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エピローグ5-3 新生活へ

 物思いにふけるグーシュに、今度は参謀達が近づいてきた。

 アセナ大佐、ダグラス大佐、クラレッタ大佐、ポリーナ大佐、殺大佐、シャルル大佐、ジーク大佐。

 彼女達は笑顔でグーシュ達を取り囲むと、全員で一斉に抱き着いてきた。

 参謀型のオリハルコンをふんだんに用いた重厚なボディはかなりの重量で、そんな彼女達に団子にされたグーシュとミルシャはかなり苦しかったが、今日ばかりは彼女達の重い愛情を素直に受け入れた。


「殿下、ミルシャ……どうかお元気で」


「結局殿下から全てを奪ってしまった私達ですが、この門出の日にせめてもの贈り物があります」


 アセナ大佐が特にミルシャを抱き締めながら言うと、一番外側にいたダグラス大佐が声を掛けてきた。

 力強いハグが終わり、皆が距離をとる。

 そうしてダグラス大佐の姿が見える様になると、彼女が手にしている物も見えた。


「ミラーちゃん!」


 ミラー大佐のデフォルメ小型端末だった。

 少し怒ったような表情に、饅頭の様なモチモチまん丸の顔。短くて愛嬌のある手足にふかふかの身体。

 

 帝都から焼け出されて以来久しぶりの姿に、ミルシャが歓声を上げた。

 グーシュも気持ちは同じで、感激しすぎて声すら出ずにダグラス大佐の方へと駆けだした。

 まるで赤ん坊を渡すようにダグラス大佐がグーシュへ渡すと、グーシュの姿を検知した簡易AIがぴょこんとジャンプしてグーシュの頭へと飛び乗った。


「あのゴタゴタの中、帝都にいた部隊がギリギリで持ち出していたんです。つい昨日カタクラフトを整理していたら見つけたんですよ。簡易AIも殿下とミルシャさんに懐いていますから、どうか連れて行ってあげてください」


 頭の上のデフォルメミラー大佐に頬ずりするミルシャを横目に、心地いいと言うにはいささか重い重量を感じながら、グーシュは小さく”ありがとう”と言った。

 残念ながら、涙で声が擦れていた事は隠せていなかったが、参謀達も同様に涙ぐんでいるのでおあいこだ。


「グーシュ、時間だ……」


 その後もデフォルメミラー大佐を交えて参謀達との会話を楽しんでいたグーシュに対し、一木が申し訳なさそうに声を掛けた。


 グーシュもミルシャも気が付いていたが、流石に限界だ。


 別れの時間が来た。


「……皆、艦隊の皆。どうか、これ以上の謝罪はやめて欲しい。今日わらわがこの場にいるのは、わらわ自身の意思であり結果だ。皆が気にする事はない……」


「そう言っていただけると気が楽になりますわ……」


「元気でね、グーシュ殿下、ミルシャ」


「へっ……ま、頑張って立派な軍人になってくれよな」


「何かあったら連絡してね」


 先ほどまでの明るい声とは打って変わって、参謀達の声にも悲しみの色が混じる。

 グーシュとミルシャは二人でその場にいるアンドロイド達と出来る限り抱き締め合った。

 彼女達がこの後どうなるかは、聞かなかった。


 艦隊が壊滅した結果ばらばらに配属されるのか、艦隊を再編するのか、はたまた別の職務に就くのか……。


 ただ知らない方が希望がある気がして、グーシュとミルシャは聞くことをしなかった。


「ミルシャ」


 そんな中、一人離れた場所にいて雑談とハグに加わっていなかったスルターナ少佐が突然声を発した。

 驚いたミルシャが少佐の方を向くと、彼女は手にしていた刀をミルシャに向かって投げ渡した。


 おおよそ人間には反応できないような勢いだったが、アンドロイドとなったミルシャはいとも簡単に工芸品のように美しいその刀の鞘の部分をつかみ取った。

 黒く艶の無い鞘に目立たない程度に薄い銀色の装飾が施されたその刀を、ミルシャは驚きもわすれてうっとりと眺め、次いでスルターナ少佐の方を見た。


「抜いてみろ」


 少佐の言葉と共にミルシャが刀を抜くと、鞘とは打って変わって艶も刃文も無い銀色の武骨な刀身があらわになった。

 だが、ミルシャはその銀色の棒に過ぎない刀身を食い入るように見つめた。


「アンドロイド用近接装備の試作品として開発された特殊鋼製の刀だ。高価すぎて正式採用されなかった代物だが切れ味と頑丈さは保証する。それならRONINN相手でも戦えるはずだ」


「こんな……こんな凄いもの……」


 ミルシャが言いかけた言葉を、スルターナ少佐は視線で制した。

 そして、ヒジャブを少しずらして半分削げた顔を露にすると、珍しいことに笑みを浮かべた。


「教え子に選別をやるのが夢だったんだ。頑張れよ」


 スルターナ少佐の言葉にいよいよミルシャが感極まる。

 だが、出立の時間が迫っていた。

 エデン星系において、宇宙船の運航計画は絶対のものだ。

 ましてやグーシュ達のために手配されたシャトルだ、ここで遅れる訳にはいかなかった。


「ミルシャさん、すまないが……」


「いえ、一木さん。申し訳ありません」


 一木に謝罪すると、ミルシャは刀を腰のベルトに差し込み勢いよく頭を下げた。

 そして、足早にグーシュの隣に駆け寄る。


「殿下、これを……」


 シャトルに向けて歩き出そうとしたグーシュにシャルル大佐が布に包まれた四角い物体を手渡してきた。

 

「弁当、か?」


 アニメで見た弁当……それもお重という、多人数用の段重ねになった巨大なものだと察したグーシュが言うと、シャルル大佐が泣き笑いの様な表情で頷いた。


「シャトルで……お二人で食べてください。大丈夫です。ミルシャさんも私同様飲食可能な仕様ですから……」


「ありがとう……シャルル大佐」


 礼を言うが早いか、グーシュはシャトルに向かって歩き出した。

 隣にはミルシャがいて、シャトルの入り口脇には一木とマナ大尉が立っている。


「グーシュリャリャポスティ殿下、バンザーイ!」


「「「「「バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」」」」」


 背後からアンドロイド達の万歳三唱が聞こえてくる。

 やけくその様な明るいその声を聞いても、グーシュとミルシャは振り返らなかった。


 振り向けば、涙でくしゃくしゃになった顔を見せなければならないからだ。


 せめて、最後は崩れていても笑顔のまま別れたかった。

 一木とマナ大尉の脇を通り、シャトルに乗り込む。


 異世界派遣軍第049機動艦隊との、しばしの別れだった。

昨日は予定通り更新できずに申し訳ありませんでした。


次回更新は8月27日の予定です。

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