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第13話―3 ファーストコンタクト

「手空きの降下艇に頼んで、ロープに吊るしてもらってバニフ狩りしてたら近づいてきたんですよ。ウミヘビ状の生き物ですね。ざっと全長五十メートルくらいですか」


 目を凝らすと、光の筋に見えたのは全長五十メートルはくだらない巨大生物の発光するヒレ状の器官だった。どういう用途で使うのかは知らないが、細長い体から数メートル感覚で長いヒレ状の物体が飛び出し、薄っすらと発光していた。


「肉食なのか? 」


「バニフを撃ち始めたら現れたんで、多分そうですね。あれ蒲焼きに出来ないかなあ……」


 物欲しそうなシャルル大佐を無視して、一木は心の中で恐怖を覚えていた。

 あんな生物が生息していては、この星の人類が外洋で活動するなど到底出来るはずが無い。

 そしてそれは異世界派遣軍にも言えることだ。

 船舶を海上に降下させて活動する事が異世界派遣軍には可能で、実際に艦務参謀から提案されていたが、あんな生き物がウヨウヨいてはとてもそんな事はさせられない。


 一木が方針を決めたその時、それを肯定するように巨大生物が浮かんでいたバニフの死体に食いつき、海面から飛び跳ねた。

 ドラゴンから雄々しさを取り払い、おぞましさを増し増しにすればああいう顔だろうか。

 パニック物というよりはホラーに出てくる怪物を思わせる恐ろしい顔つきに、明らかに肉食であろう巨大な牙。

 海中では幻想的に見えた光るヒレ状の物体も、そのまま目視してみると不気味に膨れ上がり、エイリアンのパーツにしか見えなかった。


「師団長だいじょうぶですか? 」


「わたしたちがおまもりしますよ! 」


 護衛を命じられた二人が一木を励ます。しかし可愛い。

 

「ありがとう、大丈夫だよ。では、シャルル大佐。そいつを輸送可能にするために必要な人員と装備を預けるから、大佐は準備が出来てから来てくれ。詳しい事は通信を入れる」


「了解しました! 」


 血なまぐさい作業場を後にすると、マナ大尉とアミ中佐が準備を終えて待っていた。

 部隊の一覧と作業タスクを見ると、全体の準備にはもう少しかかるようだ。


「すまない、少しシャルル大佐の土産を見ていた」


「いえ、問題ありません。こちらも今準備が出来たところです」


 先程と同じ格好で敬礼するアミ中佐。

 そして、すっかりと装備を整えたマナ大尉が敬礼した。


「一木司令。護衛班準備完了しました」


 マナ大尉以下、四名の護衛班がそこには整列していた。

 全員が真っ白な衛生連隊仕様の完全武装だ。

 通常の歩兵と違い、手足を完全に覆った戦闘服を着込み、分厚いボディベストと手足にも強化樹脂製のアーマーを付けている。 

 一番の特徴は手に持っている盾だ。

 前線では負傷者を運ぶタンカにもなるその盾は、小銃弾に対する完全な防御性能を持ち、さらに大型火器対策の爆発反応式装甲まで完備した衛生兵の象徴的な盾だった。

 表には大きく赤十字がペイントされ、これを持って衛生兵は負傷した敵を救助するため戦場を走り回るのだ。


「頼もしいな。頼んだぞ、みんな」


 一木が敬礼すると、ちょうど彼女らの背後から四両の歩兵戦闘車が現れた。

 一両は一木の座乗車両。三両は先触れのための車両だ。


「降下部隊指揮車を拝命しました。60式機兵輸送車のジョージです」


「先触れ隊指揮車、50式歩兵戦闘車のコータです」


「同じく先触れ隊、M5マッカーサー歩兵戦闘車のタスケとサミュエルです」


 挨拶をする四両のSAに敬礼すると、一木はアミ中佐に近づき、手を肩に置いた。


「アミ中佐、この星の住人とファーストコンタクトだ。頼んだぞ」


「了解しました。司令」


「いいか、名乗った後、相手に素性を聞かれたらこう答えるんだ。”私達は海の向こうから来ました”とな」


 この星の住人にとって、海とは絶対的な恐怖の象徴であり、超えられない物の象徴でもある。この言葉を言うことで、向こうの方で勝手に自分たちの想像を超える相手が訪問してきたことを悟ってくれるだろう。

 実際、通常の異世界では地球連邦という国が他の国と違うということを、砲艦外交や脅し以外の方法で分からせる事が一番大変だという。何もミラー大佐が面倒くさがりというだけでは無いのだ。

 その点、あの恐ろしい化け物に感謝しなければならない。

 それに嘘は言っていない点もいい。確かに連邦は海の向こうの国でもあるのだ。そう、星の彼方の国だ。


「了解しました。先触れ小隊、出発します」


 アミ中佐は敬礼すると、車両の後ろに控えていた小隊と共に車両に乗り込んでいった。

 一木達が敬礼する中、先触れ小隊はルニの街に続く道を走っていった。

 後は彼女らが子爵領にたどり着き、子爵と接触を果たしたあたりでタイミングを見て街に到着すればいい。


 一木がそう段取りを組んでいると、準備を終えた参謀たちが戻ってきた。


「外務参謀部は全員備品と一緒にトラックに乗り込んだわ。これで子爵領に臨時大使館設置がすぐに可能よ」


 綺羅びやかな艦隊参謀モールを身に着けたミラー大佐が報告した。

 胸元ははだけていないが、やたらとボディラインを強調するピッタリとした制服を着込んでいる。

 腰には、異世界での必須品、威嚇用の西洋剣を吊るしていた。


「降下部隊の足並みは揃ったよ。いつでもいける。宿営地建設用資材もポリーナ大佐が準備して軌道上の輸送船を待機させてくれてるよ」


 こちらはいつもと変わりないジーク大佐だ。いや、背中に大きな剣を背負っていた。


「随分大きな剣だな? 」


 聞くと、ジーク大佐は少し照れたようにはにかんだ。


「これは強襲猟兵時代愛用のナイフなんだ。お守り代わりに今でも持っているんだ」


 ドラゴンでも殺せそうなあの剣がナイフとは。一木はまだ見る機会の?ない強襲猟兵に思いを馳せた。


「しかし、みんななんで降下してから着替えを? 揚陸艦で着替えておけばよかったのに」


 一木はこの質問を素でしてしまったのだが、これは失策だった。


「あんたねえ……どっかの誰かが私らの装備品をコンテナの一番奥に入れた上に、揚陸艦の一番奥の車両に積んだからでしょうが……」


 怒るミラー大佐。この体は本当に便利だ、自分の間抜けなミスも、すぐに把握できる。 


 一木がミラー大佐の説教を受けていると、最後にやってきたのは殺大佐だった。

 やたらとニコニコしているのが、なぜか不気味だった。


「おう、一木司令。大変だ」


「どうしたんですか? 」


「現地民に見つかった。武装した五、六十人ほどがあっちの森からこっちを窺ってる」


 こともなげに言った殺参謀の腰には、二振りの青竜刀がぶら下がっていた。

 一木は、自分にはもう流れていないはずの血が引いていくのを感じた。

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