喜びそうなモン買ってきてやっから、安心して待っちょれ。ただし、安物じゃろうがな」

 俺はレンを抱き上げながら、その心配を振り払うようになるべく明るく、お道化(どけ)て話した。「照詮ったら~」とレンから向日葵のような笑顔がこぼれる。村の衆のため、レンのためにも、俺の持てる力の全てを尽くさねば。




「ひひひ、無駄だよ。お前らは斎藤様に・・・」

 キツネ女が息を吹き返した。何だこいつ。本当に邪魔だ。


 ガスッ!


 サッカーボールキックで黙らせた。二度と見たくもないな。

佐渡ヶ島は、「おけさ柿」というブランド名がついた扁平な形をした種の無い柿が有名です。名前は佐渡の民謡「佐渡おけさ」に由来しているそうです(JA)。甘くて美味しくて毎年楽しみにしています。柿はミカンよりビタミンCが2倍あるとか(*´ω`)ぜひご賞味あれ。


上杉謙信の父、長尾為景は永正4年(1507)に越後守護の上杉 能房よしふさを下剋上のため殺しました。それに怒った同族の関東管領上杉 顕定あきさだが永正6年(1509)に為景をゴラァ! したため、為景は命からがらに佐渡へ逃げ延びています。城主本間対馬守 高季たかすえの息子三河守 高信たかのぶに一族の娘 (一説には姪)を嫁がせています。結びつきがありますね。


その後、佐渡の羽茂本間氏と惣領家の雑太本間氏などの援助を受けた為景は、永正7年(1510)4月に越後に再侵攻して上杉 顕定あきさだを倒し、傀儡の上杉定実を主として、越後の支配者としての地位を築きました。


この史実を知ったとき、「(*´Д`*)アァ~どうしよう」と思ってしまいました。羽茂本間氏と長尾家の結びつきは結構硬い。主人公の当面の目標は、越後最大勢力と紐付きだったのです!


打開するべき所は、越後の国内・国外がまだ不安定なこと、協力したのが20年ほど前のこと、という所です。主人公同様に頭を働かせている作者であります(*´ω`)


ご愛読、評価、ブックマークありがとうございます(*'▽')力になります

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― 新着の感想 ―
[一言] マフィアが支配する国か! 最近のなろうやコミックの傾向がわかって来たよ。
[気になる点] 青苧は布の原料であって、染料ではないのでは? 金鉱石は1トン掘ってグラム単位の金が手に入るくらいだと思うのですが、物語だと精錬済みのような純度の金塊が埋まっていてよく分からず。 古代文…
[気になる点] チェックミスかも 「ワタシを疑うの?」と村人にの問いに
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