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状況その2 ワーヒド後始末―4

(そんな態度取られても……)


 前回の会議とまるで変わらない二人の態度にシュシュリャリャヨイティはげんなりとした。


 彼ら二人は今回のドゥーリトル作戦の真の目的である地球連邦の実質的協力者と無能の排除、から漏れた存在だ.。

 せかしシュシュリャリャヨイティの見立てではその評価は誤っていると言わざるを得なかった。


 現場指揮官としては確かに有能かもしれないが、アンドロイドへの憎悪が過ぎていちいち言動や行動が非合理なのだ。


 彼らが掃討戦の初期に取った不用意な対応が現状を招き、そして自ら招いたその状況に対し意味不明な怒りを上層部に向けていた。


 そこまでならばまだよかった。


 シュシュリャリャヨイティはあくまでも七惑星連合末席の未開文明の協力者に過ぎず、発言権も権力も無いに等しい。

 だから彼ら先進文明が右往左往しようが関係なく、ルーリアト統合体が大陸を制圧する事だけに注力すればいい、筈だった。


 それがミルシャによって大怪我したあげく、取り残されたアンドロイドに治療を受け、そのためにそのアンドロイドをはべらす羽目になった結果全てが狂ってしまった。


 最初の会議でニャル中佐が開口一番「ゲリラ活動をするアンドロイドを捕虜にするならば自分が降伏させる」、などと言ったせいで二人の指揮官の矛先は上層部から完全にシュシュリャリャヨイティに移りつつあるのだ。


 おまけに七惑星連合の幹部たちはそれを幸いと放置している節まである。

 ジンライ・ハナコやクク中佐が負傷や宇宙艦隊の残務処理で不在だったのも間が悪かった。


 そうして、今では罵詈雑言どころか会議で無視されるまでに悪化した関係は、ワーヒド星系の後始末全体に悪影響を及ぼし始めていた。


「我々はより徹底した掃討を行うべきなのです。このルーリアトは七惑星連合初の居住可能惑星を持つ拠点恒星系なのです。そこに悍ましい化け物が潜伏する状況など見過ごせるはずがありません」


 神経質そうな印象の頬のこけた男……火星陸軍のマクダネル中佐がお馴染みの主張を行った。

 年齢は三十代後半。

 火星陸軍では古株のサイボーグであり、RONINNの様なスペックは持たないものの連隊規模の指揮が出来る貴重な完全サイボーグとして評価は高い。


「その通り!」


 マクダネル中佐の隣に座る小太りの男がだみ声で叫んだ。

 ハク少佐は二十代中ごろのカルナーク軍のエリート士官だ。

 優秀な成績で教育課程を終え、ゆくゆくはカルナーク軍を背負うと将来を嘱望されているらしい。

 またそれだけではなく、現場に寄り添った行動や言動から兵達の受けもよく、そう言った点からも今回の間引き後に現場を受け持たせるべく意図的に生き残る様配慮を受けていた人物だ。


(とはいえまさか間引いたしょーもない連中だけじゃなく、彼らが死んだあとこっちにまで噛みついてくるなんて……)


 シュシュリャリャヨイティ達を無視して騒ぐ二人はなおもヒートアップし、お馴染みの主張を繰り返す。


 火星にいる火星陸軍とカルナーク軍の主力、及び第二艦隊にいるンヒュギの生体機械兵師団をルーリアトに派遣して早期に掃討を終わらせる。

 今作戦で損耗した部隊の再編制、エドゥディア帝国への部隊展開及びそのための準備……。

 地球連邦軍が態勢を立て直す前にそれらを終わらせるためにも、今の初動でこれ以上の躓きは避けなければならない。


(悪い考えじゃないわ……輸送手段と時間が無制限ならね)


 クク中佐とジンライ・ハナコ少佐の間にある定位置の椅子にシュシュリャリャヨイティは座ると、机の下で差し出された二人の手をそっと握った。


 二人の現場指揮官の怒りを七惑星連合上層部から逸らすスケープゴートにしている罪悪感からの謝罪……もしくは成人男性に怒鳴られるストレスからの逃避……もしくは性欲。


(最後だといいなー)


