状況その2 ワーヒド後始末―10
「マクダネル中佐とハク少佐が殺された?」
七惑星連合軍司令部でルモン騎士長とクク大佐に報告中だったシュシュリャリャヨイティは突然舞い込んだ凶報にあっけに取られた。
もっとも、司令部に詰めていた騎士長とククはあっけにとられるどころではないが。
現にルモン騎士長は剣を取ると報告しに駆け込んできたカルナーク兵に詰め寄った。
「何があった!? 敵か?」
返答次第すぐに駆けだしそうな様子のルモン騎士長だが、カルナーク兵は慌ててルモン騎士長を押しとどめに掛かる。
「お待ちください騎士長! 敵ではありません。その、言いにくいのですが……個人的な私闘……というか、口論の末とのことで……」
「口論? え、え? どういうことなのですか、説明しなさい」
机の中にしまってあった拳銃を取り出し、ホルスターに収めようとしていたクク大佐がカルナーク兵を問い詰めた。
カルナーク兵によるとこうだ。
突然マクダネル中佐の部屋から銃声が響いた。
最初の銃声に続き二発……つまり合計三発。
帝城内での発砲に慌てた警備兵が駆け付けると、室内には銃を手に呆然と立ち尽くす火星陸軍のサイボーグが一人いた。
彼のすぐ目の前には頭を大型拳銃で吹き飛ばされ胴体だけになったマクダネル中佐が倒れており、マクダネル中佐のデスク脇には腹部を同じく大型拳銃で撃たれたハク少佐が座り込んだ姿勢で絶命していた。
警備兵達は慌ててサイボーグに銃を突きつけ、拳銃を降ろすように命じた。
サイボーグは素直に応じ、拘束された。
その場で行われた簡単な尋問の結果、部屋に呼び出された容疑者は帝城への一番槍を逃した件でマクダネル中佐から激しく罵倒され、さらにアイアオ人部隊が手柄を立てたのは容疑者のせいだとハク少佐からも罵倒された。
それに対して反論すると、マクダネル中佐が近づいてきて殴打された。
火星のため命がけで戦ったのに罵倒され、さらに戦友であるアイアオ人までをも貶す二人の姿勢に憤慨した彼は、手を上げられた事で激昂。
ほぼ衝動的にマクダネル中佐を殺害し、容疑者に対して発砲したハク少佐も反撃し殺害した。
容疑者の話はこうだった。
容疑者の主張通り、ハク少佐の持つ拳銃からも発砲の痕跡があり、容疑者の頭部にも命中痕があった。
容疑者は脳へのダメージで療養中という事もあり、頭部への命中弾の影響を鑑みて監視を付けた上で療養所へと移送。
警備兵達は各陣営へと連絡しつつ、規定に従って憲兵隊に捜査を移譲。
現在憲兵の指揮下に入り捜査を開始しつつあり……。
「……いやー、悪いことって出来ないものねえ」
話を聞いたシュシュリャリャヨイティは呟いた。
それに対して剣を元の場所に戻したルモン騎士長と拳銃を置いたクク大佐は頭を抱えつつ頷いた。
「なにはともあれじゃ。シュシュリャリャヨイティ。これで君が今回やった事に反対する者はおらんじゃろう。残存部隊の収容と管理は頼んだぞ」
ルモン騎士長の言葉にシュシュリャリャヨイティは少し驚いたように目を見開いた。
「え、そんな簡単にいいんですか? 連合の他の面子とも……」
「構わんよ。どの道アンドロイドの捕虜を管理などと言っても、火星やカルナークの軍にはどだい無理な話じゃ。そしてそれ以外の七惑星連合の面々はとうていそんな事が出来るような状況じゃあない。お主もわかっておろう?」
七惑星連合と言えば聞こえはいいが、その実態は火人連とカルナーク軍に様々な文明の生き残りや遭難者がくっついているに過ぎない。
そもそもエドゥディア帝国勢やベルフ、ンヒュギなどは総人数が一人か二人しかいないのだ。捕虜の管理など出来ようはずもない。
「……ひょっとしてニャルがいなくても、もしかしたらあの二人の騒動が無くても、私達にアンドロイドの管理を押し付けるつもりでした?」
「押し付けるとは心外な。役割の無い君たちルーリアト統合体に仕事をあげようとしていたのだよ。奇妙なオマケと厄介な連中が湧きはしたがね」
そう言ってルモン騎士長は好々爺めいた笑い声を上げ、そして唐突にその笑いを止めた。
「さあて、頑張りなさい。結果次第では、七惑星連合最後の存在に会わせてあげよう」
「……ようやくですか……もったいぶると思ったら試験があったんですね……まあ、せいぜい頑張りますよ」
七惑星連合。
七つの文明の連合体。
火星民主主義人類救世連合
カルナーク国民統合軍
エドゥディア帝国
ベルフ
ンヒュギ
ルーリアト統合体
この主要勢力にアイアオ人やアウリンを加える事で表向き七惑星連合と名乗っているが、実のところ最後の二つは七惑星連合内では勢力としてカウントされていない。
アイアオ人はあくまでカルナーク軍に所属している惑星カルナークの先住種族であるし、アウリンは七惑星連合で共同開発された兵器でしかない。
となると名称に反して所属勢力は六つしかないのだが、そうではない。
シュシュリャリャヨイティにも仄めかす程度にしか教えられていないが、きちんと七つ目の勢力があるのだという。
通称”あのお方”と呼ばれるその存在は秘匿されていたが、ついにシュシュリャリャヨイティはそれを知るための資格を得る足掛かりを得るに至った。
まだまだ先は長いと言えるが、彼女にとってはルーリアト統合体を確固たるものにする大きな一歩と言えた。
(あのお方か……交われる相手だといいけど)
いかがわしい事を考えているシュシュリャリャヨイティだが、不意にニャル中佐が肩を叩いた。
「どうしたの? やりたくなった?」
「馬鹿な事言わないでください。先ほどの報告通りなら、負傷した容疑者が療養所にいるはずです。至急戻って治療を行いたいので、先に戻る許可をください」
「いいわよいいわよー。私はここでこれからの事話し合ってから行くから」
シュシュリャリャヨイティは手の平をひらひらと振りつつ、司令部にあるソファーに座った。
剣と銃を置いたルモン騎士長とクク大佐も同じようにソファーに座り、目の前の机に携帯端末を置きルーリアトの統治計画や部隊の撤収に関する話を始める。
ニャル中佐はそれを少しだけ眺めると、足早に療養所へと向かった。
明日正午続きを更新します。




