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状況 3年後 「火星」―2

「今日、この輝かしい時を皆様と……」


 ”なんだ。おい、放せ一つ目ども……”


 演壇に立ったシュシュリャリャヨイティは当たり障りの無い挨拶を口にしながら、あることを考えていた。

 三年前取り逃がした妹の事だ。


(今朝の地球のニュース……正直驚いたわ。まさかあの子が軍人なんて……)


”おい待ってくれ私は議長に逆らうつもりは……”


 意外な事だが、火星でも地球の各種メディアを視聴する事は可能である。

 無論無制限ではない。

 かと言って強権国家の様な監視下でもない。


 視聴したい媒体や内容等によって各種設けられた外部視聴資格検定に合格した者だけが外部の情報に触れる事が出来るのだ。

 ちなみにだが、アニメ作品の資格は取得しやすく、報道関係はかなり難易度が高くなっている。


 とはいえシュシュリャリャヨイティはルーリアト統合体総裁夫人として火星に滞在しているので、そんな資格は必要ない。

 七惑星連合幹部パスを入力すれば、どんなものでも視聴する事が出来る。


 そうして日課のニュース映像を見ていたシュシュリャリャヨイティは、自身にとっても華々しい今日という日が、妹のグーシュリャリャポスティにとってもめでたい日であることを知った。


 即ち、異世界派遣軍将官学校異世界人連隊長枠卒業式の日である。


(……三年前は同じ皇女で、同じ外部勢力の協力者だった。けれども、今は差が付いたものね……)


”本性を現したな宇宙人ども! 呪いあれ、売女(ばいた)と化け物の集まりに呪いあれ!”


 報道では異世界派遣軍への異世界人入隊を比較的好意的に論じてはいたものの、過去の様々な文明において外国人の軍への登用が致命傷になった事例を上げ、警戒するような意見も目立っていた。

 そして、そうまでしてなったのはあくまでも異世界派遣軍の一軍人に過ぎない。


 対して……。


「……故に、私は七惑星連合議長として宣言いたします! エドゥディア帝国との本格的接触を開始し、各種交渉を以ってかの地を我が連合の新たなる一員とする事を! 次の議長選はエドゥディア帝国帝都で、八惑星連合の議長を選びましょう!!!」


”もはや何も言うまい。愚かだったのは私達だったという事だ。せいぜい、うまくやりたまえ”


 歓声が上がる。

 大勢の中の一人として拍手される妹とは違い、今この場の称賛は全てがシュシュリャリャヨイティ一人に向けられている。

 狭い会議室を見渡せば、今はもう悪態を付こうとしていた者達はいない。

 全員がシュシュの演説の最中悪態や命乞い、負け惜しみを言いながら連行されていった。

 屈強なアイオイ人の衛兵たちに議事堂の中庭に連れていかれ、そこで処分されるのだ。

 今頃はニールスト対機械人用ライフルから放たれた2フィンガ弾によって全員ひき肉のようになっているだろう。


(粛清すら外部頼みだった七惑星連合はもうありません。今はもう、こんな無茶な粛清も平気で出来る)


 シュシュは微笑み、議場を見渡す。


 クク代表。

 ポンポン。

 愛おしい我が子であるメルンシュシュカスティを抱いた副官兼捕虜代表兼子守り兼主治医であるニャル中佐。


 ジンライ・ハナコとアウリン1こそいないが、自分にとって大切な仲間たち。

 彼らの顔を見て、シュシュリャリャヨイティは決心する。


(ここからが正念場……我が理想を実現し、最大限の望みを果たすため……なんとしてもメルンをエドゥディア帝国皇帝の父にする……!)


 かつてグーシュに語ったように、シュシュリャリャヨイティや三年前お腹の中にいたメルンではエドゥディア帝国皇帝の資格である魔法の素養が不足していて皇帝にはなれない……。


 だが、ルーリアトの王族が魔導皇帝の血をひいている事は事実なのだ。

 ならば、シュシュではなくメルンの妻として魔導の素養が強いエドゥディア帝国の高貴な身分の女性を娶り、その子を皇帝に据える事が出切れば……。


 そして今、エドゥディア帝国は魔王オルドロによる脅威で存亡の危機にあり、対して七惑星連合は絶頂にある。


 三番艦イエローキングの完成により三隻体制になったハストゥール級戦艦。

 増産により五個大隊500人を超えたアウリン隊。

 ワーヒド星域会戦の戦訓を取り入れ強化された火星宇宙軍艦隊。

 RONINN、アイオイ人、サイボーグ部隊、カルナーク機甲師団、捕虜アンドロイドを中核に再編された陸上兵力。


 危機に瀕したファンタジー国家を救い、異世界派遣軍の様に要求を呑ませるには十分すぎる戦力が揃った。

 それが七惑星連合幹部の一致した見解であった。


「ふふふ……グーシュちゃん。あなた早く大統領にでもならないと、置いていっちゃうわよ……」


 シュシュリャリャヨイティは小声で呟いた。

 そうしていると、足早に近づいてくる人影があった。

 行議会運営委員のスミス老だった。


「おめでとうございます議長……」


「ありがとうスミス様」


 シュシュリャリャヨイティはニッコリと笑顔で応対するが、正直言って彼女はこの老人が苦手だった。

 この三年間の活動において、シュシュリャリャヨイティの全ての誘惑を断り籠絡されず、かといって敵対もせずに中立を貫いた、薄気味の悪い男……。

 噂では火星植民に最初期からいるとされている不思議な老人だが、大した役職にも付かず、ずっとこうして評議会運営に携わっている不思議な人物だ。


 そうしてシュシュが珍しく戸惑っていると、スミス老が小声で呟いた。


「合格です……終わりましたらフリーダム地下の第7ブロックへ来てください」


「はっ?」


 思わず聞き返してしまうシュシュリャリャヨイティは、必死に頭を巡らせる。

 そして、三年前ルモン騎士長とした会話を思い出す。




『さあて、頑張りなさい。結果次第では、七惑星連合最後の存在に会わせてあげよう』


『……ようやくですか……もったいぶると思ったら試験があったんですね……まあ、せいぜい頑張りますよ』



 あの後何の連絡も反応も無いので冗談だったと思っていた。

 だがあの約束が継続していて、まさかその試験が連合のトップになれという事だったとは……。

 ルモン騎士長に対して思わず苦笑ししつつ、シュシュリャリャヨイティは頷く。


「……ニャルと息子を連れて行ってもいい?」


「構いませんよ」


 少し濁ったようなスミス老の目に若干の恐怖を抱きつつ、シュシュリャリャヨイティは久しぶりにわくわくとした気持ちになった。

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