 (よこしま)なことを考えながら女三人手を握り合い、怒声をやり過ごす。

 あとはアウリン(アイン)がいれば最高だったが、彼女はこういった場には不向きだ。

 もし彼女がいれば、今頃目の前の指揮官はひき肉か煎餅だっただろう。


 シュシュリャリャヨイティは二人の主張を水で薄めた様な話をそぶりだけで聞かずにそんな事を考えていた。

 チラリと他の面々を盗み見ると、どうやら全員が程度の差はあれ二人の主張を聞き流しているようだ。


 そうして神経質とだみ声という二種類の男の怒声に晒される事数分。

 黙って現場からの声と言う名のストレス解消を一通り聞いていた七惑星連合首脳が、声が止んだことでようやく動き出した。


「君たちはつまり、増援が欲しいわけだ?」


 ルモン騎士長が確認するように言った。


 長い主張に反し、七惑星連合や火星カルナークの意義、ナンバーズや地球連邦アンドロイドの悪口を差っ引けば、言いたいことはそれだけに過ぎない。

 ルモン騎士長の発言も暗にそのことを咎めるような色があったが、二人にとっては欠片も響いていない。


 なにより恐ろしいのは、ここまでの流れは初回以降の会議において全て同じな事だ。


 シュシュリャリャヨイティとニャル中佐入室の際の罵詈雑言の有無。

 二人の主張の枝葉。

 そしてここで尋ねるのがガ・ンヒュギ大将か軍師長か騎士長か……違いはこれしかない。


(なんという虚無)


 左右の二人と指を絡めながらシュシュリャリャヨイティは嘆息した。


 こんな無意味な時間をなぜ七惑星連合の首脳が繰り返すのかと嘆くが、残念な事にその理由ははっきりとしていて、かつ解決困難だった。


(こいつら足元を見てるんだ……間引いた後の私達(七惑星連合)にとって自分たちが如何に替えの利かない存在かよーく知ってる。だからここで首脳相手に引かずに主張を通して自分たちの政治的基盤を高めようと……)


 邪魔な上司や火人連軍において権勢を誇った火星宇宙軍艦隊が大打撃を受けた今、優秀な彼らが自らの権力を高め、固めようとする事自体は理解できる。

 そして、そのために現場兵員からの指示を得るためアンドロイドに対して強硬に出る必要がある事も分かる。


(けどもう少し配慮してくれないかな……ルーリアトにこれ以上手をかけてられないのはこいつらも分かるでしょうに……輸送船でせっせと主力を運び込んだ所に反抗作戦……は可能性低いとしても打撃艦隊で嫌がらせでもされたら目も当てられないのに……)


 間引き対象の選定をした軍師長と騎士長の目が節穴でなければ二人もそこまで馬鹿では無いはずである。

 となると二人も最後までごねる気はなく、あくまでも上層部から「増援は出来ず、掃討はある程度で切り上げる」という発言を引き出したいのだろう。


(そうして、クソな上官亡き後の新たなる対立軸……無理解な七惑星連合上層部と現場に理解ある自分たちという図式を確立させたいんだ。だからこそ、全体を俯瞰した合理的判断をせずこうしてごねてるのか)


 派閥形成の目論見。


 そのための非合理的な主張と、それによる自らが望む対立構造の構築。

 腐った肉から腐った部分を取り除いたらまた腐敗し始めたとしか言いようのない虚脱感がシュシュリャリャヨイティを襲う。

 地球連邦と戦い、エドゥディア帝国と向き合わなければならないのにこんな事に対処しなければならない現状に嫌気がさしてくる。


 一応、クク中佐や軍師長達は生き残った火星宇宙軍のイワノフ提督を彼らと対立させる事でコントロールする方策を考えているようだが、シュシュリャリャヨイティにはそれはあまりにも悠長に見えた。


「……割れた爪とて喉を裂き」


 シュシュリャリャヨイティはポツリと呟く。

 ちょうど発言の谷間に口から漏れ出たその言葉は思った以上にテント内に響いた。


 会議参加者の視線が一斉にシュシュリャリャヨイティに向く。

 一瞬ためらいと迷いが心を満たすが、絡まった指から勇気が伝わってくる気がして、シュシュリャリャヨイティは覚悟を決めた。


 取り除いても取り除いても現場がしょうもない連中しかいないのならば……。


(めんどくさいから私が掌握したろ)


 軽く決断すると、シュシュリャリャヨイティは勢いよく立ち上がった。

 繋がれたままのクク中佐とジンライ・ハナコ少佐の両手が引っ張られ恋人繋ぎの手があらわになる。

 顔を真っ赤にした二人をよそに、シュシュリャリャヨイティは口を開いた。


「騎士長。はっきりおっしゃってよろしいと思いますわ。彼らは自分たちの手に負えない……そう言っているのです」


 シュシュリャリャヨイティは言葉で二人の現場指揮官を殴りにかかった。

次回更新は5月16日の予定です。

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