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状況その2 ワーヒド後始末―7

「忌々しい」


 シュシュリャリャヨイティ一行を見下ろすハク少佐の口から恨み節が漏れる。

 しかし、その口調には会議の時の様などこか狂気じみた怒りや恨みは感じられない。

 ある程度の理性が感じられた。


「まったくだ……今情報が来たがあの原住民の女、機械人形どもをこの星系の警備目的で自軍に事実上編入するつもりのようだ……クソがっ!!!」


 それに応じるマクダネル中佐の声も理知的なものだったが、彼の方は最後に怒りをデスクの上にあったガラス製の灰皿と共にぶちまけた。

 だが、ハク少佐同様に会議の時の様な狂信性はない。


 そもそもであるが、彼ら二人は反アンドロイド的な考えの持ち主ではあっても、狂信者でなければ行き過ぎた保守派でも無かった。

 むしろ、上層部によって間引き後の指揮官として選ばれた事から分かるように、むしろ現実主義的な考えの持ち主であり、改革志向をもった進歩的な考えの持ち主であった。


 しかし彼らにとってそのままではいられないとある問題が生じてしまい、その結果彼らは上層部に対してアンドロイドの残存部隊撃滅のための増援派遣、などという主張を繰り返していたのだ。


 その、理由と言うのが……。







「今回の戦いで生身の人間の限界が露呈した……いや、思っていたよりも大きいと判明したからじゃ」


 中庭にある司令部のテント内。

 そこにいたルモン騎士長がそう言うと、デスク越しに向かい合って座っていたクク大佐が不思議そうに首を傾げ尋ねた。


「たしかにそうですが……でもその理屈で言うとマクダネル中佐が同調するのはおかしくないですか?」


 現在七惑星連合軍の司令部は会議出席者が当番制で詰める事になっていた。

 これは業務が多忙かつ、確固たる組織を持たない七惑星連合軍司令部には大した業務が無いためであり、今も帰還したシュシュリャリャヨイティの報告を聞く仕事が生じるまではこうして雑談をしていたのだ。

 そのため、この時間はルモン騎士長以外にとっては実質的な休憩時間と化していた。


 そんな休憩時間。

 今回の話のテーマは今七惑星連合軍ルーリアト駐留軍最大の懸案である、マクダネル中佐とハク少佐による敵残党部隊撃滅のための増援要請について。


 本来ならばここにいるルモン騎士長やクク大佐を始めとする七惑星連合軍首脳と同じ旧弊を廃し改革を志向する協力者であったマクダネル中佐とハク少佐がなぜアンドロイドの掃討という現実的脅威に際し、根回しも無しに増援を主張し続けるのか……。


 そのことに関する話だ。


 そして、その問いに対するルモン騎士長の答えが先ほどのものだった。


 だが、当然ながらクク大佐は疑問を覚える。


 たしかに今回の戦いにおいて生身の人間で構成されたカルナーク軍は最も大きな被害を受けた。

 それは事実である。

 しかし、そんなカルナーク軍の指揮官であるハク少佐と共に一種の造反をしているマクダネル中佐はそうでは無い。

 彼は自分自身が機械化されたサイボーグであり、そして彼の指揮下の火星陸軍第1完全機械化連隊は火星最大かつ最強のサイボーグ部隊だ。

 被害も確かに大きいが、帝城周辺の精鋭アンドロイド部隊を撃破した最大の功労者である。

 当然、生身の人間の脆弱性の露呈という事象には無関係に見える……だが、ルモン騎士長は事情を話し始めた。


「確かに彼の指揮下にある部隊はサイボーグ部隊であり、生身の部隊ではない。しかし、それはあくまで彼の指揮下の部隊に過ぎない。彼の属する火星陸軍及び彼の派閥の主流は生身の人間で構成された火星陸軍歩兵部隊であり、彼の帰属意識も当然そこに属するのじゃ」


「つまり、マクダネル中佐にとってはカルナーク軍の歩兵の苦境は決して他人事ではない、ということですか?」


「その通り。彼らは地球連邦軍との初の戦闘によって生じた想像を超える損害により危機感を抱いたのじゃよ。自分たちが非主流派になり、見下していた人間に見下されるというな」


 ルモン騎士長の言葉を聞いてクク大佐はハッとしたような表情を浮かべた。


「なるほど。RONINNとアイアオ人ですね」


「そう。今回の戦闘、特に地上戦において最も活躍した部隊は何かといえばその二つ。今回の戦いを自分たちにとって害悪だった保守派を間引き、戦果を上げる絶好の機会ととらえていた彼らにとって現状は最悪の事態……。だからこそ今まで協力的だった態度を改めて対立するような事を始めたのじゃ」


「そんな……その危惧を私達に言ってくれれば。そもそも私達七惑星連合が目指す体制は……」


「残念だが、のう」


 クク大佐の言葉を優しい顔で聞いていたルモン騎士長は小さく息を吐くとそれを窘める様に遮った。


「彼らはそうは考えんし、お主の様な優しい考えだけではやっていけないのじゃ。知的生命が一定数集まれば絶対に派閥が生じる。そして、それら派閥は常に自分たちの最大利益を目指すのじゃ。たとえお主や私が彼らに好意的に接しようとも、誰かが絶対にそんな彼らの弱みを突いて自己の利益を求める。それが政治というものじゃ」


「政治……」


「事実ポンのお嬢さんはいろいろと動いているようだしの。すでに火星軍内にはRONINNを拡充して他の部隊をその補助にしようという動きがあるという……皮肉な事じゃが愚かな身内を間引いた今回の戦いが終わり、最初に我々が直面しているのは新体制下におけるイニシアティブの取り合いなのじゃよ」


 ルモン騎士長の言葉にクク大佐は少し顔色を青くした。

 現実の厳しさを分かったつもりだった彼女ではあるが、どこか甘さが残るもの事実であった。

 そのため今も、仲のいいポンポン亜人大佐や憧れのジンライ少佐が裏で派閥抗争のため動いている想像が出来ず焦りを感じていた。


 そんな未熟な若者に対して、ルモン騎士長は優しく語り掛けた。


「焦る事はない。お主のその未熟さは優しさと表裏一体じゃ。そしてカルナークの代表にとってそれは国民統合や象徴と言う点においてかけがえのないものじゃ。君は無理せず軍師長やワシの様な年寄りに厄介ごとを任せ、あくまで全てのカルナークの民のために動けばそれでよい」


 そう言ってルモン騎士長は孫を労る様にクク大佐に笑いかけ、それに対してホッとしたようにクク大佐は笑顔を浮かべた。


 安堵するクク大佐には、ルモン騎士長の七惑星連合統合推進派という立場や今現在の優しい態度自体が自信の利益を優先した結果だという意識は当然の様に無かった。


 そんな策謀の一端を見せる司令部に程なくシュシュリャリャヨイティとニャル中佐が到着。

 アンドロイド部隊を捕虜にした過程や条件の報告を行った。


 思わぬ事件が起きたのはその最中だった。

更新が遅れて申し訳ありません。

今日の夕方にも更新します。

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