第11話―4 会談へ
ブラウザで執筆中にデータが消えてしまいこの時間になってしまいました。
大変申し訳ございません。
もう少しこの話続きます。
その後、自室に戻った一木はわざわざ仮想空間のアパートの部屋に意識を移すと、そこで作業を始めた。
現実の55式強化機兵の体よりも、こちらで作業したほうが生身の感覚でリラックスして作業できると思ったからだ。
しかしグーシュ皇女が目覚めるまでに完成させなければならないというのに、作業が捗らなかった。
この後、いつになるかわからないが、マナが戻ってきたときにどう接すればいいのか決心がつかなかったからだ。
「大概こういう事でウジウジ悩んでる奴はくそ野郎なんだよなあ……わかってるのに踏ん切りがつかない……俺って本当にダメな奴だ」
福利課が供給している娯楽用の動画から、使えそうな部分を抜き出していく。
その作業をしながら、ぶつぶつと口に出して考えをまとめようと試みる。
「前の奥さんの代わりに……違う。俺の奥さんに……うーん。結婚しよ……いや違う。どう言えば……いやそもそも俺はあの子にどうしてほしいんだ?」
今夜中にジーク大佐に言われた事を何とかして、マナの精神を落ち着かせよう。
そして動画を完成させようと一生懸命頭を働かせる一木だったが、そんな状態で作業が進むはずもない。
やがて、日中の疲れもあり、一木は机に突っ伏して寝入ってしまった。
その一時間ほど後。
一木の自室にマナが戻ってきた。
デフラグ作業自体は予想より早く終わった。
もっとも、それはマナの精神状態が良好だからではなく、根本原因である一木との関係性自体がどうにもなっていないが故に、精神の調整作業のやりようがない領域が多かったためである。
マナとしては、こうやって自らの精神が不安定になる事で、一木や周りに迷惑をかけることが非常に心苦しかった。
だが、どうにもならない。
彼女は一木弘和という人間のパートナーとして製造された。
製造後のデータインストールと基礎教育では、パートナーを失って心に傷を負った男性サイボーグの元にパートナーとして赴くと説明された。
彼女はその情報から、一木という人間は前のパートナーの代わりとしてマナを求めるだろうと予測して赴いた。
ところが会って最初に一木という男に言われたのは、「必要ありません」の一言だった。
あまりにも予想外の言葉に、マナは思わず眼球洗浄液をボロボロと流してしまった。
パートナーである前にSSでもある身としては、貴重な水分を無駄にする最悪の感情表現だったが、自らを制御する感情がその行為をさせてしまうほど、マナの精神は傷ついた。
それを見た一木は考えを変えたのか、マナの事を受け入れ近くにおいてくれた。
しかし、マナの存在意義と立場、役割を具体的にはしてくれなかった。
確かにパートナーアンドロイドであり、異世界派遣軍の師団長職の副官であり、医療用のSSではある。
だがそれはマナにとっては自己に付随する要素でしかない。
地球人類にとってどういったことで役に立つのかが定義されなければ、感情制御型アンドロイドは存在する意味がない。
なのに、一木という男はマナに対し、何も求めなかった。
マナという個を尊重するという一木の行動は、結局個性の尊重ではなく自身の役割と定義を求めるアンドロイドにとっては最悪の物だった。
だからこそマナは一木の行動から予想されるパートナー像を必死に読み取り、保護者的な口調や行動をとり、前のパートナーの代わりとして妻的なアプローチにも余念がなかった。
だが、それでも一木はあくまでマナというアンドロイドを一人の少女としてしか扱ってくれず、その上最近ではジークというアンドロイドまで一木にアプローチをかけてくる状況になった。
ジークには異世界派遣軍の艦隊参謀として地球人類に貢献するという立派な役割がすでにある。
だから精神が安定していて、行動も経験もあり立派だ。
それに対して自分はどうなのか。
一木から役割も与えられず。
精神や技能も未熟。
もしこのままなら、いずれ無価値な存在になり果てるのでは……。
そう考えるだけでマナの心はきしみをあげ、先ほどのような状態になってしまった。
「弘和くん、ただいま戻りました」
それでもそんな事を自分から言うことは出来ない。
そう思いいつも通りに部屋に入ると、そこには執務机に座ったまま機体のコンピューター内の仮想空間にダイブした一木、の抜け殻である55式強化機兵が鎮座していた。
「仮想空間で仕事してるのかな?」
仕事をしているなら何か手伝いを。
寝ているなら添い寝を、と考えてマナは首筋からケーブルを伸ばすと、55式強化機兵の首筋にある端子に差し込んだ。
本来ならプロテクトがあるが、パートナーのマナであれば無許可でも仮想空間に入ることが出来る。
端子を接続した瞬間、マナの意識はこじんまりとしたアパートの一室へと移動していた。
見ると、一木はアバターの男性の姿で、机に突っ伏して寝入っていた。
「ああ、お布団に……」
「布団に移動させないと風邪を……あれ、ここでも風邪をひくのかな?」
突然背後から聞こえた声に、マナはアンドロイドにあるまじきことだが、飛び上がるほど驚いていた。
慌てて振り向くと、そこには予想外の。
そして一番会いたくないアンドロイドが立っていた。
「ジーク大佐……」
「やあ。なかなかいい部屋だね。お邪魔するよ」
いつもの制服ではない。
灰色のパジャマ姿のジーク大佐がそう言ってサンダルを脱ぎ、部屋に上がった。
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