状況その2 ワーヒド後始末―6
シュシュリャリャヨイティがニャル中佐に背負われつつ三百人のアンドロイドを引き連れて帝都に戻ってきたのは翌朝の事だった。
シュシュリャリャヨイティの後ろを整然と行進する異世界派遣軍の残存部隊は薄汚れ、損傷こそしているものの堂々たる態度と一糸乱れぬ動きによって投降した敗残兵ではなく、凱旋したかの様だった。
そのように感じたのは数少ない帝都住民や七惑星連合の兵達にとっても同様で、地球連邦軍が返ってきたと勘違いして歓声を上げる住民や、慌てて戦闘配置につくカルナーク軍兵士があちこちに見られた。
「攻撃してはなりません! 彼らは我がルーリアト統合体の捕虜です!」
行進するアンドロイド達に銃を向けるカルナーク兵や火星陸軍サイボーグに対し、シュシュリャリャヨイティはニャル中佐の背中から飛び降りると声を張り上げた。
投降交渉後5km歩いただけでへたり込んだ彼女の脚は疲労から震えていたが、その眼光は巨大な火星陸軍のサイボーグに真っすぐ向けられていた。
余談だがこの時火人連の大型サイボーグにガトリング砲を向けられるシュシュリャリャヨイティの姿は画像として残されており、後世シュシュリャリャヨイティと言えばガトリング砲に立ち向かう姿と言われる程有名な構図となった。
そんなシュシュリャリャヨイティの言葉に対し兵士たちは困惑していた。
なぜならば、捕虜にしたというそのアンドロイド達は武装解除されておらず、小銃や大型の火器が掲げられていたからだ。
何より困惑したのは、七惑星連合の兵士達からアンドロイドを守る様に立ちふさがるシュシュリャリャヨイティに一部のアンドロイドから銃が向けられている事だった。
「捕虜と言うがこいつらは武装しているじゃないか! それに……あんたに突き付けられているその銃はなんだ!? 脅されてるんじゃ……」
サイボーグの影から一人のカルナーク兵がおっかなびっくり叫んだ。
その当然の疑問に、シュシュリャリャヨイティは息を大きく吸い込むと大音声で返した。
「彼らの武装解除は致しません! 我が統合体の方針、そして彼らと合意した内容として、彼らには捕虜労役の一環として旧ルーリアト帝国内の治安維持活動を担っていただきます」
兵達がざわめき、住人から歓声が上がった。
帝都の住人にとってかわいらしいアンドロイド兵士は馴染みの存在になりつつあったので、残骸が無残に散らばり、七惑星連合の兵士によって損壊される光景にうんざりしていたからだ。
それが終わり、彼女らが帰還し、さらに治安がよくなるならば彼らにとって歓迎するべき事態だった。
「馬鹿な……だいたいそんな通達は受けていない」
「まだしてませんからね。これから帝城に向かい連合首脳に説明いたします。それと答えておきますが……わたくしに向けられた銃。これは彼らの安全の保障……即ちわたくしが異世界派遣軍残存部隊の人質になっているからです。ですからご心配なく」
そこまで言うとシュシュリャリャヨイティは自身に向けられたガトリング砲の先端に右手で触れた。
人間どころか装甲車ですら破壊する大口径砲が、小柄な女の手が触れただけでびくりと震える。
「さあ! この銃を下げて、我々を通しなさい。これ以上の狼藉は七惑星連合が一員であるルーリアト統合体議長シュシュリャリャヨイティが許しません!」
大声で言い続けたせいで擦れた声で叫ぶと同時に、身長3mのサイボーグと中銃を構えたカルナーク兵達が一斉に道を開けた。
なまじアンドロイド達の前に立ちふさがる様に集まっていただけに、脇にどいた七惑星連合兵達はまるで異世界派遣軍の残党を両脇から歓迎するかのような立ち位置となってしまった。
そうしてシュシュリャリャヨイティは事実上傘下に入ったアンドロイド達と共に帝都の中央通りを行進した。
「……ああ怖かった」
兵士や住民がいない位置まで来るとシュシュリャリャヨイティは呟いた。
ガトリング砲に手で触れた際少し漏らした程内心では怯えていたのだ。
そんな彼女の背中を、すぐ後ろを歩くニャル中佐が優しく叩いた。
「お疲れ様……と言いたいところですが、事前に連絡しておけば済んだ事ではないですか。なぜ通信を入れなかったのですか? そうすれば荒野を二十キロも歩かなくてよかったし、今のやり取りも必要なかったのに」
ニャル中佐の言う通りだった。
昨日会談開始早々に七惑星連合ではなくルーリアト統合体の捕虜になる事を認めさせたシュシュリャリャヨイティは、ニャル中佐に帝都にいる連合首脳への連絡を行わないように指示していたのだ。
それ故、帝都を警備していた火星、カルナーク両軍兵士は慌てふためく事となったのだ。
それに当然ながら、連絡していれば迎えの車両があった事は言うまでもない。
「……正直、上手く交渉がまとまったものの自信が無かったんですよ。だまして処分するとかその条件じゃだめとか言われるかもと……それならいっそ帝都内に入れてしまってから私がみなさんに説明と説得した方がいいんじゃないかと、ね?」
「……姉妹揃って危ないことを」
ニャル中佐が呆れたように言うが、それに対しシュシュリャリャヨイティは不思議そうに首を傾げた。
「危ない? いやー、そんなことないですよ」
シュシュリャリャヨイティは少しだけ後ろを歩くアンドロイド達を振り返った。
その中にはシュシュリャリャヨイティに対して緊張した様子で拳銃やサブマシンガンを向ける数名の指揮官型アンドロイドもいる。
「これくらいの数、ゲリラじゃなければハナ達RONINNやポンちゃん達アイアオ人であっという間に処理できるから」
土で薄汚れた顔でシュシュリャリャヨイティは少女の様に笑った。
程なく、一団は帝城へとたどり着いた。
さんざん七惑星連合軍を苦しめた残党の姿に、困惑や好奇心。そして憎悪の視線があちこちから向けられる。
その視線の中には、帝城の上層階から見下ろすマクダネル中佐とハク少佐のものもあった。
当然ながらその視線は憎悪に満ちていた。
次回更新は5月27日の予定です。




