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エピローグ3-2  皇女の責任

 駆け寄ったアンドロイドはグーシュと群衆の間に立ちふさがる様に立つが、グーシュはそのアンドロイド達を一瞥すると退く様に促した。

 一木達からグーシュの保護を命じられていたアンドロイド達はしばし躊躇うが、グーシュが視線に力を込めるとしぶしぶと言った様子で脇に退いた。


 そうしている間にも群衆達からの声は続いていた。

 最初の悲鳴じみた声こそ止んだものの、今は「見捨てるのか」「我々を導いて」などと言った具体的な叫びが主となっていた。


 脇に立っている子爵達の方からは流石にもう声は聞こえていなかったが、群衆がグーシュに近づこうものならすぐに守りに入ろうと気を配る彼ら自身も、ためらいと疑問、困惑を抱えているのは明白だった。


 だが、グ―シュはジッと黙っていた。

 アンドロイドが退いた後も、何も言わずにただ立っている。

 断ちながら、領民達の顔をじっと見る。


 誰がどのような表情をしているか。

 懇願に交じり時折聞こえる罵声じみた内容を言っているのは誰で、その人物の顔つきや身なりはどのようなものか、そしてその割合はどうなのか……。


 グーシュがそうして領民観察を初めて数十秒後、ようやく声はピークを越えた。

 グーシュの姿勢が沈黙を待っている時のものだと気が付き始めたのだ。


 そうなってからは声は急速に小さくなっていき、若い男の「ミルシャ様が死んだからって俺たちを見捨てて隠居するのか」という声を最後に沈黙が訪れた。


 最後の言葉は内容の過激さも相まって随分と大きく響いた。

 言った当人は自分の言葉がやけに大きく響いたことに焦った様に周りを見回し、周囲も男の言葉の内容に焦ったように男を睨みつける。


 その一方でグーシュとしてはその言葉が少し心地よかった。

 彼の中ではグーシュリャリャポスティという人間は、ミルシャが死んだら無気力になって隠居するような人間だと思っているのだ。


(実際はあんなに愛おしかったミルシャが死んでも平気だというのにな……)

 一瞬だけ自嘲気味に笑みを浮かべると、グーシュは狙っていた沈黙に合わせて言葉を投げかけた。


「……話を聞いてくれるか、皆?」


 静まり返った格納庫でグーシュが喋り始めると、その声はやけに大きく響いた。

 最後に叫んだ男が見て分かる程に身体を震わせるのが見え、グーシュは男を気の毒に思った。

 そのため、予定にない言葉で男を少しだけ擁護してやる。


「一言言っておく。先ほどまでの皆の声について、わらわはむしろ感謝している。皆の本心が聞けたことは誠にうれしいし、そのような不満と不信を放置していたことは申し訳ないとしか言いようがない」


 グーシュは子爵以下領民全員を嘗めまわすようにじっくりと眺めながら言葉を紡いでいった。

 言葉に対する反応を逐一観察し、子爵領の世論をしっかりと把握していく。


「まずわらわが市井に降りた後の皆の事だ。基本的には今まで同様ルニ子爵に指導者として皆をまとめてもらう事とするが、未知の環境下ではそうそううまくもいかないだろう。なのでルニ子爵以下子爵領の騎士、官吏一同にはアブドゥラ・ビン・サーレハ艦隊司令の口添えの下、地球連邦政府から支援を付けてもらう事となった。今まで世話になったクラレッタ大佐達はその任からは外れるが、同じくらい有能なアンドロイド達が付いてくれるので、心配することはない」


 この説明に関しては領民達の顔色はあまり変化がなかった。

 深く安堵の色を示したのはルニ子爵以下子爵領の幹部たちだった。

 彼らは帝国の権威抜きで千人の民を指導することに大きな不安を感じており、グーシュがいなくなっては子爵領はもはや領地としての体裁を維持できないと考えていたので、グーシュがいなくなっても地球連邦政府が彼らにお墨付きと支援を与えてくれるというのは実に心強い情報だったのだ。


「その上で皆は他の避難民……そう、実はわらわ達と同じように故郷を追われ流浪の民となった者達が大勢いるのだ。地球連邦の敵対者七惑星連合の攻撃を受け発生した難民はわらわ達含め10万人近い。それら全員をエデン、という世界にある異世界人居住区に新しい街を作り収容するそうだ。皆はそこで暮らすこととなる」


 エデン星系にある惑星エデンは大気や酸素などはあるものの一切の動植物や微生物のいない特異な環境の星だ。

 そんな星の環境を維持するため、居住区や施設は地下やドーム状の密閉下に建造されている。

 そしてそんなドーム都市の一つには、諸事情で元の場所で暮らすことが出来なくなった異世界人が住む亡命異世界人収容都市がある。

 今回大量発生した難民はそのドーム都市を緊急拡張した場所に収容されることとなったのだ。


「待遇はこの輸送艦での暮らしと概ね同じと考えてくれればよいが、一方で地球連邦市民と同レベルの情報や知識を持つための教育が行われることとなるそうだ。その教育が終了した後は地球連邦市民に準ずる待遇の下個別に衣食住が保障される。詳細は国務省の担当者が来てから聞いてほしいが、断じてひもじい思いをすることは無い事だけは保証できる」


 この説明を聞いて、ようやく領民達の顔に笑顔が戻った。

 グーシュが途中で”難民”という言葉を使った事もあり、彼らは強く不安を覚えていたからだ。


 ルーリアトにおいて難民とは、ボスロ帝によって降伏した属国の民がリュリュ帝の強制労働によって帝国中を移動させられる姿が印象深い。

 だからこそ、地球連邦市民と同様の暮らしと聞いて領民の顔色は明るいものとなった。


 なった所で、すかさずグーシュは言葉を紡いだ。


「だが、わらわは皆に安楽の日々をただむさぼってほしくはないのだ」


 グーシュの言葉に領民の視線が集中する。

 視線を意識したグーシュは両手を広げて叫ぶ。


「皆は難民と聞いてかつての強制労働を受け疲弊した属国民を思い浮かべただろう。無論、皆はそうはならない。だが、故郷のルーリアト人はどうだろうか? わらわ達同様の安楽な生活が送れるだろうか?」


 問いかけに対し、領民や子爵達は顔を見合わせ、首を傾げる事しか出来ない。

 当然だ。

 彼らには七惑星連合や火人連がどのような所かの知識がないのだから。


「そんな不安定な故郷を尻目に、以降の庇護の下安楽の日々を送る……そんな姿を見た者は、わらわ達をなんと呼ぶだろうか!!! そう、わらわ達は戦わなければならない! 地球連邦の恩に応えなければならない! ならばこそ、わらわは君たちに求めたい……」


 グーシュはここで音がはっきりと聞こえる様に大きく息を吸い込んだ。


「君たち領民はこれより民ではなくなる……君たちには今後、ルーリアト帝国亡命政府の構成員となってもらいたいのだ!!!」

次回更新は6月18日の予定です。

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