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状況 3年後 「卒業式」―10

 そうしてミルシャにRONINNの攻撃が叩きつけられたその時、テクトトリーは必死に通信で告げられた場所へと走っていた。


 無論グーシュを助けるために……だが、参謀型アンドロイドに匹敵するというRONINN相手に生身の人間一人で何が出来るというのか。

 テクトトリー自身の冷静な部分が必死に警鐘を鳴らす。


「グーシュリャリャポスティ!」


 だが、それでも彼は駆けるのを止める事が出来ない。

 再び名を呼びながら、がむしゃらに駆けていく。


(我は……何を馬鹿な事をしているのだ。相手は師団規模の部隊を壊滅させるサイボーグだぞ……我が行ったところで……)


 否定の言葉とは裏腹に、テクトトリーの心中には故郷で親衛機械化騎兵連隊連隊長として鳴らした腕前で以って、グーシュを華麗に助け出すイメージが浮かんでいた。


「……ふっ、我も……馬鹿者だな」


 自嘲気味にテクトトリーは呟いた。

 こんな場所にまで来ておいて、この期に及んで好いた女を……男でなく女を身を以って助けたくなるなど……自分もまだまだ捨てたものではないと、そう思い笑ったのだ。


「本当に馬鹿みたいだぞお前……」


「うわっ!」


 唐突に桜のホログラムから聞こえた声に、テクトトリーは思わず立ち止まり、悲鳴を上げて驚いた。

 こっぱずかしい妄想と自分に酔った独り言の最中だった事と、今まさに助けに行こうとしていた相手の声だったためだ。


「グーシュリャリャポスティ!?」


 名を呼ぶと、ひと際太い桜のホログラムの中から不機嫌そうな顔をしたグーシュが姿を現した。

 すぐ背後にはミルシャが続く。

 その手には、歪んだ笑みを浮かべたままのアンドロイドの女の生首があった。


「無事だったのか」


 一瞥して怪我がなさそうだと判断したテクトトリーが抱き締めようと腕を広げて駆け寄る。

 しかし、グーシュはそれを見ていかにも嫌そうに顔を歪め、両手で頭一つ程も大きいテクトトリーを必死に遠ざけた。


「おいやめろ、汗だくで汚いなあ。卒業式直前に何してたんだ?」


 あまりと言えばあまりな言葉にテクトトリーはムッとした。

 この状況ならば理由は決まっている。


「お前を助けに行こうとしてたんだ。相手はRONINNなんだぞ、当然だろうが。……まあ、必要なかったようだな」


「当たり前だ。憲兵たちは全員大破したが、RONINNはこの通りだ。いやー流石わらわのミルシャだ。るろけん並みの居合で一撃だよ」


 グーシュの言葉を聞いて、ミルシャがペコリと頭を下げた。

 テクトトリーが見る限り傷一つない。

 参謀型に匹敵する相手すら圧倒する……脅威の戦闘力だった。


「候補生の副官同士の訓練でも圧倒的だったが……実戦でも変わらずとは。しかし、そいつは生きているのか?」


 テクトトリーが尋ねると、ミルシャは静かに首を横に振った。


「敵の攻撃が当たる前に首を斬り飛ばして仕留めましたが、地面に落ちた時には煙が出て内部が焼却されてました。恐らく非常時には脳や記憶データが焼却されるように仕組まれていたのだと思います……面目ありません」


「いや、火人連の特殊工作員相手によくやった。誰が貴殿を責めようか。それに安心しろ。陸軍中将の方は我が捕縛済みだ」


 テクトトリーはそう言って胸を張りつつ、グーシュの肩に手を置こうとするが、その手をグーシュはピシャリと払いのけた。


「そいつはお母さん(ナナナ)が連れてきた憲兵と教官の手柄だろうが……全く油断するとすぐにセクハラだ。グラフクローの男は油断ならん」


「お前は本当に地球人みたいな事を言うな……どうも我にはそのセクハラというのがよくわからん……」


 そんな軽口を叩いていると、入り口の方から勢いよく人が駆け寄って来て、勢いそのままにグーシュに背中から飛びついた。

 その衝撃に耐えきれずテクトトリーに向かって倒れ込んだグーシュに、スカートがめくれ上がるのも構わず両手両足で抱き着くのは候補生内の卒業式襲撃犯を一通り拘束し終わったサニュ・カーダ・フタ・ノマワークだった。


「グーシュ! 朕は無事に反逆者どもを捕まえましたよー! 褒めて褒めて♪」


「おいこらサニュ……重いやめろ、テクトトリーもどさくさに紛れて抱き着くなコラっ!」


「いや貴様が倒れ込んで来たから支えてるだけだが? ……ふむ、やはり少年の様な身体つき」


 呆れかえるミルシャの前でわちゃわちゃとじゃれつく三人。


 そのじゃれつきは、卒業式会場の捕り物の後始末を終えたナナナ大佐が心配した一木一行とヒアナとダッカを連れて来るまで続いた。


「……はぁ、まったくこんな所で遊んで……いつまでたっても子供なんだから」


 呆れたように。それいて嬉しそうにその光景を評したナナナ大佐は、じゃれつく三人を引きはがすべくニコニコ顔で近づいていく。


 その一方。


「……なんか、気が付いたら全部事が終わってる……な」


 モノアイを微動だにさせずに一木が呟く。

 彼ら異世界派遣軍一行は中将の拘束からこっち事態の把握も出来ずに唖然としてばかり。

 ようやくナナナ大佐から事情を聞き、慌ててグーシュを助けにくればこの状況だ。


「わいら……さながら背景やな」


 王代将の自嘲気味な声が、実に的を射ていた。


 こうして、騒乱は終わり……。

 異世界派遣軍異世界人将官候補生育成過程卒業式が始まる。

次回更新は12月27日の予定です。


次回で最終話……もしくは設定解説の補間や短編を書いたのちに最終話の予定です。

ちょっとご意見なども聞きつつその辺りは決めたいと思います。


ちなみに現状書こうと思っている短編は

上田、王、津志田の紹介的な短編。

火人連アイオイ人頭目のお話『グラップラーポンポン』

グーシュが親友を殺したお話 『査問会で暴露された話』 です。


最終回とどちらが先に読みたいか、ご意見がある方はX(旧Twitter)のDMか作品感想や活動報告へお願いします。


個人的には余韻を付けて切りよく完結処理したい関係上、最終回を最後にしたいと思っています。

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