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第7話―3 現場にて

試験的に感想受付の制限を無くしてみました。

広告やら変な書き込み等の問題が無ければこのままにしておきます。

 あの会議の後、一木達は急いで準備を進め、どうにか作戦の開始に必要な状況に持ち込むことが出来た。

 ただ、作戦実行に不可欠なグーシュ皇女にGPS付きのペンダントを持たせる方法だけが確実性がなく、最終的にはばれることを覚悟で発信機を仕込むことも考えられた。

 しかしどうにか、諜報課の方で協力者に仕立て上げていた帝弟の協力で事なきを得た。

 ただ、一木は成功を報告してきた猫少佐の呟きが気になっていた。


 「またあいつにあれをやるのか……」


 ()()とはいったい……。


 とはいえこれで準備は整った。

 一木とマナ、殺大佐は師団の救難救助チームと共に、グーシュ皇女たちが帝都を出発した日の翌朝。

 到着したカタクラフト汎用攻撃機一個小隊四機に乗り込み、現場上空で待機していた。


 現場の様子は周辺で待機している諜報課と師団の歩兵部隊。

 そして衛星コントロール艦が展開した監視衛星によって逐一リアルタイムで把握できていた。


 一木はゲームのように鮮明な画像で映し出されている、イツシズ配下の男たちの様子を機内に設置されたモニターで眺めていた。


「殺大佐、奴らが設置した爆薬の除去及び橋への再設置は?」


「奴らが橋から離れてすぐに開始して、もう完了してるよ。やつら光学迷彩なんて発想もないからな。崖下から見上げていても気が付きもしてないよ」


 この短時間に光学迷彩装備とはいえ、爆薬の除去と再設置を発見されないように成し遂げた工兵たちの練度に感心しながら、一木は現場指揮官に通信をつないだ。


「こちら上空コマンド。地上コマンド状況報告せよ、送れ」


「こちら地上コマンド。爆薬再設置完了。オペレーションは現在フェイズ6に移行、送れ」


 オペレーションのフェイズ6とは、現地の準備完了に伴う皇女様一行の到着待ちを表している。

 一木は進捗に満足しつつ、他の部隊にも通信をつないでいく。


「こちら上空コマンド。街道監視状況報告せよ、送れ」


「こちら街道監視。皇女殿下一行は定刻通りポイントを通過しつつあり。現場到着に遅延なし、送れ」


「了解。エネミーポイント、状況報告せよ、送れ」


「こちらエネミーポイント。敵工作部隊は全員崖下にて待機中。着火用の導火線の準備に手間取っているようですが……あ、いま準備完了しました。状況予定通り、送れ」


 現場各隊が予定通りに動いている事を確認して、一木は口元の冷却ファンから空気を吐き出した。

 感情表現に伴うこういった動作は、この体になってから二年以上たっても容易に抜けなかった。


「なんとか予定通り進んでるみたいだな」


 ホッとした一木に殺大佐が話しかけた。緊張している一木を気遣ってくれているようだ。


「ええ。俺の唐突で無茶な作戦をみんなが支えてくれて……頼もしい限りです」


 一木の本心だったが、殺大佐は苦笑いしながら一木をたしなめた。


「そのセリフは心の中に秘めておけよ。ジークみたいなやつをこれ以上量産することになるぞ」


「え、あ、はい。気を付けます」


 一木自身はスルーしてしまったが、()()()()、なのだ。

 新しく着任した元からなぜかアンドロイドに好かれる体質の、人間やパートナー相手のように親身に接してくれる師団長はかなりの人気を博していた。

 この事実は艦隊参謀達によって一木のストレスがこれ以上増えないように秘匿されていたが、果たしてどこまで隠し通せるか。

 緊張しながら指揮を執る一木自身は、何も知らずにいるのだった。


「しかし回収した火薬を見る限り、お粗末な連中だよ」


「何かあったんですか?」


 殺大佐は肩をすくめながら答えた。


「湿気った不純物だらけの黒色火薬にどれだけの威力があったかってことさ。この大陸では長年戦争がなかったうえに、硝石不足。そのせいで火薬の扱いに慣れてないらしい。あいつらはせっせとマスケット銃用の火薬をちょろまかして切り札にしていたみたいだが、この有様で使い物になると思ってたんだとしたらおめでたい連中さ」


 殺大佐は貶すが、進歩や発展が求められない技術などその程度のものだ。

 イツシズの配下に火薬の専門家がいれば保管方法や扱いが多少なりともまともになったのだろうが、残念ながら近衛騎士団には薬式鉄弓が配備されておらず、火薬取り扱いの専門家は地位の低い下級騎士だった。

