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状況その2 ワーヒド後始末―9

「オノダ参りました」


 ハキハキとした声と共に入室してきたのは、特徴のない顔立ちの若い男だった。

 体格も160cm程とあまり大きくはなく、とてもではないが帝都決戦で猛威を振るったバケツ頭の相撲取りじみた巨漢には見えない。


 それでも彼が着ている火星陸軍の作業服に刺繍された銀色赤目の髑髏マークが、このオノダ少尉が歴戦の猛者かつ火星陸軍の戦闘用サイボーグであることをはっきりと示していた。


「よく来てくれたな。頭の具合はどうだ?」


 マクダネル中佐がねぎらいの言葉を掛けると、オノダ少尉は申し訳なさそうに目を伏せた。


「はっ。幸いにも素晴らしい治療を受ける事が出来ましたので、すでに問題ないそうです。しかし、その節は本当に申し訳ありません。私のせいで栄光の第1完全機械化連隊が帝城一番乗りを逃し……」


 オノダ少尉は帝都決戦の際完全機械化連隊の最先鋒を務めていた。

 無数の銃撃を受けつつ吶喊した彼は帝城まであと一歩のところまで迫ったのだが、そこで門の脇に隠ぺいされていた50式歩兵戦闘車の120mmレールガンによる攻撃を受けたのだ。


 幸いにも弾種が徹甲弾かつ弾は頭部をかすっただけで済んだが、凄まじい衝撃はオノダ少尉の脳にダメージを与え、彼はその場で昏倒。部隊は彼の救助と回収のため足止めを食ってしまった。


 そうしているうちに帝城一番乗りをアイアオ人部隊に取られてしまい、オノダ少尉はそのことを悔やみ続けていた。


 とはいえSAが放つ120mmレールガンに狙われて無事だったのは僥倖と言うしかない。

 

 さらに言えば異世界派遣軍の切り札的存在だった隠ぺい装甲車両陣地の初撃を彼らが受けてくれたおかげで帝城の早期制圧が成ったとも言えるため、オノダ少尉が自信を卑下するのとは裏腹に同僚や上司、そして戦果を奪う形になったアイアオ人部隊からの彼への評価は非常に高いものがあった。


 そんな生真面目過ぎるほどの彼の性格と、熱心なハストゥール信奉者という点がマクダネル中佐達が今回の件で彼を呼んだ理由だ。

 ハストゥール信仰は火星内の宗教対立を回避するための仮想宗教として構築された人工宗教だが、入植後数十年を経た現在では反アンドロイド思想を主とする本当の信仰へと変化していた。


 だからこそ、マクダネル中佐は彼をうってつけだと選んだ。

 

「まだ言っているのか。気にすることは無い。君は勇敢にも全軍の最先鋒として帝城に突撃し、敵の最終防御陣地の攻撃を受け止め制圧に大きく貢献したのだ。誰もが君の勇敢さを知っているよ」


「その点に関しては私もお墨付きをあげよう。うちの一つ目共も君を賞賛していたよ。勇者だ、とね」


「恐縮です……」


 そう言って少し照れたように笑みを浮かべるオノダ少尉。

 そんな彼の胸元にはアンドロイドの撃破数を示すマークが張り付けられていた。

 かねてより実戦が行われた際には撃破数を示すため貼り付けようと上層部黙認の下、火星陸軍とカルナーク軍の現場が用意していたものだ。


 その、デフォルメされた女の生首(右目が破損してロボットである事を示している)がオノダ少尉の胸には五つ付いていた。銀髪が三つ、赤髪が一つ、黒髪が三つ。

 銀髪が一つ頭十体、赤髪が五体、黒髪が一体を示しており、彼が38体のアンドロイドを撃破した事を示していた。ちなみに金髪は百体を示しているが、それを付ける資格があるのはルモン騎士長しかいない。


