第11話―5 会談へ
次回で○○完結です。
という自分の言葉はあまり信用しないでください。
大概書いているうちに書きたいことが増えてしまうので。
「なぜここに! 一木さんの許可が無ければプロテクトが……」
「裏技があるんだよ。艦隊と師団のネットワークを経由してマナ大尉にアクセスして、ちょっとあれこれすればね」
どこか自慢げな表情でジーク大佐は話すが、どう考えても異世界派遣軍の規約に違反している。
マナは憮然としてジーク大佐を咎めた。
「そんな違反行為をするなど、艦隊参謀ともあろう方が恥ずかしくないんですか!」
マナの言うことももっともだ。
個人用の仮想空間への違法侵入は規約どころか、地球の刑法でも禁止される行為だ。
だが、そんなマナの剣幕などどこ吹く風といったようにジーク大佐は動じない。
「悪いね。だけど、今日は大切な話があってここに来たんだ」
「大切な話?」
「そう。艦隊参謀と副官ではなく、一木弘和に惚れたアンドロイドと、一木弘和のパートナーとして今日は話をしたい」
「……話は聞きましょう」
マナは静かに頷くと、居間にジークを案内した。
そうして二人は、眠る一木の背後に正座して、相対した。
「まずは謝罪しよう」
座ってそうそうにジーク大佐は告げた。
「当然です。個人所有の仮想空間への不法アクセスは……」
「ああ、違う。いや、それも謝罪するべきことだから違わないのかな? まあどっちにしろ違うんだ」
ジークの要領を得ない言葉に顔をしかめるマナ。
それに対してジーク大佐は相変わらずの笑みを浮かべたままで続けた。
「一木司令に恋愛的なアプローチをかけていたことだよ。そのせいで君には随分と不安な思いをさせたね」
その言葉にマナは驚いた。
正直言って図星ではあった。
彼女が自分の立場を奪ってしまうのではないかという不安から、ずいぶんと尖った態度をとっていたことも確かだ。
とはいえまさか、不法侵入までして謝罪しに来るとは思ってもみなかった。
「一体……どういうつもりなんですか?」
「君に一木君の本心を伝えに来たんだ」
「弘和君の本心……」
それはマナがずっと知りたかったことだ。
自分は彼にとって一体何なのか。どうすれば彼に役立てるのか。
これも当然のごとく、作戦参謀から聞くとは思っていなかったが。
「まず知っておいてほしいのは、彼は君の事が嫌いではないということだ。彼は百四十年前の、それも人間に対する感覚で君に接している。それは分かるかな?」
一木弘和の来歴はもちろんマナも知っている。
彼がアンドロイドの普及以前の常識下でいることもだ。
「もちろんわかっています。ですがそれと私が好きか嫌いかに何の関係が?」
とはいえ、マナにとってはそれはあくまでデータとしてとらえているだけだ。
実感や経験に裏打ちされなければ、本当の意味での理解が得られない。
感情制御型アンドロイドの特徴であり、限界だった。
「彼はね。死んだパートナーアンドロイドのシキがまだ好きなんだ。そして後継型の君にそのシキの面影を見ている。だから本心では彼は、君にシキの代わりになって欲しいんだ」
「ですがそんな事弘和君は言ってくれませんし、その素振りもありません。よく私の事を”シキ”と呼び間違えますが、そのたびに彼は悪いことをしたような表情を浮かべます」
だからジーク大佐の言っている事は間違いだ、とマナは本気で思っていた。
もし本当にシキの代わりを担ってほしいのなら、名前を間違えたくらいであのような反応はしないはずだ。むしろもっとシキのような行動を求めてくるはずだ。
そう思っていた。
そんなマナの思いを知ってか知らずか、ジーク大佐は優しい笑みを浮かべた。
「製造後間もない子らしいなあ。いいかい? 彼はね、君の個性を尊重しないで、シキの面影を強制することに強い罪悪感を覚えているんだ。付け加えるならパートナーアンドロイドがいなくなってすぐに新しいパートナーを迎えることそのものにもかな」
ジーク大佐の言葉を聞いてマナは混乱した。
求める役割をパートナーに強制しないで、何の役割もないアンドロイドと一緒に過ごすことをよしとする……なぜそれが自分のためなのか……。
アンドロイドが存在しない、人間同士の時代の人間が一木弘和だ。
アンドロイドがいないということは……。
「う~……大佐……私にはわかりません。なんで弘和君は……」
また感情が強く働き、眼球洗浄液がポロポロと流れ出す。
それを見るとジーク大佐はゆっくりと近づき、優しくマナを抱きしめた。
「また泣いちゃったのかい?」
「私はダメなSSです。そんな私が……」
「大丈夫。泣き虫なアンドロイドはパートナーに向いているからね」
初めて聞いた情報だった。
マナはジーク大佐のパジャマの平たい胸元を濡らしながら、くぐもった声で「本当ですか?」と尋ねた。
「本当さ。だからねマナ大尉……いやマナ。今日は提案をしに来たんだ」
マナは顔を上げると、ジーク大佐の顔を見上げた。
ジーク大佐は優しくマナの顔を見降ろしながら言った。
「僕が、君たち二人のキューピッドになってあげよう」
「キューピッド?」
マナのデータではローマ神話の愛の神の事だ。
転じて、男女の間を取り持つ役割のことを言うらしい。
「でも、なんでですか? 大佐も弘和君の事が……」
先ほどから混乱することばかりだ。
言っている通りだとすれば、好きでもないのに好きなふりをしていたのか。
そして好きでもない相手とそのパートナーアンドロイドの仲を取り持とうとしている……。
「そう。好きだよ。でもその好きは君や一木司令の好きとは違うんだ」
「違う?」
「僕と一木司令は同じなんだよ。だから、とても親近感が湧くんだ」
百六十年前に生まれたサイボーグと参謀型Servant soldierに何の共通点があるのか。
マナはジーク大佐に抱きしめられたまま耳を傾けた。
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