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第7話―4 現場にて

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 一木達の見ている前で、馬車が停止する。

 行列を組む兵士たちも止まり、馬車に数人の兵士が向かった。

 一木が諜報課の情報と照らし合わせると、あの一団の代表の騎士だということだ。


「何かあったのか……地上コマンド、音声拾えるか? 拾えたら転送しろ、送れ」


「こちら地上コマンド、了解。グーシュ皇女の音声……よし、繋がった。この距離ならいけます、転送開始、送れ」


 急ごしらえで現地仕様の形式で作ったペンダント型GPS装置には、短距離でのみ電波を拾える盗聴器が備え付けられていた。

 もっと広域で電波を拾えるタイプのものがあれば、グーシュ皇女の人となりや帝国の情報を得るためにも会話をすべて聞いていたかったのだが、急いで制作したペンダントにそのタイプの盗聴器が入らなかったのだ。

 

 とはいえここまでくれば盗聴可能だ。

 一木は通信に耳を傾けた。


『転げ落ちるほどではありませんが、用心は必要です』


 無骨な男の声だ。先ほど馬車に向かった護衛代表のようだ。


『すまんな隊長、よしなに』


 聞き覚えのあるグーシュ皇女の声だ。鶏肉宿の時とは声色が違う。外向きの声のようだ。

 威厳がある声色に、一瞬一木の心に畏怖と敬意の感情が芽生えた。


(すごいな……これがカリスマってやつか。こんな体験は初めてだ)


 あの年頃の少女の言葉とは思えない、妙な高揚感を感じる声と話し方だった。

 ただの応答がここまで、見ず知らずの遠い惑星のサイボーグの心を揺らすことに、一木は非常に驚いた。

 

(本当にとんでもない逸材なのかもな)


 一木がそんな事を感じている間にも会話は続いていく。


『はっ。よし、隊を三班に分けるぞ! 先行、馬車護衛、後衛に……』


『いえ』


 この遮った言葉はお付きの女騎士、ミルシャという少女のものだった。


『全隊で一列になって渡りましょう。万が一に備える必要があります』


 この言葉にカタクラフトの機内が凍り付いた。

 諜報課の掴んだ行列の工程表では、橋を渡る際は前列、馬車と直衛、後衛と行列を三つに分ける計画だったはずだ。だからこそ、犠牲を最小限に抑えられるはずだったのだ。

 その前提が覆る可能性が急に降ってわいてきた。

 一木達は会話の続きに固唾を飲んで聞き入った。


『……なるほど、襲撃を恐れておいでか?』


『はい。ついでに言えば橋ごと僕たちを落とすことも警戒していました。あなた達が一緒なら、避けることが出来るかと……』


 このミルシャという騎士は暗殺の可能性に気が付いていたのだ。

 そうなると、この騎士は今回の全権大使就任に反対しなかったのだろうか。

 なおも会話は続く。


 小さな舌打ちの後、馬車の中で身じろぐような音がした。

 続いて護衛代表の声。


『付き人として主を心配するその意気やよし。しかし考えが浅いですな。確かに我らがあなた達の敵対者の一員であるならば、なるほど我らごと橋を落とすことなどしますまい』


『そうです。失礼なのは承知ですが……』


『しかしもし、敵対者が不退転の決意を持っていれば我らごと落とすでしょう。もしくは我らが敵対者の仲間だとすれば、橋の真ん中で馬車を集団で落とすかも知れませんな』


『そ、それは……』


 この物言いの通り、この護衛隊はイツシズの配下とは関係のない、むしろグーシュ皇女の支持者と言ってもいい連中だ。

 このことを考えるに、今の行為はお付きの騎士の先走りの様だ。

 守りたいという気持ちが空回りしているのか。

 一木はそう考えると、ちらりとマナの方を見てしまった。

 そうして一木が視線をマナからモニターに戻すと。何かを殴ったような音が聞こえた。

 そのあと、先ほどとは違う、年相応の少女の声が聞こえてきた。


『馬鹿者が。兄上の裏切りの事を心配したのだろうが、この者たちが全員裏切り者ならばどのみち詰んでいるんだぞ……ごちゃごちゃ言わずにどっしり構えておれ』


 兄の裏切り。今のところ一木には報告の無い情報だ。調べる必要があるだろう。


『し、しかし殿下……』


 ミルシャの涙声の後、馬車の椅子がきしむ音と、布の擦れる音がした。


「どうしたんだ?」


 一木の疑問に殺大佐が答えた。


「ミルシャを抱きしめたんじゃないか? この国の皇族は男女問わずお付きの女騎士と深い関係になるのが嗜みらしいからな」


「百合だなあ……」


カタクラフト汎用攻撃機の中でマヌケな会話が行われる最中も、話は続く。


『ほんとに馬鹿だな……昨日のわらわを見て考え込んでいたのか……悪いことをしたな……隊長殿、どうか気を悪く……』


『なんのなんの……付き人の鑑ですよ、何を怒りましょうか。それに殿下、我ら一同気さくに接してくださる殿下を害することなどありません。事実今回の護衛は実力以上に殿下を慕うものを志願を募り集めました。ましては今は海向こうのとの初めての交渉という一大事。派閥だので動くことではありません。それにですな……』


『『それに?』』


 主従の声がきれいに重なる。


『この大きな石橋を壊すような仕掛けなど出来ませんよ。この石橋を一気に壊すような仕掛けなど、殿下がここを通ることが決まってから用意することなど出来ませんよ』


 護衛代表の言葉を聞いて、一木は暗澹たる気持ちになった。

 こうまで言い切った男の言葉を否定するような事をこれから自分たちがすることにだ。


 だが、ここまで来た計画を今更変更することなど出来はしない。

 一木は揺らいだ決意を再び固めるが、モニターに映し出された行列は分散せず、まとまったまま進み始めた。


「こちら街道監視。行列予定にない状況……車列は一列のまま進み始めました、送れ」


 途中までは、護衛代表の男の言葉を受けて計画通りに列を分けて橋を渡るかと思われたのだが、結局ミルシャの言うことを受けてまとまったまま渡ることになってしまったようだ。

 護衛代表の男があそこまで言い切ったのだ。警戒せずに当初の予定のまま進んでほしかった。

 

 しかし、そんな思いとは裏腹にとうとう行列は橋に到達した。


「こちらエネミーポイント。行列を視認しました。エネミーは導火線に着火した模様、送れ」


「地上コマンド、オペレーションをフェイズ7に移行する。上空コマンド、こちら地上コマンド。予定と車列の状況が違うが、爆破は実行してよろしいか? 送れ」


 行列を構成する兵士のうち、最前列の一部と後から渡る輜重隊以外の百五十名ほどは確実に橋と一緒に落ちる。命はないだろう。


 一木は唾を飲み込みたい欲求を強く感じながら、声を発した。

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