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エピローグ5-2 新生活へ

 アセナ大佐と別れた後、主従は再開後初めて愛し合った。


 それはかつてと同じく一晩中続く濃厚なものだったが、ミルシャにとっては主との関係性が変わってしまった事を実感させるに十分なものだった。


 粗雑に扱われた訳では無い。

 ルーリアトで遊び暮らしていた頃のグーシュが、口説いた美少女や娼館の美姫を相手にした時の様な愛情に溢れた行為だった。


 それがミルシャには辛かった。


 かつて娼館の部屋の外で警護しながら、グーシュに優しく抱かれる女達を見た事があった。

 愛を囁き、優しく抱き、柔らかい指使いで女を抱く主と、抱かれる女を見て密かにミルシャは優越感を感じたものだ。


 グーシュリャリャポスティの欲を解消するために、声を荒げながら激しく抱かれるのはお付き騎士である自分だけなのだと……。


「ミルシャ……愛している、大丈夫だ。わらわはお前を……好きだ。わらわのミルシャ……」


(殿下……)


 グーシュが優しければ優しい程、愛を囁けば囁くほどミルシャは辛く悲しかった。

 そして、それはミルシャから見てグーシュも同じように見えた。


 互いに傷つけあう行為は朝になるまで続いた。

 辛くて悲しい時間だったが、互いに……少なくともミルシャはこれ以上関係を損ねるのが怖くてやめようとは言えなかった。


 朝と共に穏やかな起床を迎え、二人はチクチクと傷つけあう様な口づけを交わした。

 そうして表立っては何も変わらないまま二人は自室を後にした。


 エデン星系の異世界人居住都市に向かう星系内シャトルに乗るために一木と待ち合わせしているのだ。

 

「……子爵領の皆様にご挨拶しなくていいのですか?」


 宇宙港内の移動床を進む途中、ミルシャが尋ねた。


「いい。そもそも責任を取って辞任したのに送り出すような事をしては意味がないだろう」


「そうですか」


 グーシュの返事は素っ気なく、ミルシャの相槌も簡素なものだった。

 その後は無言が続く。


 以前とは違い、どことなく居心地の悪い沈黙だ。


 だが、そんな沈黙もシャトル発着場の光景が見えてくるまでだった。


「みんな……」


 そこにいたのは一木だけでは無かった。

 副官のマナ大尉はもちろん、049艦隊の参謀達やカタクラフトで共に脱出した僅かに残った生き残りのアンドロイド達。

 さらには049艦隊の残存艦のSAまでが揃い、グーシュとミルシャを拍手で迎えた。


「……」


「うう……」

 

 思わずグーシュとミルシャは泣きそうになった。

 皆が出迎えてくれた事がうれしいというのもある。

 だが、その一方で申し訳なさと悲しみが押し寄せてきたのだ。


 初めて艦隊に赴いた際眼前に広がっていた大艦隊。

 44師団や艦隊傘下の各種部隊。

 あの大軍勢が、今や眼前にいる数十人のアンドロイドだけだという事実が、悲しみとなって胸を閊えさせる。


「グーシュ姉ーーーー!」


「のぶなが……」


 そんな悲しみを吹き飛ばしたのはグーシュ達が移動床を降りるまで待ちきれずに駆け寄ってきた重巡洋艦オダ・ノブナガだった。

 タックル同然の勢いでグーシュに抱き着いてきたオダ・ノブナガはグーシュの胸に顔をうずめるとグーシュやミルシャの涙が引っ込む勢いで自分が泣き出した。


「いやだいやだいやだグーシュ姉いやだいやだいかないで」


「のぶなが……お前まだ納得してなかったのか? お前は修復と艦隊の再編成が……」


 泣きじゃくるオダ・ノブナガを慰める様に撫でるグーシュだが、それでもオダ・ノブナガは駄々をこねるのを止めない。

 先日もグーシュの護衛につくと言って聞かないのを説得したのだが、別れに際して再び感情が爆発しているのだ。


 結局、見かねたメフメト二世とセテワヨが引きはがすまでグーシュの胸で泣きじゃくっていたオダ・ノブナガは、捨て台詞の様に「グーシュ姉が立派な司令になるのを待っています!」と叫んだあと他の重巡洋艦達に抑え込まれてしまった。


 そんなトラブルがありつつも、却ってそのおかげで泣き顔を晒さずに二人は一木達の前へたどり着いた。


 少しだけ格好をつけるべく、グーシュとミルシャは恐らく最後となるであろうルーリアト式の敬礼を一木に対して行った。


「出迎えと、見送りに感謝を」


「俺はこの後も付いていくけどね……」


 苦笑しながら一木が緩く答礼すると、周囲のアンドロイド達がびしりとそろった動きで頭を下げた。


「一木……そう言う所はしっかりしろよ」


 グーシュがおちょくるように言うと一木はモノアイを小さく揺らした。


「気を付けるよ」


 一木が照れたように答えグーシュが敬礼の手をみぞおちから降ろすとマナ大尉が花束を持って近づいてきた。


「どうぞ。地球ではこういう時花を贈るんです」


 ピンクとオレンジ色の美しい花を見て、ミルシャがグーシュの前に立ちふさがる様に前に出た。

 マナ大尉がきょとんとするのを見て、グーシュは苦笑しながらミルシャの肩を抱いて並んだ。


「大丈夫だミルシャ。これは造花だよ。それにそもそも、地球の花は人を襲わない」


 ルーリアトでは美しい花と言うのは人を襲うものだ。

 襲うと言っても創作の食人植物の様に動きだすわけでは無いが、触れたり呼吸を感知すると毒を含んだ針や花粉をまき散らしたり射出するものが非常に多かった。

 そのため花を飾る文化そのものはあったが、飾るために大変な手間暇をかけて無害化する必要がある驚くほどの高級品だった。今マナ大尉が持っている程度の花束ならば家が建つほどの値段と数人の犠牲者を伴っているはずだ。


「ありがとうマナ大尉」


 にもかかわらず花に対して……地球の創作物の影響からかすんなり受け取れる自分を、グーシュは少し驚きを持って感じていた。


(そうか……もうわらわは、ルーリアト人ではないのかもしれんな)


 まだ怖そうに花束に怯えるミルシャを横目に、グーシュは今更な事を考えていた。

更新予定から遅れて申し訳ありません。

 

次回更新は8月21日の予定です。

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