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状況 3年後 「卒業式」―1

『七惑星連合と名乗る反政府勢力は先ほど、火星民主主義救世連合評議会を七惑星連合評議会として再編し、さらにその代表として、”シュシュリャリャヨイティ”なる人物を投票により選出したと発表しました。なお、このシュシュリャリャヨイティなる人物は三年前に異世界人初のマイチューブ動画で話題となったグーシュリャリャポスティ氏の実の姉との事で……』


 携帯端末から聞こえてくるニュースは、どこもこの内容だった。

 シュシュリャリャヨイティ。

 グーシュリャリャポスティの実の姉にして、ルーリアト帝国を倒したルーリアト統合体の代表夫人を務める女性。

 

 代表のダスティ公爵が惑星外の事に興味を持たず旧公爵領に引きこもっている事を考えれば、実質的なルーリアトの指導者と言っても過言では無い。

 

 さらにそこに加え、たった三年で七惑星連合のトップに昇りつめてしまった。

 まさに女傑というにふさわしい……。


「さすがのグーシュもへこんでるかな」


 一木は桜吹雪……のホログラム舞う惑星エデン軌道上の異世界派遣軍本部衛星内にある大型シミュレータールームをモノアイで見回しながら呟いた。


 このシミュレータールームはちょっとした球場ほどもある巨大な物で、小規模な演習や実習、式典等に際しても用いられる場所だ。

 今日は異世界派遣軍将官学校異世界人育成枠卒業式という事で、満開の桜の木々と舞い散る花びらが映し出されているのだ。


 そんな場所になぜ一木がいるのかと言うと、お馴染みの同期達と共に来賓として招かれたのだ。

 シミュレータールームの入り口に立つ、お馴染みの面々。


「そうねえ。自分の姉が……しかも国を追い出した張本人がたった三年で組織のトップになったと知ったら……気が気じゃないわよね」


 一木の隣にピッタリと寄り添うように立つ前潟美羽准将が言った。


「……そうでしょうか准将? グーシュ様とミルシャはそんなヤワではありません」


 前潟准将の反対側に立つのは、少し頬を膨らませて前潟准将を威嚇するようなそぶりを見せる一木の副官、マナ少佐だった。


「一木はんを取り合うなや二人とも……まあ、心配する事はないやろ。噂を聞く限りじゃ、そんな玉じゃないやろしな」


 本部の売店で買い込んだドーナツを食べながら窘めるのは、でっぷりと大きな体を揺らう王松園代将。


「そうそう! よく知らねえけど一木さんが見込んだ女だ。大丈夫だろ! それにもし落ち込んでても、俺たちで励ましてやらあいいじゃん!」


 筋肉質な身体を窮屈そうに制服に押し込んだ上田拓代将が一木の背中を叩きながら笑った。

 ちなみに、その直後に彼は前潟准将に脛を思い切り蹴られ悶絶した。


「そんな上田さんじゃあるまいし……けど王さん、噂ってなんですか?」


「それはやな……」


 前潟代将の腕にむりやりしがみ付く様に絡みついているのは津志田南准将だ。

 さすがにうっとおしいのか前潟准将が時折振り払おうとしているのだが、前潟准将より頭一つ分も小さな体にも関わらずビクともしない。


 そんなお馴染みの面々が、なぜ異世界派遣軍の下っ端である代将にも関わらず卒業式の来賓として来ているのかと言うと、それは彼らがある特別な部隊の所属となったからである。


 第1特務戦略軍。

 三年前の開戦以来七惑星連合によって占領された異世界を奪還するために新設された戦略軍の一つだ。


 主力は三個航宙団、つまり三個機動艦隊と三個打撃艦隊で構成される。

 通常の戦略軍はこれで終わりだが、この特務戦略軍は制圧した異世界を拠点化するための後方支援艦隊及び工兵旅団と駐留軍用の10個歩兵師団、そしてその護衛の打撃艦隊が増強されているのだ。

 

 つまり七惑星連合領域に殴り込み、敵を倒し、制圧し、拠点化してさらに奥地に進む。

 敵領域に深く深く突き刺さるための槍の様な部隊だ。


 指揮官はアブドゥラ・ビン・サーレハ上級大将。

 そして、一木弘和はその傘下の艦隊の一つ第049機動艦隊司令務める。

 前潟美羽准将はそのペアである第117打撃艦隊司令を務め、他の面々は049艦隊傘下の師団長を務めている。


 そして、今日来た最大の理由。

 それは今日卒業する者の中に、彼らの新しい同僚にして異世界派遣軍初の試みとなる画期的な部隊の人員が含まれるからだ。


 その部隊こそ”第44強襲師団”


 異世界派遣軍初の師団長以外の連隊指揮官を人間……しかも異世界人が務める予定の部隊である。


「……将官学校の同期の女子全員を食っちまったっちゅう……」


 のだが……。


 王代将の言葉に、一木達は黙り込んだ。

 今回の初の人事の肝は、グーシュリャリャポスティが教育課程を上位成績で卒業し、少数割り当てられる師団長枠に入り込む事なのだが……。


「……グーシュちゃん素行めっちゃ悪いじゃん……え、今から人事がポシャったらどうなるんだ?」


 上田代将の問いには誰も答えられない。

 さすがに教育や人事への介入は出来なかったため、三年前に言ったグーシュへの言葉だけを証明に44師団の準備を進めてきた一木の頭部からはモーター音が響きだす。

 お馴染みのモノアイを動かす音だ。


 そんなモノアイをグルグル回す一木を、憐れむような視線が刺した。

次回更新は11月19日の予定です。

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