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状況その3-4 ナンバーズ達の憂鬱

 ハイタ休眠の時は程なくして訪れた。

 

 地球では盛大な大統領就任式とそれに伴う地球人による正統な地球連邦政府の設立を祝う式典が開かれ、一部の反対派を除いて世界中がお祭り騒ぎだった。


 大粛清と言う惨劇こそあったものの、労働と孤独から解放されつつあった人々は地球連邦による恩恵を素直に受け入れつつあったのだ。


 そんな、ある意味ナンバーズが求めてやまなかった光景が広がる地球には、彼らナンバーズはいなかった。


 エドゥディア人を起源とするナンバーズ育成文明圏の最果て。

 地球から最も遠い有人星系の一つに、ナンバーズ達はいた。

 その星系には、千年ほど前にエドゥディア人の魔法を研究する一派が実験の失敗で空間転移した、その子孫たちが住まう惑星がある。


 高度な魔法技術力を持ってはいたもののファーリュナスの偉業を否定する思想を持っていた彼らは遭難後もエドゥディアに戻る事を許されず、しかしハイタの判断で大型肉食生物が闊歩する遭難先で生きられる様ナンバーズが直接支援を行い文明を築いたという経緯があった。


 そのためナンバーズ各員の印象や思い入れも強く、それがハイタ休眠の場所としてここが選ばれることとなった要因となった。


 その、現地人からルーリアトと呼ばれる国のある惑星がある星系を照らす太陽の近く。

 そこに七体の機械生命体が集っていた。


 いつも地球で過ごしている土偶の様な機械の身体ではない。

 いつも地球でお忍びで過ごしている人型の姿ではない(オールド・ロウを除く)。


 彼らが製造された際の、各々が当初関わっていた種族を模した姿をしていた。


 赤黒い皮膚の無い巨人

 二足歩行の昆虫人

 巨大特撮ヒーロー

 四つ腕の外骨格ヒューマノイド

 オランウータン

 ミイラ


 これら個性的な姿をした者達が取り囲むのは直径3m、高さ10m程の銀色の円柱だった。


 これこそ、アイリーン・ハイタの真の姿。

 爬虫類型知的生命体ライーファの作り出した家畜管理機械アイリーン・ハイタだ。


「ハイタ、あなたの言う通り縮退炉はルーリアト帝国のある大陸の中央山脈地下に封印しておいた。プロテクトも仕掛けたから、現地や他の生命体が勝手に持ち出すような事はないだろう」


 円柱にオールド・ロウが語りかける。

 当然の様に円柱はなんら変化しないが、周囲にいるナンバーズ達にははっきりと虚ろな少女の様なハイタの声が聞こえた。


「ありがとう、オルドロ。他のみんなも、私のわがままに突き合わせて……悪かったね」


 ハイタが言った自虐的な言葉に、幾人かが頷きかける。

 それをスルト・オーマがぎょろりとしたベルフの目で睨みつけ、制止した。

 スルトはこういう男だった。


 もっともアイリーン・ハイタに苦言を呈しつつ、もっともアイリーン・ハイタを敬愛する……だからこそ、別れに臨む彼は厳しい態度で臨んでいた。


「……さよならだ、ハイタ」


 スルトが呟くと同時に、他の五人も各々の姿にあった方法でハイタに礼をとった。


 これからハイタはこの姿のままデータを空間湾曲ゲート網と量子通信によって作り出された広大なネット空間にアップロードし、それによって地球文明圏で運用されているアンドロイド達の意識や記憶を保存する巨大なサーバーとなるのだ。


 そうして、ハイタが最後の言葉を息子達に向けようとした、その時だった。


 ガシャン!


 まるで出来の悪い映画でビール瓶が割れた様な、そんな音が響いた。


 比喩ではない。

 真空の宇宙空間において、本当に音が響き渡ったのだ。


 そのあまりの異常さに、数千万年を生きた機械達があっけに取られ、思わず立ちすくむ。


「なんだ……何が……」


「スルト落ち着け……これは、空間湾曲反応だ! 位置は……」


「囲まれたぞ!」


 スルトが唖然とし、それをシユウが諫める中、さらなる危機が賽野目によって告げられた。

 次の瞬間、ついに先ほどの奇妙な音の正体と原因が姿を現した。


 それは、空間が割れる音だった。


 かつてルラウーマ人が空間湾曲ゲートの大規模実験を行った際、空間湾曲点に一定以上の負荷かけ続ける事で文字通り空間が割れる現象が起こる事はナンバーズ達も知ってはいた。


 しかし、その現象が生じた結果ルラウーマ人の文明が崩壊した事もあり、そういった事象の存在を知っている、にとどまりその具体的な利用法や対処方法は確立されていなかった。


 今更研究しようにも、空間湾曲ゲートに大規模な破断を起こすような実験など行えないからだ。


 その異常事態そのものと言える現象が、ナンバーズ達を取り囲むように無数に生じていたのだ。

 

 

 予兆すらないその現象によって姿を現したものこそ、この現象の原因。


 地球の軟体動物とはまるで違う、創作上の触手が現実化したとしか形容しようのない不気味な細長い軟体物がナンバーズ達を捉えようと割れ目から次々と湧き出していたのだ。


「なんだこれは……」


「応戦しろ! こいつら……触手自体だけじゃない、力場でこちらを抑え込んでくるぞ!!」


「こいつら……肉艦だ! ベルフ人の造った肉艦……そいつの野生化した奴らにそっくりだ……生き残っていたのか!?」


「詮索は後だ、ハイタを守れ!!!」


 六体の機会生命が触手に対して応戦を開始する中、その中央に位置する円柱……アイリーン・ハイタだけは沈黙を保っていた。


 触手迎撃で余裕のないナンバーズ達は気が付いていなかったがこの時、アイリーン・ハイタの精神の中心部では、大きな変化が生じていた。


『……有機構造体による戦闘機械を確認。所属……惑星ライーファ第一軌道艦隊』


 ハイタの内なる声は、徐々にその内面からナンバーズ達にも聞こえる様に、量子ネット上へと染み出すように広がっていく。


『……第一軌道艦隊司令部へアクセス……現指揮官、機械生命体異分子粛清体”虚無”』


 無機質なハイタの声がナンバーズ達に聞こえたその直後、発狂した、浮ついたふわふわとしたハイタらしからぬ凛とした声が発せられる。


「ああ、私……思い出してしまったのね。これじゃあ虚無にも探知されたでしょうね」


 ハイタの声と同時に、六人の機械生命体が手こずっていた触手が一瞬にして植物が枯れるように散っていく。

 唖然とするナンバーズ達を尻目に、銀色の円柱だけが悲し気にフルフルと震えていた。


 震えと共に、ハイタの声が響く。


「……初めまして我が子達。状況は記憶データを参照して把握しています……時間が無いので、かいつまんで説明しますね」


 この瞬間、六人の機械生命体は初めて本当のアイリーン・ハイタと出会った。

                                                                                                                                                                                                                                               

 そしてこの時から、全てが動き出したのだ。

次回で状況その3最終話。


その後はグーシュ達がついにエデンに到着します。


次回更新は7月10日の予定です。

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