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状況その2 ワーヒド後始末―8

「どうするんだ? まさか本当にあの女が機械人形どもを捕虜にするなんて……このままじゃ俺たちは上層部に意味なく嚙みついた間抜けだぞ」


「分かっている。恐らくこれから説明のために俺たちに呼び出しがかかるだろうから……どうにかその場で打開策を見つける……しかない」


 ハク少佐の言葉に対しマクダネル中佐が解決策を述べるが、どうにも行き当たりばったりだ。

 彼らはアンドロイド部隊がこれほど簡単に降伏の道を選ぶとは思ってはいなかったからだ。

 逃げた異世界派遣軍の指揮官は残留部隊に対して徹底抗戦を命じるというのが彼らの考える異世界派遣軍の基本姿勢であったためであるが、実のところこれは正しくはない。


 異世界派遣軍の基本方針として、アンドロイドは(つと)めて保全するべし、というものがある。

 つまり無人兵器だからと言って、損失前提の戦果を最優先にした扱いにはしないと言うのが異世界派遣軍の考えなのだ。


 あくまでアンドロイドは単なる物ではないという思想が根底にある故の方針であったが、火星とカルナーク軍ではこの点において理解が不足していた。

 というのも、両勢力における異世界派遣軍への理解がカルナーク戦役におけるアンドロイド無制限製造戦術の印象が支配的なためだ。

 

 その印象の下ワーヒド星域会戦を迎えた七惑星連合軍は、そのギャップをこの残存戦力によるゲリラ戦術と言う局面において露呈させることとなった。


 彼らは火星、カルナーク両軍と七惑星連合軍内での主導権争いにおいて歩兵部隊の価値をこれ以上低下させることを避けたかった。

 そのため、ゲリラ活動するアンドロイド達を最初から死兵と決めてかかり、火星から大規模な主力部隊を増援としてルーリアトに送り込む口実にする事を考えたのだ。

 そうすることによって、占領活動においては戦力の最も多い歩兵部隊こそが主力であることを示すつもりだった。

 

 このために今回の騒動を起こしていたマクダネル中佐とハク少佐の両名にとって、文明も知らない現地人に過ぎないシュシュリャリャヨイティと捕虜の機械人形一体によって事態が解決してしまう現状は悪夢と言えるものだったのだ。


 彼らが異世界派遣軍の基本方針を現実的に捉えていればこのような事態は回避できたかもしれない。


 しかし彼らにとっては偉大なる先達が実体験した事こそが事実であり、異世界派遣軍が公開している情報や各種情報網によって得られたものは事実足り得なかった。


 しかも、彼らには今回の事によってさらに懸案事項が増えてしまっていたのだ。

 マクダネル中佐の言う方針を聞いたハク少佐はその点を苦虫を嚙み潰したような顔で口にした。


「基本的にそれで行くしかないが、それよりも優先することがある。今後さらに発生するであろう捕虜の機械人形の管理だ。もしあの現地人が今回の対処を基本方針にするよう主張したら厄介だぞ。ただでさえ今回の戦闘で主戦力としての価値が低下した俺たち歩兵部隊の牙城だった占領地管理任務まで取られかねないんだ」


「そうだ。だからこそ、どうにかしなければ……アンドロイド部隊の監視名目で火星から増援を引っ張りたいが、それではもはや戦果を上げられんから……次善策として、最悪今回の件が特例措置であり捕虜アンドロイド問題は一旦棚上げに持ち込みたいところだな」


 マクダネル中佐の言葉にハク少佐は頷いた。

 頷いたが、表情は晴れない。


 どう足掻いても彼らにとっての主導権争いの相手としてルーリアト統合体の捕虜アンドロイド部隊が増える事は避けられないからだ。

 むしろ今回の件で成果もあげられずに心象だけ悪化させた形となる彼ら二人は、主力においてカルナーク軍と火星陸軍がアイアオ人部隊とRONINNの補助戦力に成り下がり、さらに後方支援任務においてもルーリアト統合体の下に付かされるという最悪の未来が見えつつあった。


 だからこそ、その最悪の未来における対立存在をここで減らす必要性に考え至ってしまった。


「……統合体の中で文明的思考が出来るのはあの女だけだったな」


 擦れるような小声が部屋に響いた。

 どちらのものとも取れないその声に対し、やはりどちらとも取れない小声が応じる。


「そうだ。あの女以外は中世人だ。剣と鎧とマスケットの人間だ。どうとでもできる」


「しかも機会は多い。療養所には俺たちの部下が大量にいて、そしてあの女も療養所の個室で治療中だ」


 シュシュリャリャヨイティは術後の傷とお腹の赤ん坊へのケアのため、自室ではなく療養所の中に設けられた特別室で過ごしている。

 つまり言い換えれば、火星陸軍とカルナーク軍に囲まれて生活しているという事である。


「……医療用とはいえアンドロイドがいるな。実行するならサイボーグの方がいいか。思い当たる者は?」


「…………いる。まだ治療中だが女一人なら可能な奴が……」


 ハク少佐とマクダネル中佐が(よこしま)なその考えに言葉なく合意したと同時に、マクダネル中佐が自信に内蔵された通信装置を用いて一人のサイボーグを自室に呼びつけた。


 カイ・オノダ少尉。

 ありふれたサイボーグの火星陸軍兵士であり、頭部に受けた衝撃により生じた脳震盪の治療のため療養所に出入りしているマクダネル中佐子飼いの男だ。


 しばらくして生活用の小型ボディに脳を積み替えた少尉が到着した。

なんとか次回でワーヒド後始末終わりたいです……。


次回更新は6月2日の予定です。

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