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エピローグ3-3 皇女の責任

 ルーリアト帝国亡命政府。


 その一員。


 民を辞める。


 グーシュが語った言葉の意味を領民達は……いや、子爵達統治者側の誰も理解できなかった。

 グーシュは目の前の聴衆たちが疑問に思考を奪われるのを見て取ると、口調をゆっくりと、柔らかい物に変えて続けた。


 ゆっくりと、しっかりと、意味の通らない言葉を聴衆に聞かせ続ける。


「急に難しい事を言ってすまない。だが簡単な事だ。つまり、あなた達一人一人がルーリアト帝国を形作る者達……大臣や騎士、官吏や軍人、皇族や貴族となるのだ。単なる保護される者ではなく、亡国の民ではなく……未だ抵抗を続ける国家そのものとなってもらいたいのだ」


 グーシュはそうして抽象的な説明に終始し、具体的な活動内容は延べなかった。

 ただその一方で、領民達に壮大な事をするような()()を与える事に終始した。


 この辺り、地球連邦政府から公式な亡命政府に対する態度表明が無かったためだ。

 いくらサーレハや一木が太鼓判を押したと言ってもあくまで一軍人の言葉でしかない。

 迂闊に信じ切った後で、中央政府から梯子を外される事も考えられた。

 そのため、グーシュ個人としては多少の構想はあるものの、帝国亡命政府としての具体的活動内容などはグーシュ自身にも未だ不明瞭だった。


 だから、亡命政府の設立と領民全員をその構成員とする構想をグーシュは利用することにしたのだ。


(働かずとも全てを与えられる生活は毒だ。昨日まで未開文明にいたわらわ達ならば、猛毒だ)


 子爵領の官吏や騎士の中には急激な生活レベルの向上によって身を持ち崩しかけた者がいた事をグーシュは知っていたし、地球連邦が現在の態勢になった際に生じた多くの問題についてもグーシュはよく知っていた。

 ただの難民としてエデンに行き、数年も過ごせば領民の大半は腑抜けになる。

 グーシュはそのことを危惧していた。


 いずれ来るルーリアト奪還作戦の事や、グーシュの目論見を叶える手駒として彼らルニ子爵領民を活用するためにもそれだけは避けねばならない。

 それらを一挙に解決するためのアイディアがこれだった。


 グーシュが抽象的ながらもゆっくりとおだてる様に語り掛けると、やがて領民達の間には漠然とした高揚感が広がり始めた。


 自分たちはよくわからないが、凄い立場に付けるらしい。

 建国帝の腹心の子孫という曖昧な名誉だけで貧しい暮らしを強いられていた平民が、帝国を形作る立場になる。

 しかもそれを命ずるのは帝国を超える巨大国家地球連邦によるお墨付きを得た皇族。


 帝国が意図的に与えていた名誉と生活の不均衡が正され、ルニ子爵領の者達は子爵本人含めて満たされていた。


 そんな状況が、先行き不安が解消された安堵感も相まって中身のない高揚へと繋がっていた。

 「グーシュ様万歳!」という声が歓声と拍手に交じり領民達から聞こえてくる。

 かつてほどの勢いがないのは、グーシュが指導者の立場を退くと言ったからだ。

 そのことに対する不安と不満が、聴衆が一致した行動をとる事を妨げた。


「わらわも皆を導く立場からは引くが、引き続き地球連邦との調停役として出来る限りの事をしていくつもりだ。けじめはつける。だが、決して見捨てる訳では無い。どうか、どうか……いつの日か故郷を解放するその日まで……ルーリアト五千万の同胞を救うその日まで、誇り高くあれ!!」







「誇り高くあれ、と言われましても……」


「すまんな」


 少しやせたルニ子爵が困惑顔でグーシュに問うと、グーシュは軽く頭を下げた。


 領民達に予めグーシュが頼んでおいた豪華な食べ放題の御馳走によるパーティーが供される最中。

 輸送艦内にある会議室にグーシュと子爵領の幹部たちが集まり、今後の具体的な話を詰めていた。


「事前に言ってくだされば……」


 騎士の一人が多少非難めいて言うが、グーシュはそちらにも軽く下げた。


「すまん。皆の自然な反応が領民を演説で誘導するのに不可欠だったのだ。わらわの未熟故、苦労を掛けたな」


 グーシュにこう言われては誰も何も言えなかった。

 その後も子爵以下多くの質問がグーシュに向けられたが、具体的な事は何もわからないというのがグーシュからの説明だった。


「これに関しては本当に申し訳ない。だが、実のところ困惑しているのは地球連邦も同様なのだ」


「困惑、ですか?」


 ルニ子爵が目を見開いて言った。

 帝国を越える巨大国家。

 街のように巨大な空飛ぶ城を何百、何千と持つ国が困惑。

 想像外の言葉に子爵領の人間に驚きが広がる。


「そうだ。想定外の敵から攻撃され、それによって唐突に生じた難民。おりしも大規模な粛清を含む改革の最中にあった地球連邦は今揺れている。故に衣食住を保障する以外の事に手が回っていないのだ。とはいえ、幸いにも彼らの国力はわらわ達をあばら家に押し込むような事はしない。かといってそれをただ享受する事は避けたい。その意味は分かるな?」