「その輝く生首を持つ君に……やってほしいことがある。聞いてくれるか?」


「それは……ご命令とあれば……」


 不意に変化したマクダネル中佐の声色に、オノダ少尉は少しばかり緊張した様に表情をこわばらせた。

 オノダ少尉にとってマクダネル中佐は現場配属以来世話になった恩人ではあるが、今や臨時とはいえ連隊長になった彼がわざわざ部屋に呼び、命令ではなくやってほしい事、などと言う。

 これで警戒しない方がおかしかった。


 だが、マクダネル中佐には確信があった。

 オノダ少尉ならばシュシュリャリャヨイティを殺す事を了承するという、強い確信が。

 無論、普通に考えれば七惑星連合の勢力の一画であるルーリアト統合体のトップを殺すなど正気の沙汰ではない。


 だが、オノダ少尉はハストゥール信奉者だ。

 シュシュリャリャヨイティが捕虜のアンドロイドを重用し、さらに仲間を殺し続けた残存アンドロイド部隊を自軍に組み入れると聞けば……。

 オノダ少尉の性格をマクダネル中佐はよく知っていた。

 かつてアグレッサー部隊のアンドロイドに暴行を加え、営巣送りになった際に庇ったのはマクダネル中佐なのだ。

 話を聞けば水に赤熱した石を投げ入れた様に沸騰する事だろう。


 そんなオノダ少尉をシュシュリャリャヨイティ暗殺に仕向けるのはたやすいこと。

 内心ほくそ笑みマクダネル中佐は話を盛りつつシュシュリャリャヨイティの悪辣さと、彼女を殺す事の正しさを話聞かせた。


 そうしてオノダ少尉に生じた反応は激昂………………では無かった。


「…………中佐殿……少佐殿……」


 話の途中、特にシュシュリャリャヨイティが重用している医療用アンドロイドの話題になった辺りからオノダ少尉は無表情になっていった。

 マクダネル中佐が決め台詞として放った「君が火人連の正義を救うのだ」という言葉が発せられた後には、肩を震わせてうつむいてしまっていた。


「どうしたのだ、彼は?」


 不審な様子にハク少佐が怪訝な表情を受けべる。


「いや……怒りが大きすぎて混乱しているのだと……」


 マクダネル中佐も困惑しつつ、立ち上がり肩を震わせるオノダ少尉へと歩み寄った。

 そして、肩を軽く叩く。


「どうした少尉? 普段の君らしくない。ひょっとして機械人形の治療など受けたから」


 マクダネル中佐の言葉はそこで途切れた。

 遮るように乾いた破裂音が響いたから……いや、破裂音と共に12mm口径の拳銃弾が頭部を弾き飛ばしたからだ。


「き、貴様!?」


 ハク少佐が驚きつつ腰の拳銃を抜き、構える。

 小太りの体型に似つかわしくない素早さで拳銃を構え、倒れ伏すマクダネル中佐から除くオノダ少尉の頭部に向かって発砲する。

 まるでガンマンの早撃ちの様な妙技だった。


 カンっ!


 だが、残念な事に相手はサイボーグ。

 生活用の人型ボディとはいえ、軍用サイボーグを相手にするにはハク少佐の9mm拳銃は小さすぎた。

 あっさりと頭部の丸みに沿って明後日の方向に飛んでいった弾丸は天井に小さな穴を開け、次いで放たれたオノダ少尉の持つサイボーグ用大型拳銃の12mm弾はハク少佐の出っ張った腹を内蔵ごと吹き飛ばした。


「ぐげっ」


 奇妙な呻きと共にハク少佐は崩れ落ちる様に床にへたり込んだ。

 腹の中身をまき散らした衝撃故か、その時にはすでに事切れていた。


 こうして、七惑星連合内で新たな内部抗争を起こそうとしていた二人の若き指揮官はあっさりと死んだ。

 無音の部屋にほんの僅かな間沈黙が訪れたが、程なく銃声を聞きつけた警備の兵士たちの怒声と足音が近づいてきた。


 騒音が迫る中、オノダ少尉は憤怒の表情で倒れた二人を見下ろしていた。

長くなったので分割します。

続きは6/3 6/4 正午更新予定です。

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