 派閥の不正がらみの隠匿火薬の取り扱いにそんな人物が関わることは当然なく、彼らは火薬が火をつければ爆発する便利な物質という以上の知識を持っていなかった。


 しかし、この事実は一木を余計落ち込ませた。


「つまり自分たちは失敗する可能性の高い暗殺計画を成功するように仕向けてるわけですか……ますますマッチポンプだ……」


「そう嘆くなよ。もっとヤバい橋を渡った部隊なんてごまんといるさ。まあ、あいつらがあんな ボンクラなら、そこまで重装備で来る必要はなかったかもな」


 殺大佐の言う通り、今の一木は普段とは違う見た目をしていた。

 というのも、普段の一木は日常業務に必要ない装甲版の一部を取り外しているからだ。

 一木の義体である55式強化機兵は装甲の取り外しができる仕様になっており、一木は普段の生活においては文字通り重りにしかならない装甲を取り外して生活していた。


 これにより一木の重量は三百五十キロほどに軽減されていたが、これに装甲板を追加すると防弾性能と引き換えに重量は五百キロに達する。

 こうなると日常業務や生活に支障が出るため、普段は取り外して生活していたのだ。

 今回こんな重装備で来たのは、マナがこうしないと現場に出ることを許してくれなかったのだ。

 

「そんなことはありません殺大佐! 現場では何が起こるかわからないんです。司令官の身に何かあったらどうするんですか!」


 マナの剣幕に、殺大佐は一木をからかうように見た。


「ずいぶん愛されてるじゃないか。やっぱり浮気は出来ないな」


 その言葉に一木はモノアイをクルクルと回した。

 一木はこの体になってから、表情を作れない代わりにどうにもこのモノアイが動くようになっていた。

 治したいのだが、意識せずに起きてしまう。

 しかもわざわざコンピューターが補正をかけて視界自体は揺れないという仕様で、余計癖を治しづらかった。


「もとよりする気はないんですがね」


「それでいい。マナ大尉には嫉妬で狂う余裕などない」


 カタクラフト汎用攻撃機の隅で、医療機器のチェックをしていたニャル中佐が呟いた。

 最近事あるごとにニャル中佐はマナに医療技術を教え込んでいた。

 アンドロイドは技能をインストールすればすぐに使用できる、と思われるだろうが、実際には違う。


 インストールすることで得られるのはあくまで知識やどう動くかという情報面だけで、実際に体を動かす実感は訓練することでしか得られない。

 いわゆる体に覚えさせる、という作業が必要なのがSSやSLといったアンドロイドの特徴だった。

 このことはロボットと違い手間がかかる点ではあるが、ロボットと違い訓練と実戦により絶えず技能が上昇していくというメリットでもある。


 マナには医療技術が一通りインストールされているが、ニャル中佐はマナに経験を積ませて一流の医療系SSにしてやりたいと思っているようだった。


「しかし悪かったですねニャル中佐。ルニの街の衛生指導でも忙しいでしょうに……」


 通常の異世界では、宿営地の確保を行った後は周辺の街に衛生指導を行うことになっており、それは衛生課長の重要な職務だった。

 

「残念ですがそちらは暇なのです。ルニの街は異常なほど衛生状態がよく、せいぜいが水道やポンプの設置や石鹸の配布程度です……」


「そうなんですか。よかったですね」


「よくありません!」


 突然の大声に機内が凍り付く。


「虫だらけの寝具……尿で洗う衣服……汚水が垂れ流しのトイレ……それが流れ込む不衛生で浅い井戸……無知な民衆……無知な医者……残念ながらそれらがこの国には無いようなのです」


「それの……どこが残念なんですか?」


 聞いてしまった一木に殺大佐が憐れむような視線を向けた。また、地雷を踏んだようだ。


「私は! 無知で不潔な異世界人を清潔にしていく過程が好きだったのに……そもそも私はですね」


「上空コマンド、こちら街道監視。皇女様の馬車が最終ポイントを通過、送れ」


 幸いなことにニャル中佐の言葉は待ちに待った皇女様の到着により遮られた。


「すいませんニャル中佐、続きは後程。地上全体に告げる、オペレーションをフェイズ7に移行。地上コマンドは爆破タイミングを計れ。タイミングは任せる。同時にカタクラフト3、4は地上救助班を所定ポイントに輸送する準備。音でエネミー及び皇女様に気が付かれないよう慎重に高度を下げろ、送れ」


「「「了解」」」


 全体から了解の合図が響く。

 石橋に、長いグーシュ達を乗せた馬車が迫ってくる。

 一木のモノアイが、画面越しにそれを捉えた。

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