第11話―2 偵察、そして邂逅
「実はすでに見繕ってる」
殺大佐はそう言ってにやりと笑った。
そして投影された画面を切り替える。そこには質素な白いローブに身を包んだ少女が映っていた。
「一木代将は初めてか? 妹で諜報課課長の猫少佐だ。今帝都に潜入中、この映像はリアルタイムだ」
一木は殺大佐の言葉に引っ掛かりを覚えた。
(妹? )
ミャオと呼ばれた少女は、ぺこりと頭を下げた。薄汚れた格好で、かつ美少女過ぎない、程よい見た目に抑えられていた。なるほど、これならアンドロイドだとは誰も思わないだろう。
「どうも、猫少佐です。一木代将。いつも妹の殺大佐がお世話になっています」
「いも、え? 」
こちらも殺大佐を妹呼び。混乱する一木に、ジーク大佐が無線通話で教えてくれた。
『殺大佐と猫少佐は仲が良くて、製造時期がほぼ同じなので姉妹を名乗っているんだけど、どっちが姉なのか未だに揉めているんだ。それでどっちも相手を妹と紹介しているんだけど、基本無視していいよ』
「んでだ。猫よ、例の奴は今見れるか? 」
「殺、大丈夫。さっき鶏肉宿に入った」
耳慣れない言葉が出てきた。現地独特の概念に関しては翻訳装置が自動的に地球の似通った概念に訳してくれるはずだが、まだ若干精度が甘いようだ。
「その、鶏肉宿っていうのは? 」
猫少佐が薄暗い路地にあるレンガ造りの建物を見せた。
正面から調理場の様子が見られるようになっていて、鶏ほどの大きさの、やたらと気味悪い顔をした鳥を丸焼きにしていた。
「鶏肉宿っていうのは、ああやって肉を焼いてくれる宿。入室すると焼き始めて、だいたい三時間くらいで焼けるように調節してくれる。焼けるまでのあいだ、宿に入った人間は奥の部屋で休んで、帰り際に肉を持ち帰る」
「よく用途の分からない宿だな」
「宿には基本二人で入る。大体は男女」
「ん? ああ、つまり……」
「いわゆる連れ込み宿、ラブホテル」
肉の焼ける間の待ち時間をそういう言い訳に使っているとは、一木は妙に感心した。
「今から宿に入って例の人物を見せる」
そう言って猫少佐はフードをかぶった。撮影していると思しきSSも歩き出す。
「ばれないのか?」
一木が聞くと、猫少佐は自信ありげに答えた。
「今撮影しているゴンゾはどう見ても太った中年にしか見えない生体型SSのベテラン。私と二人で入れば幼い娼婦と客のおっさんにしか見えない。ばれる道理はない」
そう言って猫少佐とゴンゾという諜報課の職員は鶏肉宿に向かっていく。
一木は道行く人々や建物を見た。
さすがにファンタジー漫画のようにとはいかず、白一色の地味な服装の人が多い。
しかし人々は思ったよりこぎれいな格好をしていた。温暖な気候を反映してか薄着が多く、男性は中東のようなゆったりとした服装や、古代ギリシャのような右肩を露出した服を着ていた。女性は露出度が高く、下はだぼだぼのズボンやぴっちりとしたハーフパンツ、上半身は胸元だけを隠した服装や、胸元に布を巻いただけの、腹を露出した服装が多かった。
建物の細工は見事で、街並みは非常に美しかった。
一木の印象でヨーロッパ的な見た目の建築物が多く、カラフルに装飾されているが窓ガラスはほとんど無い。全体的に小奇麗な建物で、きれいに区切られた区画と相まって精緻さを感じた。
そんなことを一木が考えていると、猫少佐はゴンゾと鶏肉宿にたどりついていた。
なるほど、飯屋にしては色っぽいつくりをしている、ような気がする。
一木そんな感想を抱いている間に、二人は手をつなぐと扉をくぐった。客を装っているのだ。
宿に入ると、二人は一瞬宿内を見渡し、無線通信であの女です、と会議室の面々に伝えた。
その女は鶏肉宿の食堂部分の奥に座っていた。
上流階級なのか、白い服装の多い中にあっては目立つ、黒い布の服を着ていた。質もよく、他の人々は多少ゴワゴワとした布を用いた服が多い中、薄く滑らかでぴったりとした服を着込み、ほとんど起伏の無い上半身の体形が丸わかりになっていた。他の女性同様腹が露出しており、あまりくびれの無い腰がよく見えた。その上から何やら装飾の施された上質な黒いマントを着込んだ姿は、一木が生身の頃見たゴスロリ服を連想させた。
髪型はショートカットだった。他の女性がのっぺりした髪型なのとは違い、フワフワしたその髪は、やはりその少女が上流階級であることを感じさせた。
すると、猫少佐が気を利かせて集音マイクを向けてくれる。
「するとやはり、不作の南部から娘達が? 」
どうやら、横に座る男と何やら喋っているようだ。
「へえ、税の代わりに娼館に売られてきてるんでさ……まだ十にもなっていない娘まで……」
「それは見過ごせんな……ん? 言っているそばから……」
そういうと、その黒い服を着た少女が立ち上がり、ゴンゾのところにやってきた。
「おいお前。わらわの目の前で幼子を鶏肉宿に連れ込むとはいい度胸だな」
その言葉にゴンゾ、そして猫少佐が目に見えて焦る。
トラブルだ。
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