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エピローグ5-1 新生活へ

 ミルシャが帰ってきた直後から他の異世界難民を乗せた輸送艦が次々に到着し始めた事により、エデン宇宙港は大変な混雑に包まれた。


 この混乱を収めるために当然異世界派遣軍と外務省、内務省からアンドロイドと官僚が派遣されてきたが、これが良くなかった。

 元々宇宙港にいた異世界派遣軍と運輸省の職員達に加えこれら増員がろくな連携も無く難民への対応を行おうとしたため、混乱をきたしてしまったのだ。

 運輸省や外務省、内務省には参謀型アンドロイドの様な量子通信装置搭載のアンドロイドがいない事も混乱に拍車をかけた。


 そのため宇宙港にはどうしていいのか分からない無数の難民と、指示が与えられず立ち尽くすアンドロイド達がたむろする混沌とした空間となり果てた。


 代表を退くと言ったグーシュだったが、こうなってはただ見ているわけにもいかなかった。

 一木やアセナ大佐達参謀と協力し、難民たちに声を掛け、必要ならば輸送艦の居住スペースでの一時待機を依頼したり、問題があれば医療アンドロイドや物資を手配するように掛け合った。


 それでもなお問題は絶えない。

 いくつかの難民グループは近隣の難民と小競り合いを起こし、暴力沙汰にまで発展したのだ。


「そこに突っ立てるお前ら、ちょっとついてこい!」


 乱闘が起きていると聞いたグーシュは宇宙港の隅で自動小銃を持って警備していた歩兵型アンドロイド達に声を掛けた。

 驚いた表情を浮かべたSS達の隊長と思しき曹長は、グーシュを胡散臭そうに眺めながら言った。


「あなたは……地球人ではありませんね? どのような権限があって当施設警備の我々を……」


「やかましい! 第049機動艦隊駐留地の現地オブザーバーとして一時的に異世界派遣軍に所属している身として言ってるのだ。言い訳する暇があったら仕事しろ!!!」


 グーシュが怒鳴りつけると、経験が浅いのかその曹長と部下達は泣きそうな顔を浮かべた後しぶしぶといった様子で付いてきた。後方の施設警備要員ともなると人間と相対する事も少ないので精神的にまだ未成熟なのかもしれないと、グーシュは少し申し訳なく思った。


 何はともあれ、実行力を伴ったグーシュは急ぎ現場へと向かった。

 そこでは近代的な仕立てのいい服装の一団と、異世界派遣軍支給の灰色のスウェットを着込んだいかにも蛮族の様な見た目の荒々しい男女が怒声を浴びせながら小競り合いを起こしていた。


 通訳アプリを通して聞いて見ると、蛮族の様な連中が仕立てのいい服装の人々の荷物を盗ろうとした事が原因のようだ。

 

(ははあ、あの小綺麗な連中、荷物を輸送艦から降ろした後置き場所から離れたのか……で、蛮族連中からするとそれは所有権の放棄にあたったので貰ったと……)


 だが、グーシュが会話をアプリで聞く限りそれは蛮族の様な人々の基準では 犯罪ではない。

 むしろ放棄した所有権を再度主張する点では相手こそが盗人なのだ。


「ふうむ……」


 文化差による典型の様なトラブルだが、無理もない。

 グーシュがふと周りを見渡すだけでも様々な異世界人がいる。


 今目の前でもめている人々同様綺麗な服を着て、地球製の携帯端末を手にする先進的な人々。

 中近世の様な質素な服を着こみ、貴族の様な者達にかしづく人々。

 二足歩行の毛皮の生き物を使役する、ほとんど裸の様な姿の人々。


「揉めるなと言うのが無理か……さて、ミルシャ行くぞ!」


「はい殿下!」


「お前たちやめぬかっ! 分隊続け、集団の間に入るぞ!」


 グーシュはミルシャに掛け声をかけると乱闘の間に割り込んでいった。

 アンドロイドのボディとなったミルシャと歩兵分隊の活躍もあり、双方数人の軽症者だけで乱闘を収める事が出来た。


 結局こうした混乱は、難民保護司令部が異世界派遣軍、運輸省、外務省、内務省の協力によって作られる数時間後まで続き、ルーリアトの人々が宇宙港内に設置された宿泊施設に全員入所することが出来たのは翌日の午後だった。


「そういえば……サニュに会えなかったな」


 そんな一抹の寂しさを感じつつも、やっとグーシュはルーリアト人指導者としての役目を終える事が出来た。


「という訳で、明日の朝にはここを発つことにした」


 その日の夜。

 子爵達にそのことを伝えた後、訪れた難民保護司令部でグーシュはアセナ大佐に言った。

 少し疲れた様子のアセナ大佐だが、作業の手を止め顔を上げるといつもの様に優し気な笑みを受けべる。


「そう……たしか、一木君が似た境遇の人を紹介してくれるのよね?」


「ああ。ギニラスという異世界で一木が助けた者達が今エデンに住んでいるらしいのだが、その者達はかねてより地球への移住を希望しているそうでな。今回の異世界人将官候補生募集の話を聞いたらその者達も応募することにしたそうなのだ。ならばエデン暮らしの長いその者達と一緒に地球の文化風習や受験勉強をしたらどうかと一木からの提案でな。せっかくなので受ける事にしたのだ」


 グーシュが説明するとアセナ大佐は少し考え込むように目を閉じた。

 情報をダウンロードしているのだ。


「ああ、ヒアナちゃんとダッカ君ね。ギニラスはルーリアトと文明レベルは近いから、将官候補生試験の受験対策を一緒にするならちょうどいいかもしれないわね」


「それで、だがな……アセナ大佐」


 グーシュにしては歯切れ悪く言うと、アセナ大佐は首を傾げた。

 それでもなお口淀むグーシュに、少し後ろにいたミルシャが口を開く。


「大佐。僕を、これからも殿下と一緒に居させてください!」


「当たり前じゃない」


 意を決したようなミルシャの叫びに対して、あっさりとアセナ大佐は応じた。


「私が断ると思ったの?」


 苦笑するアセナ大佐。


「そういう訳では無いが、いや、な。一応ミルシャは大佐の補佐官だからな」


 だが、グーシュはホッとして様な……少し残念そうな微妙な表情を浮かべた。


(ミルシャさんと一緒にいるのがどこかツラくて、私が譲り渡さない事を無意識に望んでいるのかしら……複雑ね、人間って)


 グーシュ達の心情に思いを馳せると、アセナ大佐は立ち上がってグーシュとミルシャを抱き寄せた。


「大丈夫です。ミルシャさんは身体は機械だろうと、心は人間のままです。お二人は絶対に、絶対にいつまでも愛おしいご関係のままです。だから、私はそんなお二人をいつまでも応援しますよ」


 そう言って微笑んだアセナ大佐はさらにグーシュとミルシャを一人ずつハグして、さらにその後ミルシャをしっかりと抱いた。


 自分と同じ存在になったミルシャが、アセナ大佐は愛おしくて仕方がないのだ。

 だから、自分のように機械としてではなく、どうにか人間として……せめてグーシュが生きている間だけでも過ごして欲しいのだ。


「ミルシャ。あなたは私の妹も同然です。困ったことがあったらいつでも来てください、呼んでください。絶対に助けますからね……」


 アセナ大佐はダメ押しとばかりに抱き締めたミルシャに耳元で囁いた。


 そんな光景をグーシュは、ニコニコ笑みを浮かべて見ていた。


 嫉妬心が湧いてこない自分が嫌で、ツラくて……ニコニコと笑いながら見ていた。

次回更新は8月14日の予定です。

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