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第13話―4 ファーストコンタクト

月間宇宙(SF)ランキング29位に「地球連邦軍様、異世界へようこそ」がランクインしました。

ジャンル変更した直後のご祝儀ランクインではありますが、これも皆様のおかげです。ありがとうございました。

 この時崖付近に展開する四四師団を見ていたのは、ルニ子爵領を拠点に活動するジャルアという男を頭目とする盗賊であった。

 だが、厳密に言うと彼らは盗賊とは言えない。

 彼らはルニ子爵領に出入りする商人から金銭を徴収し、その一部を子爵領に上納するという密約をルニ子爵と結ぶ、言わば非合法徴税人としての顔も持っていたからだ。


 ルニ子爵の様な小規模領主ともなれば、盗賊の様なアウトローへの対処は財政を圧迫する大きな要因であった。

 無論討伐し、領内を巡回すれば一番いいのだが、小さいとは言え領地全体にそんな警戒をする余裕など逆立ちしても無いのが実情だった。


 そんな小規模領主が採る一般的な方法が、ある程度実力のある盗賊の類と交渉し、度を越さない範囲での活動を合法化する事だった。

 ルニ子爵領の場合、それはジャルア達が商人から持っている商品の代金、もしくは物品の一割を徴収し、徴収した物から三分の一をルニ子爵領に上納するという密約が結ばれていた。

 ルニ子爵としては、商品を奪った上に皆殺しにするような凶悪な輩が入り込むことを防止し、彼らが領内の山林を見張ることで治安維持も出来る。

 その代金と思えば、帝国法で定められた税率以下の徴収率であろうとも、ジャルアの様な存在と手を結ぶのが賢いやり方だった。


 だからこそ、ルニ子爵領にネットワークを持ち、絶えず見張りと巡回を欠かせない彼らがたとえ恐ろしい海沿いとは言え、師団規模の人員がたむろするこの状況に気が付かないはずが無かったのだ。


 無論、それは異世界派遣軍の側にも言えたことだったが、殺大佐の行動はあえてジャルアたちを泳がせ、ここまでおびき寄せたものだ。


「おー、おー。よく集まったな。ごろつきにしては上出来上出来」


 殺大佐は満足げに呟いた。

 すると、彼女の通信装置に部下たちから通信が入った。

 盗賊たちの事を報告しているようだ。


「よし、ねぐらは全部で六ヶ所か。潰せ。構成員は皆殺しだ。こっちにいる本隊は教材になってもらう」


 殺大佐がそう告げると、諜報課の戦闘部隊が一斉にジャルア盗賊団のアジトを強襲した。

 無論勝負になるような物ではない。またたく間に鎮圧される。

 報告を聞くと、ニコニコとした笑顔で殺大佐はゆっくりと一木のいる方に向かっていった。


 今やっていることは、事前にサーレハ司令から言伝られていた事だった。

 一木にSSという物がどういうものか知らしめること。


 実のところ、将官学校での訓練で見るSSというものは実情とは程遠い。

 彼ら将官候補生を指導する教官のSSは、誰も彼もベテランで、人間と見分けのつかない精神性を持っているし、訓練師団や現場実習で配属される部隊も末端の歩兵までベテランぞろいの精鋭が配属されているのが普通だ。


 だからこそ、ごく普通の部隊に配属され、一般の歩兵がどういう存在なのか知ると、その指揮官は間違ってしまう。

 SS。Servant soldier。人類の奉仕者である兵士たち。

 訓練で見た勇猛果敢で知的な印象が現場で覆った時、新人将官は兵士をまるで愛玩動物のように扱ってしまう。

 そうならないためにも、方法は様々であるがこれは必要な事だ。

 殺大佐は一木に向かって口を開く。わざとらしく聞こえないと言いが、と殺大佐は少し気にした。


「おう、一木司令。大変だ」


「どうしたんですか? 」


「現地民に見つかった。武装した五、六十人ほどがあっちの森からこっちを窺ってる」


 殺大佐の言葉を聞いた一木は驚いているようだ。

 どうせまた、自分の指示が甘かっただのと後悔や罪悪感に苛まれているのだろう。

 その事に考えを及ばせると殺大佐は、多少イラつきを覚えた。


 この新しい師団長はどうにも自己評価が低いきらいがある。

 判断やアンドロイドへの態度はそこまで悪く無いのだ。もっと自信を持ってほしい。

 これは殺大佐以外の参謀にも共通した意見だった。全員当初覚えた異常な親近感や好意に対して疑問に思っていた。


 この事は妙な白い女と合わせてダグラス大佐と殺大佐がこっそり調べていたが、手がかりは無かった。


(その事はまあいい。自信を持たせる事についても、それは後だ。今は、SSって物の本質を教えてやるよ)


