第11話―6 会談へ
次回で11話が終わります。
今度は本当なんです、もう形はだいたい出来てるんです、本当ですm(__)m
そして次の第12話から、 一木代将とグーシュ皇女が始まります。
自分でも長くなりましたが、一章のラストからついに時間が動き始めます。
どうかお楽しみに。
「僕が製造されたのはカルナーク戦の中頃だった。その頃はちょうど向こう側の対応が一番充実してきた厄介な時期だ。民間人の住んでいる都市部の地下に、監視衛星でもわからない程厳重に秘匿された地下要塞が設置されていてね。そいつらが降伏した都市部に異世界派遣軍が進駐すると同時に、その都市の上空に水爆を搭載した弾道ミサイルを打ち上げるんだ。高高度で爆発した水爆から生じた電磁パルスは、展開していたSS同士の通信を妨害して、短時間だけど軌道上からの支援も無効化した」
この戦術は目隠し戦法と呼ばれたもので、当時カルナーク軍が用いた主戦術だ。
連携を絶たれた隙に、カルナーク軍は地下から一斉に攻撃を行った。
目的は異世界派遣軍の人間の指揮官。
カルナーク軍は異世界派遣軍への攻撃を常に人間のみに絞っていた。
当時はまだ大隊長レベルまでの指揮官を人間が務めていたため、被害が多発した。
当時のカルナーク軍の内部文書では、人口十万人あたり地球人を一人殺害出来れば、それが勝利だと記されていた。
当然、異世界派遣軍は都市部を監視し、進駐後にはミサイルの迎撃態勢を整えていた。
しかし、カルナーク軍が電磁パルス発生用に使用したこのミサイルには、ミサイルが破損すると可能な限り低高度で爆発する機構が搭載されており、これによって発射前、発射後関わらず迎撃を行うと地上には甚大な被害が生じた。
むろん、異世界派遣軍とカルナークの一般市民双方にだ。
カルナーク政府は緒戦での戦闘で、地球側が一般市民への被害を避ける事を知っていたのだ。
その読み通り、異世界派遣軍は地球連邦政府から一般市民への被害を抑えるために迎撃を禁止された。
都市部を包囲するにとどめようとも、地下のカルナーク軍は地上の市民に一切の支援を行わなかった。
サンフランシスコの連邦政府は困窮した市民への支援を命じる。
なぜなら、この戦争は当時の大統領の言うところの「スペースナチス」の討伐であると同時に、「圧政の被害者」であるカルナーク市民の解放戦争でもあったからだ。
いかなる理由でも市民を放置することは出来なかった。
そしてカルナーク軍にとっては、包囲下であれ、都市を一日でも守れればそれが勝利だった。
政府からの圧力で都市に突入すれば核ミサイルの発射態勢が取られ、迎撃も出来ず、一斉攻撃される。
そして数十人の異世界派遣軍戦死者と引き換えに、軍民双方が全滅した廃墟を地球側は手に入れることになった。
この不毛な戦いは、欧米系民主派大統領が選挙で敗北し、中露系の強権派大統領が誕生するまで続いた。もっとも、その後の戦いも今まで以上の地獄だったが……。
「データは知っています。カルナーク戦の中期、民主派大統領による被害拡大の時の話ですね」
「そう。僕はそのころ強襲猟兵として製造された」
強襲猟兵とは宇宙空間から地上、水中まで、あらゆる環境下で戦闘可能な装甲戦力として考案された全高8mの大型機動兵器だ。
現在ではもっぱら現地勢力の威圧や、重要拠点への軌道上からの降下による強襲に用いられるいささかマイナーな兵器だ。
だが、元々はこの当時のカルナーク戦で考案された兵器だ。
包囲下にある都市部での人間の被害を軽減するため、当時の戦闘規約上人間の指揮官を伴わずに行動できる中隊レベルの戦力で都市に巣食う敵戦力を撃滅可能な万能兵器。
それが強襲猟兵だった。
もっとも、その戦術は想定通りにはいかなかった。
機動力と火力、高性能センサーを持った強襲猟兵だったが、赤ん坊まで武器にするカルナーク人の抵抗の前に数十機の強襲猟兵は無力だった。
その上当時、非戦闘員への殺害は厳重に禁止されていた。後にカルナーク全域で非戦闘員への無差別攻撃許可令が出るまでこの禁止令は続き、被害拡大の要因になった。
何より、強襲猟兵の事を開発者や上層部は戦車と歩兵の役割を単独でこなせる兵器として捉えていたが、結局のところそんな都合のいい兵器ではなかったのだ。
「あの頃は本当に地獄のようだった。どんどん仲間が倒れて行って、僕たちに優しくしてくれた指揮官はどんどん死んでいった。たくさんの一木司令が、あのカルナークでは死んでいった」
ジーク大佐は今でも思い出せる。
初めて今の艦隊参謀の面々と出会った時の事を。
都市郊外の拠点に攻撃があったと連絡を受け、当時のジーク大佐が急行すると、そこでは司令部のSS達が砲撃でバラバラになった指揮官の死体を集めている所だった。
もくもくと死体を拾い集めるダグラス、クラレッタ、ポリーナ。
涙をポロポロ流すミラー。
体が半分吹き飛んだ猫とミユキの応急修理をする殺。
料理の入った鍋を持ったまま呆然とするシャルル。
「…………」
「あの……その話がなぜ一木さんとジーク大佐が同じということに?」
ジークは、自分の話が感傷のせいでそれた事に気が付いた。
ジークは抱きしめていたマナから一旦離れ、隣に座りなおす。
「話がそれて悪いね。そんなわけで、僕は強襲猟兵として長く活動していた。ところがそのあと色々あって参謀の適性があるって言われてね。参謀型のボディにコアを乗せ換えて参謀になるように命令された。つまりは、機械の体から今の人間型ボディになったんだ」
ジーク大佐がそう話したとき、マナがあっ、と声を上げた。気が付いたようだ。
「そう。一木司令と逆だ。彼は人間の体から今の機械の体になった。だから、僕の気持ちが分かるかも、と思ったんだ」
「ジーク大佐の気持ち?」
これにはマナも興味があった。
常々、一木が感じているだろう体に関する違和感や不便。そういったことに関する気持ちを知りたいと思っていたのだ。
ジーク大佐の事から一木の気持ちを知れれば、もっと深く役立てるはずだ。
「あの大きくて硬い、戦いだけを考えていればよかった強襲猟兵の体。小さくて柔らかい、艦隊全体の事を考えないといけない今の体。自分は掛け替えのないものを失ってしまったっていう喪失感。それを感じているし、同時に今の体だからこそ感じたり、出来ることもある。でもそうなると、怖いんだ。あの懐かしい強襲猟兵の体。もしあれに戻れば、もしかしたら自分はまた喪失感を感じてしまうんじゃないかってね。つまりは僕は、もう強襲猟兵も、今の体も、どちらでいても充足感や安心感を感じられないんだ。そう、僕には帰るべき場所がもうない……」
そこまで言って、ジークは笑いながら話を中断した。
マナの表情があまりにもおかしかったからだ。
そうだろう、相談した艦隊参謀の仲間にもわからなかったことがマナにわかるはずがなかった。
だからこそ、一木に話したかったし、理解者、そして自分の居場所候補として惹かれたのだが。
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