第14話―2 昼食会
書けたから、投稿しちゃいました。
そう思いながら待つこと三十分。
ところがグーシュ皇女は現れなかった。
「……なにかあったかな……」
不安げに一木がつぶやくと、マナが立ち上がった。
「私が見てきましょう」
「悪いが頼めるか?」
一木はマナに頼みつつ、ちらりとミラー大佐と殺大佐を見てみる。
相変わらず無線通信も無く、黙って座っているだけだ。
(そういえば二人共昼食会に参加するのかな……アンドロイド用の食事、シャルル大佐に二人分頼めばよかったかな……)
アンドロイドは通常、水分ないしペースト状の物しか口腔摂取できない。
水分は冷却液や眼球の洗浄液として利用し、若干の栄養分は人工皮膚の維持に使用される。
そして残った老廃物はある程度溜まると口から吐き出される。
多少の固形物も摂取は出来るが、有機バッテリーと呼ばれる口腔摂取するアンドロイドのメインバッテリーの使用に影響が出る。
有機バッテリーはアンドロイドの体内で放電と同時に吸収される、こぶし大の丸い固形ゼリータイプのバッテリーだ。
朝方などに歩兵型が列になってひな鳥のように口を開け、中隊長に有機バッテリーを放り込まれる光景を一木もよく見ていた。
ダイソン球が未稼働の星系ではアンドロイドの活動に不可欠な主電源だ。飲食のために効率が低下しては死活問題のため、固形物は摂取しないよう厳命されていた。
一方でマナやシャルル大佐のような、サイボーグの介助や業務に必要なアンドロイドにはある程度強力な飲食機能が搭載されているため、少なめではあるが固形物を食べることが出来る。
ただし、あくまで介助や業務のための機能であり、人間同様の消化能力があるわけではない。
一木にはそれに関して苦い思い出がある。
シキにメガ牛丼が食べたいとわがままを言ったとき、最後の一口をシキが食べた瞬間の悲劇。
あの胃が破裂するバツン!!! という音は未だにトラウマだ。
そんな昔の事を想像しているとき、唐突にニャル中佐から通信が入った。
『シャルル大佐が二人を迎えに来たので任せました。私は業務に戻ります』
なぜシャルル大佐が?
一木が疑問に思うが、ひとまずこちらから迎えは必要なさそうだと判断する。
「マナ、迎えは必要ないみたいだ。今シャルル大佐が迎えに行ったそうだ」
「わかりました」
そうして待つこと更に十分。
いい加減に一木が痺れを切らせかけた頃、晩餐室の扉が静かに開いた。
来るなら通信くらい入れろと多少怒りながら扉の方を見ると、そこには見事な物腰で扉を開ける美しいアンドロイドが居た。
透き通るように輝く短めの金髪に、卵型の小顔。薄めの化粧にアンドロイド特有の人種的特徴の無い整った顔は、息を飲むほど美しく、気品に溢れていた。
服装は女性型ながら異世界派遣軍の男性用第一種軍装を身に着け、文化参謀部の勲章を目立ちすぎない程度に付けている。
人形の服のようにくっきりと折り目のついたその服は、もはや芸術品か工芸品の粋だ。
そして、その美しいアンドロイドに促されて入ってきたのがグーシュ皇女とミルシャだった。
ただし、二人ともジャージに適当な髪型では無く、異世界派遣軍の女性用第一種軍装を身に着けている。
ヒザ下までのタイトスカートに詰め襟の制服、勲章や階級章の代わりに鉄鎧の兜を模したルーリアト帝国の国章風のバッジを付けた特製?のものだ。
髪型も朝見たときとは違い、シンプルながらも整ったものだ。
顔にも地球風のメイクがされており、見た目だけなら痩せた少女と運動部の女子高生といった風情だった二人は、社交界や一流レストランにいてもおかしくない姿に変わっていた。
その様子に見とれてしまっていた一木は、慌てて立ち上がると二人を出迎える。
横では、なぜか微妙な表情をしたミラー大佐と殺大佐が同じく立ち上がり、頭を下げる敬礼をしていた。
「ようこそおいで下さいました。兵士の方達はどうでしたか?」
一木が問いかけるとグーシュ皇女はニコリと微笑んだ。
その笑顔に、一瞬無いはずの心臓がドキリとした感触がした。
「おかげさまで皆元気そうでした。死んだ者たちも丁寧な対処、誠にありがたい。ただ、手足や目を失った者たちなのだが……」
グーシュ皇女の言わんとする事はわかっている。
先程の映像で見た地球の医療技術で、失った部位を再生する事を求めているのだろう。
ただ、一木としてはこの事を取引に使う気はなかった。
「当然、治療させていただきます。お気になさらないでください。治療可能な怪我を放置することは地球では最大の罪です。必ずや皆五体満足で退院していただきます」
「あなたに帝国の感謝と甲冑の加護を。このグーシュリャリャポスティ、必ずやこの恩は返します」
グーシュ皇女がそういったところで、一瞬美人アンドロイドが一木に目配せをした。
瞬間、なぜか名称表示機能が誤表示を起こした。
あとで整備に頼んで義体のソフトウェアを見てもらおうと一木は決める。
ともあれ、一木は目配せに答えて二人を席に促した。
ゆったりと歩くグーシュ皇女と緊張した様子のミルシャが席に近づくと、美人アンドロイドが席を引いて二人を座らせた。
しかし物腰に無駄がない。一流のウェイター、いやウェイトレスのようだ。いや、高級店だとギャルソンだったか?
一木の知識では表現出来なかったが、ともあれこのような人材が宿営地にいたとは一木は知らなかった。
感心していると、座ったグーシュ皇女が美女に目をやりながら話し始めた。
「しかしこのような素晴らしい礼服を着せていただき、またもや感謝するしかない。しかもこのシャルルと言う者が髪や化粧までしてくれたのだ。ははは、日頃からこうしておれば兄上たちもわらわ達に見とれたかもな、ミルシャ」
「ええ、本当に素晴らしい服とお化粧です。帝都の一流店でもここまで素晴らしい服は無いでしょう。しかもいつの間に寸法を計ったのですか? 体にぴったりなのに窮屈さなど微塵もない、このまま切り合いができそうな着心地の良さです」
二人からの感謝の言葉に、異世界人と接したとき特有の優越感を一瞬感じた一木だったが、グーシュ皇女の言葉に気になる名詞が混じっていたことに気が付き、愕然としていた。
「ま、まさか、誤表示じゃないのか? 君は……本当に」
一木の狼狽した声は、当の美女によって遮られた。
「お褒めいただき誠に恐縮です。それでは、改めてご挨拶させていただきます。本日の昼食会の企画者兼メインシェフ兼給仕を務めさせていただきます、文化参謀のシャルル大佐と申します。本日は皆様に楽しい時間を過ごしていただけるよう全力を尽くさせていただきます」
そう言って優雅に一礼するシャルル大佐。
あのボサボサの髪に、締りの無い笑顔。調味料のシミだらけの軍服に割烹着やエプロンを着ている姿からは想像も出来ない格好だ。
『あいつ本気だ……俺たちを殺してでも美味しく楽しい食事会を過ごさせる気だぞ』
殺大佐の通信を聞いて、一木は心の中で冷や汗をかいた。
この食事の最中に、こちらを疑っているであろうグーシュ皇女に橋の崩落についての話をしなければならないのだ。断じて楽しい話ではない。
一木は暗澹たる気持ちになりながら、シャルル大佐の言葉に耳を傾けるのだった。
たまには豪華に二本投稿したっていいじゃない。
まあ昨日休んだから実質いつもと同じとも言えますが……。
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