 殺大佐が心の中で考えを巡らせていると、一木が驚きを抑え、指示を出そうとした。


「至急偵察を出そう。突撃兵を十名ほど出して……」


 やはり慎重に動くようだ。殺大佐は一木の思考パターンを確かめながら会話する。


「そのことだが一木司令……」


「なんですか? 」


「あいつらは事前調査で見つけてた盗賊の連中だ。ここは俺に任せてくれないか? 」


「いや、もっと慎重に動いたほうが……」


 この慎重さが単なる指揮の傾向ならいい。しかし、もし違うのであれば正さなかればならない。

 殺大佐は獰猛な笑みを浮かべながら告げた。


「一木弘和代将。あんたに見せてやるよ、サーヴァントソルジャーってもんがどんなものかっていう本質をな。俺たちは可愛い愛玩動物じゃ無いってことを示してやるよ」






 森の中から崖の方角を見ていたジャルア達盗賊団は、明かり一つ無い中必死に崖沿いに集まる集団を見張っていた。

 距離にして三キロほど先。いくら夜目が効くとは言え見える物ではない。

 そのため、一番夜目が効くが一番下っ端のヨロスが通行税をちょろまかそうとした商人から没収した星見筒で崖の方角を見張っていた。

 

「どうだヨロス! 何か見えたか!? 」


 ヨロスが登っている木の下でジャルアが叫んだ。

 顔全体を覆うヒゲと、マルタのように太い手足と腹が特徴の大男だ。ルニ子爵にも引けを取らない。


「駄目です親分。すんげーでけー船みたいな影が空飛んで来て、降りてからまた空に戻っていって……あとついさっき箱みたいなもんが街道をルニの街に向かっていたくらいしか……いまは何もわかりません」


「せっかく星見筒渡してんだ! きっちり何か見つけろ! 」


 ヨロスをどやしつけると、ジャルアは周囲にいる幹部たちと話し始めた。

 この様な事態など想定しているわけがない。

 一ヶ月ほど前から妙な連中が子爵領をうろついていたのは分っていた。

 だが、違和感を確信に変えるような確証を掴むことは出来ていなかったのだ。


 そしてこの騒ぎ。

 ヨロスが流れ星が近くに落ちてきた、なんて言うものだから、わざわざ手があいた連中総出でここまで来たらこの有様だ。

 以前商人から、空から落ちてきた石は帝都にいる物好きな第三皇女が高値で買い取ってくれるという話を聞いていて、一儲けになると思っていたのだが。

 結果は妙な空飛ぶ船から妙な集団……いや軍勢が降りてきている。

 

「どうしやすか親分? 」


「仕掛けますか? 」


 幹部連中までもが不安げにしているが、あの人数相手に仕掛けるなど異常者のすることだ。

 そもそも空を飛ぶような連中に勝てるのか? 答えは否だ。ならばやることは……。


「子爵に急いで知らせを出すか。妙な連中がいるってな」


「それがいいでしょう。その後俺たちは? 」


「少数の見張りを残して、動きがあったらアジトの俺とルニに知らせろ。下手すりゃこりゃ戦だぞ」


 ジャルアがそう言った時、木の上のヨロスが大きな声で叫んだ。


「親分! 女の子だ! 」


「あ、なんだって!? 」


「崖の方から女の子が……」


 ヨロスがそういった瞬間、ジャルア達が見ている前でヨロスの顔面が砕け散った。

 呆然とするジャルア達に、数秒遅れてターンという音が聞こえた。

 その音が何なのか、更に数秒経ってジャルアが気がついた時、それがやってきた。


「薬式鉄弓だ! 全員固まるな散……」


 ジャルアの首が、草むらから飛び出してきた若い女に切り飛ばされた。

 女の手には黒い複雑で太い形の棒が握られており、先には腕ほどの長さの剣が取り付けられていた。

 盗賊たちが呆然とする中、草むらから次々と女達が飛び出してくる。


 異常な程美しい顔貌をした、緑がかった斑の服を来た女達。

 肩と太ももの付け根の白い色と、刀身の輝きだけが暗闇で目立っていた。


「応戦しろ……グギ!?」


「何だこのメスガキが…………ぐおっご……」


「化け物だ! に、にぎぇれい! 」


 それは一方的な虐殺だった。

 勇敢に剣を持ち、弓を放つ男たちもいたが、それは無意味だった。

 凄まじいまでの技量と人間離れした力により、次々と盗賊たちが散っていく。

 

 立ち向かう事を最初から放棄した一部の者は逃走に成功したかに見えたが、そんな彼らにも容赦なく刃が突き立てられた。


「ぐご……」


 逃げ出すことに成功したと思い、一瞬安堵した男が、自分の腹に突き立てられた見えない刃物に恐怖を浮かべた。

 かすみ始めたその目は、目の前にいる陽炎の様なゆらめきを捉えた。

 次の瞬間、逃げ出していた男たちの前に、ゆらめきのあった場所から現れた数人の女達が現れた。


「ひ、ひい……化け物……化け物だ」


「俺の娘と同じくらいの年じゃねえか……頼むよ、見逃してくれ……下るから……頼むよ……」


 命乞いすると、一瞬女達の動きが鈍った。

 命乞いした男の顔に一瞬笑みが浮かぶが、次の瞬間その笑みと共に首が切り飛ばされた。


「状況終了。首を集めろ」


 突撃兵の少女の命令と共に、少女たちは盗賊の首を集め始めた。


ルーリアトの歴史には残らない、本当のファーストコンタクトはこうして終わりを告げた。

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