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エピローグ4-3 殺意

「何をするっ……の……だ…………」


 グーシュへの突然の狼藉にルニ子爵が声を上げるが、声は擦れる様に小さくなっていった。


 グーシュに体当たりを……否、するような勢いで抱き着いた人物の正体に気が付いたからだ。


 それに、その場にいる皆がほぼ同時に気が付いた。

 そして、誰もが絶句した。


 あり得ない、という擦れる様な声が誰かの口から漏れた。

 沈黙が広がりきり、隣の輸送艦の方から相も変わらぬノマワーク帝国人の罵声が響き始めた頃。


 グーシュリャリャポスティ当人も自分に抱き着いてきた者が誰なのか理解した。


「ミルシャ」


 感情が抜け落ちた様なグーシュの小さな声が聞こえると、同時にグーシュの胸に顔をうずめて居たミルシャが顔を離し、涙でくしゃくしゃになった顔で口を開いた。

 泣き過ぎて声にならない声だったが、その場にいた者達にははっきりと聞こえた。


「殿下……僕は、よく覚えてないけど……あの筋肉お爺さんが助けてくれて……気が付いたらここに……」


 言葉を終えるよりも早く、グーシュはミルシャを勢いよく抱き締めた。

 かと思うと、次の瞬間には身体を離し、猛烈な口づけをした。


 一瞬グーシュは身体をびくりと震わせるが、同じようにグーシュを抱き締め返したミルシャの勢いそのままに宇宙港の床に倒れたまま主従で抱き合った。


 ルニ子爵以下、ルーリアト人から歓声が上がった。

 突然の歓声にノマワーク帝国人から奇異の視線が向けられるが、誰も気にしない。


 よくぞ帰った! よくぞ無事だった! 殿下おめでとう! お付き騎士万歳、グーシュ殿下万歳!


 勇敢なお付き騎士を称える声が響き、抱き合う主従に涙を流す者もいた。

 そんな光景を眺めながら、賽野目博士は満面の笑みを浮かべ、自身も涙と鼻水を盛大に流した。


「うんうん、よかったなあ。よかったなあ。好き合う人間はこうでなくてはな」


 だが、その場にいるのは感動している者達だけではなかった。


 突如帰還したミルシャを愕然とした顔で見る、一木弘和とアンドロイド達。

 彼らは唯々、どうしていいのか分からずに立ち尽くしていた。


 いや、ただ一人。


 アセナ大佐だけは、いつもはニコニコとした笑みを絶やさない表情を憤怒に染め、賽野目博士へと詰め寄っていった。


 大柄な筋肉老人のネクタイを勢いよく掴むと、アセナ大佐は感動的な光景に湧く領民達に聞こえないよう小さな声で詰問した。

 ネクタイが筋肉に覆われた太い首を激しく締め上げ、賽野目博士の顔は一瞬でうっ血し始めた。


「ラフ、貴様……自分が何をしたか分かってるの!?」


「な、何を怒っているのだ? 見ての通りミルシャ君を助けたのだよ 怒る意味が……」


 賽野目博士はアセナ大佐がなぜ怒っているのか分からず困惑の表情を浮かべていた。

 だが、それでもアセナ大佐は賽野目博士のネクタイを締めあげる手を緩めはしない。


 ようやく衝撃から立ち直った一木達が駆け寄り、アセナ大佐を止めに入らなければネクタイか老人の首のどちらかが深刻なダメージを負ったところだ。


「あ、アセナ大佐やめるんだ。正直何が何だか分からないが、怒るような事じゃないだろう……」


 一木が突然の出来事の連続にモノアイをクルクルと回しながら声を掛ける。

 アセナ大佐のネクタイを引っ張る手をマナ大尉とクラレッタ大佐が掴み、他の参謀達が賽野目博士とアセナ大佐を引きはがそうとする。


 それでもアセナ大佐の力は緩まず、その眼光には殺意すら感じられた。


 さすがにその頃にはミルシャ帰還に湧いていた領民達も騒ぎに気が付き、いきなり乱闘を始めた地球連邦の面々に騒然とした空気が広がり始める。


「アセナ大佐、一旦抑えてくれ……」


「そうですアセナ大佐、どうかここは……」


 一木とダグラス大佐が説得を試みる。

 アセナ大佐は少しの間迷ったように周囲を見渡し、領民達の眼差しに気が付くと手の力を少しだけ緩めた。


 それでもなお、手の力を完全には抜くことが出来ない。

 内なる殺意と冷静な部分が拮抗しているかのように、眼前の老人の姿をしたナンバーズを締め上げる手を離すことが出来ないようだ。


「アセナ大佐、手を放してやってくれ」


 そんなアセナ大佐に殺意を緩める決断させたのはグーシュだった。

 ミルシャとしっかりと手を繋いだまま、少し離れた場所に立っている。

 その表情は先ほどと同じ、全くの無表情だった。


「グーシュ殿下…………くっ……!」


 ついにアセナ大佐は手を離した。

 ようやく解放された賽野目博士は呻きもせず、千切れかかり、首に食い込んだネクタイを直した。


「……皆、騒がせてすまないな。少々話し合う事があるので皆はこのままここで待っていてくれ。もうすぐ待機施設への案内が来るからな! ………………」


 グーシュは領民達に叫び、少しだけ沈黙した。

 そして……。


「一旦艦内に戻ろう」


 死にそうな程辛そうな声で一木達に言った。


 その言葉と共に、多少躊躇った後一木達はゆっくりと足を輸送艦の中へと向けた。


 その様子を見て、グーシュも艦内へと歩き出そうとする。

 しかし、そんなグーシュの手をミルシャはそっと引っ張った。


「……どうしたミルシャ?」


 少しだけ優し気な感情を織り交ぜた声でグーシュはお付き騎士の名を呼んだ。

 だが、ミルシャはその声に少し怯えたようにビクつく。


「で、殿下……あの、一体アセナ大佐は何を怒って? 僕のせいなのは分かるんですが……」


 その問いに対しグーシュは何も言わず、ただニコリと笑みを反し、ミルシャの手を引っ張り輸送艦の中へと促した。


 ミルシャはその笑みがなぜか恐ろしく感じられ、酷く困惑した。

ミルシャ帰還!

しかし、雲行きが……。

という訳で次回、エピローグ4最終回(予定)


その後はまた状況が始まります。


次回更新は7月28日の予定です。

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