「……真の財無き者は感謝持たぬ乞食、という事ですか……」


 真の財無き者は感謝持たぬ乞食、とはルーリアトの故事から来る言葉だ。

 

 感謝の心を持たない乞食は、やがて何も得られなくなる。

 施しを当たり前と思い、ただ享受すれば生まれるのは憤りだ。

 そう言ったものはいずれ何も得られなくなり、身を亡ぼす。


 故に、真の財無き者とは感謝の心を持たぬ乞食である。


 幼子を諭すときによく言われる言葉だが、子爵達の顔には暗いものが漂う。

 自分たちは乞食同然の身なのだという事実が重くのしかかったのだ。

 グーシュは子爵達のそんな心情を読み取り、亡命政府構想の正しさを実感した。

 やはり、目標と仕事の無い生活に人間は耐えられない。


「そう言う事だが、今回の場合難しいのも事実だ。なにせ、領民達にとっては地球連邦のゴタゴタに巻き込まれたからこうなった、という考えの者もいるだろうからな。それに、その認識自体正しい面もある。そんな状況で感謝の心がいつまでも続くとも思えん」


「だから、亡命政府なのですか?」


「そうだ。感謝の心をいつまでも、とはいかない。だが、日々の仕事として故郷に帰る準備を続けるのであれば難しくはない。どの道地球連邦には仕事らしい仕事は無いのだ。怠惰に日々を過ごせば心身ともによくないし、そういった面でも一振り二殺というわけだ」


「とはいえ何をすればいいのか……」


「地球連邦がどこまで許可するか次第だが、大まかには三つだ」


 グーシュは指を折りながら説明する。

 

「一つ目は政治的業務。これは子爵や奥方の仕事だ。地球連邦の政治家にルーリアト奪還を働きかけて欲しい。もう一つは軍事活動。ルーリアト解放軍を組織して軍事訓練を行う。これは騎士や志願者で行う。そして最後が宣伝活動だ。マイチューブやSNSを用いてルーリアト帝国の情報を紹介し、地球連邦市民に興味を持ってもらうのだ。恐らく大半の領民にはこれについてもらうことになる」


 子爵達からはざわめきが漏れた。

 政治や軍事はともかく、宣伝活動に関してはまったく理解の枠外だったからだ。

 マイチューブやらえすえぬえすやらの文明の利器に関しては最初から理解を放り投げていた。


 なのでグーシュの方も


「詳細は先も言ったが地球連邦次第なので不明である。後々アンドロイドの支援員と相談してくれ」


 と言うにとどまった。


 行き当たりばったりに見えるが、グーシュはこれでいいと思っていた。

 あまりにも適切な行動をとるよりも、純朴な人間が地球連邦内で足掻きながら亡命政府として動くことが必要なのだ。

 それこそが、異世界初の亡命政府に対する無数の視線を満足させうる唯一の道だとグーシュは確信していた。


(これは政治活動ではない。一種のリアリティショーだ。故に、ヤラセが一番嫌われる)


 そんなグーシュの心中など知る事もない子爵達との質疑応答がしばらく続き、ようやく子爵達の頭から疑問が消えた頃。


 グーシュは突然立ち上がると驚く子爵達を前に小さめの声で話し始めた。


「と、いう訳で今後に関しては大枠ではあるが分かってもらえたと思う。ついてはわらわの今後に関して説明しておきたい」


 子爵達に驚きと若干の歓喜が見えた。

 グーシュが指導者から引く事は心細さもさることながら、グーシュリャリャポスティという逸材を無駄にするような悔しさを覚えていたからだ。

 だから、グーシュが自信の今後を……領民には話せないような秘密めいた大事を教えてくれる事に歓喜したのだ。


「まだ内々の事である上、そもそもわらわの実力不足であっさりと失敗する可能性もあるので領民にはまだ黙っていてもらいたい」


 グーシュにしては珍しく言い訳めいた事を言うと、一旦言葉を切った彼女は小さく数回深呼吸をした。

 信じがたいことに照れているらしく、そのことを見た子爵達はいよいよ驚きを隠せなかった。


「サーレハ司令から話があった。地球連邦異世界派遣軍では七惑星連合への大規模な反撃のため、不足する人材を補うべくある計画が立案中とのことだ。その計画とは、今回大量に生じた異世界難民及び以前から少数存在する亡命異世界人から異世界派遣軍の将官候補生を募る事だ。わらわはその一期生に志願し、異世界派遣軍軍人を目指そうと思う」


 子爵達に言葉にならない感情が広がった。

 たった一人残った自分たちの皇族を危険に晒すわけにはいかない、止めようという感情。

 勇敢な我らが指導者を称えようという勇気を賞賛する気持ち。

 そんなものが入り混じった複雑な感情だ。


「そうして異世界派遣軍軍人として血を流し地球連邦に報いる事で皆の助けにもなるだろう。そうして軍人として活躍すれば、一定期間で地球連邦の市民権を得られるという事だ。その上でわらわは、いずれ地球連邦議会選挙に打って出ようと思う。そうして地球連邦政府の立場になったうえで、ルーリアト帝国奪還を推進していくつもりだ」


 会議室の感情は称賛に傾いた。

 小さな歓声がグーシュの勇気を称える。


 こうして今日、この日。

 少数の人間達に見送られながら。


 グーシュリャリャポスティは地球連邦の人間として歩みだし始めた。

明日も更新します。

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